犬の出産のこと、ご存知ですか?

「うちの愛犬の子供が見てみたい」
愛犬家の方ならば、きっと誰もが一度くらいは考えたことがあるのではないでしょうか?
筆者も先代犬のときに考えました。真面目にお相手探しをした時期もあります。
残念ながらお相手は見つからず仕舞いで、出産の適齢期を越えてしまいました。今もあの時に子犬が産まれていたらと思うことがあります。
本作は ”愛犬の子供を見たい” という願いを、本当に叶えた飼い主さんのお話です。
そうか、もしも生まれていたらこんな風だったのか……
愛犬に子供を産ませようと思っている|自分で子犬を取り上げたい|どんなことに気を付ければいいのか?|多頭飼いをしたい||経験者の体験談が聞きたい
はじめに - このお話は
我が家にはつい先日まで、17歳の老犬になったぶん太がいました。そしてそのぶん太には昨年まで、1歳違いの女房のさくらがいました。犬で女房と言うのはおかしいと思われるかもしれませんが、私からするとぶん太とさくらは夫婦でして、2匹には2度の出産で10匹の子供がいました。
今日はそのぶん太とさくら夫婦の、出産のお話を書こうと思います。
題して『振り向けば子だくさん』です。
犬の出産に対する私の考え
予め申し上げると、本記事は犬の交配と出産を推奨するものではなく、ましてや知識のない素人がそれを行うことを、促進するものでもありません。
命の誕生に立ち会ったものとして、その時の記録を残しておきたいと思ったのが一番の理由です。
そして、もしも私と同じように愛犬の出産を望まれる方に、出産のリスクをお伝えした上で、事前の準備の大切さを感じていただくと同時に、それがご自身の許容できる範囲のものかどうか、今一度熟考していただきたく筆を取りました。
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まずはぶん太とさくらの生年月日をお知らせしましょう。今回は出産のお話なので、2匹の年齢も大事な要素です。
ぶん太の誕生日・・・2002年(平成14年)7月11日
さくらの誕生日・・・2003年(平成15年)8月8日
さくらを家に迎えたのは、2003年9月21日のことです。
それはぶん太が1歳と2ヵ月の時で、さくらは生後1カ月半の頃でした。
ぶん太とさくら
雄雌の2匹を飼ったのは、出産を考えていたからではありません。
『この子!』と思って迎えた2匹が、たまたま1匹目が男の子で、たまたま2匹目が女の子だったというだけです。
多頭飼いを始めてみると、興味深いことが色々と起きました。
先住犬というのは、新入りの子に色々と教育をするのですね。私がぶん太に教えたことを、今度はぶん太がさくらに教えてくれるので、私がさくらの躾に悩むようなことは全然ありませんでした。
2匹はとても相性が良くて、喧嘩をすることはありません。ぶん太はさくらを可愛がり、さくらがいつもぶん太の後をついて行きました。
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2匹の仲が良く分かるエピソードがあります。
ぶん太は元々食が細い犬だったのですが、さくらが来てからは自分の分を取られまいと、与えられた食事は残さず食べてくれるようになりました。
そのぶん太が、ある時からドックフードを5~6粒だけ残すようになりました。
あと一口を残して、皿から離れるのです。どうしたのだろうと思って観察していると、ぶん太が離れた後で、自分の分はしっかり食べてさくらがやってきて、ぶん太の残したフードを食べてしまいました。
そんなことを繰り返しているうちに、さくらはぶん太が残すのを、じっと隣で見つめるようになりました。そしてぶん太が離れると残りを食べるのです。
恐らくぶん太は、自分のフードを敢えて少し残して、さくらに与えていたのだと思います。
二匹に寄せていた思い
さて、出産を前提に2匹を飼ったわけではなかった私ですが、さくらを迎えたときから、「もしかしたら」という思いは正直ありました。そしてぶん太とさくらの仲の良さを見ているうちに、心の中には「いつかこの2匹の子が見たい」という漠然とした思いも芽生えていました。
