寝相アートはご存知ですか?

寝相アートはじめるよ~
「よし、Mack!はじめるよ~」
この自分の掛け声と共に、私は小道具をセットした場所へ愛犬のMackを寝かせる。
「撮影スタート!」
次に私は、自分に号令を掛ける。
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皆さんは、寝相アートってご存知ですか? 赤ちゃんや犬の寝相を生かして、アート写真を撮るものです。
私が昨年の12月からその寝相アートを始めて、早くも9か月が経ちました。
今日は何故私が、寝相アートを始めようと思ったのか――、作品の紹介と共に、その経緯をお話したいと思います。
――寝たきりになってしまったからね――
私のMackは、脳の疾患のため、歩くことも立つこともできなくなってしまいました。
しかしMackは、それまでと何も変わらなくて、その姿は可愛いままで、私は毎日最低一枚は写真を撮っていました。
でも――、寝たきりのMackの写真は、いつも変わり映えがしません。右向きか左向きか、はたまた目が開いているか閉じているか、くらいの違いしかなく、スマートフォンのフォト一覧は、まるで連写のように見えてしまいます。
「なんだかつまんないなあ~」
ちょうどその当時は、Mackの介護が始まったばかりで、私は毎日困惑したり、イライラして過ごしていました。
――そんな時に、思いついたんだっ!――
寝相アートをやってみようと、思いついたキッカケは、年賀状の写真です。
私は娘が生まれてからずっと、東日本大震災の年を除いて、必ずMackと娘に、その干支にちなんだ格好をさせて、年賀状を作っていました。
でも、もうMackは座ることができないし、娘はまだ小さいから、長くはMackを支えていられない。どうしたら良いだろうかと考えていた時のこと――
寝相アートの事が、ふと頭に浮かんだんです。
娘が赤ん坊の頃には、寝相アートという楽しい遊びは、まだありませんでした。しかし今のMackなら、その寝相アートができるかもしれない――
そう思いついた私は、すぐに行動しました。まずは百円ショップで素材を探す、無いものは画用紙や折り紙で作る!
そして出来たのが、上の写真です。
――やってみたら嬉しい誤算!――
寝相アートを撮ろう!と思いついて、それを撮りおわるまでの数日間、私は「介護で悩むこと」や「介護でのイライラ」を忘れていた自分に気づきました。
そして他にも良い事が起きました。写真を撮り終えた後も、「次は何にしよう」「どの素材を探そう」と寝相アートのことで頭がいっぱいになり、介護で悩む時間が確実に減ったのです。
これは、とても嬉しい誤算でした。そして私は『限られた介護生活、どうせなら楽しくやっていこう』と考えるようになり、祝日やイベント時には必ず寝相アートを撮るようになりました。
介護生活は確かに大変だけれど、愛しいMackと過ごす時間は、なにものにも変えられないとても貴重なものなのだと、思えるようになったんです。
――もちろんこだわりは、あります!――
寝相アートを撮るときには、私なりのこだわりがあります。
それは、『完璧には作らない』ということ。
私の寝相アートには、影があったり、ちょっと小道具がズレてしまっていたり、敷いているタオルにシワがあったりします。
もちろん、Mackを寝かせる前までは綺麗にセッティングしているつもりですが、Mackを寝かせる際に、Mackが首を動かしたりすることで、どうしてもズレてしまうのです。
ですが、私がMackの協力で完成させるこの寝相アートは、完璧な美しさを求めて撮っているのではありません。純粋にその時間を楽しみながら、協力してくれているMackにはあまり負担にならないよう、たとえズレても、光があまり差さなくても、とにかく撮影を手早く終わらせる事がとても大事なのです。
ほぼ毎回、小道具の調達や作成に、一か月近くかかりますが、撮影時間自体はわずか1分前後です。私にとって、そんな風に作り上げる完璧ではない作品たちを、「可愛いね!」といろんな方に褒めてもらえるのは、とても有り難く思います。
――だからねっ!――
私の撮る寝相アートの世界では、Mackは走ることもできるし、座ることもできます。
かつてMackがそうだったように、いつでも自由に動き回れる、本来の犬の姿を見せてくれます。
それが、嬉しくて――
私はきっと、もう寝相アートはやめられないだろうなあ。
――了――
文:奥村 來未
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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奥村來未さんの記事 - 老犬は可愛さの宝石箱
老犬の可愛さを感じるには、ある種の気付きがいるように思います。
それまで出来たことが、ある日急にできなくなる。
階段を下りるように――
しかし、それを心配し、嘆くのは飼い主だけ。
犬は全てを受け入れて、前向きに生きる。
ありのままで良い、一緒に生きよう――
そう思った時にはじめて、視界が開けるような気がします。