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【看取り】【安楽死】消えない光 ~ラフと歩いた日々(3/3)~

f:id:masami_takasu:20180408112957j:plain撮影:樫村 慧(本作は2016年10月に執筆されたものです)

7月18日月曜、明け方。ラフが突然の下痢。
トイレシートは敷いてあったが、お尻周りや尻尾が汚れてしまって、さあ大変。

お風呂まで連れて行くのは難しいので、その場で拭こうとするが、お尻を触られるのが嫌らしくラフが怒る。仕方がないので、唸るラフを長男がタオルで包み押さえて、私が洗面器に入れたお湯で何度も洗い落とした。
ほぼ何も食べず、熟睡もしていないのに、どうしてこんなに怒る力があるの?
私がそう思うほど、ラフの唸り声は険しかった。

何とか洗い終えると、ラフはスッキリとしたのか、またウトウトし始めた。
しかし、完全に寝入るわけではない。ウトウトしては目を開けて、長男か私が隣にいるのを確認している。

朝から夕方までは、ずっとそんな調子だった。

■ 7月初旬の頃のラフ

たまたま私が洗面所に居た時だ。私を呼ぶ、二男の声が聞こえた。
駆けつけるとそこには、突然の痙攣に襲われたラフがいた。

凄まじい発作。
グワングワンと痙攣するラフの体を、必死に押さえる私。
「ごめんね、ごめんね」
涙が止まらない。

痙攣がおさまった後のラフは、それまで見たことのない、戸惑ったような目をしていた。そして放心状態がしばらくしておさまると、まるで文句を言うように「うう〜、う〜、うう〜」と長いこと唸っていた。

それは、朝汚れたお尻を洗う時の怒りの声とは違い、「ツライんだよ、これはなんでなの?どうしてなの?」と、必死に訴えているような声だった。

「うん、うん、ごめんね、苦しいよね、ごめん」
ラフの悲しい声を聞きながら、私は撫でてあげることしか出来なかった。
やがて、私の心の中では、ひとつの決意が固まっていった。

■7月18日(別れの日)の昼過ぎ
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「痙攣が起きてしまったし、もう母さんはラフをラクにしてあげたいと思うんだけど……」
私がそう切り出すと、長男はしばらく黙った後「うん……、とりあえず病院に電話してみようか」と答えた。

主治医に事情を説明して、安楽死を考えていると伝えると、受話器の先からは、「もうかなり厳しいですね。今、妻が不在で安楽死の処置が難しいので、7時半過ぎもう一度電話をくれませんか」との返答。

そこから1時間半ほどは、意識が朦朧としているラフを3人で撫で、話しかけながら約束の時間を待った。
そして私たち家族は7時半過ぎに、ラフを車に乗せて病院へと向かった。

知的障害のある二男には、もうラフとはお別れなのだ、ラフは天国の父さんのいるところに行くのだと、彼にもわかるように何度も伝えた。

病院では、院長先生と奥さんのユカ先生が待っていて下さった。
私たちは家族で抱えて、ラフを診察台に乗せた。
その時だった。思ってもいなかった事が起きた。
意識が朦朧としていたはずのラフが、頭を上げようとしたのだ。

「ラフ、病院だよ。先生もユカ先生もいるよ」
とっさに私は、ラフに話しかけた。
しかし正直言って、決心したはずの心が少し揺らいでいた。

主治医はラフに聴診器を当て、その後触診。
ユカ先生から、「ご家族3人とも、本当によろしいんですね?」との言葉。

私は息子達の顔を見た。
そして、少し間を置いてから頷いた。

「ラフ、ありがとう。いっぱい頑張ったね、偉かったよ。大丈夫、父さんが天国で待っているから。父さんによろしくね」
ラフを撫でながら話しかける私の隣で、長男と二男が泣いていた。

「じゃぁまたね、ラフ」

主治医が、ラフのお尻辺りに注射を打つ。
透明な液体が、ラフの体に吸い込まれていく。

「段々意識がなくなります」
主治医がひとこと。
そして、ほんの少しだけラフの目に残っていた光が、すうっと消えていった――

7月18日夜8時10分過ぎ、ラフは天国へと旅立った。
私には、注射を打ってからラフの命が消えるまでの数分間の記憶が、靄がかかったようにぼんやりとしか浮かばない。無意識のうちに、私はその数分間に鍵をかけてしまったのかもしれない。

11年前のあの日、主人が突然連れてきた貧弱なゴールデンレトリバーは、いつも私の傍に居た。どんなに曲がりくねった道も、気の遠くなるような坂道も、私と一緒に歩いてくれた。
「でも、これからは、私1人で歩いて行かなきゃね」
天国に行ってしまったラフに、私は今も語りかけている。

ラフと一緒に、前だけを見て歩いた時間は、私の誇り。
ラフの死にざまは、私の生きざまそのもの。
きっとラフとの思い出は、これからもずっと私を支えてくれることだろう。

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ありがとう、ラフ。
あなたと歩いた日々は、宝物だよ。

――ララフと歩いた日々(3/3)了 ――

 

文:樫村 慧

――前話――

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

――本作は下記作品の続編です――

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