うちの子がうちにくるまで|No.52
動物は子供の頃から大好きなんだけれど、犬や猫を飼うところまで踏み出せない。そんな方は、恐らく大勢いらっしゃることでしょう。しかし、ふとしたきっかけで、その壁を乗り越えることがあります。
今回のうちのこがうちにくるまでは、そんなお話です。
ある日、いつもと違うスーパーに家族で買い物にいったら、そこには仔犬がチョロチョロと歩き回り、その脇には『犬あげます!』と書かれた段ボール箱が置いてあったのです。
動物は好きなんだけど、犬や猫を飼うのは心配|はじめてなので、もう一歩が踏み出せない|同じような経験をした方はいますか?
子供の頃から動物が大好きでした
今日は我が家のラインのお話をしようと思います。
ラインは私が生まれて初めて飼ったワンコです。
私は幼い頃から犬、ネコ問わず動物が、大好きでした。
私自身は覚えていないのですが、両親によると小さい頃の私は、動物が飼いたいとおねだりをしていたこともあったみたいです。しかしその頃は両親は共働きだったので、とても迎え入れられる態勢ではありませんでした。
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では、大人になってからの私はというと――
今度は自分の事で手一杯で、動物を飼うこと自体が頭にはありませんでした。
結婚してからもそうです。仕事や家事、子育てに追われて、動物を飼おうと思う心の余裕がありませんでした。もっと正確に言うと、私の頭の中にある《ペットを飼うということ》は、子供を育てるのと同じことで、とにかく大変だという考えが大きかったのです。だから、その大変さを上回るほど《飼いたい》とは思いませんでした。
私の動物好きの心は、動物園に行ったり、近所のネコちゃんやワンコちゃんを見せてもらうことで、慰められていたのでした。
そんな私に変化が訪れたのは、忘れもしない2005年の7月6日のことです。
それは夏の暑い日曜日でした。
我が家は家族で買い物に行くことが多いのですが、その日もいつものように、娘2人を連れて、主人の運転で家を出ました。行く店はいつも決まっています。しかしその日に限っては、何故だか気分を変えて、『今日はあっちに行ってみようかぁ〜』と言って、たまーに行くちょっと遠くのスーパーまで足をのばすことにしました。
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駐車場に車を入れて、お店に歩いていくと、入り口付近に1台の軽トラックが止まっていて、人だかりができていました。
何だろうと思っていると、そのうちに主人の顔が『マズイ』という表情に――
私にはすぐにその理由が分かりました。
主人の視線の先では仔犬がチョロチョロと歩き回っていて、脇にはダンボール箱が置いてあり、何とそこには『犬あげます!』と書いてあります。
『マズイ!』
瞬時に私もそう思いました。
丁度その頃は上の娘の同級生がワンコを飼い始めた時で、それを知った娘達もワンコを欲しがっていたのです。
私と主人はアイコンタクトで、『マズイ!娘達が欲しがる!』と心が通じ合ったのでした(笑)
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私たち夫婦は、サッサと足早に去って行こうとしたのですが、娘たちは「何!何!」と人だかりに興味津々で、私たちの腕を引っ張って「行こう!行こう!」とその場に近づいて行きます。
人だかりの一番前まで出てみると――、あら!あら!
そこにはコロコロした5匹、6匹の仔犬がいました。
『コレは、困った!』
主人と私はまたしてもアイコンタクト。笑
軽トラの側にはパイプ椅子があって、おじさんがそこに座っていました。仔犬たちはおじさんの周りを歩き回っています。遠くに行かないのは、おじさんがサンドイッチをちぎって、仔犬たちにあげているからです。
「可愛いね〜!可愛いね〜!」
私たち家族4人は、一生懸命に食べている仔犬のたちの姿に心を奪われてしまい、その場を立ち去れなくなってしまいました。
そのうちに私は、1匹だけその輪に加わっていない仔犬に気が付きました。その子は他の仔犬たちと比べると小さくて、元気が無くて、サンドイッチも食べずにおじさんの足元に隠れていました。弱々しくて淋しげな表情が、何故だか心のひだに触れました。
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やがて娘たちが、脇にあったダンボール箱の文字に気がつきました。
「犬あげます!って書いてあるよ〜」と一声。
それからがもう大変。「飼って!飼って!」の一点張りです。
主人と私は最初は反対で、「ちょと待って! ダメ!ダメ!」と言っていたのですが、仔犬を見ているうちに段々と私の心が傾いていきました。娘たちが「欲しい!」と言ったのが半分の理由でしたが、あとの半分は私の心の中に眠らせていた、子供の頃からの動物好きな気持ちが目を覚ましたのです。
主人は――、と見ると、どうやらまんざらでもなさそうです。実は主人は犬好きで、実家では拾ってきた犬を飼っていたのです。主人は迷う私の心中を察したのか、「君に任せるよ」と言ってくれました。
もうこうなると、買い物なんてそっちのけです。
迷いに迷って、1時間くらいその場で仔犬を撫でたり、おじさんと話しをしたり……
やがてしびれを切らしたのか、主人がおじさんに声を掛けました。
「親犬は、どの位の大きさですか?」
「何色?」
「犬種は?」
「貰って大丈夫なの?」
私と違って、具体的な質問ばかりです。
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おじさんの話によれば、おじさんの家では外で雌犬を飼っていたのですが、避妊手術をしていなかったそうです。飼い主も知らぬ間にその雌犬が妊娠してしまって、月満ちて仔犬が生まれた。困ってしまったおじさんは、貰い手を探すためにダンボールに仔犬を入れて、スーパーまでやってきた
――というのが、事の顛末という訳です。
「ウチの子は、柴犬で雄犬は分からない」
「そんなに大きくならないよ〜」
