こちら、オタ福診療所(仮)
今回は:急性膵炎

今日から連載する『こちら、オタ福診療所』は、動物の病気について、わかりやすく解説するちょっとした病気辞典みたいなものです。
動物の病気について書かれた記事は沢山ありますよね。でも両極端です。
1つは難しい言葉で書かれていて、普通の飼い主さんにとっては、読むのも苦痛になるようなもの。(でもこれ、実は専門家からすると、実は物足りないものが多いんですけどね)
2つ目は、あまりにも簡易すぎて役に立たないもの。失礼なことを言うようですが、ほとんどの記事はこれにあたります。
『こちら、オタ福診療所』はその中間になるものです。
ちょっとは難しいです。役に立ってほしいから。それと、これくらいは頑張って読んで欲しいということを書きました。これくらいを理解していると、獣医さんとのコミュニケーションがしやすくなるので。
こんにちは、オタ福です。今回は『動物の急性膵炎』についてお話ししたいと思います。膵炎というのは、早い話が膵臓(すいぞう)の炎症です。それが急性で発症したということです。
うちの子も急性膵炎になりました。胆管閉塞にまでなってしまって、大変でした。怖い病気です。
そうなんですよ。命を失う子も結構いるのです。とにかくこの病気は、初動が大事なんですよ。
そもそも急性膵炎って?
急性膵炎とはどのような病気なのかを説明しますね。
急性膵炎とは
医学書的には、
と定義されています。
しかし、これでは分かりにくいですよね。グレーのところは読み飛ばしていただいて結構です。
噛み砕いていうと、つまり――
と考えて頂ければ良いかと思います。黄色のところは重要です。
●
慢性膵炎とは
これ対をなすのが、『慢性膵炎』です。
慢性膵炎では炎症部の膵臓で、再起が期待できません。
つまり、ゆっくりと進むので急に命を奪われることはありませんが、壊れてしまった臓器はもう元には戻らないのです。
慢性膵炎を詳しく説明すると長くなりますので、また別の記事で個別に説明しますね。今回はここまでで、詳細は割愛させて頂きます。
なぜ、急性膵炎が起こるのか?
膵臓は自己消化すなわち、膵臓自身が作る消化酵素で自分の臓器を消化してしまうことを防ぐため、多くのストッパー機能を持っています。
しかし、このストッパーが何らかの原因で壊れてしまうと本来、食べ物を消化するために作っていたはずの消化酵素で、膵臓が自分自身を消化してしまうのです。
発症リスク
膵炎の発症リスクとなる要因を、幾つかご紹介します。
①犬種
ミニチュア・シュナウザーやヨークシャーテリア、キャバリア、コリー、ボクサーなどが挙げられます。
②年齢
膵炎が起こりやすい年齢として、中年齢~高齢です。これは人間と同じですね笑
③食生活
過食、肥満、高脂肪食、高脂血症などです。これも人間と同じです。ビール飲んで脂っこいものばかり食べていると膵炎になりますよ!笑
④原因疾患がある
膵炎を引き起こしやすい疾患として内分泌疾患があります。クッシング症候群や甲状腺機能低下症、糖尿病、などを持っている子では注意をしましょう。
●
Miniature Schnauzers with a history of pancreatitis were 5 times more likely to have hypertriglyceridemia than controls. Hypertriglyceridemia might be associated with the development of pancreatitis in some dogs of this breed. 引用文献:Serum triglyceride concentrations in Miniature Schnauzers with and without a history of probable pancreatitis.