しかしながらそれとは対極に、もしも出産を望まないとしたら、避妊と去勢はいつか向き合わなければならない課題です。将来の病気(ぶん太の場合は、前立腺肥大や会陰ヘルニアなど。さくらの場合は、子宮蓄膿症や乳腺腫瘍など)のリスクも下げることができます。
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出産と避妊、両方の思いを抱えながらも、私はそれを決めるまでには、まだまだ考える時間があると思っていました。
もしも出産させるのならば、母体の安全のために2回目のヒートのときと考えていましたので、必然的に避妊するにしても初ヒート後ということになるからです。
ただ――、そんな私の思惑は、すぐに覆されてしまうのですが……
初めてのヒート(発情)
2004年のことでした。さくらは初めてのヒート(発情)を迎えました。
因みに犬のヒートは、通常生後6~10か月頃だそうです。
それは突然に起きました。
母が2匹の様子を見ていた時のことです。
ちょっと目を離したすきに、ぶん太がさくらに、マウンティング(さくらがぶん太におしりを見せ、ぶん太がさくらに乗っている状態)をしていたのです。
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母は急いでぶん太を引き離したのですが、ぶん太が興奮状態だったので、「もしかしたら妊娠したかも」と考え、念のためにかかりつけの病院に電話をして医師に確認をしました。
医師はこう言ったそうです。
『まさに交配中だったに違いありません。もしかしたら、妊娠している可能性があるので、1ヶ月後に検査に来て下さい』
それからは、さくらにパンツを履かせるようにしました。人間用赤ちゃんのパンツに尻尾の穴を空けたものです。ぶん太にマナーベルトを付けさせるときもありました。
さくらの妊娠
その後、私たちはさくらに妊娠の兆候が無いか、良く観察するようになりました。
しかしさくらには、目だった変化はありませんでした。何かあったらメモをしているはずなのですが、それも残っていません。
母は医師から言われた通りに、4週間後に動物病院に行きました。
そして超音波検査を――
その結果、さくらの妊娠が確定しました。
やはりあのマウンティングの時に受胎していたようです。
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犬の妊娠&出産をご存知ない方のために、簡単に触れておきます。
犬の場合は人間の産婦人科医のように、「妊娠〇〇週です」と教えてくれることはありません。交尾の日にちを記録しておき、その日から60日~63日(9週目)が出産予定日となります。交尾の日から4週目(約1ヶ月後)に超音波検査を行い、妊娠が確定します。
ということなので、さくらは妊娠が確定の時点で妊娠1ヶ月ということになり、同時に出産までは残り約1ヶ月となります。
妊娠を知って私がどう思ったかというと、戸惑いのほうが大きかったです。
先にも書いたように、もしも子供を産ませるのだとしても、2回目のヒートの時だと決めていたので。
妊娠後のさくらの様子は
妊娠が分かってからのさくらは、フードを母犬用に変更したことを除けば、特に大きな変化はありませんでした。
散歩もいつも通りにこなしていましたし、飼い主として気を使ったのは、ジャンプや階段の上り下りをさせないようにしたくらいです。とにかく定期的に病院を受診し、様子を見ることを心掛けました。
それから、ご存知ないかもしれませんが、犬にもつわりらしきものがあります。
食欲不振、吐き気などがその症状なのですが、さくらにも軽いつわりがありました。
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そうそう、もう一つ大事なことを忘れていました。ぶん太とさくらの血統書は以前からチェックしていましたので、インブリードでもラインブリードでもないことも確認済でした。
因みにインブリードは2世代内(親、兄弟)での交配を指し、極近親繁殖と言われています。ラインブリードは3~5世代内での交配で、系統繁殖と言われます。
インブリードは専門家が許可を得て行うものですが、ラインブリードも基本的には、専門家が計画的に行うべきものだと思っています。
妊娠中のぶん太の気持ちは?