ということも言っていました。
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念のために主人が、「本当に貰ってもいいの?」と2回くらい訊いたのですが、おじさんは「いいよ!いいよ! その方が助かるよ!」みたいな返事でした。
私はもしも仔犬に引き取り手が現れなかったら、どうなるんだろうかと考えました。
『きっと保健所へ――』
そんな心配が湧いてきました。
私たちはすぐに話し合って、家族で協力して飼おうと決断しました。
その時私は、娘達に「キチンと面倒みられるの? 赤ちゃんを育てるのと同じくらい大変なんだよ! 散歩も毎日行くのよ!…」と、その場で色々と約束事を交わしたのを覚えています。
「どの子にしようか?……」
でもそれは、初めから決まっていました。
「あの子が良いよね〜」
娘と私は迷わず意見が一致して、あのおじさんの足元に隠れてい1番小柄で、弱々しい子を貰うことにしました。その子は女の子でした。
私達がその子を抱っこして「この子、もらいます」っと言ったら、おじさんが「どうぞ!宜しく〜」っと返事をしてくれました。
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初めて抱っこした時の、あの何とも言えない感触。私は今でも覚えています。
「うわーっ!可愛い〜」
「守ってあげなきゃ!」
それは、覚悟を決めた瞬間でした。
娘達は、「可愛い!可愛い!」を連発で、嬉しくてもう離さないって感じでした。
そして私たち家族があの子を決めると、それが呼び水になったようで、その後どんどん手を挙げる人が出て来て、全ての仔犬の貰い手が、あっという間につきました。
嬉しかったです。
この子達、殺処分されず済んだんだなぁ〜って思いました。
そうそう、あそこには全部で5、6匹の仔犬がいたはずなのですが、実は他の仔犬のことはあまり覚えていません。不思議ですね。撫でたり抱いたりしたはずなのに……
きっと私たちは最初から、あの子だけを見ていたんだと思います。
後に娘達は、「あれは運命的な出逢いだった」と言っていました。
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さてそれからです。
家族4人で飼うと決めたとは言っても、それだけで終わりではありません。我が家は、私の母と父と同居しておりましたので、2人の許可も必要なのです。
恐る恐る電話をしてみると――
両親には猛反対されてしまいました。
でもこれは半分、予想通りの反応でした。
父と母は、それまで犬を飼ったことが無かったので、キチンと面倒を見られないと可哀想だと思ったようです。散歩や躾のことも心配だし。それと――、亡くなる時が可哀想とも言っていました。
しかしその両親も、元々が動物好きです。電話で説得をすると、渋々飼うことを許してくれました。
その仔犬を貰うと決めた後は、我が家の行動は速かったです。
その足ですぐに動物病院へ行き、色々と診察してもらって予防接種をし、虫下しのお薬をだしてもらいました。それから犬を飼うのに必要な最小限のものだけを教えてもらい、そのままホームセンターへ行って、ゲージやご飯やシートなどを買い込みました。
移動の車の中では、ずっと娘達が抱いていました。
家に帰る前から、もう嬉しくて嬉しくて仕方がないという感じでした。
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仔犬は家に着くと、とても不安そうでソワソワしていました。
そして新しい場所の匂いを、クンクン嗅いでいました。
私たちはその子に、「大丈夫!大丈夫!」っと、声をかけました。
私は、すぐに名前を付けてあげなければと思いました。
うちの子になったのだから、うちの子の名前が必要です。
私は娘たちに名前を付けさせました。
その子の名前は『ライン』になりました。
首の所に白い線があったからです。
女の子らしくない名前だからか、その後男の子とよく間違えられることになるのですが、この日からその子は、うちのラインになりました。
本当のことをいうと、当時ラインを飼うのことには相当不安がありました。
何しろ、主人を除けば、家族全員が初めてのワンコですからね。
でも、近所ので犬を飼って居る方からもアドバイスを頂いたり、獣医さんがとても親身になってくれたので、すぐに不安は無くなっていきました。
最初の日に最小限で揃えたペット用品も、娘の同級生がワンコを飼っていたのでその子のママに聞きながら、段々と充実していきました。
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そして、うちの母――
猛反対していたくせに、顔をみたら「あら〜可愛い〜」と言ってメロメロ。早速抱っこしていました。笑
それからは、母もお散歩に行ったりして、ラインを可愛がっています。
もちろん父も。
うちの子になってからの、ラインのことも書いておきましょう。
我が家に迎え入れた頃のラインは体が弱くて、すぐ風邪を引いてしまうし、病院で点滴を受けることもあるほどで、とても心配でした。
しかしそんなラインも、成犬になるにつれて逞しく成長していきました。おトイレも上手にできるし、イタズラもしないお利口な子で、結果的にはあまり手はかからなかったです。ただ最初が病弱だったこともあって、ちょっと過保護にし過ぎたことが反省点でしょうか。
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ワガママ娘で困る事は――
お風呂嫌い。ブラッシング嫌い。
野菜、果物を食べないので、主人が甘やかしてしまって、ご飯のときにお肉をあげたりしたことも……
「人間が食べるモノをあげたらダメだよ!」
と何度注意したことか。
(今は、流石にあげていませんが)
そうそう、ラインにはすごい武勇伝が1つあります。
あれは、ラインがうちに来て3年位した時のことでした――
朝方3時頃のこと。ラインが尋常じゃない吠え方をしているのです。
目が覚めた主人と私が、ラインの声のする脱衣場の方へ向かったときでした!
