抗がん剤には先入観がありがちです

動物の抗がん剤治療(1/2)専門家からの視点
今日は犬や猫の、抗がん剤治療について書いていこうと思います。
皆さんは『抗がん剤』と聞いて、どのような印象を受けますか?
『抗がん剤=副作用とか怖そう』
こう感じた方が多いのではないでしょうか?
では、抗がん剤が怖いと感じた方へ
「抗がん剤が体内でどのように働いて、がんを抑えるか説明できますか?」
きっと説明するのは難しいですよね。それが普通です。
【目次】
なぜ怖がってしまうのか
抗がん剤の働きについて答えられる方は、恐らく抗がん剤を、 ”治療の手段“ として、しっかりと認識されている方のはず。だとすれば、恐らく抗がん剤を闇雲に怖いとは、思っていらっしゃらないのではないでしょうか?
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なぜ、僕がこのような質問をしたかというと
人は『知らないもの=恐怖の対象』という思考回路を生まれもって備えているからです。
例えば、「株式投資」
なんだか失敗して借金とかしたら“怖い”ですよね(笑)
でも世の中には、その仕組みをしっかりと理解して、それで生計を立てている人がいますし、趣味で株を楽しんでいる人もいます。
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そうなんです!
抗がん剤を “怖いもの” だと認識されている方のほとんどは、抗がん剤を知らないがために、必要以上にそれを恐れている場合が多いのです。
今回は皆さんに抗がん剤について知ってもらい、抗がん剤が“怖いもの”から“がんを倒す武器”に見えるようになって頂けきたいと思います。
もともと抗がん剤は
また脅かしてしまうかもしれませんが、抗がん剤のルーツは第一次世界大戦時に開発された『マスタードガス』と呼ばれる化学兵器なのです。
奇しくも、人間を殺すために使われるものが人間を助けるものになっています。
抗がん剤はみな「細胞毒性」というものを持っています。
特に細胞の中にある細胞分裂の要とも言える『核』を攻撃します。
核を攻撃することで、細胞分裂を阻止し、腫瘍を小さくしていくのです。
抗がん剤治療を行なう理由
現在、獣医療で実用的ながんの治療法下記。
2. 抗がん剤
3. 放射線治療
この三本柱で治療を進めています。
最近話題のオプジーボなどは『第四のがん治療』と呼ばれ、獣医療でもいつか使える日が来ればいいなと思っています。
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この3つの治療の中で、抗がん剤が秀でている特徴があります。
それは以下の2つです。
②麻酔が要らない
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外科手術も放射線治療も何か腫瘤がボコッとできているだけなら、それで十分です。
しかし『血液系のがん』すなわち、白血病やリンパ腫であったり、『全身転移』が確認された臨床ステージのがんである場合は、手術や放射線治療はほとんど意味を成しません。
末期がんで外科手術や放射線治療をやるとするならば、気管や尿道を圧迫していて、著しくQOLが低下しているため緩和的に行うといった程度です。
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一方、抗がん剤は、血液中に細胞毒性を持った物質を流し込みます。それは確かに自身の身体にも影響を受けますが、全身に散らばったガンに対してはこれ以上に有効な治療法は現在の獣医学ではありません。
そして無麻酔行えることはかなりのメリットです。
というのもガンは高齢と共に発症率が上昇するので、やはり麻酔のリスクというものが伴います。麻酔のリスクを考えることなしに行える治療としては、申し分ない働きをしてくれるのです。
ネオアジュバント療法
抗がん剤の使い方は一般的には手術で大きな腫瘍を採った後、ガンにトドメを刺すために抗がん剤を投与するといったものです。
しかし最近では、その使い方が変わって来ています。
ネオアジュバント療法は、その反対で、手術前に抗がん剤を投与し、ある程度腫瘍を小さくしてから残りをごっそり手術で採るという方法です。
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例えば、甲状腺癌など浸潤性が強く、太い血管(頸動脈)を巻き込んで増殖している場合を考えてみて下さい。
