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【顔面神経麻痺】それは突然始まった ~長く続いた耳の病気(発病編)~【中耳・内耳炎/前庭症状】

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れんの闘病記:中耳・内耳炎による前提症状を伴う顔面神経麻痺 
治療・発病編

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文|かっぱ太郎 撮影|F.zin

 ある朝、突然

わが家のやんちゃ坊主「れん」が、4歳になる少し前のことです。
3月のある朝、突然に元気がなくなってしまいました。

れんは普段は臆病で、郵便受けがカタンと鳴っても大声で吠えたてるのに、その日は物音がしてもまったく吠えません。

「れん、ボールだよ!」
そう言って、大好きなボールを投げても、よろけてキャッチできず、それっきり辛そうにうなだれ、座りこんでしまったのです。

具合が悪いのかも――
しかしれんは、ごはんはゆっくりだけれど全部食べたし、下痢もおう吐もありません。

どこかが痛いのかも――
そう思いしばらく観察していたのですが、普通に歩けますから、痛いわけでもなさそうです。

ボールを取れなかったのが、ショックだったのかな?
それとも、ゆうべ一緒に寝なかったので、さみしくてウツになっちゃったのかな?
などと、いろいろ考えながら、その日は仕事に出かけました。

 

 顔が片方、下がっていますね

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その日は夫の仕事が休みだったので、一日様子を見ていてくれたのですが、家に帰るとタダならぬことを言いました。
「れんさあ、寝てばかりいるし、よだれが出るんだよ。きっと脳だ」
脳――?!

翌朝、かかりつけの動物病院へ連れて行くと、受付の看護師さんがれんの顔を正面から見て、「顔が片方、下がっていますね」と、すぐに異常に気付きました。

れんは車に乗ったり、病院に入ったりで興奮し、息が荒くなっていましたが、口を開けても、いつもの「にっこり」顔ではなく、顔の左側だけ口角が上がり、右側の口角は下がってよだれが垂れ、床にぽたぽた落ちていました。

れんの顔の毛は、右半分と右の耳の裏が黒く、顔の左側は全身と同じ白色です。チャームポイントの黒いほうの顔に、異変がおきていました。

診察室に呼ばれ、れんの全身をチェックしてから先生は、
「右の耳の奥が真っ赤ですね。外側はきれいですが、鼓膜の内側に何か、感染したのかもしれませんね。耳をかゆがったりは、していませんでしたか?」
と言いました。

そう言われてみると、ときどき耳を後ろ足でかいたりは、していましたが、犬はよくそんなことをするものだ、くらいに思っていました。

「耳掃除がちゃんとできていないのが原因でしょうか?」
とおそるおそる尋ねる私。
先生は「必ずしもそれが原因とはかぎりません。耳掃除をちゃんとしていても、こういう状態になる場合もあります」と言ってくれました。

更に先生は、こういうことも。
「立ち耳の犬の場合、それほど神経質に掃除する必要はないし、掃除のしすぎで傷ができて、感染することもあります。ただ、れんちゃんの場合、今後は耳の病歴のある子として、耳の様子を定期的にチェックする必要がありますね」

先生がわかりやすく即答してくれたので、少しだけ心が軽くなりました。

 

 中耳・内耳炎による前庭症状を伴った「顔面神経麻痺」

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犬の耳掃除は、専用の液体を耳に入れ、耳の付け根をよく揉んだあと、ブルブルと頭をふらせて、出てきたよごれを脱脂綿でふきとる、という手順で家でもできるものです。

ただ、うちの犬たちは、液体を入れようものなら手にかみついて暴れるので、そんなふうにきちんと掃除ができません。シャンプーのときに、指の届く範囲をきれいにして、ブルブルさせてタオルでふく程度で終わらせていました。

人間の中耳炎は、ハナをきちんとかむことのできない小さい子どもがかかる病気で、頭のサイズが大きくなって、ハナのばい菌が耳のほうへ流れなくなれば、かかりにくくなるので、耳掃除とはあまり関係ない気がしますが、私の家にある犬の病気の本には、耳掃除のことが原因として書かれていたのです。

先生は、飼い主が責任を感じて落ち込まないよう、言い方に気を使ってくれたのかもしれません。

「人間でいうと、中耳炎をこじらせて、メニエール病でめまいがするような状態ですか?」
そう私が尋ねると、先生は「はい、それに非常に近いけれども、(見たところ)もっと重篤です。原因も、耳だけとは限らないので、甲状腺の検査もしましょう」と言いました。

この当時(2012年)の診断は、『中耳・内耳炎による前庭症状を伴った「顔面神経麻痺」』とのことでした。

 

