犬を飼うということ

いつまでも君と……

駄目駄目、犬は飼わないよ。別れのときがつらいんだから ~我が家が犬を飼わない理由(前編)~

f:id:masami_takasu:20181017114059j:plain文:高栖匡躬 

ついに手に入れた自分の城。念願の一戸建て。
しかし、その喜びに浸るのも束の間、「お父さん、うちでも犬を飼おうよ」という娘さんの声が聞こえてきます。

実はお父さんはずっと前から、娘さんと約束をしていたのです。「いつか家が大きくなったら犬を飼おうな」と。

今日は、そんなお父さんのお話です。

 

 そもそもの始まりは、愛犬ピーチーの病気

f:id:masami_takasu:20181017114436j:plain

話は3年半前に遡ります。
筆者は犬を飼っていました。ミニチュアブルテリアで14歳。ピーチーという名の、それはそれは可愛い女の子です。

ある日、大切なその子が病気になりました。
高度医療を推進する『DVMs どうぶつ医療センター横浜』の、救急診療センターに駆け込んだのは、まだ夜が明けたばかりの頃。

ピーチーに降りかかった災難は劇症肝炎。
もう明日をも知れぬ命でした。

この時の様子はこの記事に。

 

 それは偶然の出会い

f:id:masami_takasu:20181017115042j:plain

辛くも難を免れたピーチーは、小康状態を得て退院の日を迎えます。

病院で呼んでいただいたタクシーに、愛犬を抱いて乗り込む筆者。
まだ完全に回復しておらず、グッタリとしていた愛犬に、そのタクシーの運転手さんは、本当に親身になり、優しく接してくれました。

訊けばご自分も、犬を飼っていらっしゃるとの事。
娘さんのご希望だったそうです。
「今じゃ娘は犬を放ったらかし。僕が全部面倒を見ているんです。でも可愛いんだよな、犬って」

ルームミラーに映る運転手さんの顔は強面。街ですれ違ったら、うっかり肩が触れないように用心するだろうその顔が、犬の話になると、別人のようにほころびます。
そして自宅に着くまでの15分ほどの間、ずっとその運転手さんの饒舌は続きました。
それは、とても印象的な出来事でした。

――それから数日後――

その運転手さんとは、ぜひもう一度お話をしてみたいなと思っていたところに、ちょうど愛犬の薬を取りに病院に行かなければならない用事ができました。
そこで、うろ覚えだった運転手さんの名前を頼りに、タクシー会社に電話を掛けて、指名をお願いしてみたのです。

 

 その運転手さんの名は

f:id:masami_takasu:20181017115309j:plain撮影:筆者

電話で判明した運転手さんは、三和交通神奈川株式会社に所属されている山川茂治(仮名)さん。三和交通さんは横浜市港北区で、ペット可のタクシー会社としても知られています。

「あれっ、今日はワンちゃんは?」
後部座席に乗り込むなり、早速山川さんが訊ねてきました。
「いませんよ。実は今日は犬を運ぶんじゃなくて、山川さんとまたお話がしたくて、指名をさせていただいたんです」

怪訝な顔の山川さんに、あの日の感謝を伝えるとともに、お話をもう一度お聞きして、出来れば記事にしたいとお願いをすると、「そんな事だったら」と山田さんは快諾。
写真を掲載することまで、了解をいただきました。

「山川さん、今日は主治医のところに薬を取りに行くだけなんです。近くてすぐに着いてしまうので、適当に周辺をトロトロと走りながら、目的の場所に向かってください」
「じゃあ、コースは僕へのお任せで良いですね?」

こうして、山川さんへのインタビューが始まりました。

 

 初めは飼うつもりなんかなかった

f:id:masami_takasu:20181017115645j:plain

「確か、山川さんは、犬を飼うのには反対だったのですよね?」
一番気になっていたことから質問をしてみました。
「反対と言えば反対になるのかな。でも、犬は嫌いじゃなくて、むしろ好きなんですよ。うちのカミさんなんかも、小さい頃から動物に囲まれて育ったんで、いつか犬を飼いたいって言ったいましたしね」
「それならどうして、ずっと犬を飼わなかったのですか?」

