犬を飼うということ

いつまでも君と……

いつもとちがう散歩道 ~ラフと歩いた日々 第1話~

f:id:masami_takasu:20180408102806j:plain撮影:樫村 慧(本作は2016年10月に執筆されたものです)

愛犬のラフがいなくなって、3カ月近くになる。あっという間だったような、随分と前のことのような、不思議な感じだ。

ラフが旅立つまでの事を書き残しておこう、そう思いながら夏が過ぎた。
「自分の気持ちを一区切するために、書かなくては」
そんな風には思うのだが、どうしても書けなかった。

今の気持ちを正直に言えば、とても寂しい。悲しいのではなくて、とにかく寂しい。
秋になって、一層寂しさは増している。
その寂しさに背中を押されて、私はようやくラフの最期を書くことにした。

■ 6月16日の写真
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ラフが腎不全とわかったのは3年前の事。その時の心境を一言でいえば、”絶望”だ。その最悪の思いを、私は足掻いて足掻いて蹴散らして、どうにか受け入れた。

それからというもの、何をするにもどこへ行くにも、まずはラフの点滴の時間を確保し、投薬することを忘れなかった。
2週間ごとの通院は、朝一で診察を受けるために8時半には家を出なければならない。

ラフは、何度も通っているから、行き先が病院だと分かっていそうなものなのに、出掛けるのだと思うとテンションが上がった。
そのラフに私は歩行サポートベルトをつけ、ワサワサした状態の体を押さえながら、もう一方の手でステーションワゴンの荷台を開け、そこにスロープを掛ける。

病院に到着すると、近場を少し歩いて排泄させる。
そして9時開院の5分前には待合室に入り、診察を待った。
点滴パックと薬をまとめ買いして帰宅すると、私もラフはいつもクタクタだった。

こんなことを書くと、「犬の介護は、なんと大変なのだろう」と思われるかもしれない。しかし実際の気持ちは、それとは逆だ。

クタクタでしんどいけど、とても充実した毎日。
ひたむきに生きようとするラフが居てくれるだけで、いつも私は前を向けた。
ラフとの闘病生活は、何の特徴もない普通の人間である私が、たった1つ他人に自慢出来るものだった。

ラフは昔から、散歩が大好きな犬だった。台風がきたって、絶対に散歩は欠かさない。足が弱くなってからも、それは変わらなかった。
私がリードを持つと喜びの舞のように廊下をグルグルと歩きまわったし、玄関を出たところでスキップのような走りを数メートルだけ披露した。

ラフと歩くと、ラフのフサフサした自慢の尻尾が、私の膝の後ろに触れてくすぐったいけど気持ちが落ち着いたものだ。
そして、散歩の最中にラフが私を見上げる顔は、とびきり可愛かった。

そんなラフに脊髄の神経症状が出て、少ししか歩けなくなり、6月上旬にカートを買った。
「お散歩が大好きなあなたに、カートを買う日がくるとはね」
私の心境は、少しだけ複雑だった。

■ 赤いカート 
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家に届いた大きな赤いカートに、ラフは興味を示したのだけれど、乗せるとすぐに降りようとした。ラフは体は大きいくせに、臆病な犬なのだ。
それでも何度か試すうちに、これに乗ればラクなのだとわかったのだろう。いつの間にか、ラフもカートを受け入れるようになった。

カートから飛び出た大きな尻尾は、モップのように地面を擦ってら帰宅すると真っ黒になっていた。どうにか尻尾も乗せられないかと頑張ってもダメ。
尻尾だけでも地面に触れていて、臆病なラフは安心していたのかもしれない。

ラフが乗った大きな赤いカートは、どこに居ても目立ち、注目をあびた。
ある土曜日、仕事が終わった私が家路を急いでいると、遠くに赤いものが見える。
「ラフだ!」
50メートルほどの距離まで近づいてから、「ラ〜フ!」と呼ぶと、長男の押すカートに乗ったラフが、必死で声のする方向を探していた。

「いいねぇ、カートでお散歩出来て」
カートから飛び出した尻尾を振るラフは、少し自慢気に見えた。

ラフの体調を、気遣いながらの散歩。
暑い時期だったので、夕方少し涼しくなった頃を見計らって出かけていたのだが、それでもあまり遠くまでは行けなかった。

ラフの大好きだった川沿いの道まで行けたのは、たった1度だけ。
7月になってから、長男が夕方に、カートで連れ出した時だった。

 

――ラフと歩いた日々 第1話 つづく――

文:樫村 慧

――次話――

――本作は下記作品の続編です――

――同じ作者の作品です――

 

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