犬を飼うということ

Withdog 犬と飼い主の絆について

【選択したのは安楽死】消えない光、ごめんね【後悔はないよ】

ラフと歩いた日々(3/3) - ありがとう、そしてさよなら
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撮影&文|樫村 慧(本作は2016年10月に執筆されたものです)
 
こんな方へ向けた記事です
大型犬の愛犬が突然、腎不全と診断された|大型犬はどのような介護になるのだろう?|もしかするとペットロスかもしれない|愛犬を亡くした飼い主さんは、どんな風に過ごすのだろう?|経験した方の話を聞きたい

 7月18日月曜 - 別れの日

この日の明け方。ラフが突然の下痢。
トイレシートは敷いてあったが、お尻周りや尻尾が汚れてしまって、さあ大変。

お風呂まで連れて行くのは難しいので、その場で拭こうとするが、お尻を触られるのが嫌らしくラフが怒る。仕方がないので、唸るラフを長男がタオルで包み押さえて、私が洗面器に入れたお湯で何度も洗い落とした。
ほぼ何も食べず、熟睡もしていないのに、どうしてこんなに怒る力があるの?
私がそう思うほど、ラフの唸り声は険しかった。

何とか洗い終えると、ラフはスッキリとしたのか、またウトウトし始めた。
しかし、完全に寝入るわけではない。ウトウトしては目を開けて、長男か私が隣にいるのを確認している。

朝から夕方までは、ずっとそんな調子だった。


7月初旬の頃のラフ
 

たまたま私が洗面所に居た時だ。私を呼ぶ、二男の声が聞こえた。
駆けつけるとそこには、突然の痙攣に襲われたラフがいた。

凄まじい発作。
グワングワンと痙攣するラフの体を、必死に押さえる私。
「ごめんね、ごめんね」
涙が止まらない。

痙攣がおさまった後のラフは、それまで見たことのない、戸惑ったような目をしていた。そして放心状態がしばらくしておさまると、まるで文句を言うように「うう〜、う〜、うう〜」と長いこと唸っていた。

それは、朝汚れたお尻を洗う時の怒りの声とは違い、「ツライんだよ、これはなんでなの?どうしてなの?」と、必死に訴えているような声だった。

「うん、うん、ごめんね、苦しいよね、ごめん」
ラフの悲しい声を聞きながら、私は撫でてあげることしか出来なかった。
やがて、私の心の中では、ひとつの決意が固まっていった。

 

 7月18日月曜 - 別れの日 - 昼過ぎ

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「痙攣が起きてしまったし、もう母さんはラフをラクにしてあげたいと思うんだけど……」
私がそう切り出すと、長男はしばらく黙った後「うん……、とりあえず病院に電話してみようか」と答えた。

主治医に事情を説明して、安楽死を考えていると伝えると、受話器の先からは、「もうかなり厳しいですね。今、妻が不在で安楽死の処置が難しいので、7時半過ぎもう一度電話をくれませんか」との返答。

そこから1時間半ほどは、意識が朦朧としているラフを3人で撫で、話しかけながら約束の時間を待った。
そして私たち家族は7時半過ぎに、ラフを車に乗せて病院へと向かった。

知的障害のある二男には、もうラフとはお別れなのだ、ラフは天国の父さんのいるところに行くのだと、彼にもわかるように何度も伝えた。

病院では、院長先生と奥さんのユカ先生が待っていて下さった。
私たちは家族で抱えて、ラフを診察台に乗せた。
その時だった。思ってもいなかった事が起きた。
意識が朦朧としていたはずのラフが、頭を上げようとしたのだ。

「ラフ、病院だよ。先生もユカ先生もいるよ」
とっさに私は、ラフに話しかけた。
しかし正直言って、決心したはずの心が少し揺らいでいた。

 

 その時

主治医はラフに聴診器を当て、その後触診。
ユカ先生から、「ご家族3人とも、本当によろしいんですね?」との言葉。

私は息子達の顔を見た。
そして、少し間を置いてから頷いた。

「ラフ、ありがとう。いっぱい頑張ったね、偉かったよ。大丈夫、父さんが天国で待っているから。父さんによろしくね」
ラフを撫でながら話しかける私の隣で、長男と二男が泣いていた。

