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結局、獣医師は足りているのか? いないのか? ~飼い主目線|加計学園問題(1/9)~

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f:id:masami_takasu:20171103140442j:plain文:高栖匡躬 

加計学園問題をきっかけに、獣医師の不足が話題となったのは、つい昨年のことでした。ワイドショーでは連日のようにコメンテーターが、『実は足りている』と言うこともあれば、『いやいや、本当は足りていない』とも――

しかしこのネタも今や下火で、このまま忘れ去られてしまいそうな気配も――
足りている、足りていないの問題は、決着せぬままで、置き去りにされてしまっているように思えます。

いったいどっちなの?

――ということで、犬の飼い主の立場から、一般に公表されている統計データを元に、この問題を追いかけてみようと思います。

目次

 犬と猫の飼育頭数

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獣医師の適正数を考察する上で、最も重要となるのが、動物病院を訪れる動物の数。まずはその数字を追いかけてみます。おそらくそれは、犬と猫が大半を占めると思われますので、下記のように考えます。

動物病院を訪れる動物の数 ≒ 飼われている犬の数 + 飼われている猫の数

そして必要とするデータは、下記の調査資料の中に発見しました。
犬の飼育頭数は9,878千頭、猫は9,847千頭です。

平成28年 全国犬猫飼育実態調査

2016年10月現在、20~60代全国の犬の飼育頭数は約9,878千頭、猫の飼育頭数は
約9,847千頭と推計される。犬の飼育頭数は2012年より減少傾向にある。

出典:一般社団法人ペットフード協会

 最近1年間動物病院へ行った回数

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さて、考察に必要な2つ目の指標ですが、それは犬と猫たちが、年間で一体何回、動物病院を利用するかの頻度です。この数字は、前述の一般社団法人ペットフード協会の資料の中にありました。

最近1年間動物病院へ行った回数

  1 2~3 4~6 7~10 11以上  
33.6 28.9 19.9 7.4 10.2  
64.2 21.2 7.6 3.7 3.4 (単位 %)

→スマートフォンでは、スライドしてご覧ください→

また同じ資料の中に、犬が病院に行った回数の平均値は4.49回、猫は2.15回と記述されていました。

 全国の動物病院の数

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獣医師の過不足を推定するには、更にもう一つ、重要な数値が必要です。それは、現在の動物病院の数です。
これは下記の、農林水産省発表の資料に書かれていました。

平成28年 飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)

飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数):農林水産省

この資料によると、全国の動物病院の数は11,675施設。これで必要な数字は揃いました。

 それでは計算してみましょう

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動物病院には、1日何匹の犬、猫が訪れているのか

まずは動物病院には、1日何匹の犬、猫が訪れているのかを下記に、計算してみましょう。計算を簡単にするため、週1回休みの26日診療とします。

(計算過程を読むのが面倒な方は、黄色枠内は読み飛ばしてください)

犬の場合

9,878千頭×4.49回/11,675施設/12か月/26日= 12.17頭

猫の場合

9,847千頭×2.15回/11,675施設/12か月/26日= 5.81頭

合計では

12.17頭 + 5.81頭 = 17.98頭

この計算では1動物病院につき、一日に約18頭の犬と猫を診療することになります。これは多いのでしょうか? それとも少ないのでしょうか?

診療時間を8時間と仮定すると、30分に1頭強の診察及び治療をすことになりますが、普通に仕事として考えた場合、それほど忙しくはないのではないかというのが、率直な感想です。

 それでは獣医師の数で計算すると

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動物病院には、獣医師一人で運営している小さな医院もあれば、複数の獣医師を抱える大きな医院もあります。病院単位だと今一つ分かりにくいところもあるので、今度は獣医師の人数でも計算をしてみます。

これを行うには、獣医師の人数を知る必要がありますが、必要な数字は、下記の統計資料に記載されていました。

獣医師の届出状況(獣医師数)

獣医師の届出状況(獣医師数):農林水産省

この資料を読み解くと、個人診療施設に属し、犬猫に対応する獣医師は 15,205人です。

それでは再計算を

ここからが、獣医師一人あたりの、一日の対応頭数です。

(計算過程を読むのが面倒な方は、黄色枠内は読み飛ばしてください)

犬の場合

9,878千頭×4.49回/15,205人/12か月/26日=9.35頭

猫の場合

9,847千頭×2.15回/15,205人/12か月/26日=4.46頭

合計では

9.35頭 + 4.46頭 = 13.81頭

一人の獣医師は平均すると、1日に約14頭の犬と猫を診療するという結果です。上記と同じく8時間診療と仮定すると、30分に1頭弱の診察及び治療なので、結構暇かなという感想です。

しかも上記の計算には、獣医大学の附属病院に勤務する獣医師が含まれません。なぜそうしたかというと、公開された統計数字は、大学に所属する獣医師を一くくりにしているからです。産業動物を担当する医師と、犬猫のようなペットを扱う医師を分けられないのです。

つまりどういうことかというと、大学に所属してて犬猫に対応する医師も加えたら、計算の母数になる獣医師の数は多くなり、1日の診療頭数の平均値が下がります。簡単にいうと、上記に書いた想定よりも、もっと獣医師は暇と言うことです。

 結論

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ここでは統計の数字からの単純計算なので、地域による医療格差は考慮されていません。実際に獣医師が少なくて困っている地域は沢山あるのです。裏を返せば、獣医師が過剰なところも沢山あるのだろうということが、容易に想像できます。

今回は我々に馴染みの深い、街の動物病院と、その獣医師に関しての考察でした。

話題の加計学園は犬猫ではなく産業動物、つまり畜産農家の為の獣医師の育成が目的なのだそうです。実際に産業獣医師は、足りていないのが現状だとか。

なぜそのような偏りが生じているのか?

実は、ここには別の問題が潜んでいるのです。

本連載では、最終的に産業獣医師について掘り下げてみたいと思っています。

統計数値というのは面白いですね。公けにされている数字から、色んなことが分かってきます。

 

 このシリーズ記事の全体構成は

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――犬猫の飼い主が見た、加計学園問題・つづく――

文:高栖匡躬
 ▶プロフィール
 ▶ 作者の一言
 ▶ 高栖 匡躬:犬の記事 ご紹介
 ▶ 高栖 匡躬:猫の記事 ご紹介

――次話――

この回は、街の動物病院が、儲かっているかどうかの検証。
なぜ産業獣医師に、希望者が集まらないのか?
それを語るには、引き合いに出される側の、動物病院をもっと知る必要がある。
飼い主目線の検証第2話。ネット上に公開された、諸所の数字から読み取る。

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まとめ読み|犬猫の飼い主が見た加計学園問題 ①
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。

 

 もう一つの動物医療問題(狂犬病予防注射) 

狂犬病予防注射実施率を検証してみる

この注射には賛否両論あるようだ。積極的に反対をする人もいる。
その反対の理由を読むと、なるほどと思う。
そこでまた、色々と調べて見ました。
そして、気が付いた。
「推進している側と、反対する側では、全く論点が違うんだ」

前回記事では、狂犬病予防注射の実施率が低いことを書きました。
その中でも30%台の数字はあったことには、特に驚きました。
その数字が、どこから来たのか?
疑問に感じて、追いかけてみたのが今日の記事です。
実施率って、ちょっとした数字の選び方で変わります。

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