急性膵炎の症状とは
一般的に犬では嘔吐や下痢などの消化器症状がみられます。そして、急性膵炎は激烈な腹痛を伴うため、『祈りのポーズ』もしばしばみられます。
祈りのポーズとはイスラム教徒がメッカに向かって捧げるお祈りのようなポーズのことです。
軽度の膵炎であれば、食欲不振や嘔吐、下痢などで収まるのですが、重度になるとショックやDIC(播種性血管内凝固症候群)などを引き起こし、亡くなる可能性も十分あります。重症症例ではとても怖い病気なのです。
急性膵炎の治し方
急性膵炎の治療法には鉄板の5本柱があります。
これが急性膵炎治療の、鉄板の5本柱
①輸液で脱水の解消
急性膵炎では嘔吐や下痢などが認められます。嘔吐や下痢を繰り返していると消化管からの水分摂取ができなくなるため、脱水している可能性があります。脱水を補正するために輸液を行います。
②吐き止めで嘔吐を防ぐ
嘔吐物の中にはフードや水分だけでなく、胃酸なども含まれています。胃酸はもちろん酸性で、酸性ということはH+を多く含んでいるということです。このH+は血液から持ってきています。通常、胃酸は消化という役目が終わると中和されて再び血液へ回収されます。胃酸が体外へ多く出てしまうと血液中のH+が減ってしまうので、体調が大きく崩れてしまいます。水分だけでなく、胃酸の体外漏出を防ぐためにも、嘔吐は抑えなければいけないのです。
③栄養補給で体調管理
なるべく口からご飯を与えなければなりません。薬で嘔吐を抑えつつ、ご飯はしっかり食べてもらう。そうすることで、免疫力が上がり、体調も整えられるので、膵炎の治りが早いと言われています。
④鎮痛剤で痛みを取り除く
急性膵炎は激烈な腹痛が伴います。腹痛が続くと、自律神経が乱れ、体調悪化につながるので、腹痛はなるべく早めに解除してあげましょう。
⑤ステロイドで炎症を抑える
膵炎は自己消化による強い炎症が原因で起こっています。ステロイドなどの抗炎症薬を使用し、炎症を抑えてあげることで膵臓自体を保護でき、早期回復につながります。
急性膵炎の闘病記です
以下は急性膵炎の闘病記です。
闘病記に書かれた、他の飼い主さんの経験は、とても役に立つものです。
どうか、活用なさってください。
大事なこと
急性膵炎で飼い主さんに気を付けて欲しいことは、異常を感じたらすぐに病院に行くことです。先にも書きましたが、急性膵炎は適切に治療をすれば、治る病気なのです。
しかし、病状は急速に悪化するので、タイミングを見失うと命を奪われてしまいます。
どうか初動が大切だという事をしっかりと認識していただきたいです。
うちの子は、確かに急性膵炎は治りました。
そうです。早く対処すれば治る可能性が高いのです。
しかしその後、急性膵炎が原因で胆管閉塞を発症してしまいました。膵炎と胆管閉塞は関係があるのですか?
炎症は発熱しますよね。体を作っているのはタンパク質。40度前後でも長時間さらされると、変質するんです。低温火傷と同じで化学現象です。膵管と胆管の開口部(腸内へ消化酵素が出ていく場所)は隣接していますから、無縁ではないのです。
膵臓の熱が、胆管にも波及したということですね。
そういうことです。早くしないと、膵臓だけのダメージでは済まなくなるのですよ。
もっと詳しくお知りになりたい方へ
今回は急性膵炎についてお話ししました。僕の運営しているブログ『オタ福の語り部屋』ではもう一歩踏み込んだ、詳しい解説を書いています。さらに詳しく知りたい方はこちらをご参考ください。
本記事の参考書籍
本記事は以下の書籍を参考にさせていただきました。
Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 1683-1688p
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 283-285p
最後に1つだけ
『オタ福の質問箱』ではかかりつけ医がいらっしゃる方を対象に、病気や主治医に聞けない些細なことなど、ご質問を受け付けています。是非ともご利用ください。
※主治医の方の診立てに対して、客観的な意見を申し上げるのが趣旨です。
※治療の目的ではありませんので、ご承知おきください。
――こちら、オタ福診療所(仮)了――
文:オタ福
▶ 作者の一言
▶ オタ福:犬の記事 ご紹介
▶ オタ福:猫の記事 ご紹介
Follow @OtaHuku8
――次話――
次話は”てんかん”のお話です。
『癲癇(てんかん)』
何の前触れもなく、大発作ではじまることが多い病気です。
発作の見た目が激しいので、飼い主は気が気でありません。
突発性で、1度で済む場合もあれば、何度も繰り返す場合も。
●
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。
●
同じ作者の記事です
ペットの抗がん剤治療を迷っている方へ
抗がん剤というと、厳しい副作用が頭に浮かびませんか?
しかしそれは人間の場合で、動物の場合は少し様相が違います。
何のための治療なのか?
目的が人間と動物では違うからです。
使ってやろうかな? もしかしたら、そんな風に思えるかもしれません。
臨床現場から見た、良い獣医師の選び方
”良い”獣医師選びは、飼い主の責任でもあります。
目的は常に動物の病気を治すこと。
そのために獣医師は何をすべきか?
そう考えると、自然に”良い獣医師”とは何かが分かってきます。
現場を知るからこそ出来るアドバイス。
●
Withdogに連載した闘病記です
【肺がん】
ピーチー最後の闘病記|肺がん・看取り編①
最初はちょっと息が荒いだけ。
念のため病院に行ったけれど、待ち時間はボール遊び。
まさか、12日後に別れが来るとは思いもせず。
毎日が楽しくて、まるで子犬がうちに来たみたな気付きが日々あって、
あの時は楽しかったな、ピーチー
お前はどうだ?
【膿皮症】
突如発症した皮膚病 ~重症化してしまった愛犬、侮れない病気~
犬に多い皮膚病のひとつ。
病名を検索してみると、
『それ自体が、犬を死に至らせるものではない』
――とされているのだが、とても軽視できるものではない。
重度に発展すると、とんでもないことに。