ドッグフードの常識を疑ってみよう(1/3)
本シリーズは、ネット記事では半ば常識のように語られている ”ドッグフードの常識” を、1つ1つ本当かどうか検証してみようと思います。特にテーマを絞らず、様々なトピックを思いついた順に取り上げていきますが、ネット記事を参考にされている愛犬家の方には、かなりショックな内容ではないかと思っています。
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尚、本シリーズは、以下のシリーズ記事の続編(補足編)としてまとめています。
併せてお読みください。
ドッグフードの疑問|穀物と野菜は悪者なのか(全4話)
既存のフード記事を題材にしながら、本当に必要な(不要な)食べ物は何なのか? どんなフード選びをし、どんな食べ方をすればより安全なのかを考えました。
【目次】
- ドッグフードの常識を疑ってみよう(1/3)
- ドッグフードの疑問|穀物と野菜は悪者なのか(全4話)
- 食物の多様性とフードローテイションの重要性
- 肉類、ミール、ミートに問題はあるのか?
- 死んだ家畜や、殺処分された犬猫も原料にされている?
- 食べムラ・偏食に関するまとめ読み
食物の多様性とフードローテイションの重要性
前回の記事では、フード(食べ物)には多様性が必要ではないかと書きました。
つまり、誰かが推奨する1つのフードを食べ続けることは、リスクを含んでいるということです。そして、そのリスクを回避する手段の1つとして、フードローテイションという手段をご紹介しました。
これはとても大事な話なので、今一度踏み込んでご紹介したいと思います。
食物の多様性を重視するのには、2つの理由があります。
1つ目の理由―沢山のものを取り入れた方が良い
動物の生命活動はとても複雑な化学反応です。すべてを解き明かすのは難しいですし、もしもそれができたとしても、情報を理解したり、有効活用をすることなどできないはずです。
生命の維持に必要なものは、煎じ詰めれば5大栄養素に絞られていきます。
しかし、それらが体にとりこまれる過程は多種多様です。
単体の成分として体内に取り込まれるのではなく、他の物質と化学反応をして、複雑な化合物(例えばアミノ酸)の一部として、体内で効果を発揮するわけです。
何がどのような分量比率で必要なのか、正確に分からないのであれば、なるべく沢山のものを取り入れておいた方が良いというのが、多様性という考え方です。
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2つ目の理由―何が有害なのかは分かりにくい
2つ目の理由は、1つ目とは真逆の理由です。
動物の体にとって何が体に有害なの無害なのか、実はそう簡単には分からないものなのです。長い年月をかけて蓄積され、やがて障害(病気など)として発現するものは多いです。
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例えば、米国FDA(食品衛生局)が警鐘を鳴らした16種類のプレミアムフードは、つい最近まで誰もそれが悪いものとは思わなかったものです。
それどころか、日本でも(筆者の知る限り)3つは、多くのドッグフードランキング記事で絶賛されているものでした。
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このように、長期のスパンでは何が有害か分からないのですから、将来に向けてはなるべくたくさんのものを食べて、1成分(物質)あたりのリスクを減らしておくことがことが得策と思われます。つまり多様性が重要であるということです。
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だからフードローテイション
多様性という言葉を使うと難しい説明になるのですが、これを実践する最も手軽な方法があります。それがフードローティションということです。
1つのフードに固定するのではなく、幾つかのフードを、順繰りに入れ替えていくだけで、ある程度の多様性は担保できることになります。
肉類、ミール、ミートに問題はあるのか?
ネットの記事を見ていると、フードの原材料表示に ”肉類” と書かれていたり、”ミール” や "ミート" と書かれているだけで、鬼の首を取ったかのようにその製品ををこき下ろしたものが沢山あります。
それらの記事によると、肉類・ミール・ミートは、内容物を事細かに書く義務が無いとしたうえで、一見肉が使われているように見えながら、実は内臓や皮、骨、鶏の羽までが含まれているのが問題とのこと。
噛み砕いていうと、本来ならば食肉として廃棄されるべき部位がドッグフードに含まれています。そんなものを、自分の犬に食べさせたくはありませんよね? と言っているわけです。
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うっかり頷いてしまいそうですが、よく考えて見てください。
それらは野生の肉食動物ならば何も考えないで食べている部位ですよね。
本来ならば、下記のように読者に問いかなければならないのでは?
人間の食肉用には適さないながら、野生の肉食動物なら普通に食べている部位が含まれているドッグフードがあります。あなたはそれを自分の犬にも食べさせますか?
どうでしょう。印象がかなり違いますよね。
こんな風に問われたら、「別にいいんじゃない」と答える方は多いように思います。
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また、記述義務が無いことを指して、実際には何が使われているか、分かったものではないという書き方をしている記事もあります。これは気持ちが分からないでもありません。かつてメラミンやサルモネラ菌が混入した質の悪いフードで、ペットに大きな被害(死亡事故を含む)が出た事件もありました。
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しかしこれも落ち着いて考えてみると、フードの原料として肉類・ミール・ミートを使う話と、品質管理(あるいは衛生管理)は別問題であるはずです。
肉類・ミール・ミートはそれ自体が悪い訳ではなく、品質の悪い肉類・ミール・ミートもあるということが問題であるはずです。”悪い”事例を取り上げて、あたかも全体が悪いと言わんばかりに、不安を煽り過ぎという気がしてなりません。
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また、肉類・ミール・ミートは、通称4Dミートとも無関係ではありません。
(4Dミートについては後述します)
4Dミートは、肉類・ミール・ミートの原材料に成り得るものです。しかし原材料の全てではありません。ライターの理解が足りないためだと思いますが、4Dミート=肉類・ミール・ミートであるかのように、まぜこぜに書かれている記事が多く、より悪い印象を読者に与えがちです。
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4Dミートについては、肉類・ミール・ミートは分けて語った方が良いように思います。そうでなければ、本質がぼやけるように思うのです。
また4Dミートを最初から悪いものように扱う記事が多いのも問題です。
これについては後述します。
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(ここでご注意)
念のために申し上げておきますが、筆者は肉類・ミール・ミートを擁護する立場ではなく、飽くまで中立です。ある種の偏った記事に対しての警鐘のつもりで、本記事を書いています。
死んだ家畜や、殺処分された犬猫も原料にされている?