 母の言葉

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ここで、少しだけ人間の話をします。
わたしの実家の母は、幼いころの中耳炎が原因で左耳が聞こえなくなり、今でも、疲れがたまると、耳の奥の「三半規管」の不調からくるめまいに悩まされています。

母が初めてこの病(メニエール病)で倒れたとき、私は小学生でした。
突然入院してしまった母は、ひどいめまいと吐き気で病室のベッドから体を起こすことさえできないのに、ベッドのわきでいまにも泣きだしそうな私を見て、
「メニエールは、死ぬような病気じゃないから、大丈夫だって、先生が言ってたよ」
と言いました。

私はそのときの、母の言葉を思い出して、
「れんは大丈夫、メニエール病なら、死んだりはしない。お母さんはあのとき元気になったし、いまも元気だもの。」
と、自分に言い聞かせながら、先生の話を聞いていました。

 

 快方へ

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その年の6月1日、れんは無事に4歳になりました。
3月の末から5月の末まで、動物病院に通い、ようやく元気になりましたが、れんは以前よりも、ご飯を食べるスピードが少しだけゆっくりになりました。

3月末に突然発症した顔面神経の麻痺と、耳の奥の炎症は、飲み薬と点耳薬で、日に日に良くなり、耳から赤っぽい汁が出る症状も、数週間後にはおさまりました。

病院に通い始めてから数日の間は元気がなく、ひとつ年上の「ちぃ」とも遊べず、ご飯を食べて寝るだけの生活でした。

ごはんを残したりはしないのに、数日で体重が1割近く減ってしまい、脇腹にさわると、肋骨の形がはっきりとわかるほどでした。

少し元気が出てきたれんは、ある日、ちぃとのおもちゃの引っ張りっこで負けてしまいました。
ものごころがついてからは、ちぃに負けたことのないれんのプライドは、少なからず傷ついたようでした。

ちぃは以前、チビだったれんを赤ん坊だと思って、勝ちを譲っていたようですが、次第にれんが大きくなり、体格も逆転して、本当に力負けするようになっていました。

 

 通院治療の始まり

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れんがかなり元気になったころ、動物病院の先生が言いました。
「れんちゃんのご飯を増やして、ちゃんと体重が増えるかどうか確認しましょう。」
そこで、ちぃの2倍の量のフードを食べさせることにしました。

耳を患う前は、ちぃの1.5倍の量のフードを、わき目もふらずにほんの数秒で飲み込み、どんぶりをきれいになめて、まだ一生懸命食べているちぃの傍へ行き、ちぃが食べ終わるのを待って、どんぶりの底にこびり付いたフードを丁寧になめるのが、れんの日課でした。

でも、このときのれんは、目の前に置かれた超特盛りご飯と、私の顔を見比べ、「これ、ホントに全部食べなくちゃいけないの?」という表情で、ゆっくりと食べ始めました。

数日後、れんの体重が元通りに増えたのを確認し、超特盛りご飯を、普段の特盛りご飯に戻しましたが、それでもちらっと私の顔を見る仕草は変わりません。
それから、何か考えごとをしながらのように、ゆっくりと落ち着いてご飯を食べるのです。

いつも食べるのが遅いちぃと、食べ終わるのはほぼ同時でした。

お腹の調子が悪いようではないので、闘病中の超特盛りご飯に辟易したのか、4歳の誕生日を迎えて大人の落ち着きを身につけたのか……

ものすごい速さでご飯を飲み込んでいた、以前のれんの姿を思い出すと、すこしさみしい気持ちになりました。

次の診察日、れんの耳をチェックしたあとで先生は、
「これからは、耳の検査と洗浄を定期的に続けていきましょう。」
と、やさしく言いました。これが、6年以上にわたる、れんの長い長い通院治療のはじまりでした。

今回は発病とその直後のお話。このお話は、闘病編に続きます。

 

――れんの闘病記・発症編、つづく――

作:かっぱ太郎、F.zin
 ▶ 作者の一言
 ▶かっぱ太郎、F zin:犬の記事のご紹介

――次話――

次話は闘病編です。

れんの耳(中耳・内耳炎)の疾患は、改善しないまま5年。
やがて相棒のちぃの闘病が始まり、我が家は2匹が平行して闘病することに。
お互いが、お互いを見守る闘病でした。
本記事はそれから4年目のお話

まとめ読み|ちぃ と れん の闘病記
この記事は、まとめ読みでも読むことが出来ます。

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 出典

※本記事は著作者の許可を得て、下記のエッセイを元に再構成されたものです。

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