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【ヘルニア】このまま会えなくなっちゃうの? ~ちぃの闘病記:ヘルニア編(後編)~

ちぃの闘病記:ヘルニア編
f:id:masami_takasu:20180929111558j:plain文:かっぱ太郎、撮影:F.zin

更に翌日――
かかりつけの病院で、診てもらったちぃ。

ちぃの後ろ脚の麻痺が進んでいるのを確認した先生は、こう言いました。
「病院ならば24時間点滴をして、何かあってもすぐに対応ができますし、このまま悪くなるようだったら検査設備のある大学病院に連絡して、CTやMRI検査、内服薬で対応できない場合は、手術もありえます」

先生の口から初めて、「手術」という言葉が出たので私は、覚悟だけはしておかなければいけないと思いました。

インターネットの情報の中には、椎間板ヘルニアの手術をすると犬は歩けなくなるなどと書いたものもあり、どこのだれがそんなことを書いたのかはわからず、信用できるものかどうかもわかりません。読むべきものかどうかも怪しいのですが、そういう記事を目にしてしまうと、どうしても忘れることはできないのでした。

その日は、お昼頃にちぃを病院に預けて家に帰りましたが、「これが人間の子どもだったら、一緒に入院してそばで見ていてやることもできるのに」とか、「その翌日は休診日なので、面会さえもできないのか…」とか、歩けなくなったちぃの姿を想像したり、悲しいことばかり考えていました。

 

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ちぃを心配をしながら家で待っていた私。

夕方、先生から電話があり、思ってもいなかった言葉を聞かされました。
ちぃは、お昼に入院したあと、夕方になって熱が42度近くまで上がってしまったというのです。

「通常のヘルニアで発熱することはないので、脊髄への感染症の疑いがあります。ステロイドと併用して抗生物質を注射する治療に切り替えますが、このまま熱が下がらないようだったら、万が一のこともあり得ます」

先生のお話は、手術とか、歩けなくなるかもしれないという内容ではなく、命の危険について話しているのだということがわかり、私は動揺しました。

ちぃに会えなくなるかもしれないと思うと、涙が出ました。

しかし今病院で、背中の痛みと高熱で苦しみ、戦っているちぃの姿を想像すると、私がここで悲しみにくれている訳にはいきません。

万が一の場合というのは、ちぃの体がその苦しみに耐えることができなかった場合です。私が動揺したり、泣いたりしていてもしかたがないのだと考え、できるだけ落ち着いて先生からの次の連絡を待とうと思い直しました。

そして、もしもちぃの後ろ脚が動かなくなったとしても、命だけ助かってくれたらそれで十分だと思い、いろいろな悲しい妄想はやめることにしました。

 

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翌朝、早い時間に先生が電話をくれて、ちぃの熱が下がり、薬が効いているようなので、大学病院への緊急搬送はまだ必要ないとのことでした。

休診日のため面会はできませんでしたが、入院治療はそのまま続けてくれるということでしたし、私の顔を見てちぃが興奮したり、様子が悪くなったりしてもいけないので、その日は先生に預かってもらうことにしました。

さらにその翌日、2日ぶりにちぃに面会したとき、ちぃはとても興奮して、目には涙を浮かべているようでした。それを見て、すぐにでも家に連れて帰りたかったのですが、まだ点滴で治療しているのでそういうわけにはいきません。

その次の日は、ちぃが興奮しないよう、ケージの扉は開けずに面会させてもらいました。ちぃは、ケージの隙間から差し込んだ私の手をなめました。

「そろそろ点滴を飲み薬に切り替えることができるので、連れて帰ることもできますが、どうしますか?」
そう先生が聞いてくれました。先生はいつもゆったりと、飼い主が納得できるように丁寧に話をし、考える時間をくれます。そしてこの病院は、建物は小さいのですがスタッフが多くて、安心ができます。治療費は決して安くはないのですが、他へ連れて行く気にはなれません

