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【犬の食欲減退と絶食】食べない事にも意味がある ~野生動物から学ぶこと~

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食べない事にも意義がある

撮影&文|高栖匡躬
”今の食” が "将来の食” を決める(4/4)-食べないことにも意味がある編

さて、連載の最終話は、これまでとは違う論点です――
食べないことは悪いことなのでしょうか?

私たち人間は、病気をすると自然に食欲が無くなりますね。それは何故でしょうか?
種の保存を考えた時、病気で弱っている時こそ、エネルギー源である食べ物を摂取した方が、生き残る確率が上がるような気がしませんか? 

――それなのに、何故食欲を失くしてしまうのか?
もしかすると食べないことに、何か意義があるのではないか?
そんなことを考えてみた記事です。

食べないのは、悪いことではないのでは?

 
この記事はこんな方に
愛犬の食べ物の好みに偏りがある|愛犬が食べたり食べなかったり|嗜好性の高い食べ物を与えがちだが、それでいいのか?|”食いつき” の良いフードを選んでいるが、ほかにフード選びで大切なことはあるか?
 

【目次】

最終話はこれまでとは打って変わって、食べない事の意味と意義を考えます。

『喰いつきの良いフード』『愛犬が喜ぶ食事』
良く目にするそんな謳い文句に、筆者はいちいち違和感を感じてしまいます。
その理由は、ここまでの連載に書いた通りです。

食べ物の話は、一つ一つを疑ってみると、最後には「食べない事は、そんなに悪いことなのか?」という疑問に行きつきます。

さてそれは、どういうことなのか?

 

 生存本能って?

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人間も動物も、生存本能に従って生きています。
「どうにかして生きろ」
という指令を、脳が常に出しているわけです。

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ここで食欲について考えて見ましょう。
食欲も脳がコントロールをしています。食欲が落ちるのも、悩からの指令です。
食物を摂取しなければ、当然体力は落ちますね。つまり生存の可能性が下がるわけです。

では脳はなぜ、生存本能に逆らって、わざわざ自分に不利な指令を出すのでしょう?

 ●

生存本能は、生物の持つ最も根幹の本能だと言われていますね。
とすると脳は生存のために、「ご飯を食べるな」という指令を出しているのではないでしょうか?

もっと踏み込んで考えると脳は、食べなければ体力は落ちることをしっかりと認識していながら、それを上回るメリットがあるので、「ご飯を食べるな」という指示を出しているとは考えられないでしょうか?
(もちろん、拒食症のような精神的な疾患(脳の働きのエラー)の場合は別です)

では、食べないメリットは何でしょうか?
以下で考察してみたいと思います。

 

 もしも野生動物が病気をしたら

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病気になった野生動物は、物陰に隠れてじっとしていますね。ピクリともせずに。
外敵に見つからないようにし、じっと体が自然治癒するのを待つわけです。
食事も摂りませんし、よほどの幸運(水場が近い)が無い限り、水も飲むこともないでしょう。

自然治癒が早いか、衰弱の方が早いかの賭けです。
しかしそれは、遺伝子に組み込まれた、生存の可能性を上げる知恵でもあります。

このとき体の中では、恐らく2つの事が起きているはずです。

 ●

1つ目に考えられること

体内でのエネルギーの分配

エネルギー消費をギリギリまで押さえて、それを自然治癒のために使っているはずです。患部の治癒にはエネルギーが必要です。具体的には患部周辺に血液が集まっているはずです。それは内出血や炎症という形で現れるはず。
血液を集中させることで、壊れた組織を早く再生しようとし、白血球が病原菌やウィルスを叩こうとします。

 

2つ目に考えられること

飢餓による免疫力の上昇

動物は飢餓状態になると免疫機構の働きが活発になります。からだが生き延びようとする自然の反応です。

つまり、食べない事にも立派な理由があり、体を治そうとする意味もあるということです。

 

 食事をするということは、どういうことか?

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まず、食べ物の消化にはエネルギーが必要です。それは体力の消費という意味でもあります。病気と闘うことに使われるエネルギーが、消化のために回されてしまうということです。

これは血液の移動で考えると理解がしやすいです。
消化のために胃に血液が集まれば、患部に行っていた血液が減るわけです。

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本来、食べる事はエネルギーを獲得する(体力を獲得する)ことでなのですが、そこにはタイムラグがあります。一旦体力を消費してから、新たな体力を獲得する訳です。
ウィルスの増殖が活発な時は、体力を獲得するよりも先に、まずはそちらを叩こうとするのは、至極当然のことのように思います。

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次に、飢餓状態を脱することで、活発になっていた免疫機構が元に戻ります。体が餓死の危機から脱したと安心するわけです。

食べない事には効果があって、食べる事はその効果を無くしてしまうという事になります。

 

 消化器系の疾患がある場合

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上記以外にも、食べない方が望ましい単純な例があります。それは消化器系に疾患がある場合です。
胃や腸の炎症や潰瘍などの場合は、食べることで治癒を送らせてしまう場合もあります。むしろ絶食をした方が良いこともあるほどです。

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またそこまででなくても、胃や腸の働きを一旦止めて、調子を整えようとすることもあるでしょう。人間で言うと、胸焼けのような状態です。
荒れた粘膜を整えるには、食べないことで胃や腸を休ませてやるのが、もっとも簡単な方法です。

 

 それでは家庭にいる愛犬、愛猫はどうするればいいか?