ある特定の記事群では、肉類・ミール・ミートには、病気で死んだ家畜や、果ては殺処分された犬猫が入っていても分からないという言い方をします。
それは本当でしょうか?
また、そのような書き方は適切でしょうか?
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死亡した家畜は、フードの原材料になる?
農林水産省の資料を当たったところ、下記のような図を見つけました。
肉骨粉等のペットフード原料としての利用に関する手続マニュアル
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この図は、幾つもの記事で引用されているものです。
確かに農場で死亡した豚や鶏は、ペットフード用肉骨粉に利用されるルートは存在しています。書かれている以上は、農家で死亡した家畜はペットフードの原料にすることが許可されており、実際に使われているのだと思われます。
(牛はBSEの恐れがあるので別ルート。家畜保健衛生所で検査の上処理される)
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これがどういうことを意味するかと言うと、死亡した家畜をフードの原材料の1つにすることについて、農林水産省が安全性に問題なしと判断した上で、資料として公開し、公知としているということです。別に秘匿されているわけでも何でもありません。
特定の記事群の問題は、肉類・ミール・ミートが悪いものと決めつけた上で、それを暴露したような書き方をしていることです。
もしもそれを問題視するのならば、死んだ家畜を原材料に使っていけないということを、事例や統計データを元に明らかにして、農林水産省の判断に問題があるという内容にしないと、記事の展開に説得力が無いように思います。
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殺処分された犬猫も、フードの原材料になる?
尚、殺処分された犬や猫が入り込むルートはこの資料の中にはありません。
当然ながら、農林水産省から許可もされていないということです。
もしもそれを、私的な殺処分が許可されていない日本でこれをやるとしたら、極めて考えにくい事ですが、次のようなことが定常的に起きているということです。
保健所(動物愛護センター)が、殺処分をした犬猫を、焼却処分をする前に悪徳業者に横流しをする。獣医師が安楽死させた犬猫を、飼い主に無断で悪徳業者に横流しする。何者かが捨て猫を勝手に捕獲して、悪徳業者に売り渡す。悪徳な繁殖業者が、繁殖に使えなくなった老犬や、売れ残った子犬を悪徳業者に売り渡す。
(悪徳業者って誰? というのはとりあえず置いておきます)
これはあり得るでしょうか?
やったとしても、どれも違法な手段であり、安定的に数量を確保できるものではありません。またこんなことを厳密な審査と許認可が必要な化製工場が、受け入れるとは思えません。発覚したら営業停止&認可の取り消しです。
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尚、この種のことを取り上げる記事では、海外の事例を挙げているものが多いように思います。海外でも起きているから、きっと日本でも起きているという論調です。
百歩譲って海外ではそのようなことがあったとしても、日本では難しいのではないかと思います。なぜならば、日本は世界的にも珍しく、殺処分を行政が一元的に行い、統計データをしっかり残している国だからです。
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殺処分以外でも、犬猫に関する統計は日本には意外とたくさんあります。保健所を所管厚生労働省以外では、農林水産省、その下の環境庁、総務省など。民間では一般社団法人ペットフード協会が毎年ペットの飼育頭数などを調査し発表します。
もしもペットフードを安く作れるほど、犬や猫の供給があれば、すぐにどこかの統計に数字が表れるでしょう。
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こんな風に考えていくと、国産フードでは犬猫が原料になっている可能性は極めて低いということになり、海外製は分かったものではないという結論になります。
海外製の高額フードを積極的にアピールしている記事の中に、時に全く別の結論を導くものがあるというのは皮肉なものですね。
――フードの常識、疑ってみよう(1/3)つづく――
文:高栖匡躬
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――次話――
フードの記事では、一般人の知らない言葉が常識的だったりしますね。
防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤などは、初めからまるで毒物扱いです。
対極にヒューマングレードのように、盲信されるものもある。
それって本当なの?
――前話――
(前シリーズの最終記事)
犬は狼由来なので肉食動物。それって本当?
人に飼われ何千年もかけて雑食してきた犬を、肉食だと言うの?
肉、野菜、穀物で分けるのではなく、栄養素の視点で考えたらどうだろう?
どうやって必要な栄養を補給するかと考えたら、食べ方も変わるのでは?
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――前シリーズ記事の1話目です――
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食べムラ・偏食に関するまとめ読み
~基礎・原因編~
愛犬の食事に関するトラブルの中は様々
用語の定義と、食べムラ・偏食に陥る原因をわかりやすくまとめました。
色々な原因で食べムラ・偏食は発生します。
まさかのときの準備のためにどうぞ。
~予防・対応編~
食べムラ・偏食の予防は、犬の一生を組み立てる長期的な意味があります。
一生食べる楽しみを残すために、今やることは?
そして、もしも起きてしまったら、どうやって対応したらいいのか?
~治療・まとめ編~
食欲不振の理由は様々ですが、過度な偏食に発展すると健康に影響があり、時に命を左右します。
飼い主さんの努力で改善できない場合は、医療としての対応が必要です。
投薬治療と、栄養療法を
――それと、食べないことの意義についても考えます。