闘病中は、大好物を守らなきゃ(2/3)実例編
前回は犬が大好物を嫌いになる瞬間の実例として、筆者の愛犬ピーチーの体験を書きました。アイスクリームは本当に本当に大好物だった食べ物です。それが、ほんのちょっとしたタイミングで、大嫌いに変わってしまうのです。
今回はアイスクリームにとどまらず、次々に嫌いな食べ物が増えていく様子をご紹介します。闘病時には飼い主が気を付けてあげないと、愛犬が食べられる食物が、どんどん減って行ってしまうのです。
犬にとって ”食べる” ことは、最大の楽しみなのだそうです。
(2番目が散歩だそうです)
一生のその楽しみを残してあげたいものです。
【目次】
飼い主最大の恐怖|主食が嫌いになること
本来この記事は、ピーチーが患った癲癇の闘病記として書いたものだったのですが、大好物が嫌いに変わる瞬間を捉えたものなので、めずらしい記録だろうと思い、その経過を記述しています。今回もその癲癇闘病記に沿った内容です。
以下はピーチーが大好物であった豆腐を嫌いになり、次いで療養食である低脂肪フードが食べられなくなるまでの過程を描きます。
補助食品ならばまだしも、主食であるフードが――
しかも闘病とセットになっていて、選択肢の乏しい療養食が嫌いになることは、愛犬の生命を左右する事でもあります。
実際に体験した身からすると、あれは恐怖でしかありませんでした。
実例2:愛犬はこうして豆腐が嫌いになった
ピーチーが癲癇の大発作を起こす直前までは、クスリを飲ませるのは簡単でした。
それまでに飲んでいたのは、アレルギー性の皮膚炎に対処するために、プレドニン(プレドニゾロン)と、エファベット。強肝剤のウルソです。
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これらをどう飲ませたかというと、ドライのフードの上に豆腐を半丁トッピングして、その中に仕込む(埋め込む)だけでした。
ピーチーは豆腐が大好きだったので、この方法であれば、それまでどんな薬でも、何錠でも大丈夫。もう何年も当たり前のように続いてきたことでした。
(扉の写真は、豆腐がまだ大好きだったころのピーチー)
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急に駄目になったのは、抗てんかん薬のゾニサミド(薬名は『コンセーブ』)を処方されてからです。よほど不味かったのでしょう。ほどなくしてピーチーは豆腐が嫌いになりました。
こうなると、何をトッピングしてもダメ。
そのうち、豆腐の匂いで逃げ出すようになりました。
アイスクリームに続き、2つ目の大好物の戦線離脱でした。嗚呼!
実例3:愛犬はこうして療法食1(CRD-1)が嫌いになった
さて、ここからは補助的な食べ物ではなく、主食であるドッグフードの話です。
闘病の最中にピーチーが嫌いになったフードは2種類ありました。
1つ目はスペシフィックの『CRD-1』。もう一つはロイヤルカナンの『消化器サポート(低脂肪)』です。
スペシフィック『CRD-1』
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『CRD-1』と『消化器サポート(低脂肪)』は、どちらも超低脂肪の療養食の代表格。
2トップだと言っても過言ではないでしょう。
この両方が使えないのは、肝臓疾患の子にはかなり痛い状況です。
どちらも、嫌いになるまでに違う理由がありました。
前者の『CRD-1』を食べなくなったのは、前の項に書いた豆腐と同じで、不味い薬の影響です。
ピーチーが毎日、豆腐と一緒に食べていたのがこの『CRD-1』。
だから、ピーチーにとっては豆腐はただの補助食とかトッピングではなく、豆腐+『CRD-1』で、合わせて”ご飯”だったわけです。
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豆腐と同時期に『CRD-1』まで嫌いになり、更にもう一つ。。
食欲不振の時に、豆腐の上に掛けていた、かつお節までが嫌いになりました。
まるで負の連鎖です。
実例4:愛犬はこうして療法食2(消化器サポート)が嫌いになった
『CRD-1』に代わるフードとして与えたのが、低脂肪2トップのもう1方である、『消化器サポート(低脂肪)』でした。
ロイヤルカナン『消化器サポート(低脂肪)』
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しかしこの『消化器サポート(低脂肪)』も、すぐにピーチーは嫌いになりました。
理由は、これまでとは違います。
食欲不振の時に、食事を無理強いしてしまったからです。
今考えるとその時期は、ステロイド剤の減薬の影響で、ピーチーの食欲が落ち切っていました。
(この時の経緯は、劇症肝炎闘病記に記してあります)
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飼い主の心情としては、何とか食べてもらいたいと思うばかり。
そこでまずは、このフードを水でふやかしたり、鰹の粉やゴマを掛けたりしました。
しかし――
結果として何もやってもダメで、頑固で意固地なピーチーの反発を買ってしまっただけでした。
そうこうするうちに、遂にピーチーは、『消化器サポート(低脂肪)』の匂いを嗅ぐだけで逃げ出すようになり、大好きなものだったはずの、ゴマも鰹の粉も受け付けなくなってしまいまったのです。
飼い主の気持ちが焦るほど、負のスパイラルは続いてしまいます。
もしもこれが健康な時ならば
ピーチーが健康なときであれば、食べない時には放っておきました。
