犬を飼うということ

いつまでも君と……

はじめてのご馳走 ~ラフと歩いた日々 第2話~

f:id:masami_takasu:20180408110114j:plain撮影:樫村 慧(本作は2016年10月に執筆されたものです)

腎不全のラフの食事は、腎臓サポート食の缶詰とドライフードが半々だったのだが、やがて缶詰だけを残すようになった。明らかに食欲が落ちていた。

7月7日、七夕の暑い日。
ラフはやはり缶詰は食べずに、ドライフードのみを完食。
しかしその日はなぜだか、空になったボールを見つめていて、その後に私の方に視線を送ってきた。

「もっと食べる?」
と聞くと、尻尾を振ってウロウロ。
「どうかな?」
とは思ったが、ダメ元で200グラム追加してみる――
ラフはそれを、ペロリと平らげた。

「おおっ、すごいね、偉いねぇ」
ラフは、まだ欲しそうな顔。
「さすがにもう食べないでしょ」
そう言いながら、更に150グラムをボールに入れてやったのだが、驚いたことになんなくそれも完食。

「どうしたの、ラフ。今日はすごいじゃない」
私はすなおに喜んだ。病気の犬を抱えたことがある人には、分かるだろう。愛犬の食欲は、その子の生きる意欲の証。言い換えれば残りの命を示すものでもある。

「食欲があるうちは、まだ大丈夫」
飼い主はそうやって一日一日、自分を励ましながら、確実に衰えていく愛犬と対峙しているのだ。

しかし、不意の食欲回復を喜んだのも束の間だった。次の日から、ラフはご飯を全く食べなくなった。
腎臓サポート食を食べたのは、七夕の日が最後になった。

■やがて自力で立つことも、歩く事も……
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いつものサポート食を食べなくなったラフは、肉などの好物をあげても食べる量は少なかった。そこで、栄養価の高いad缶をなんとか食べさせながら、おやつも色々な種類のものを与えてみた。

腎不全とわかってからは、ほとんどおやつをあげていなかったので、最初のうちラフは、何でも美味しそうに食べてくれた。しかし、それもすぐに受け付けなくなっていった。

その頃は、まだかろうじて歩けてはいたけれど、常に歩行サポートベルトをしていないと厳しい状態になっていた。

7月16日土曜、その日は3連休の初日。
ついにラフは尿が出なくなった。

私はすぐにラフを病院に連れて行って、利尿剤の注射を打ってもらった。
「これで尿が出れば、しばらくは何とかなるとは思いますが、出ないと厳しいね……」
それが、主治医の言葉だった。

帰宅して数時間後、サポートベルトで支えながら、ゆっくり外に連れ出してみたが、ほんの少ししか尿は出なかった。
そしてこの日の夜から、ラフは自立で立つ事も歩く事も出来なくなった。
寝たきりになったラフに、何度か圧迫排尿をしてみたが尿は出ない。主治医の言葉が頭をよぎった。

■はじめてのカツ丼。はじめてのご馳走。
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7月17日日曜は、連休の中日。
この日から家族3人、なるべくラフの側に居ようと、食事もラフの部屋でとるようになった。

お蕎麦やさんから出前を取って、ラフを囲んでの昼食。

長男が、カツ丼のカツの衣を少し剥いて「ほら、食べてみるか?」とラフの口元に持っていった。すると、それまで水以外を受け付けなかったラフが、クンクンと匂いを嗅いでパクリと肉を口に入れた。

ラフはその瞬間、「えっ!」っと目を見開き、驚いたような顔。そしてラフはそのまま肉を味わい、飲み込んだ。

ラフの仕草に、家族3人で爆笑。

「美味しいだろう、これがカツ丼のカツだよ」
よほど美味しかったのか、ラフはそれを飲み込んだ後も、ペロペロと口を動かしていた。
「こんなに味の濃い、美味しいものなんて食べた事がなかったもんね」
私たちは、ほんの少し残っていたカツを、もう一度あげてみた。

しかしラフは、もう口にはしなかった。

その晩、ラフを布団ごと長男の部屋に移動して、ラフの隣に長男が、長男のベッドに私が寝た。そして数時間毎に寝返りさせて、シリンジでお水を飲ませた。
尿が出ないせいか、ラフの息遣いは苦しそうで、それでも常に私や長男が居るのを確認していた。

 

――ラフと歩いた日々 第2話 つづく――

文:樫村 慧

――次話――

明日公開予定です

――前話です――

――本作は下記作品の続編です――

――同じ作者の作品です――

 

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