ピーチーの闘病記:肺がん・看取り編 
ピーチーは子犬のころから、食いしん坊でした。
いつも見事な食べっぷりで、
かつて胆管閉塞を患い、いつ胆嚢が破裂するか分からないという時でさえ、医師が驚くほど食欲がありました。
飼い主はとしてはその食欲が、決して尽きる事はないと思っていました。
しかし、ついにそのピーチーの食欲も尽きようとしていました。
健康な時と違い、介護の段階に入り終末期が訪れると、食欲が別れまでの時間を暗示します。
走れなくなる。歩けなくなる。筋肉が落ちて、体が弱って行く――
そんな姿を見るよりも、食欲がなくなることの方が、何倍もつらかったですねえ。
当時のブログより - 日に日に落ちる食欲
ピーチーは酸素テントの中で、せわしなく動いています。
もしかすると、身の置き所がないのかもしれません。ちょっと動くと、上の写真のように、すぐに外に出たがります。
外に出たら出たで、すぐに苦しくなって、また酸素ブースに逆戻りの繰り返しです。
どうした? 出たいのか?
でも、外に出たら苦しくなるぞ。
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今日のピーチーの様子ですが、食事を自分からは食べなくなりました。
■ラム・グリーン・トライプ → 食べない
――そして、何と――
■ウニ → 食べない
ピーチーが大好物のウニを食べないのは、飼い主にとって相当にショックな出来事です。
深刻な状況 - 安楽死も選択肢
そして今日は、1日遅れで主治医の先生に往診をしてもらいました。
ピーチーを診てくださった主治医曰く、
「今は相当苦しいはずです」
酸素テントの中では、自力で立ち上がって歩ける状態ですが、どうやら思っていた以上に、深刻な状態になってしまったようです。
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「これからもっと苦しむのでしょうか?」
と、主治医に訊ねました。
「何とも言えません。循環器系の疾患の場合は、段々と火が小さくなって行って、すっと消えるという最期がありますが、呼吸器系はそうはなりませんからね」
主治医はいつものように淡々と、しかし優しい口調でした。
そして――、さらに続けてこう言いました。
「お考えになりたくないでしょうが、そろそろ別の決断をされる御覚悟も必要かもしれません」
それはもちろん、安楽死を示唆する言葉です。
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僕自身は安楽死は否定はしません。むしろ積極派と言える立場です。
しかし、具体的にその時期については、明確な考えは持っていません。
ピーチーはこれまで何度も死線を乗り越えてきました。今よりも苦しい状態ばかりでした。それに比べると今は、まだそこまでではないといいう気もしてきます。
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「この程度で皆さん、ご決断されるのですか?」
と、主治医に訊きました。
「呼吸器は見た目が苦しそうですから、犬がと言うよりも、飼い主さんの方が見ていられなくなるのです。もっと早く決断される方が沢山いらっしゃいます」
それが主治医の回答です。
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つまりピーチーは、今の状態でもう、安楽死を選択してもおかしくない状態ということのようです、
うちの場合は、もしかすると少し特殊なのかもしれません。
ピーチーはこれまでに大きくは2回、胆管閉塞と劇症肝炎で、危険な状態になりました。それ以外でも、癲癇のときには酷い重積発作があり、脳腫瘍を覚悟していました。
これまで何度もピーチーの厳しい状況を見てきていために、僕と奥さんは、キツイ状況に慣れてしまっているようです。多くの飼い主さんならば、いたたまれない状況を、たまたま静観できているだけなのですね……
不思議な出来事
ちょっと話は変わりますが、実はこの3日で不思議なことが起きました。
まずは、ピーチーが歩きやすいように敷いてあったコルクマットが相当痛んだので、いつも買っているメーカーのものを買おうと思ったのですが、丁度欠品で注文できませんでした。
次に、トイレシートが残り少なくなったので、買おうとしたところ、いつも買っていた商品が欠品でした。
更に、ピーチーと外出できるようにと注文していた酸素ボンベがなぜか届かず、販売店に問い合わせてみたら、発送されていませんでした。
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偶然と言えば偶然ですが、うちの奥さんはこう言いました。
「ピーチーが、『もう良いよ、行くから』って、言っているんじゃないかな?」
「そうかもしれないね」
と、僕は答えました。
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この偶然の話とは違うのですが、僕はこのところの3日間は、神様からもらったようなものだなと思っています。
偶然に偶然重なった結果、ピーチーが今まだここに生きているように思うのです。
偶然の始まりは今月の初めでした。
ピーチーの脚が、突然化膿したのです。免疫抑制剤を飲んでいると、化膿しやすいのだと主治医からは言われました。
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その時、ついでに病院でレントゲンを撮りました。
ピーチーは以前から右のお尻に以前から大きなコブがありましたが、悪性ではなさそうで、放っておいたのですが、先日、首の後ろにも似たようなコブができたので、念のためにレントゲンをお願いしました。幸いコブは両方とも、悪いものではなさそうでしたが、その時に肺に影が映っていました。
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その2週間後、つまりピーチーに今回の予兆が現れ、呼吸がおかしいと気付いたときには、そのときの事がピンときました。だから異変から時間をおかずに、すぐに病院に行ったんです。前の検査が無かったら、もうしばらくは様子見をしていたはずです。
主治医も前のレントゲンがあったので、診断が迅速であったと思います。
そしてそこから我が家では、ピーチーが肺がんである事を視野に入れて、様子を観察するようになったんです。