食べない理由が、一般に言う我がままからの”食べムラ”ならば、矯正をするのが飼い主の務めだと思うからです。
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犬は野生の状態では、何日も飲まず食わずで獲物を待つのだそうです。
動物医療でいえば、拒食を疑い始めるのは、2日食事をとらなかった辺りから。
それは十分に分かっていたつもりでした。
しかし、劇症肝炎という大病をし、体重を大きく減らした後だったこともあり、飼い主側に大きく構える心の余裕がなかったのです。
これは今でも反省をしています。
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食べたがらないものを、小手先の工夫で食べさせようとしても駄目だったということ。ピーチーの方が一枚上手だったのです。
後日談ですが、この苦境を乗り切ったのは、『消化器サポート(低脂肪)』のウェットタイプという商品を見つけたからです。
ロイヤルカナン『消化器サポート(低脂肪)』ウェット
このフードがあったお蔭で、我が家は選択肢がゼロになるという危機は免れました。
この時の顛末は、本記事の主旨と外れますので、後編の記事の最後に、ケーススタディとして記載したいと思います。
嫌いな食べ物のスパイラルにはこのように陥る
前回記事の実例1から、今回記事の実例4までが、犬が食べ物を嫌いになる代表的なパターンではないかと思います。
まとめると次のようになります。
②まずい薬と食べ物が結びついた。
③嫌いになった食べ物と同時に食べていた食べ物も、連鎖して嫌いになった。
④食べたくない時に、食べる事を強要されたため、その食べ物が嫌いになった。
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今回のケースでは、食べ物に関して、考え付く悪いパターンを一通りやってしまった感があります。
しかしこれはめずらしい事ではなく、余裕の無くなった飼い主が容易に陥りやすい負のスパイラルです。それは幾つもの闘病記に、おなじようなパターンが登場することからも分かります。
似たようなパターンがあるということは、言い換えれば、
”もしも事前に知識として知っていれば、避けられたかもしれない”
ということでもあります。
失敗の教訓:好きなものと嫌いなものは、はっきり分けよう
振り返って考えてみると、ピーチーに嫌いな食べ物が増えた理由は、全ての場合において、好きな食べ物が嫌な思い出に引っ張られてしまったからです。
・ご飯は好きだけれど、不味い薬は嫌!
・調子が悪いと、好きなご飯も食べられない!
・無理に食べたら、ご飯が嫌いになっちゃうよ!
大体がこのような流れで、嫌いなものが段々増えていくのです。
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犬のしつけをするときに、上手くできたらすぐにご褒美を上げますね。犬は自分の行動と、良い思い出をセットで覚えていく――
あれと同じことが起きているということです。
つまり嫌な思い出と、食べ物の匂いや味が一体になってしまっているわけです。
しつけと同じで、一度深く覚えこんでしまうと、もう取り返しがつきません。
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であれば解決策は簡単で、好きなものと嫌いなものをくっつけたりしなければ、嫌いな食べ物は増えていかないということになります。
次回は、それを具体的にどのように実行したかを書こうと思っています。
嫌な思い出と大好きなご飯を切り離す手段は
次回の記事では、嫌な思い出を、大好きなご飯と切り離す具体的方法について書きます。筆者は食事と投薬の時間を切り離すということで、スパイラルを断ち切りました。
実は、この方法について書かれたネット上の記事には、大きな間違いがあるものもあり、そこを注意深く書くつもりでいます。
――闘病中は、大好物を守らなきゃ(2/3)・つづく――
文:高栖匡躬
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――次話――
3話連載の、一番重要なポイント。
大好物を守るには、大好きなご飯と、大嫌いな薬を切り分ける必要があります。その具体的な方法とポリシーを、体験を元に書きました。
――前話――
大好物の大切さを、真面目に記事化しました。
介護は、食べ物と一緒に過ごすことでもあります。
我々は、愛犬愛猫を――
僅かに残された大好物で喜ばせてやりながら、最後まで見送ることになります。
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
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食べムラ・偏食のガイドブックです
~基礎・原因編~
愛犬の食事に関するトラブルの中は様々
用語の定義と、食べムラ・偏食に陥る原因をわかりやすくまとめました。
色々な原因で食べムラ・偏食は発生します。
まさかのときの準備のためにどうぞ。
~予防・対応編~
食べムラ・偏食の予防は、犬の一生を組み立てる長期的な意味があります。
一生食べる楽しみを残すために、今やることは?
そして、もしも起きてしまったら、どうやって対応したらいいのか?
~治療・まとめ編~
食欲不振の理由は様々ですが、過度な偏食に発展すると健康に影響があり、時に命を左右します。
飼い主さんの努力で改善できない場合は、医療としての対応が必要です。
投薬治療と、栄養療法を
――それと、食べないことの意義についても考えます。