「入院費がかさむので、この状態で家に連れて帰る飼い主さんも多いですよ。ただ、もしもヘルニアが再発したら、ここで再度お預かりするのではなく、大学病院で検査をしたほうが良いでしょう」
そう先生は言いました。家で病院と同じようにちぃを安静にしておく自信のない私は、先生の意見を尋ねました。

「できれば、1週間くらいは入院していたほうが良いです。ここならば、ちぃちゃんが間違って走り回ったり、立ち上がったりはしませんから、安静に治療できます」
と先生は言いました。そして「今は、ときどきスタッフが様子を見に行くと、『なあに?』というふうにこちらを見ますが、そのあとはおとなしく伏せて休んでいますよ」
とも。

その話を聞いて、結局私は先生にお願いすることにしました。
1週間目までは、残り2日でした。

 

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私は家に戻ると家族に相談しました。そしてちぃが帰ってきたら、心を鬼にして1か月間、安静のため、ちぃをケージから出さないことに決めました。

私一人の決心では、きっと途中でかわいそうになって、ケージから出し、ヘルニアを悪化させてしまうに違いありません。

ちぃが退院するまでの長い長い2日間は、さびしいものでした。れんがいるので、さびしさがまぎれるかというと、そういうわけにはいきません。
れん自身も、すごくさびしそうに、おとなしく過ごしているのですから。

ちぃが退院した日からは、ちぃのケージを居間から隣の座敷に移動して、ふすまを開けてちぃの様子がいつでも見えるようにしました。居間では、来客のたびにちぃが興奮して、とても安静にはできないからです。
そんなときにはふすまを閉めて、ちぃを興奮させないようしました。

座敷は普段、夫が事務室として使っている部屋なので、電話中にちぃが吠えて仕事の邪魔をしないかという心配はありました。しかしちぃは昼の間、ずっとケージの中で、おとなしく過ごしていました。

せめて夜だけは、ちぃに淋しい思いをさせたくないと思い、ケージの前に1畳くらいの狭いスペースを作り、そこにちぃと一緒に毛布にくるまって寝ることにしました。

この方法は、ある知人に教わった治療法を真似たものです。
その方の愛犬が以前、椎間板ヘルニアの手術を勧められたそうですが、別の病院で「手術はせず、ケージに閉じ込めて治す」方法を勧められたそうです。

トイレの時以外はケージの中で過ごさせ、夜は、ケージの前に布団を敷いて、愛犬のそばで寝て過ごし、手術無しで治すことができたというのです。
この方法なら、ちぃにもあまり淋しい思いをさせず、私にもできそうだと思いました。

 

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ちぃは、1週間の入院中、1日だけご飯を食べない日があったそうです。
炎症を抑えるためのステロイド剤の副作用から、喉が渇くらしく、やたらと水をがぶ飲みして、退院のころには体も顔も、ひとまわり小さくなっていました。
背中の真ん中が少しとがり、お尻の骨の形もわかるくらいに痩せ、元気だったときよりも2キロくらい軽くなっていました。

夫はちぃが「痩せすぎ」なのでは、と心配しましたが、病院の先生は「正常の範囲内です。体重が増えると、脊髄に負担がかかるので気を付けてください」と仰いました。

それ以後私は、急にご飯を増やしすぎないように気を付けました。
そして元気が出てきて、体重が少し増えてからは、野菜をゆでて小さく刻み、ご飯に混ぜて食べさせるようにしました。

夫からは、「自分の体重は管理できないのに、犬の体重は管理できるんだね」と笑われ、妙に感心されました。

私たち家族は1か月間、病院へ行く日以外は、ちぃをこの部屋から出さずに過ごしました。その甲斐あってか、ちぃのヘルニアは幸い手術をすることなく完治し、その後は再発もせずに過ごすことが出来ました。

でも、まさかヘルニアで命を賭けた闘病になるとはね――
ちぃの昔のお話です。

 

――ちぃの闘病記:ヘルニア編(後編)・おわり――

文:かっぱ太郎、撮影:F.zin
 

――前話――

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

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――出典――

※本記事は著作者の許可を得て、下記のエッセイを元に再構成されたものです。