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時間は優しく飼い主をつつむもの ~数字が語る犬の闘病(2/3)~【終末医療の期間】

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数字が語る犬の闘病:見通せないことが不安を呼ぶ
数字が語る犬の闘病

文|高栖 匡躬 表紙|老犬アルバム No.100 コタローさん
 

シリーズ『数字が語る犬の闘病』、2回目は闘病に関する、時間の尺度について書こうと思います。

未知な事態に直面すると、人は不安になりますね。実体の見える危機には、意外に冷静に立ち向かえるものですが、全体像が見えない困難を抱えると、不安が不安を呼んで、実態以上に心労が大きくなりがちです。

犬の闘病はどうか?
犬が言葉を話せないこともあって、その闘病には手探りの試行錯誤が多いものです。
犬の闘病は正に、全体像が見えない困難と言っていいでしょう。

不安を少なくするには、未知の部分を知るしかありません。
その一つが、時間の尺度だと思います。

【目次】

 

 はじめは誰もが途方にくれる

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はじめて愛犬の(重い)病気に直面した飼い主は、途方にくれます。我が家もそうでした。どうしてよいか分からずに、ネットで調べたりするのですが、うちの子にズバリの症例など、そう簡単に見つかるものではありません。

”調べても分からない” という事実を理解し始めると、飼い主は余計に途方にくれてしまいます。そして闘病が始まると、それが意外に大変なことだと分かって来ます。

愛犬の命が一番の心配事。恐らくその次に心配になるのが医療費でしょう。
重病の場合の医療費は、思った以上に高額です。

そしてある程度のことが分かってきたところで、ふと思うのが、『この大変な看病(介護)がいつまで続くのだろう』という事。時には無限に続くかもしれない苦労を想像して、不安になっていくわけです。

飼い主の不安の原因のほとんどは、知らない事で生じるように思います。
しかし少なくと、時間に関しては、”ある程度” 知ることができます。

 

 獣医師に聞く闘病の時間

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犬は一生の最期の時期、病魔との闘いに、どれくらいの期間を費やすものなのでしょうか? 大変に興味深いテーマなのですが、そのようなデータはどこを探しても見つかりそうにありません。そこで、臨床の現場にいる獣医師に、体験的な側面から話を聞いてみることにしました。 

闘病期間に関するインタビュー

――ラクーンアニマルクリニック 木佐貫敬 院長―― 

犬の(最期の)闘病というのは、どれくらいの期間を要するものなのでしょうか?

「いわゆる終末医療という観点からいうと、犬の最期の闘病は、大体2週間から1か月の間だと思います。まずは1週間取り組んでみて、快方に向かうかどうかを見極めながら、更に1週間と伸ばしていきます」

その1か月には、何か根拠があるのでしょうか?

「1か月と言うのは犬の体力からも、飼い主さんの疲労度合からしても、限界の時間です。終末期の看護は大変ですからね」

終末期に至る前の闘病も含めると、どうでしょう?

「もっと広い意味で、我々獣医師がずっと継続して看ている犬が、慢性疾患が次第に悪化して、治療の甲斐なく亡くなってしまう場合も、最期の闘病なのだと考えると、大体1年くらいは闘っているんじゃないでしょうか。病気の種類によっては2年とか。
その反面で、急性疾患の場合は勝負が早いですね。3日程度か、早ければその日のうちというケースもあります。ただ、事は慢性と急性だけで区切れるものではありません。慢性的な疾患であっても、末期にならないと獣医を訪れない飼い主さんも多いですしね

終末期を除けば、最期の闘病の期間は千差万別ということですか?

そもそも闘病というのが、獣医が診察した時点から始まるのか、飼い主さんが愛犬に異常を感じた段階から始まるのかの定義が曖昧なのです。ありきたりな回答になってしまいますが、犬が最期の闘病にどれくらいの時間を使うかは、一概に言えないというのが正直な感想です

――DATA(以下、ホームページより転載)――

 木佐貫敬

 麻布大学獣医学部獣医学科卒業
 Murdoch Uni Western Australia School of Vet Sceience卒業
 Companion Animal Surgery (Singapore) 勤務
 在星中は欧州及び豪州の獣医師と交流を深め、約4年の勤務後渡米。務
 フロリダ州マイアミ South Kendall Animal Hospital 勤務

各分野の専門医たちから暖かいサポートや指導を受け多くを学びました。また爬虫類を含むエキゾチック動物診療も幅広く経験。

10年以上にわたる海外生活の中で様々な事例を経験し、現在でも専門医たちとのネットワークを通じて困難なケースについて個別にアドバイスをうけ、日々の診療に反映しております。また、常に国内外の学会や文献をリサーチし、幅広い情報を得るべく努力しております。

 日本及び米国フロリダ州・ハワイ州獣医師免許
 日本獣医師会・米国獣医師会会員

 

知る事で、前向きでいられる

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時間というのは時に残酷で、非情な側面がありますが、考え方を変えてみると、とても優しいもののように思います。

終末期の時間を1か月と知っていると、その時間に集中して、(少々無理をしてでも)愛犬に出来るだけのことをして上げようと考えあげることができます。またその1か月の事を意識していれば、それに至る闘病段階は、気を張らずに自然体で愛犬の病気と向き合おうと思う事が出来ます。

筆者自身の経験に照らせば、終末期の介護というのは体力的にも精神的にも重圧のかかる時期なのですが、それと同じくらいに充実感があり、経験者の方なら分かると思いますが、楽しく笑いながら過ごすこともできます。

しかし、それを何か月も続けることは、多分出来ないだろうなとも思います。

時間というものは、残りがどれほどか知ることで、ペース配分ができるようになります。一番最期の時の過酷さを思えば、それまでに看護や介護で手を抜いておくことは、決して悪いことだとは思えません。

今、愛犬の病気で、お世話をされている飼主さんには、
「どうか積極的に、手抜きをしてください」
「今は、気持ちを楽にしてください」
とお伝えしたいです。

犬と過ごす時間は、その子が病気の時も、楽しくあって欲しいです。
病気であるからこそ、楽しく――

 

――数字が語る犬の闘病(2/3)つづく ――

文:高栖匡躬
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――前話――

愛犬が重い病気を患った時、飼い主は孤独感と絶望感に満たされるものです。
獣医師から病気に告げられた瞬間に、床の底が抜けて、暗闇に落ちていくような感覚です。
さて、どうやって気持ちを立て直すのか?
踏みとどまらなければ――
愛犬のために。
そして――
あなたのために。

――次話――

愛犬の闘病は、孤独感を覚えがちです。
なぜそうかというと、相談する相手がいないからです。
同じ病気で、同じ症状の子は、周囲にはめったに見つかりません。
しかし同じ病気の子はいなくても、実は同じ悩みをもつ飼い主さんは多いのです。
決して孤独でないんですよ。

まとめ読み|数字が語る犬の闘病・血の涙に至る飼い主の思い
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

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 テーマ:闘病における飼い主の選択

大切な愛犬、愛猫――
重い病気になっても、安楽死はそう簡単には決断できることじゃない。
特に「その時」には――

飼い主は、愛犬の命を預かる立場。
だからこそ「その時」には、どちらにするか決めてあげたいように思います。
これは心の準備のお話。
するにしても、しないにしても、考えておくことは大切なのだと思います。

飼い主にとって、愛犬との別れが近い時期は、肌でそれを感じるものです。
では、その時をどう過ごすか? それを考えた記事です。
今は苦しいかもしれないけれど、愛犬が去った未来に振り返ると、今は幸せの真っ只中にいるのです。
だから、どうか楽しんで欲しいと思うのです。
今を――

 

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