――ガタガタ!っと何か落ちる音が!
主人は泥棒だと直ぐに分かり、ゴルフクラブを取りにきました。
そして、慎重に慎重に近づいて行くと――
もう、そこに空き巣は居なかったのですが、床には洗剤などが散らかっていて、外からは明らかに人が慌てて逃げ去る音が……
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通報すると、直ぐに警察官がきてくれましたが、家の周囲には足跡が残されていただけだそうです。
「入ろうとしたら、犬が吠えたので直ぐに逃げたみたいですね」
と言われました。
幸いにも、我が家は何も盗られず、家族も無事でした。
ラインが家族を守ってくれた…(泣)
本当に感謝しています。
ラインが来てから、家族には沢山の思い出ができました。
河原にいったり、トライブに行ったり、皆で旅行に行ったり。
娘達は始めに会った日の約束通り、お散歩や病院へ率先して行ってくれていましたし、躾もしてくれて、よくラインの面倒を見ていました。
そして、その娘二人も今や社会人です。
ラインの月1のメンテナンスでは、爪切り、肛門せん絞り、足の毛の処理などのケアの代金は出してくれています。
車に乗ることが好きなので、仕事が休みの時はラインを連れてドライブに行くことも、
きっと娘たちは、ラインを3番目の妹のように思っているんだと思います。
こんな風にして、楽しい時が過ぎていったのです。
お母しゃんからラインへ
――愛しのラインへ♡――
貴方を最初に迎え入れてから
あっという間に14年目になります。
我が家に来た時、貴方はとても不安だったよね。
ママとパパと離ればなれになって、知らない場所へきて、どうなるのか不安で、どうしたらイイのか分からなくて……
貴方が「キュンキュン」と哀しそうな声で鳴いていた事を、今も思い出します。
慣れるまで、一緒にゲージの隣で寝た事もあったね。
最初の頃は、食が細くて弱くて心配でした。
成犬になるにつれて逞しくなり、じゃれ合ったり、近所のドッグランへ行って一緒に追いかけっこしたり遊んだね。旅行へ行った時は車酔いして、具合が悪くなって吐いてしまった事も、今ではいい思い出です。 笑
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いつの間にか貴方は、近所で1番の威張り坊のワンコになっていて、
有名人になりました。笑
お母しゃんは、そこも貴方らしくて大好きだよー
シニア犬になって寝ている貴方を見ていると、
時々、泣いてしまう事もあるんだよ。
別れの時のこと考えるんだぁ〜
お散歩の歩くペースも遅くなり、
吠え方も勢いがなくなり、
寝ていることも多くなり、
寂しいよ〜〜(泣)
まだまだ
長生きしてね!相棒!
貴方を最初に迎え入れた時――
看取るまでは、何があっても守ると誓ったんだ。あの日の覚悟は忘れない。
これからも1日、1日を、穏やかに楽しみながら過ごそうね〜
愛しのライン♡
貴方は、我が家にきて幸せでしたか?
確実に言えること。それは――
我が家にとって貴方が来てくれた事は、とってもとっても幸せだったということ。
ありがとう。
これからもよろしくね!
――ラインがうちに来るまで|おしまい――
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――うちの子がうちにくるまで・次話――
子供の頃は、犬を飼っていました。
しかしその子が去ると、もう犬と暮らすことはありませんでした。
時が過ぎ結婚をした私は、ある日夢を見ました。
草原で犬を散歩していました。
目が覚めた私はすぐに「あ、犬を飼いたい…」と思いました。
――うちの子がうちにくるまで・前話――
これまで犬猫合わせて、最大11匹もの多頭飼いをしていた我が家。
しかし最近では4匹に。
寂しい思いの中、自治会長から突然の電話。
「あんた、犬いらねーか?」
聞けば今の家庭には、複雑な事情がある模様です。
早速、会いに行ってみたのですが――
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――うちの子がうちにくるまで、第1話です――
昔からいつかはワンを飼いたいと、ずっと夢見ていたんです。
でも、夢と現実の差はでっかいですよね。結局はずっと、実現できずじまい。
――そんな夢を叶えた飼い主さんのお話。
犬との出会いは運命に似ています。
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