山川さんは何かを考えているようでしたが、やや間をおいて話し始めました。
「”まずは”当時はうちは、マンション住まいでしたからね」
「ペットが飼えないマンションだったのですか?」
「そうでもないんですけど、管理組合への手続きが色々必要だし、部屋も狭くてね……。そんなところで犬なんて飼えないと思ったんですよ」

「先ほど、”まずは”と前置きされましたね。他にも理由があったのですか?」
「ええそうです。犬ってね、いつか死んじゃうじゃないですか。そうなったら娘が余計に可哀そうだし、僕だってさびしくなっちゃうだろうし、そんな事を考えたらね、飼いたいって気がしなくなっちゃってね……。そっちの方が本当の理由かな」

「娘さんにはそのお話も?」
「いえいえ、していません。娘には今は部屋が狭くて世話ができないから、もっと大きな家に引っ越したら飼おうと言ったんですよ」
「娘さんは諦めたのですか?」
「それからも何度かせがまれましたけどね、そのうち言わなくなりましたよ」

山川さんの口調は、どこか申し訳なさそうに聞こえました。

 

 犬を飼わない理由のランキングは

f:id:masami_takasu:20181017120051j:plain

山川さんが犬を飼わなかった本当の理由、つまり犬との別れがつらいからという話は、犬を飼っていない方からよく聞くものです。かなりの数の方々が、同じ理由で犬を飼っていないものと思われます。

その事を伺わせる資料がありました。『動物愛護に関する世論調査』(平成15年7月調査)がそれです。

動物愛護に関する世論調査(平成15年7月調査) 
内閣府大臣官房政府広報室

[ペットを飼わない理由]
ペットを「飼っていない」と答えた者(1,396人)に,ペットを飼わない理由を聞いたところ,「十分に世話ができないから」を挙げた者の割合が46.5%と最も高く,以下,「死ぬとかわいそうだから」(35.0%),「集合住宅(アパート・マンションなど一戸建てでないもの)であり,禁止されているから」(24.6%),「家や庭が汚れるから」(16.9%),「動物が嫌いだから」(16.8%)などの順となっている。(複数回答,上位5項目)

出典:動物愛護に関する世論調査

この資料によると、複数回答可能とはいえ実に三分の一以上の方が『死ぬとかわいそうだから』を、ペットを飼わない理由として挙げています。

それでは、犬を飼いたいと思っているにも関わらず、今は飼っていない方は、一体どのような理由で飼うことができないでいるのでしょうか?
それを示す資料もありました。

いささか古い資料ではありますが、平成7年に東京ガスの都市生活研究所が発行したレポート『ペットと暮らす社会を考える』がそれです。

ペットを飼いたい人に対し、どうして飼わないかを質問

規則で禁止されているから  47.7%
留守が多いから       40.5%
別れがつらいから      35.1%
集合住宅に住んでいるので  34.1%
住まいが狭いので      26.0%
飼育に手間がかかるので   19.8%

調査対象:1100件(但し、若年単身者、高齢単身者の比率が高くなるように抽出)
回収状況:有効回答数は767件(回収率 69.7%)
条件が許せば飼いたい人の割合は 63.9% (N=352)

出典:東京ガス都市生活研究所, 1995.11 都市生活レポート ;へnNo.33

この回答からは、犬(およびペット)を飼いたいが飼わないでいる人の三分の一以上が、最期の別れを恐れている様が見て取れます。

調査から約20年。住宅事情に変動はあるでしょうが、心情的な要因にはそれほど大きな変動があるようにも思えません。

恐らくは今も変わらず、犬を飼いたい人たちの三分の一は、タクシー運転手、山川さんのかつての姿と同じように、愛犬との別れに恐れを抱いているのでしょう。

 

――我が家が犬を飼わない理由(前編)つづく――

文:高栖匡躬
 

――次話――

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

――同じ作者の記事です――

――おすすめの記事です――