ガンが頸動脈を巻き込んだまま切除することは不可能です。
切除したと同時に、出血多量で命を落とすでしょう。
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こういった腫瘍に対して、抗がん剤が使われることは多々あります。
抗がん剤を先に投与し、ガンをある程度まで小さくする。
すると、巻き込んでいた血管と腫瘍が綺麗に分離され、手術によって綺麗に切除できたなんてこともありえます。
抗がん剤の使い方はたくさんあるのです。
人間の医療とは少し違う
ここで一つだけ、付け加えておくことがあります。
先程、抗がん剤の働きについて答えられる方ならば、恐らく抗がん剤を怖いとは思わないだろうと書きましたが、正確にはそうとばかりは言えません。
詳しいからこそ――
怖いとは思わないものの、”嫌う”場合があります。
特に人間の癌治療に従事された医療関係者や、家族の抗がん剤治療の経過を、実際に見て来た方などに多い考えです。
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人間の抗がん剤治療は、”治す”ことに重きを置くがために、患者のQOLを無視しがちになるのです。癌は制圧したけれど、その前に患者の体の方が参ってしまったという例は、医療現場では良く目にすることのようです。
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では動物は違うのか?
それが違うのです。
先に書いたように、動物の場合は麻酔のリスクを極力避けるように努力をします。
人間のように、専門の麻酔医のいる動物病院は、多くはありません。
手術も放射線も余程有効と判断するか、それしか方法がないと判断したときに選ぶ手段なのです。
抗がん剤が使われる用途が、人間よりもずっと幅が広いのが動物医療です。
このことについては、また改めて書きたいと思っています。
最後に
どうでしたか?
なんだか抗がん剤が、『ガンと闘うための武器』のように感じてきませんか?
今回は抗がん剤について、ほんのちょっとばかりお話しした程度です。
抗がん剤について本格的に話し出したら、腫瘍学を包括的にご説明しなければならなくなり、膨大な文章量となるでしょう。
それだけ抗がん剤治療は、奥が深いのです。
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抗がん剤は決して“怖いもの”ではありません。
医学であり、科学です。オカルトではありません。
正しく理解し、正しく使えば、完治することも十分あり得ます。
ご心配であるだろう副作用に関しては、僕のブログ『オタ福の語り部屋』で解説している記事がありますので、そちらも合わせてお読みください。
本記事は、ブログの開設初期に書いた記事なので、下手っぴな書き方ですが、副作用を理解して頂くには十分な内容であると思います。
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さて、今回お話した内容を踏まえて、抗がん剤治療に一歩ずつ歩み寄ってみてはいかがでしょうか?
新しい未来が待っているかもしれませんよ.。
――【動物の抗がん剤治療】犬や猫は少し違うのです(1/2)――
――次回、患者側から考えたことを――
作:オタ福
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――次話――
愛犬ピーチーが去ってからも、色々な闘病記を読みました。
そこで思ったこと。
「もしかして犬の抗がん剤って、副作用が厳しくないの?」
それから調べました。
結果は――
副作用はある。しかし使い方が違うから現れ方が違う。
なるほど、そういうことか。
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犬の癌|闘病記
肺がん闘病記|全18話
いつも元気一杯だったピーチー。
大病をしてから、体調に浮き沈み。
この数日も「ちょっと変」と思い、「”多分”、いつものこと」とも思っていた。
”多分”は段々と弱々しくなり、少しだけ嫌な予感も。
「今日は病院だな」と思ったのがこの日。
心臓腫瘍闘病記|全5話
愛犬の”ちぃ”がご飯をたべなくなりました。
重度の貧血、そして脾臓の摘出手術。
退院後、ちぃは元気になっていったのですが、実はそれが本当の闘病の始まりでした。
体のどこかに腫瘍があるかもしれない。