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『犬の十戒』考察(2/2)原典に感じる違和感の正体 ~どうして「犬の十戒」が生まれたのか?

f:id:masami_takasu:20180817145719j:plain文:高栖匡躬

前回は『犬と私の10の約束』に主に触れました。
今回はその原典である、『犬の十戒』のお話をしましょう。

『犬の十戒』は素朴で、荒削りで、回りくどい言い回しが特徴です。
そこから主旨を損なわないように、作品として洗練させたものが『犬と私の10の約束』と言っても良いでしょう。

しかしその変化の段階で、原典にあった幾つかの要素が失われています。
『犬と私の10の約束』がお好きな方こそ、一度その原典の『犬の十戒』に触れてみると良いと思うのです。

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下記に、『犬の十戒』をご紹介します。
実は『犬の十戒』にも、幾つもバリエーションがあるようなのですが、ここではもっとも一般的な情報源と思われる、Wikipediaを引用します。

『犬の十戒 』原典:Wikipedia版

1.
私の一生はだいたい10年から15年です。あなたと離れるのが一番つらいことです。どうか、私と暮らす前にそのことを覚えておいて欲しいのです。
My life is likely to last ten to fifteen years. Any separation from you will be painful for me. Remember that before you get along with me.

2.
あなたが私に何を求めているのか、私がそれを理解するまで待って欲しいのです。
Give me time to understand what you want of me.

3.
私を信頼して欲しい、それが私にとってあなたと共に生活できる幸せなのですから。
Place your trust in me- it's crucial to my Well-being.

4.
私を長い間叱ったり、罰として閉じ込めたりしないで下さい。あなたには他にやる事があって、楽しみがあって、友達もいるかもしれない。でも、私にはあなたしかいないのです。
Don't be angry at me for long and don't lock me up as punishment. You have your work, your entertainment and your friends. I have only you.

5.
時々話しかけて欲しい。言葉は分からなくても、あなたの声は十分私に届いています。
Talk to me. Even if I don't understand your words, I understand your voice when it's speaking to me.

6.
あなたがどのように私を扱ったか、私はそれを決して忘れません。
Be aware that however you treat me, I'll never forget it.

7.
私を殴ったり、いじめたりする前に覚えておいて欲しいのです。私は鋭い歯であなたを傷つけることができるにもかかわらず、あなたを傷つけないと決めているのです。
Remember before you hit me that l have teeth that could easily crush the bones of your hand but that I choose not to bite you.

8.
私が言うことを聞かないだとか、頑固だとか、怠けているからといって叱る前に、私が何かで苦しんでいないか気づいて下さい。もしかしたら、食事に問題があるかもしれないし、長い間日に照らされているかもしれない。それとも、もう体が老いて、弱ってきているのかもしれません。
Before you scold me for being uncooperative, obstinate, or lazy, ask yourself if something might be bothering me. Perhaps I'm not getting the right food or I've been out in the sun too long or my heart is getting old and weak.

9.
私が年を取っても、私の世話はして下さい。あなたもまた同じように年を取るのですから。
Take care of me when I get old ; you, too, will grow old.

10
最後のその時まで一緒に側にいて欲しいのです。このようなことは言わないで下さい、「もう見てはいられない。」、「居た堪れない。」などと。あなたが側にいてくれるから最後の日も安らかに逝けるのですから。忘れないで下さい、私は生涯あなたを一番愛しているのです。
Go with me on difficult journeys. Never say, "I can't bear to watch it ." or " Let it happen in my absence." Everything is easier for me if you are there. Remember I love you.

出典:犬の十戒 - Wikipedia

 

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どうですか?
読んでみてどう感じましたか?