さて、さくらに変化がない一方で、ぶん太の心中は少々複雑だったようです。
さくらの妊娠が決定的になってから、どうしても家族の注目がさくらに集まるために、ぶん太は時々機嫌を悪くしたのです。
それに気が付いた時点で、いつも以上にぶん太を優先し、構ってあげるようにしたところ、ぶん太のご機嫌も次第に収まっていきました。
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お腹の中で子犬が大きくなるにつれ、さくらはトイレが近くなりました。
食事も一度にたくさんは食べられないので、何回かにわけて与えるようになりました。
6週目には、定期検査に行きました。
特に問題はありません。
急激にお腹の子が成長する時期があり、その頃になるとお腹がパンパンで、触れると子犬の動きを感じました。
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出産間近になると、最終的にレントゲン検査を行い、頭数の確認をしました。
お腹の中の子犬は4匹でした。
出産時には体温が下がるということなので、体温測定が日課になり、さくらのおしりに体温計をさして1日に3回測ってました。それから出産後に授乳しやすいように、さくらのおっぱいの周りの毛をカットました。
こんな風に環境を整えながら、また出産に必要な道具を揃えながら、私たちはさくらの出産を待ちました。
そして――、いざ出産です。
自然分娩を選択
私たちは、自宅での自然分娩を選択しました。
へその緒の処理等については、予めかかりつけ医から「出産にまつわる本を、最低でも2冊読んでいてください」と言われていたので、読み込んでました。
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因みにこの頃、そのかかりつけの先生からは「自然分娩を見たことがないので、見学させてほしい」という申し出があったのですが、残念ながら出産の日はタイミングがあわず、立会ってもらうことが出来ませんでした。
意外なことですが、獣医さんというのは、自然分娩に接する機会は少ないのですね。
しかし、こんなやりとりがあったので、さくらは先生に常に気を掛けて頂くことができました。
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ここで付け加えておきますが、犬は多産なために、安産であると誤解されがちですが、そうではありません。人間と同じように、犬にとっても出産は、命がけの大事業なのです。
さくらのかかりつけ医は24時間対応で、病院は家のすぐ近くにあります。自然分娩を選択したとはいえ、出産では何が起きるかわからないものです。いざというときには、緊急な帝王切開も視野にいれなければなりません。
さくらはこのかかりつけ医がいてくれたお陰で、安心して出産に臨むことが出来ました。
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この1回目の出産は、私たち家族にとっては ”予期せぬ妊娠” だったため、事前準備が全てにおいて後追いになってしまいました。しかしながら、かかりつけ医の協力体制が得られるなどの幸運もあり、万全とはいきませんでした。可能な限りの体制は整えられたのではないかと思っています。
こうやって私たち家族は、さくらを見守りながら「その時」を待ちました。
さくらの出産
――出産の日(2004年5月26日)――
その日の朝は、なんとなく、さくらは落ち着きがありませんでした。
私はそのことを母に伝えて、いつも通りに仕事に行きました。
お昼休みを過ぎてしばらくした頃です。母から職場に連絡がありました。
1匹目が産まれたというのです。私は会社を早退してすぐに帰宅をしました。
家に着いたのは15時過ぎです。
まだ2匹目は生まれておらず、さくらは二階の私の部屋でソワソワしてました。
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母曰く、1匹目のときには昼すぎから穴を掘るまねをして、巣作りをはじめたので、ハウスに入れて様子を見ていたそうです。
そして、13時30分に1匹目を出産。私に電話をしたのはその直後だそうです。
そうそう、一度獣医の先生が来てくれて様子を見てくれたとのこと。それだけ気にかけて下さっていたのですね。私が帰宅した時には、もうお帰りになっていましたが。
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さて、生まれてきた子犬をどうするかですが、自然に母犬の本能に任せても大丈夫なのかもしれませんが、さくらのお腹にいる子犬は4匹。羊膜や胎盤などを舐めて食べてしまうとなると、4匹分はかなりの量になります。
出産後に母犬がお腹を壊す場合があると聞いていたので、子犬が出てきたあとの処置は、すべて私たちが代わりに行いました。
生まれた子の処置 - へその緒など
母と私は役割分担し、母がさくらを担当しました。
やることはさくらの世話と胎盤の処理。具体的にはさくらは出血して、汚れているので、清潔にし、胎盤が出てきたら捨てるようにしました。
私は赤ちゃんの担当です。子犬は羊膜を被って生まれてくるので、すぐにその羊膜を破り、羊水をふき取り、へその緒を糸で結んでから切ります。羊水がつまっていないかを確認し、鳴き声が聞こえたら安心です。
子犬の身体をタオルできれいにして、さくらに戻してあげます。
一連の処置はさくらが安心するように、さくらの前で、声を掛けながら行いました。
さくらに子犬を戻すと、さくらは子犬をしっかり抱きかかえ、舐めまわしました。
――振り向けば子だくさん(1/3)|つづく――
作:ぶん太ママ
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――次話――
犬の出産は楽だと考えがちですが、そうではありません。
人間と同じで、命がけの大事業なのです。
さくらは5時間もかけて4匹の子供を産みました。
そして次は子育て――
出産は可愛い子犬の姿を見て終わりではありません。
子犬たちはどうなった?
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女房のさくらがうちに来るまで
出会いは突然でした。
1年前に飼い始めたぶん太で、トイプードルの魅力にはまってしまった私。
おやつを買おうと入ったペットショップに、その子はいました。
レッドカラーの女の子。美人系でなくてかわいい系の――
私の心はもうメロメロでした。
ぶん太がうちに来るまで
愛犬の名は、菅原文太さんに因んだもの。
体調を崩した私を励まそうと、家族に迎えた犬でした。
ちんくしゃだった小さなトイプードルは、やがて名前通りの犬に育っていきました。
頑固で短気で喧嘩ぱやいのですが、女房のさくらには優しい犬に。