”今の食” が "将来の食” を決める(1/4)-食べムラ対応編
愛犬の食事に関しては、こだわりをもった飼い主さんがとても多いように思います。
しかしながら、そのこだわりの根拠が、特定のドッグフードに誘導するアフィリエイト記事の理屈がそのままである場合もあり、少々心配になったりします。
これらの記事はとても短期的な視野で書かれていて、平均15年と言われる犬の寿命の最後まで、その理屈だけで行きつけるものかと不安になるのです。
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今回から4回にわたり、【食べムラ】【食欲不振】【老犬(シニア犬)の食欲減退】の3つについて、より現実的な話題に触れて行こうと思います。
本連載記事はネット上にあるフード記事と比べて、見解が違う箇所がかなりあると思います。なぜならば、それらの記事と、根本的な視点が大きく違うからです。
本連載記事のポイントは下記です。
②食べる事の意味は、犬のステージ(年齢や状態)ごとに違う。
③食べない事にも意味がある。
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この記事でいう食べムラは、犬の『気まぐれ』『我儘』によって生じた偏食状態のことを【食べムラ】と定義して書いていきますが、体調不良による『食欲不振』が元にある【食べムラ】と区別するために、本記事ではこれを【食べムラ(我儘)】と記述することにします。
【食べムラ】という言葉に、沢山の解釈があるために少々回りくどくなりますが、ご容赦ください。
尚、【食べムラ】の解釈については、下記の記事にまとめています。
食べムラ(我儘)の躾
【食べムラ】の原因が気まぐれ(我儘)が理由であるということは、その犬は健康である(≒病気でない)ことが前提となります。
その場合、基本的には【食べムラ(我儘)】を許さないように躾をすることになりますが、既に【食べムラ(我儘)】のクセがついてしまって、躾が難しい場合や、既往症があったり、高齢であることで、体力低下が心配である(絶食による体力低下を避けたい)場合もあります。以下に分けて対応方法を書きます。
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対応:食べなければ食事を下げる
市販の躾本などに書かれているように、犬がフードを食べない(残す)場合は、10分ほどして片付けてしまうのが良いでしょう。
「そのフード以外には食べるものは無い」
と言うサインを送り、犬に躾を行うのです。
やがて出された時に、出されたフードを食べなくてはならないことが、習慣として身に付いて行きます。
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嗜好性の高いフードを出したり、トッピングを足すようなことはしない方が良いです。それは犬に、間違ったサインを送る事になり兼ねません。
つまり、「フードを食べないでいると、もっと美味しいものが出てくる」と、犬が学習してしまうわけです。
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犬が拒食の状態と判断されるのは、丸2日食事を摂らなかった時点からです。
それまでは、大らかな気持ちで愛犬に接し、様子を見るのが良いと思います。飼い主が食べさせようという気持ちが強すぎると、食べる事を強要しがちですし、犬も飼い主のストレスを察知して余計に食べない方向に行く可能性があります。
ただし、様子を見るといっても放置するわけではありません。
いつもと違う状況であることを認識し、犬を注意深く観察する必要があります。
(歩く/走る、便、体温、呼吸、水を飲むかなど)
異常を感じたら、様子見はそこで終わりです。すぐに病院へ。
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【食べムラ(我儘)】のクセをつけてしまうと、犬が体調不良でフードを食べないのか、きまぐれ(我儘)で食べないのかの区別がつかなくなり、病気の発見が遅れてしまう可能性が生まれます。
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ハナちゃんママからアドバイス
ここで専門家である獣医さんからのアドバイスです。
ご意見をいただいたのは、『ハナちゃんの動物病院』の獣医さん、ハナちゃんママです。
ここでさらに美味しいものを与えてしまうと、どんどんその悪循環が続いてしまいます。どんどん贅沢になってしまう、ということですね。
もし、明らかに調子が悪くて食べられないのでなければ、いつもの食事を与えて 3日まで様子みて、お互いに我慢比べですよ~と、飼い主さんに説明します。
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対応:今以上に嗜好性を上げない
健康であるにも関わらず、【食べムラ(我儘)】が定期的にぶり返す場合は、もう一度躾をし直すつもりで、じっくりと付き合っていきましょう。
私たちは躾のプロではないので、なかなか思ったとおりに躾はできません。可愛い愛犬には甘くもなってしまいがちです。
食べムラをする子になるまでには、嗜好性の高いフードや、トッピングなどを多用していませんでしたか?
