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動物病院の売り上げについて、考えてみよう ~犬猫の飼い主が見た、加計学園問題(その2)~

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文:高栖匡躬 

犬の飼い主が見た加計学園問題。その2回目です。

前回は、加計学園問題で浮上した、"獣医師は不足しているのか? 不足していないのか?"という疑問を、まずは街の動物病院に絞った上で、”獣医師は忙しいのか? 忙しくないのか?”という観点から、考えてみました。

今回はその延長で、街の動物病院に関しての考察を、利益構造の面から、”儲かっているのか? 儲かっていないのか?”という視点で考えてみようと思います。

獣医師の平均年収616万円(出典:平均年収.jp)というデータも、ネット上では見つかりますが、どういう計算でそれが算出されたか不明なので、公開された統計数値を元に、それをもう一度検証してみようという試みです。

これによって、動物病院の利益構造や、将来性のようなものまで浮かびあがってきます。

本来の目的の、産業獣医師を語る上で、街の動物病院の事をそこまで調べてどうするのかという疑問を持たれるかもしれませんが、実はこれはとても重要な視点なのです。その理由は、これから考察を進めて行く中で、段々と分かってきます。

【目次】

 

ずばり、動物病院の売り上げは?

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動物病院の売上を調べている内に、非常に興味深いデータを見つけました。
2013年2月13日に、大阪フレンドロータリークラブにて行われた、淀川中央動物病院の、菅木悠二院長による講演の記録です。

菅木院長は次のように語られています。

年間総売り上げ500万未満の動物病院は全体の7.3%、500万~700万が全体の4.9%、700万~1000万が全体の4.6%、1000万~2000万が全体の24%、2000万~3000万が全体の20.5%、3000万~5000万が全体の21.1%、5000万~1億が全体の11.5%、1億~3億が全体の6.0%、年間3億円以上の売り上げがある動物病院は0.1%です。

引用元:卓話 菅木悠二氏 淀川中央動物病院 院長 | 大阪フレンドロータリークラブ

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では、動物病院の利益は?

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菅木院長は上記の講演で更に、動物病院の利益にまで言及をされています。

多くの動物病院の年間総売り上げは、グラフで示している通り1,000万~5,000万の枠が多いです。我々動物病院業界では年間総売り上げがだいたい平均3,000万が通説になっています。5,000万いったらなかなか順調だねぇと言われます。
個々の動物病院により差はありますが、売り上げの約半分が原価や医療環境の維持費、光熱費などで消え、残り半分のうち更に半分が人件費として消えます。ですから利益は売り上げの約1/4です。

引用元:卓話 菅木悠二氏 淀川中央動物病院 院長 | 大阪フレンドロータリークラブ

総売り上げ3000万円の場合の利益は?

それでは、上記で平均値として挙げられた、総売り上げ3000万円の動物病院で、利益を計算してみましょう。

上記にあるように、半分が原価として消えるとすれば、1500万円が粗利です。更にその半分の750万円が人件費で消えて、残るは750万円が利益となります。

利益の経理上の解釈は?

ここからは、この利益をどう解釈するかの経理上の話になります。つまり、この”人件費”と呼ばれる数字の中に、経営者である獣医師(=院長)の報酬も含まれているかどうか――

恐らくは含まれておらず、獣医師以外のスタッフの報酬と思われます。それは下記の考察によります。

動物病院の人員構成は、最低でも獣医師+看護師1名が必要です。何故看護師が必須かと言うと、動物医療は人間と違って、診察対象の動物が動かないように誰かが押さえる必要があるからです。

更に、獣医師と看護師が診察中に、外来を受け付け、会計を行うスタッフ(多くの場合は看護師が兼務)を置き、3名体制にする必要もあるでしょう。そうでなければ、折角来院した顧客を取りこぼしてしまいますし、会計中に診察ができないとなれば、収益に響いてくるからです。

上記の3名は最低限での人員構成で、多くの動物病院は小規模であっても、獣医師が(院長を含めて)2名いることが多いように感じます。

つまり、獣医師(院長)以外の2名~3名のスタッフを、年間で養うコストとして、750万円くらい(1人平均250万円程度)は必要になるだろうと考えられるのです。(動物病院の看護師年収は280~350万円:平均年収.jp

ここまでをまとめると

ここまでの考察をまとめると、年間総売上3000万円の動物病院の利益は750万円であり、この中から院長の報酬が支払われるものと予想されます。(飽くまで予想です)

 

獣医師(院長)の収入は?

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上記で計算した動物病院の利益が、仮に全て院長の収入だったとして、その金額は750万円。
これを多いというのでしょうか? 少ないというのでしょうか?

他方、年間総売り上げ2000万円を下回る動物病院は、合計すると40.8%もあります。2000万円だったとすると、同じ計算をすると、収入は500万円。1000万円だとすると、250万円となります。

割に会うのか?

難関とされる獣医大学に入り、6年間の専門教育を受け、国家試験をパスした上で、高価な医療機器を導入し、多額の開業(開院)コストを投じる事業と考えると、ちょっと割に合わないように感じてしまいます。

 

だが、成功者はいる。

しかし悪い事ばかりではありません。一方では、年間総売り上げが1億円を超える動物病院も6.1%もあるのです。100人に6人がその成功を手にできるのだと考えると、むしろ成功者になれる確率は高いとの解釈もできます。

また、59,2%の動物病院の売り上げが2000万円を超えることからすると、例えば開業成功率10%と言われる飲食業などに較べると、事業として見たリスクは、高くはありません。もしも上手くいかなかったとしても、それなりの収入は期待できるのです。

リスクをどう見るかのポジションで変わるのですが、もしかすると動物病院は、ハイリスク・ハイリターン、またはミドルリスク・ハイリターンの事業と言えるのかもしれません。

勤務医の場合は?