「じゃぁまたね、ラフ」

主治医が、ラフのお尻辺りに注射を打つ。
透明な液体が、ラフの体に吸い込まれていく。

「段々意識がなくなります」
主治医がひとこと。
そして、ほんの少しだけラフの目に残っていた光が、すうっと消えていった――

7月18日夜8時10分過ぎ、ラフは天国へと旅立った。
私には、注射を打ってからラフの命が消えるまでの数分間の記憶が、靄がかかったようにぼんやりとしか浮かばない。無意識のうちに、私はその数分間に鍵をかけてしまったのかもしれない。

 

 ありがとうラフ

11年前のあの日、主人が突然連れてきた貧弱なゴールデンレトリバーは、いつも私の傍に居た。どんなに曲がりくねった道も、気の遠くなるような坂道も、私と一緒に歩いてくれた。
「でも、これからは、私1人で歩いて行かなきゃね」
天国に行ってしまったラフに、私は今も語りかけている。

ラフと一緒に、前だけを見て歩いた時間は、私の誇り。
ラフの死にざまは、私の生きざまそのもの。
きっとラフとの思い出は、これからもずっと私を支えてくれることだろう。

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ありがとう、ラフ。
あなたと歩いた日々は、宝物だよ。

 

――ララフと歩いた日々(3/3)了 ――

文:樫村 慧
 ▶ 作者の一言
 ▶ 樫村 慧:犬の記事 ご紹介
 ▶ 樫村 慧:猫の記事 ご紹介

――前話――

愛犬の闘病が末期になると、飼い主は人間の食べ物を与えますね。
それまでは健康を気遣って、絶対に食べさせなかったものを。
療養食が食べられなくなり、犬のおやつが食べられなくなり――
だから、仕方なく――
「何でも良いから食べて欲しい」
その願いがが半分。
覚えておいてね。
それはね、飼い主の愛情の味なんだよ。

まとめ読み|ラフと歩く日々
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧いただけます

セルフコメンタリーバージョンです。

――本連載の1話目です――

本作はゴールデンレトリバーの愛犬ラフを描いたエッセイで、『ラフと歩いた日々』の続編です。
来月の18日で愛犬ラフが亡くなって2年。いなくなってからも、ラフの最後の時間を残しておこうと思いながら3ヶ月間書けませんでした。ラフとのかけがえのない日々は今もずっと私の事を守ってくれています。

 ラフと歩く日々

本作『ラフと歩いた日々』は、『ラフと歩く日々』の続編です――

ホームセンターで売れ残っていた、雄のゴールデン・レトリーバー。
このお話は、ラフと名付けられたその子と、それを飼う事になった一家の絆を描いた実話です。
愛犬との思い出は、愛犬だけとのつながりでは無くて、家族や友人の思い出ともつながっている。愛犬との良い思い出は、家族との良い思い出でもある。
そんなことを感じるお話です。

 樫村慧|他の作品

近しい方のペットが病気になったとき、一声かけてあげたくなりますね。
励ましてあげたいんです。でも、どんな言葉を掛ければいいのか?
経験した人なら分かりますね。悪気なく、心からの思いで掛けた言葉が、時に相手を傷つけてしますのです。

いつも散歩道で会っていた、土佐犬リンんちゃん。
いつしかそのリンちゃんは、散歩道に現れなくなりました。飼い主さんが人と会うのを避けるようになったのです。大型犬で闘犬の血が流れたリンちゃんには、いわれのない偏見の目が合ったのです。

安楽死を考える

ペットの安楽死について、考えたことがありますか?
多くの方は、考えたくもないというのが、正直な気持ちでしょうか?

誤解されやすいのですが、安楽死は”死なせる”ことではありません。
どうやって生かすかを、正面から見据えることでもあります。
安楽死を意識した途端に、ペットの生は輝くのです。

安楽死は、事前に深く深く考えておかないと、「その時」に、
”する/しない”の選択ができなくなります。
思考が止まるからです。

賛成も反対も、ご意見があることでしょう。
一緒に考えてみませんか。安楽死について。

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