『犬と私の10の約束』にファンが多いのとは裏腹に、『犬の十戒』は好みが別れます。嫌いだという愛犬家も沢山いるのです。

実を言うと筆者も、アンチ派に属していました。
――つい先日までは。

なぜか嫌いだったのかというと、先に書いたように、とにかく回りくどく感じるからです。特に後半が。平たく言えば、「犬はそんなに、理屈ぽく考えたりしないよ」とも思いました。
犬はもっとシンプルに飼い主が好きなはず――

回りくどさは、説教臭さでもあり、妙な不自然さを伴います。
くどくど書かれれば書かれるほど、「これは犬が考えたことではなく、人間が発想したことである」と、醒めた気持ちになりました。

詩の文体が朴訥(ぼくとつ)であるにも関わらず、なぜかそれよりも強く人間の作為を感じ取れてしまうことも、気に入りませんでした。

 

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しかし、原典を記述してあるWikipediaの、次の一文を読んだときに、急に目の前にあった霧が晴れたような気がしました。

犬の十戒(いぬのじっかい、The Ten Commandments of Dog Ownership)は、作者不詳のまま広く世界に伝わっている英文の詩で、日本では「犬の十戒」として知られているが、実際には原典があり、ノルウェーのMrit Teigenというブリーダーが犬の買い手に渡している「犬からご主人への11のお願い」が元である。

「ああ、これは!」と思いました。
『犬の十戒』は、大切に育てた仔犬が新しい飼い主の元に行くとき、別れ行くその仔犬の行く末を気遣う、ブリーダーの心情なのだ。

そうと思うと『犬の十戒』が人間側の発想であることも、それが回りくどいことも良く理解が出来ます。

産まれた子犬への愛情が深いが故に、ついつい一言も二言も言いたくなる親心――
とでも言えば良いでしょうか?

 ●

もしかしたら、娘を嫁がせる父親の心境と言った方が相応しいのかもしれません。

「この男は、娘を幸せにできるのか?」
「本当にこの男に、大切な娘を預けてしまっていいのか?」

そんな父親の心情――
そしてその感情の発露――

 

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『犬の十戒』が既にお好きな方には、何も言うことはありません。
筆者のように、『犬の十戒』に違和感を感じられていた方へ――

『犬の十戒』が犬が発した言葉ではなく、心配性なブリーダーが、犬の言葉を借りて心情を伝えたのだと、考えてみたらどうでしょう?

少なくとも筆者は、この考え方をすることで作品に感動しました。

実はそう考えた時、筆者の頭の中には、昭和を代表する演歌歌手である、三橋美智也氏の名曲、『達者でナ』が不意に思い出されました。

大切に育てた栗毛の仔馬を、町に売りに出す(恐らくは)繁殖農家の心情を歌ったものです。思えばこの歌は、筆者が子供の頃に全く良さが理解が出来ずに、「変な歌だな」と思っていたものです。

すっかり記憶の彼方に去っていたこの曲。
まさか自分が覚えていようとは思いませんでした。そして、子供の頃に覚えた「変な歌だな」という思いは、すっかり消えていました。

「ああ、実はいい曲だったのだなー」
と、今になると思うのです。

最後に、『達者でナ』をご紹介して、この話を締めたいと思います。

 

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達者でナ

歌:三橋美智也
作詞:横井 弘
作曲:中野忠晴

(1番)
わらにまみれてヨー 育てた栗毛
今日は買われてヨー 町へ行く アーアー
オーラ オーラ 達者でナ
オーラ オーラ 風邪ひくな
ああ、風邪ひくな
離す手綱が ふるえ ふるえるぜ

(2番)
俺が泣く時ゃヨー お前も泣いて
ともに走ったヨー 丘の道
オーラ オーラ 達者でナ
オーラ オーラ 忘れるな
ああ 忘れるな 
月の河原を 思い 思い出を

(3番)
町のお人はヨー よい人だろが
変わる暮らしがヨー 気にかかる アーアー
オーラ オーラ 達者でナ
オーラ オーラ また逢おな
ああ、また逢おな
かわいたたてがみ なでて なでてやろ

 

――『犬の十戒』考察(2/2)・了――

文:高栖匡躬

――次は――

次に『犬の十戒』に触れる際には、
Withdogで創った十戒をご紹介したいと思います。
これから我が家の十戒を書かれる方の、ヒントになるかもしれません。

――前話――

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

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