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【犬の健康被害】数字から見た犬の受動喫煙のリスクと考察 ~禁煙のススメ(2/3)データ編~

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犬にだって受動喫煙と3次喫煙の被害はある禁煙のススメ

文|高栖 匡躬
 
こんな方に

長年タバコを吸っている|タバコはやめられないなあ|家には犬もいる|犬は可愛いなあ、犬もやめられないなあ|タバコは台所やベランダで吸うから、犬には影響ないと思うよ

小型犬ほどリスクが大きい

前回に続いて犬の受動喫煙の話。今回はデータ編です。

前回のおさらいを少しすると、犬の方が人間に較べて、受動喫煙の害が大きいとするのは、煙草の煙は空気に較べて比重が大きいために、低いところ(つまり床に近いところ)を漂うことになる。――という事実に起因します。
これはとりもなおさず、『小型犬ほどそのリスクが大きい』ということでもあります。

 

3次喫煙という新しい概念

意外に知られていないことがあります。

喫煙者を1次喫煙(first-hand smoke)とした場合に、その外部の人達が被る受動喫煙には2次喫煙(second-hand smoke)と、3次喫煙(third-hand smoke)の2種類があるのです。

2次喫煙はほとんどの方が認識する受動喫煙。つまり喫煙者の吐いた煙を、間接的に吸ってしまうことを言います。

3次喫煙は比較的新しい概念のようです。それは煙草の煙の付着したもの(床、カーペット、カーテンなど)に触れたり、舐めたりすることで、体に直接有害物質が取り込まれることを指しています。

1次喫煙(first-hand smoke)
喫煙者が煙草を吸う行為です。

2次喫煙(second-hand smoke)

喫煙者の近くにいる人が、喫煙者の吐いた煙を吸うことです。

3次喫煙(third-hand smoke)

煙草の煙に含まれる有害物質が付着したもに、触れたり舐めたりすることで、それを体内に取り込む事です。

3次喫煙のやっかいなところは、1次、2次と違って、それが長期に渡るということです。
付着した有害物質は、それを洗い流さない限りは消えません。噴霧式のファブリーズなどでは、匂いは消せても毒性は減らないのです。

犬の場合は人間と違い、床に肌を密着させますし、舐めることもあるでしょう。
何年も喫煙をした家庭では、壁が黄色く変色しますが、犬はそれを肌や口から吸収する訳です。煙が床に向かうことを考えると、壁の黄色い変色よりも、カーペットに付着した有害物質の方が、多いだろうことは容易に予想がつきます。

(参考まで)
※2次喫煙に比べ、3次喫煙は1.6倍の発がん率という記事も見ましたが、裏付けとなるデータは発見できませんでした。
※1.6倍という数字は、家族が喫煙/非喫煙の場合の肺がんの発生率として、下記に出てきますので、それと混同しているのかもしれません。

 

 3次喫煙はやっかい - ベランダもダメ

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3次喫煙は、更にやっかいなこともあります。飼い主がベランダに出て煙草を吸おうが、換気扇の下で吸おうが衣服には有害物質が付着するということです。もちろん、手にも付着します。
煙草を吸ったあとで、犬を抱いたり撫でたりすれば、有害物質を犬の体に付ける事になってしまうわけです。

今回読んだ文献の中には、煙草を吸ったときには、犬に触れる前に手を洗ったり、服を着替えることを推奨したものもありました。手を洗うのはまあ良しとして、煙草を吸うたびに服を着替えるのは、現実的に難しいように思います。

一番現実的な選択肢は、自分が喫煙者である場合は、禁煙をすることでしょう。
そして喫煙者の方には、自分の愛犬を抱かせたり、触らせないという方法もあると思います。

 

 喫煙は犬にとってどれだけ危険か?

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さて、前置きが長くなりましたが、今回はデータ編なので、犬にとって間接喫煙がどれくらい危険かを調べて見ました。検索をしてみると、日本のデータはまだ少ないのですが、海外のデータは読む気がなくなるほど、沢山でてきます。

前話で友人に話した、”犬の受動喫煙は6倍も危ない”という記述(恐らくは、情報の出所)も見つかりました。下記がそれです。

人間においては、2010年9月28日、厚生労働省の研究班が受動喫煙が原因の肺がんや心筋梗塞で年間約6800人が死亡しているとの推計値を発表しました。喫煙による死者は年間約13万人と推計されていますが、これらの推定より家庭動物においては少なくても5~6倍以上の甚大な被害をもたらしていると推察されます。

出典:喫煙に関係するペットに関する弊害

この出典元の記事は、獣医師の方が執筆されたものなので、信頼できるとは思うのですが、残念ながらこの”5~6倍の甚大な被害”を示す元の論文等が示されておらず、探しても見つかりませんでした。

恐らく、飼い主が喫煙者である場合と、そうでない場合で、犬猫の体内のニコチンやタールの残留濃度を測定したものが、どこかにあるのだろうと予想されます。
もしもご存知の方がいらっしゃれば、ぜひ教えてください。

代わりに、発見することのできた下記の2つのデータを使い、人と犬とで、喫煙家庭のおける肺がんの発生率を比較をしてみました。

データ:その1

受動喫煙により、肺がんリスクは約1.3倍上昇する。

出典:国立がん研究センター『受動喫煙による日本人の肺がんリスク約1.3倍』

データ:その2

家庭内の喫煙者の曝露に関して弱い関係が見出された(オッズ比1.6)
A weak relation was found for exposure to a smoker in the home (odds ratio = 1.6)
John S. Reif,Kari Dunn,Gregory K. Ogilvie,Cheryl K. Harris
American Journal of Epidemiology, Volume 135, Issue 3, 1 February 1992, Pages 234–239,

