犬を飼うということ

いつまでも君と……

いつかそこに行こう。愛犬の思い出を連れて。~オオカミに守られている場所、三峯神社~

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文:樫村 慧(本記事は2017年10月に執筆されたものです)

ひんやりとした山の静寂の中、ラフのリードを引いて”そこ”への階段を登る。ラフは、足取りも軽く飛ぶように歩く。大きな鳥居が私達を迎えている。粛然とそびえるであろう本殿に向かうまでの間、大木の下を歩きながら張り詰めた空気を感じる。『ああ、何かに守られている』そんな気持ちが自然と込み上げる。『ラフ』と私は声をかけるが、ラフは私の方を見上げることもなく、ただ真っ直ぐに前を向く――

――そこで目が覚めた。ああ、ラフはいないんだ。私のラフは、もういない。

ゴールデンリトリバーの愛犬ラフが腎不全と闘って亡くなったのは昨年のこと。亡くなる三日前まで、よろつきながらも歩いていた、散歩好きな犬だった。
そのラフと、行ってみたかった場所がある。しかし、行くことが叶わなかったところだ。どうしてそこにラフと一緒に行きたかったのか、その理由を今からお話ししたい。

 

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もう随分と前に亡くなったのだが、母方の祖母は、初孫である私をとても可愛がってくれた。その祖母は、年に一度必ず青森県の恐山に出かけていた。
祖母はそこで、死者の霊を憑依させるイタコに、何年も前に亡くなった自分の兄弟や、40代で他界した私の父などから、口寄せという技術で、言葉をいただいてきていた。
その話を祖母から聞く度、怖いような、しかしそれでいて、ちょっと知りたいような不思議な気持ちになったものだ。

そんな祖母が、定期的に出かけていたもう一つの場所がある。それが私の行きたかった場所、《三峯神社》だ。「あの神社は特別だから」とよく口にしていた祖母。その頃茨城県に住んでいた私は、埼玉県の秩父がどの辺りなのかぼんやりとしか浮かばず、何が特別なのかもさっぱりわからなかった。

祖母がいなくなって何年か経った頃、縁があって埼玉県に住むことなった私は、偶然にも《三峯神社》の名前を再度聞くことになった。“○○の母”(○○は場所の名前)の名で占いの仕事をしている知人に、手渡すものがあり、待ち合わせした駅前のカフェでお茶をしていた時のことだった。その彼女がこう言った。
「この間、三峯神社に行ってきたの。パワーもらってきたよ」
そして彼女はこう続けた。
「これ、お土産なんだけど、少しでもいいからワンちゃんに食べさせてあげて」

彼女が渡してくれたのは、狼の飴だった。彼女はラフが腎不全で、闘病していることを知っていて、いつもラフの具合を気にしてくれていたのだ。会う度に、開口一番「ワンちゃん、元気にしてるわね」とか「ワンちゃん、大丈夫そうね」と言ってくれることが多かった。

はからずも、何十年かぶりに聞いた《三峯神社》の名前。
帰宅後、すぐに《三峯神社》について調べてみた。

《三峯神社》は国生みの神をお祀りしたのが始まりで、そのお使いはオオカミである。その勇猛、忠実さから、使い神に定められた。またオオカミは、三峯山の不思議な霊気を言うと古書にもあり、あらゆるものを祓い清め、さまざまな災いを除くと言われる。

 

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なるほど、オオカミが使い神なら、犬にもご利益があるに違いない。きっと、《三峯神社》にラフと一緒に行けば、オオカミの使い神が、腎不全に負けないパワーを授けてくれるはず。まだラフが元気なうちに、行っておかなければ。そんな想いがどこからともなく湧いてきた。

実際、その飴をラフに少しだけ食べさせてから、1年以上の間、ラフの食欲が落ちることはなかった。腎臓サポート食しか与えることはなかったが、亡くなる10日程前までよく食べてくれた。

私の祖母が「あそこは特別」と言っていたのは、もしかすると、何十年か後に、私がラフと暮らすことになるとわかっていたのだろうか?
《三峯神社》について調べた後、ぼんやりと考えながら、『まさか、そんなことはないな』などとひとりごちた。

ラフに狼の飴をあげてから間も無く、ラフは自宅での点滴が必要になった。仕事をしながら、ラフの点滴に通院、息子の世話などに日々追われ、気持ちに余裕のなくなった私の頭の中からは、あの日湧いてきた”想い”が薄れ、いつの間にか《三峯神社》のことはすっかり消えていた。

2年半の闘病の末ラフがいなくなってしばらくした頃、大好きな友人がご主人と参加するバスツアーの行き先として《三峯神社》が入っていると教えてくれた。ああ、ラフと行きたかったあの《三峯神社》だ。ラフと行けなった後悔と、羨ましさもあって、私は「どんなだったか必ず詳しく教えてね」と友人と約束した。
何日か経って、彼女がお土産のお守りを持ってきてくれた際に、逸る気持ちを抑えて聞いてみた。「《三峯神社》はどんなだった?」と。

「すごく寒くてさぁ、山の上だし。凍えそうだった。パワーがあったのかよくわからないな…」

バスツアーでの訪問先の一ヶ所に過ぎず、滞在時間も短く、曇り空のせいもあって標高が高いため気温も低かったのだろう。拍子抜けするほどあっさりとした彼女の報告に、『これは自分の目で確かめに行かなくては』と、決意を新たにした。

私は仕事のこともあって、自分が行けるのはもう少し先になりそうである。

 

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これから秋の行楽シーズンだ。犬を飼っている方は、紅葉を見ながら愛犬をお供に、埼玉県秩父のずっと奥にある《三峯神社》に出かけてみてはどうだろう?
きっとその場所には、あなたとあなたの愛犬を守ってくれる力があるに違いない。

もちろん私も必ず私も行く。今は天国で楽しくやっているはずの、ラフの思い出だけを連れて。

――あの夢――

ピンと張りつめた山の空気に、ラフのリードを持つ私の手はかじかんでいたけれど、ラフの軽快な歩みは、懐かしくて嬉しかった。そして、ずっとこのまま歩いていきたいと願えるような夢だった。

今夜もまた、あんな夢が見れるだろうか――
ラフの温もりが感じれる夢を。

 

文:樫村 慧

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