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さて、ここまで書いたことは、主に野生の状態にいる動物が念頭にあります。一方我々の愛犬、愛猫は野生でありませんので、前提条件が事なります。

飼われている犬猫には、いざと言う時に駆け込める動物病院があり、治療薬があり、餌を求めてハンティングをする必要がありません。食べ物(フード)だって豊富な種類の中から選ぶことができます。

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これらを踏まえながら、飼い主がどうすれば良いかをまとめると、とても単純です。

①食べないことにはメリットもあるのだと理解する。
②少々食べない事があっても、大騒ぎをしない。
③落ち着いて、まずは病気であるかどうかを見極めましょう。
④それでもおかしいと思ったら、迷わず病院へ。

どうでしょうか?

 

 老犬猫の食欲減退は自然なもの

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食欲に関しては、もうひとつ書くべきことがあります。
それは人間も動物も、歳をとれば食べる量が減って当たり前ということです。
基礎代謝が低下し、消費カロリーが減るので、食べる量は少なくて済むのです。
当然体重は減少傾向であるはずです。

人間の場合を考えれば良いのですが、高齢になっても若い頃と体重が変わらない方は少ないはずです。

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ネットの記事を調べて見ると分かりますが、老犬猫の体重減が深刻なものと捉えている記事が多すぎるように思います。
体重減が問題なのではなく、”急激な”体重減と、”止まらない”体重減が問題なのです。

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敢えて記事を特定しませんが、検索で調べている中で、老犬の食欲低下について、『もうすぐ最期の時がくる予兆でもあります』と明記されているものまでありました。
割とまともそうな体裁の記事に、このようなことが書かれると、驚く飼い主さんは多いと思います。

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老犬(シニア犬)と暮らしたことがある飼い主さんは分かると思います。
体重減は自然なことですし、食欲減退も自然なことです。
それらが行き過ぎた場合だけが問題なのです。

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【食欲不振】【食欲減退】【食べムラ】と似て非なる現象のうち、我が家の老犬(シニア犬)に起きていることが何なのかによって、対応は全く異なります。

どうか気持ちにゆとりをもって、まずはそれらを見極めましょう。そしてじっくりと落ち着いて対応をなさってください。

 

 シリーズ全体のまとめ

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さてこれで連載は終わりです。
2つのシリーズ、合計7話になってしまいました。

シリーズを通して語りたかったことは、犬という生き物は思ったよりも強いものだということ。食事に関しては、目先の食欲やちょっとした嗜好の変化に目を奪われず、犬の一生を見通して、ゆったりとした気持ちで付き合ってあげて欲しいということです。

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何度も書いて恐縮ですが、【食欲不振】と【食べムラ】に関する情報は、ネット記事の中には間違ったものもあるようです。鵜呑みにせずに、まずは「本当かな?」と、疑問の目をもって読んだ方が良いでしょう。

これらの記事の中には、高価なプレミアムフードを買わせようとする、巧妙なステルスマーケティングの記事も含まれています。そちらにもお気を付けください。

以下の記事は参考になるはずです(2シリーズ計7話)

 ●

食事に関する事柄は、動物の健康に直結する場合があります。
疑問があればネットだけに頼らないで、早めに動物病院に行った方が安全です。

体調が悪い場合も、内蔵系だけでなく身落ちしがちな、歯や歯茎の場合もあるので、そちらも含めて診てもらいましょう。時には精神的な問題が潜んでいる場合だってあります。じっくりと獣医さんと相談するのが良いと思います。

 ●

極論を承知で言うのですが、『犬を飼うこと』において、飼い主と愛犬との関係の頂点は、一番最後の終末期にあるように筆者は思います。
愛犬が「ああ、楽しかった」と言い残して、笑顔で天国に行けるようにしてやるのが、理想だと思うのです。

 ●

食事の時間は犬にとって、最大の楽しみなのだそうです。
「最大の楽しみなんだったら、最後まで楽しませてやろうよ」
と思います。

出来るかできないかは、そのときになってみないと分かりません。
しかし、「最後まで楽しませてやりたい」と願うことで、飼い主の行動は変わってくるのではないかと思います。

長い連載にお付き合いいただき、ありがとうございます。

 

―― ”今の食” が "将来の食” を決める(4/4)おわり――

――2シリーズ全7話・終了――

文:高栖匡躬
 ▶プロフィール
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 ▶ 高栖 匡躬:犬の記事 ご紹介
 ▶ 高栖 匡躬:猫の記事 ご紹介

――前話――

食べムラを防ぎ、将来の闘病、介護の食事を楽しいままにするには、
【粗食】をキープすることが大切です。
”食べれば良い”というものではありません。
”食”は、犬の一生を通して、飼い主が設計するものです。

まとめよみ|犬と猫の食べ物を語ろう
この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。

――本シリーズの1話目です――

まずは食べムラのない犬に育てよう

――前シリーズの1話目です――

犬が大好物を嫌いになる瞬間(事例)について

フードの常識、疑ってみよう

ドッグフードの疑問

ネット上にはドッグフードの記事が沢山ありますね。
穀物は有害? 野菜は有害? 本当に?
全部真に受けたら、食べるものが無くなるんだけど。
記事が推薦するフードは、愛犬に良いものなの?

ドッグフード記事は矛盾だらけ

ネット情報が伝えるフードの情報は、落ち着いて考えると矛盾だらけ。
一体何が正しいのか分からないですね。
常識として語られていることを、一つ一つ疑問点として取り上げてみようと思います。『フードの疑問』の補足編(全3話)です。

 

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