こちら、オタ福診療所(仮)
今回は:ペットの肺がんです。

こんにちは、オタ福です。
今回は『肺がん』に関するお話です。
皆さんは「肺がん」という言葉を聞くと、どのようなことをイメージされますでしょうか?
僕はタバコを吸いすぎたおじいさんが、ゴホゴホと咳き込んでいるシーンが浮かびます。
でも肺がんって実はそこまで顕著な症状が出ないんですよね。
最近愛犬の呼吸が粗い時がある|咳をする|足(指)を痛がる|食事はきちんとしているのに、体重が減ってきた
肺がんは気付かずに進行していることが多い病気です。
うちの子は、肺がんで亡くなりました。最初は時々、ちょっと息が粗い程度です。まさかそんな大変な病気をは思いもしませんでした。
どうやって気が付いたのでか?
偶然です。腰のあたりに腫瘤のようなものが出来て、心配なのでレントゲンを撮ったら肺に影があったのです。その半年前にMRIを受けているのですが、その時はまったく異常なしでした。
まさに、気が付かないうちに進行していた例ですね。
肺がんは気づきにくい!症状は?
咳が最も多い症状
肺がんの症状のほとんどは咳です。
肺がんの症例を集めて取ったらデータでは、咳が見られたのは52~93%と割と高確率で見られているのに対し、そのほかの症状は呼吸困難(6~24%)、元気消失(12~18%)、食欲不振(13%)、喀血(3~9%)ととても微妙な数字です。
喀血まで重篤な症状が見られれば、慌てることができますが、咳が出ているだけで肺腫瘍を疑うことはなかなか難しいでしょう。
The most common clinical signs of disease were cough (52%), dyspnea (23.8%), lethargy (18.1%), weight loss (12.4%), and tachypnea (4.8%). 引用文献:Classification of primary lung tumors in dogs: 210 cases (1975-1985).
足を痛がるのにも注意
肺がんの好発転移部位として指があります。肺がんは指によく転移するので、そこが痛くなり、脚を上げたり、歩きたがらないといった症状を示すことがあります。
咳がたくさん出ていて、足を痛がる場合は肺がんの可能性があるかもしれません。
以下は猫のデータになりますが、指にできた腫瘍のうち87.5%は肺で発生した腫瘍の転移だったという報告があります。
The conclusion of this study was that most carcinomas in the digits of cats were metastases of a primary pulmonary carcinoma (87.5%). 引用文献:Primary and metastatic carcinomas in the digits of cats.
検査は大事
肺がんの症状は特徴的なものではないため、咳に気づいたら、ただの風邪と済ませず、きちんとした検査を行なっておくことが重要になります。特に高齢の動物であればなおさらです。
レントゲン検査
咳が多くなったという飼い主さんの主張から行われる検査は、まず、身体検査による肺音の聴診などやって当然の検査を省くと、レントゲン検査があります。
咳が出るだけでは手がかりが少なすぎるので、画像診断によって肺の様子を確認します。
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肺は造影剤を用いずに確認できる唯一の臓器とも言われており、レントゲン検査においては細部に至る検査を行うことができます。
レントゲン検査を行うと、咳が出る原因をある程度絞ることができます。気管は凹んでいないか、肺炎や肺水腫などの腫瘍以外の病気になっていないかを調べます。
CT検査
一般の動物病院でここまで検査を行うことは稀ですが、どうしても原因不明で、内服薬による様子見でも一向に症状が改善されない場合は、CT検査を行いましょう。
CT検査ではわずか1mm程度の大きさの腫瘍でも発見できる精度があり、診断上とても有用な検査方法です。
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CTのメリットは診断精度だけでなく、腫瘍がどの場所にどのくらいの大きさで存在しているのか、リンパ節転移はあるのかなどステージ分類も行うこともメリットの1つです。
疑わしい病変が見られたら
画像診断の結果疑わしい病変が見られたら、細胞を採取し観察します。
採取の方法は、超音波を当てながら外から針で刺す方法と、全身麻酔下で気管支内へ内視鏡を差し込み採取する方法の2パターンがあります。
肺がんの治療法
肺がんはどの場所に腫瘍が発生したかによって、手術が行えるか否かが決まります。特に肺という臓器の特徴上、肺を切除するというのはとても難しく、大規模な手術になることが予想されます。
抗がん剤治療や放射線治療なども方法としてはありますが、効果はいまひとつといった感じです。
抗がん剤に関しては、人間と動物では、違う使い方をされる場合もあります。
こちらを参考にしてください。
肺がんの闘病記
肺がんの闘病記をご紹介します。
下記の例は、闘病と言っても、積極的に”治療をしない”という道を選んだ例です。
この例では、細胞採取による確定診断も、敢えて行わないという判断をしています。
何もしないという闘病もある
重篤で完治の可能性がほとんど無い病気の場合は、無理な治療を行ったり、侵襲性高い検査をすることが、余命やQOLに影響する場合があります。
”何も行わない”。或いは”緩和治療のみを行う”というという選択も、闘病の一部だとお考えになると良いと思います。
緩和の目的で行う抗がん剤治療もある
一般的には積極的な治療目的で用いられる抗がん剤も、QOL重視の目的で用いることもできます。こちらの記事を参考にしてください。
ペットの肺がんに立ち向かうには
肺がんは治療が難しく、完治することはほとんどありません。
自分の愛するペットが肺がんと診断されてしまったら、ただこの現状に悲観することなく、ペットといる時間を大切にしてあげて下さい。
痛みや苦しみを取り除く治療を積極的に行うことで、ペットが少しでも元気でいられる時間を作ってあげることはとても大切なことだと思います。
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『オタ福の語り部屋』について
『オタ福の語り部屋』では、獣医さんではなかなか聞けない病気の解説をしています。医学資料では理解が難しいことや、資料が見つけにくいことを解説していますのでご参考になさってください。
――こちら、オタ福診療所(仮)つづく――
文:オタ福
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――次話――
『薬物中毒』
毒物の誤飲に気を付けて!
動物毒殺のニュースで目にするのが、エチレングリコール。
誰でも簡単に手に入れられて、少量で死に至ります。
悪意がなくても、害獣駆除で置かれる場合も。
――前話――
『ペットの脱毛』
ある日、急に始まり、原因不明の場合が多いです。
痒がらないケースも多く、命に関わるものでないために、
獣医師からも軽視されがち。
しかし、飼い主さんにとっては大問題です。
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この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――連載の1話目です――
『急性膵炎』
膵炎というのは早い話が膵臓(すいぞう)の炎症で、それが急性で発症したということです、激しい痛みを伴いますが、早く対処すれば治る可能性が高い病気です。
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