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嗜好性の低いフードに切り替えていくことは、相当に困難な道のりと思われます。
まずは、今以上に嗜好性を上げないようすべきでしょう。
現在食べているフードから急に切り替えると、新しい【食べムラ(我儘)】のスパイラルが始まる恐れもあります。したがって、慌てずにゆっくりとです。
食べなければ、10分経ったら下げるという通常の躾をしていくことで、時間を掛けてメッセージを伝えていきましょう。
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次回の記事でくわしく書きますが、愛犬の食事の選択は、今のためだけにするのではありません。言うなれば愛犬の一生や、生き方をデザインすることでもあるのです。
愛犬に良い一生を送らせてあげるためにも、妥協は禁物と思います。
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対応:原因が思い当る場合は、その解消につとめる
犬は意外に繊細な生き物でもあります。引っ越しをした直後や、飼い主が外出がちで留守番が長かった場合など、ストレスで食欲不振になる可能性があるそうです。
読者の方からも、その可能性についてのご指摘を受けました。
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犬は口をきいてくれないので、ストレスの有無は確認のしようがありません。
思い当たる事があれば、躾の試みと同時に、その原因の解消に努めるのが良いでしょう。
何らかの理由で犬が強いショックを受けたと想像できる場合には、動物の行動診療科(人間で言うところの心療内科)を受診するのも1つの手段だと思います。
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対応:早めの判断が必要
わが家の愛犬ピーチーの晩年ように、既往症がある場合は、病気の悪化や再発の可能性も否定できません。またそうでなかったとしても、健康な子に較べると、基礎体力が落ちている可能性があります。
もしも食べない場合は、躾で様子を見る期間を短めにして、早めに病院にいくのが良いでしょう。
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対応:ケースバイケースで、注意深く判断すべき
老犬は自然現象として食欲が減退するので、それが何らかの病気によるものなのか、自然なものなのかの判断がつきにくくなります。
長期間様子見をすると、万が一病気であった場合に、悪化する恐れがあります。注意深く様子を観察した上で、早めに病院に行く判断をした方が良いと思います。
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一口に高齢といっても、健康や元気の尺度には個体差があります。
一般的に言われている、7~8歳からが老犬期という区分けはあまり役に立たないように思います。愛犬の衰えを飼い主が実感したときからが、老犬という判断です。
老犬(シニア犬)の食べムラについて
本件は他の章と重複する部分がありますが、大切なことなので、別項目として書いておきます。
老犬(シニア犬)の食べムラで悩まれる飼い主さんは多いようです。
しかし、一口に老犬(シニア犬)の食べムラと言っても、その原因も対応も様々です。そもそも、『食べムラ』という言葉自体が、広い意味を含んでいるのです。
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老犬はそもそも必要とするエネルギー量が減るために、自然現象として食欲が減退するものです。それが自然な食欲減退であれば、若い頃のような食事を望むことは逆に不自然なことですし、そこで嗜好性の高い食事を与えて量を食べさせても、逆に体を壊すことにもなりかねません。犬は食べないことで、体調を整えている場合もあるのです。
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何となく、食べムラ=悪いこと のように思われがちですが、老犬(シニア犬)の場合は根本に病気が無いのであれば、それもまた選択肢の一つとして、鷹揚に考えても良いのではないでしょうか?
1回1回のご飯の量にこだわらず、オヤツも含めながら、ある程度の期間で必要なカロリーが接種できているかどうかを観察するのが良いと思います。
フードローテーションも重要な選択肢
【食べムラ(我儘)】の見極めをしやすくするために、フードローテーションを採用する手もあるでしょう。
フードローテーションは2つ以上のフードを、期間ごとに切り替えていく方法で、主にアレルギー物質からの回避を目的としています。
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――しかし、他にもメリットが。
通常の食事からして、2つ或いは3つのフードで構成されていると、それらを試すことで、【食欲不振】と【食べムラ(我儘)】の判断が付きやすくなるわけです。
お気に入りのフードを1つだけ、長年食べ続けると、食物を構成する成分が固定されてしまいます。
万が一その中にアレルギーの原因物質・アレルゲンが含まれていると、やがてその物質への過敏症となる恐れがあるということ。
複数のフードをある期間ごとに切り替える事で、そのリスクが軽減されるということで生まれた考えが、フードローテーションです。
フードローテーションにはメリットだけでなくデメリットもあるために、賛否両論です。採用される場合は良く調べた上で、注意が必要です。
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――次話は――
今回の主な内容であった、【食べムラ(我儘)】を躾によって矯正する意義を、更に掘り下げて行こうと思います。
―― ”今の食” が "将来の食” を決める(1/4)つづく――
文:高栖匡躬
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――次話――
愛犬に美味しいものをたべさせてやりたい。喜ばせてやりたい。
飼い主ならがそう思いますね。
病気でも、食事の時間を楽しみにさせたい。
介護になっても、食べる喜びを感じさせたい。
そう思うのならば、今やらなければならない事があります。
――前話(前シリーズの最終話)――
3話連載の、一番重要なポイント。
大好物を守るには、大好きなご飯と、大嫌いな薬を切り分ける必要があります。その具体的な方法とポリシーを、体験を元に書きました。
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
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――前シリーズの1話目です――
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食べムラ・偏食のガイドブックです
~基礎・原因編~
愛犬の食事に関するトラブルの中は様々
用語の定義と、食べムラ・偏食に陥る原因をわかりやすくまとめました。
色々な原因で食べムラ・偏食は発生します。
まさかのときの準備のためにどうぞ。
~予防・対応編~
食べムラ・偏食の予防は、犬の一生を組み立てる長期的な意味があります。
一生食べる楽しみを残すために、今やることは?
そして、もしも起きてしまったら、どうやって対応したらいいのか?
~治療・まとめ編~
食欲不振の理由は様々ですが、過度な偏食に発展すると健康に影響があり、時に命を左右します。
飼い主さんの努力で改善できない場合は、医療としての対応が必要です。
投薬治療と、栄養療法を
――それと、食べないことの意義についても考えます。