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肺に疾患があることは明らかだったので、酸素を使うことを決めるのにも、時間を要しませんでした。
もしも23日に、携帯用の酸素ボンベを買っていなければ……
もしもその夜のうちに酸素テントを発注し、24日に届いていなければ……
ピーチーは、呼吸困難に陥り、もうここにはいなかったはずです。
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更に言えば、21日の体力がまだあるうちに、てんかんの大発作を起こしておいてくれたことも、今となっては幸運だったと思えます。状況が悪くなってから発作を起こしたら、大変なダメージであることでしょう。
今のピーチーは
僕が家で仕事をしているときには、ピーチーは酸素を吸いながら、僕の机の下で寝ています。
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いつもお前はここにいたなあ。
時々、足で触って遊んでやります。
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ピーチーはちゃんと、遊んでもらっていることを認識しています。僕の方を見て、ときどきゆっくりと尻尾を振ります。
こうやって、できるだけ普通に、楽しい時を過ごしたいと思います。
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今日は、ピーチーの大好物のウニを、豆乳といっしょにフードプロセッサで砕いてから、シリンジで飲ませてやろうと思っています。
恐らくはそれが、ピーチーにとって、最後のウニになるでしょう。
最後の時の決断は、僕と奥さんでします。
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ピーチーはまだ、僕と奥さんの姿を見る目に生気があります。
それが無くなった時が、決断の時と思っています。
明日かもしれません。もうちょっと先かもしれません。
それとも今夜、病状が急に悪化したら、ピーチーは自分から逝ってしまうのかもしれません。
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ピーチーは不思議な子です。
これまでに何度も死線を乗り越えてきましたが、そんな大病をするときには、必ず僕と奥さんの仕事が休みであったり、自由が効くときでした。
二人ともが全力で病気に向き合える時に、なぜかピーチーはやらかしてしまうのです。
今回もそうです。
本当に不思議な子です。
ピーチーは……
ペットの肺がんをもっと知るには
こちらの記事に、肺がんの概要を解説しています。
はじめて読むのに最適です。
この病気は激しい咳や、血痰を想像しがちですが、実はそれほど顕著な症状がでないことが多いようです。
ほんのちょっと息が粗い程度の場合もあります。
気になったら動物病院へ。
――うちの子が旅立つまでのこと(11/18)つづく――
文:高栖匡躬
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――次話です――
安楽死のことは、ずっと頭にありました。
主治医に言われたからではありません。
不思議に思われるかもしれませんが、ピーチーが若いころから既に、「いつか老いて別れの日が来るのだ」と考えていました。
安楽死は重要な選択肢なのだと、ずっと思っていました。
――前話です――
この日は、ピーチーの月誕生日。
わが家では、ピーチーが劇症肝炎から回復してから、毎月誕生日を祝っていました。
「今月も生きてくれてありがとう」と。
ピーチーは呼吸が苦しい以外は、元気な状態。
肺がカートリッジ式ならいいのにね――
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この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――本章の1話目です――
いつも元気一杯だったピーチー。
大病をしてから、体調に浮き沈み。
この数日も「ちょっと変」と思い、「”多分”、いつものこと」とも思っていた。
”多分”は段々と弱々しくなり、少しだけ嫌な予感も。
「今日は病院だな」と思ったのがこの日。
――この連載のはじまりです――
はじまりは、ほんの小さな予兆でした。
体の震え。ときどき息が粗い。食欲不振。
ピーチーは大病を大きくは2度経験してから、体調が悪いときがたまにありました。既往症もありました。
またかな? と思ったのが始まりでした。
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他の闘病記もご覧ください。
胆管閉塞闘病記|闘病ブログ
ある日突然、我が家のピーチーを襲ったのは急性膵炎
危険な状態でしたが、幾つも幸運が重なって無事回復しました。
「良かった」と胸を撫でおろす飼い主。
――しかし、そうではありませんでした。
それは本当の闘病の始まりだったのです。
劇症肝炎闘病記|闘病ブログ
筆者の愛犬ピーチーは2014年8月16日の早朝6時、救命救急に駆け込みました。
40度を越える高熱。ぐったりとして動けない。
ただごとではないと思いました。
振り返ると、異常を感じたのは8月10日の夜。
突然の体の震えと、食欲不振が恐らく前兆だったのでしょう。
このときは、掛かりつけの病院で、熱中症と診断。
その時には、肝臓の諸数値は正常値でした。
そして6日たち、16日の朝を迎えます。
この日から、命を賭けた闘病が始まったのでした。
自己免疫不全闘病記|闘病ブログ
2015年のある日、我が家の愛犬ピーチーを病魔が襲いました。
最初は夏バテかなと思い、次に熱中症を疑いました。
かかりつけの獣医師も、熱中症との診たてでその治療を。
しかしピーチーの状態は悪化の一途。
ただならぬ状態に、未明の救命救急に飛び込み、そこで発覚したのが重度の肝炎でした。
結局後になって、それが自己免疫不全が引き起こしたと分かるのですが、まさか免疫の暴走が劇症肝炎を引き起こすなど、想像もしていませんでした。
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肺がんの医療記事です
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