本記事では、獣医師が即ち開業医であるという視点で検討をおこなっていますが、その開業医の元で働く勤務医はどうでしょう?

開業にともなうコスト負担や、経営リスクはありませんが、利益構造から考えて、よほど成功している動物病院で働かない限り、給与は看護師とそう変わらないものを想われます。

恐らく、獣医大学を卒業した後、新米獣医の間は(安月給で)開業医の元で働き、力を付けてから独立と言うルートになっているのではないでしょうか?

人間の歯科医などと同じ構造のように思えます。

 

動物病院の収益は改善されるのか?

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さて今後、動物病院の収支は改善するのでしょうか?
それを知るためには、1頭の犬または猫が、動物病院に投じる医療費の推移を見る必要があります。

この数字は、ペット保険で有名なアニコム損害保険株式会社が一般に公開している、『毎年恒例!ペットにかける年間支出調査』の中でにありました。

出典:アニコム損害保険株式会社

推移を把握するために、同社の毎年の資料を追いかけ、本項目の調査が行われた、2010年以降をグラフにまとめてみました。下記がそれです。(単位は円)

犬の治療費の推移(2010年~2016年)

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出典:アニコム損害保険株式会社

猫の治療費の推移(2010年~2016年)

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出典:アニコム損害保険株式会社

このグラフを見ると、犬も猫も2014年をピークに、医療費の支出は減少をしていることが分かります。

今後1頭あたりに医療費は上がるのかどうか?

残念ながら、統計的な見地からは、このグラフから正確にその傾向を掴むことはできないように思えます。しかし敢えて筆者の予想を書くとすれば、微減あるいは横ばいではないでしょうか?

 

医療費が減少した理由を推察

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医療費が減った理由は、色々と考えられます。その中でも大きな理由は、下記の3つではないかと筆者は推測します。

①飼い主の可処分所得の減少により、ペットの医療費が抑えられている。
②飼い主のペットに対する意識が後退し、ペットの医療費が抑えられている。
③医療費自体が安くなっている。

③については、2つのことが想像できます。1つ目は獣医師間の競争で診療報酬が下がって来ている可能性です。動物病院は自由診療なので、同じ治療、同じ薬でも病院ごとに費用が異なるのです。

2つ目は原価の低下です。一例を挙げると、筆者は過去に愛犬が胆管閉塞となり、高度医療によって九死に一生を得ました。寛解後に処方された薬が、当時はまだ犬用のものがなかった強肝薬のウルソです。今では一般的なこの薬も、当時はまだ高度医療に属しており、専門のラボで精密な血液分析を行いながらの処方でした。金額はこの場には書きませんが、大変に高額でした。

高価だった薬が一般化して、劇的に値段が下がることは一般的に起こり得ることですし、ジェネリックも医療コストの低下に寄与することでしょう。

我々飼い主にとっての僥倖は、医療現場から見ると、売上の減少を意味する場合もあるわけです。

 

今後、来院数は増えるのではないか?

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今後も医療費が下がるのであれば、動物病院に来院する患者数が、増えることが期待できそうです。もしもそうであれば、動物病院の売り上げは、医療単価が下がったとしても、減少はしないはずです。それを推測するために、ペット1頭あたりの1年間の通院回数の推移を、追ってみました。

この数字は、一般社団法人ペットフード協会が毎年行なっている、『全国犬猫飼育実態調査』の中に見る事が出来ます。

上記の資料は平成28年版です。これだけだと推移が掴みづらいので、本項目の調査が行われた2013年以降の資料を読み取り、グラフにまとめてみました。(縦軸の単位は回です)

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出典:一般社団法人ペットフード協会

残念ながら期待に反して、通院回数は2013年以降は、犬も猫もほぼ横ばい(単純に年数割ると犬が4.44回、猫が2.21回)でした。

結論

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今回の考察の中で、筆者の結論は下記です。

①動物病院は楽な商売では無い。
②しかしやり方次第では、儲かる可能性を秘めた事業である。
③今後、劇的に収支が上向くとは思えない。

こうしてみると、筆者の愛犬がお世話になった街の動物病院は、何れも大変なご苦労の中で経営をされていたのだと感じました。

実際に動物病院を経営されている獣医師の方に、実情をお伺いしてみると、ここでの考察を裏付けるような内情を語ってくださいました。

動物病院は、本当に動物が好きでないと、なかなか出来るものではないようにも思います。

(そんな中で、しっかりと儲けていらっしゃる獣医さんがいるのも事実です)

次に行なう事は――

今回の記事では、菅木悠二院長の貴重な講演の記録が見つかったため、”統計数値の積み上げから、動物病院の売り上げを割り出す”という手法は用いませんでした。実はこの計算は、既に行ってはいるのですが、紙面の関係から、そこまで言及ができなかったのです。

本記事で主に扱ったのは、動物病院の現場の実数値です。それは今回触れる事のできなかった、統計上の理論値と大きな違いがあります。その理由を推測していくと、なんとなく動物医療の一側面が透けて見えるような気がしてきます――

次回は、そこに触れてみるつもりです。

加計学園問題のポイントである、産業獣医について語るところまで、なかなか行きません。しかし、この長い前置きもそのための準備なので、どうかご容赦ください。

それではまた。

 

――犬猫の飼い主が見た、加計学園問題・つづく――

(ライター)高栖匡躬

――次話です――

――前話です――

 

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