出典:Passive Smoking and Canine Lung Cancer Risk(訳:受動喫煙と犬の肺がんリスク)

人間の場合は肺がんのリスクは1.3倍、犬の場合は1.6倍なので、この2つを比較すると、肺がんに関して言えば、受動喫煙によって犬は人間の、倍程度リスクが上昇するということになりますね。

因みにここに、煙草を吸う家庭は、吸わない家庭にくらべて、受動喫煙の危険が3倍と言う良く知られた数字(下記)を掛け合わせると、少々乱暴ですが、煙草を吸わない家庭の犬に較べて、煙草を吸う家庭の犬は、肺がんの危険性が6倍という結果を導けないでもありません。

タバコを吸っている家庭では、タバコを吸わない家庭に比べて受動喫煙の危険が3倍以上になります。

出典:ファイザー製薬 すぐ禁煙.jp

人間と犬とで同じ病気の発生率を記録したものが、肺がん以外に見つからないので、今回は肺がんだけを比較しましたが、恐らくは他の病気でも同じように、優位性のある数字が出て来るように思います。

人間の場合は代表格の肺がんの他に、肝臓がんや心疾患、脳梗塞などが、喫煙被害として挙げられますが、これらについても犬で調査をしたらどうでしょう?

既にあるのかもしれませんが、こちらもご存知の場合は、ぜひご一報ください。
因みに、犬の場合は、肺がんよりも受動喫煙のリスクファクターが大きい病気があるようです。鼻のがんや、アトピー性皮膚炎などがそうです。

 

 日本でも進んできた研究

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日本でも段々と、犬猫の受動喫煙に関する研究が進んでいるようです。
下記はコンタクトレンズで有名な、メニコン社が調査した結果です。

海外の論文を数多く検証し、優位性のあるものを抽出し、検証すると言う手法でまとめられています。
結論だけを引用しておきますので、ご興味のあるかたはぜひ、原典をご覧になってください。1ページに簡潔にまとめられているので、論文を読むような難しさはありません。

ペットの受動喫煙の特徴
●サイズが小さいほど影響が大きい
●体高が低いほど影響が大きい
 →タバコ煙の有害成分は床,ソファーなどに集積
●経口的に有害物質を摂取する
 →グルーミング,噛む,舐める
●鼻の形状によって発生するがんが異なる
●人間に文句を言わない!

考察と結論
1.
ペットにも受動喫煙により悪性腫瘍やアトピー性皮膚炎などの深刻な健康被害が存在することが明らかとなった。
2.
ペットの受動喫煙には,躯体が小さく体高が低いほど健康被害が大きいなど,いくつかの特徴がある。
3.
人のみならず,人と共生するペットを受動喫煙による健康被害から守ることは大切な課題のひとつである。

出典:メニコン『ペットにも受動喫煙による健康被害は存在するのか,またその特徴は何か?』

 

  喫煙者だった友人の後日談

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さて、まとめの前に、後日談を1つ。
前話で登場した友人からは、その後に電話をもらっています。

「本当だった」
と友人は言いました。自分でも犬の受動喫煙のことを調べたようです。
「1年もの間、あの子に受動喫煙させてしまった……」
としょぼくれていました。
「これからあの子が病気になったら、俺のせいかもな」
とも言いました。
「早く気が付いて、良かったじゃないか」
と、慰めました。

当然ながら、友人はまた禁煙したそうです。

 

 まとめ - あなたが愛犬家ならば

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本記事の結論は、とても単純です。 

①あなたが愛犬家ならば、今すぐに禁煙を考えましょう。
②あなたの愛犬を、できるだけ喫煙者から遠ざけましょう。

ちょっと過激な結論になってしまいましたね。
愛煙家の方、申し訳ありません。

でも、愛犬のためならば、煙草をやめるきっかけになるんじゃないかと思い、敢えてこの結論で締めることにします。

(前編にも書きましたが、筆者もかつては喫煙者。禁煙の苦労は良く分かります)

追記

※本話にて手動喫煙の記事は終了の予定でしたが、喫煙者の方から質問がきました。
※吸ってしまったら、取り返しがつかないのかという内容です。
※これに対する回答で、もう1話追加することにします。

 

――禁煙のススメ(2/3)・つづく――

文:高栖匡躬
 ▶プロフィール
 ▶ 作者の一言
 ▶ 高栖 匡躬:犬の記事 ご紹介
 ▶ 高栖 匡躬:猫の記事 ご紹介

――次話――

この回は、喫煙者である飼い主さん向け。
既に愛犬の体に取り込まれてしまった有害物質は、どうなるの?
犬の平均寿命は短いのに、これから禁煙して、間に合うの?
そんな質問への回答です。
乱暴な推測もありますが、希望は持って良いのじゃないかな?

――前話――

犬の受動喫煙は、人間よりずっと危険らしいです。
知ってました?
ひょんな事から調べ始めました――
読んだ資料の中には、6倍危険という記述も。
本当かな?

危険という意味では、どうやら本当に危険らしいのですが、
でも、どうやってそんな数字が出るの?
概要編です。

まとめ読み|禁煙のススメ
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。

 

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