悩みに値段があるとしたら - 気持ちの持ちようで変わるもの
本話と次話では、『悩みの値段』 と 『悩みの賞味期限』のお話をしようと思います。
闘病に限らず、悩みというのは実は正体がはっきりしない場合が多くて、人間は必要以上に深刻に考えてしまいます。悩んでいる時ほど視野が小さくなりがちなので、悩みが無限に大きくて、まるで自分を飲み込んでしまいそうに思えるわけです。
しかし、一歩引いた視点で考えてみると、どんな悩みも、実際はそれほどは大きくないし、いつまでも続くわけがないという事が分かってきます。
【目次】
- 悩みに値段があるとしたら - 気持ちの持ちようで変わるもの
- ”悩み”について考えたのは10年も前のこと
- それは、愛犬ピーチーが劇症肝炎に罹った時でした
- 悩みの値段とは - 講義の再現
- 気持ちの持ち方で風景は変わる
- 関連の記事 - 闘病における飼い主の選択
”悩み”について考えたのは10年も前のこと
実は、もう10年も前の事になります――
筆者は九州のある大学院で、3年間ほど集中講義する機会をただいていました。
その内容は、大学院を出てから会社員にならずに、自分で起業したいという学生さんたちに対して、『失敗なんて怖くない』という事を伝えるものです。
毎年その集中講義の一番最後に、学生さんたちに話していたことがあります。それが今回の話題である『悩みの値段』と、『悩みの賞味期限』です。
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この2つの話は『始める前からくよくよ悩まずにつき進め! 若者たちよ!』と学生さんたちにエールを贈るものでした。
新しいことを始める時には、結果を心配しがちなものです。
”悩み”が主観的なもので、実は大きくないことを具体的に伝えるために、2つのたとえ話をしたのです。
まさか自分が学生さんに贈ったその言葉が10年後に、自分自身が愛犬を看護/介護する時の心の支えになろうとは、当時は思っても見ませんでした。
それは、愛犬ピーチーが劇症肝炎に罹った時でした
わが家の愛犬ピーチーは、2015年の夏に、突如劇症肝炎を発症しました。
そしてあっという間に病状は悪化し、明日をもしれぬ危険な状態になりました。
このときのことは、こちらの闘病記にあります。
ピーチーが死の淵にあったとき、頭に閃いたのが、10年前に自分が授業のときに用いた『悩みの値段』と 『悩みの賞味期限』 という言葉でした。
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その時の状況は、ピーチーは絶体絶命のピンチ。治療も手詰まりで、ピーチーが子犬の頃から掛かりつけだった主治医は、それとなく安楽死を提案してきました。
しかし家族はそれに抗うように、必死に先端医療に活路を見出そうとしたのです。前例も参考になる情報も何もない中での模索です。一つの判断の誤りが、ピーチーの死に直結することになる、ぎりぎりの決断が続きました。
まるで針の穴に糸を通すどころか、穴の無い針に糸を通すような心境でした。
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必死に自分の気持ちを立て直しながらの、闘病。今思えば、あの緊張感がずっと続いていたなら、ピーチーより先に、家族の方が精神的に参っていたことでしょう。
その時に、自分自身を励ました言葉が、首記の『悩みの値段』と 『悩みの賞味期限』 でした。
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幸いにもピーチーは奇跡的に難を逃れました。
ピーチーが快方に向かってからのことです。筆者はその2つの言葉を、当時書いていたブログの中に記しました。これから愛犬の闘病に臨まれる飼い主さんへの、励ましのつもりでした。
以下に当時と同じく、まずは『悩みの値段』を転載しましょう。これは大学院で行った講義の内容を、再現したものです。
悩みの値段とは - 講義の再現
――ここから、講義の再現です――
皆さんは今、何らかの悩みを抱えているはずです。なぜ僕にそれが分かるかというと、人間はそんなもんだからです。悩みの無い人間は、アホと言いますね。
「もし僕が大金持ちで、君に1億円あげるから、そんな悩み忘れなよ」
って言ったらどうでしょう?
悩みそのものは消えないかもしれませんが、喜びは相当に大きいでしょう?
悩みの量と、喜びの量で、帳尻が合って、あなたは不幸じゃなくなるかもしれません。もしかすると、喜びの方が勝って、幸せになってしまうかもしれませんね。
それでは金額を減らします。5千万円だったらどうですか?
5千万円もらえたら、結構な悩みは我慢できますよね。
それではぐっと金額を減らして1千万円ならどうですか?
こんな風に、少しずつ金額を下げていくと、たいていの悩みは、100万円もあれば相殺できたりするんです。人間というのは面白いものですね。
ではその100万円は、どうすれば手に入るのか分かりますか?
今すぐコンビニのアルバイトに応募して、一生懸命に働いたら3か月ほどで何とかなるはずです。
つまり、あなたが今、何かに悩んでいたら、すぐさまコンビニで3か月アルバイトしなさいという事です。
どうです? 簡単でしょう?――悩みの値段の講義、ここまで――
気持ちの持ち方で風景は変わる
さすがに、愛犬の闘病の悩みと、コンビニのバイトは、比べられませんよね。しかしこのようにして、悩みを何か別のものに置き換えてみるだけで、見えてくる景色は随分と違います。
愛犬の闘病は、悩んでいても、悩んでいなくても、起きることは同じ――
飼い主がやるべきことも同じ――
そう考えると、”悩み”というものは、適当なところで収めておくのが妥当だという気がしてくるのです。
皆さんは、どう思いますか?
次回は『悩みの賞味期限』について考えてみましょう――
――視点の変化で闘病は変わる(3/5)――
文:高栖匡躬
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――次話――
悩みには賞味期限があるように思います。
その証拠に、人間はいつまでも1つの悩みを、引きずる事はないですね。
去年悩んでいた事実は覚えていても、もうそれは思い出になっているはず。
今も悩んでいるなら、それは悩みが、後悔に変わってしまっているのではないでしょうか?
――前話――
犬猫の闘病は長くなりがち。
今回は「頑張って」という、励ましについて考えました。
「頑張って」はありがたい言葉ですが、当事者には重圧でもあります。
好意だけをいただいて、今は積極的に『頑張らない』という選択も必要です。
全力で立ち向かうときのために……
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――この連載の1話目です――
愛犬の闘病で悩む飼い主さんは多い。
それは見えない不安が、心にのしかかるから。
これからどうなる? いつまで続く? 医療費は?
見えないものは仕方ない。しかし、見えているものはある。
不安に怯えるのではく、どうか前向きに。
愛犬のために、あなたのために。
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関連の記事 - 闘病における飼い主の選択
愛犬が重い病気を患った時、飼い主は孤独感と絶望感に満たされるものです。
獣医師から病気に告げられた瞬間に、床の底が抜けて、暗闇に落ちていくような感覚です。
さて、どうやって気持ちを立て直すのか?
踏みとどまらなければ――
愛犬のために。
そして――
あなたのために。
犬を飼い始めた時、別れの時は遥か未来の話でした。
しかし、あっという間に楽しい時間は過ぎて、その時が――
子犬でうちに来たのは、つい昨日のことのよう。
愛犬を看取ってみて思うのは、看取りは良い思い出だったということ。
視点を変えれば、つらい思いって、無いんじゃないかな?
そんなことを考えた記事です。