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【ステロイドの減薬】減薬の経過と免疫抑制剤のこと【実例と体験談】

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撮影&文|高栖匡躬
誤解の多いステロイド剤(3/3)
 
 

前回はステロイド剤の減薬については、唯一の答えは無いということを書きました。

答えが無い以上は、飼い主が試行錯誤して、自分なりの答えを見つけていくしかないわけです。しかしそれを、全くゼロの状態から行う必要はありません。
少ないながらも情報はあります。その1つが他の飼い主の体験談です。

何をどう試みたのか? その結果はどうだったのか?
それはとても参考になるものです。特に失敗の経験は役に立ちます。

本記事では、ケーススタディとして、ピーチーの事例をご紹介したいと思います。

 

こんな方に
ステロイド剤は不安|悪い情報ばかり耳にする|与えない方が良いの?|一度使うと、やめるのが大変らしい|皆さんどうしているの?|経験者の話を聞きたい

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まずは、前記事でも触れたことですが、ピーチーの過去のステロイドの使用歴について、もう少し詳しく書いておきます。

もしかするとそれが、減薬の苦労と何らかの因果関係があるかもしれません。

ピーチーがステロイド剤を使い始めたのは、生後6か月の子犬のころから。最初は1/4錠くらいで、多分頓服です。

残念ながら当時の処方については記録していません。

だんだん痒みのコントロールが効かなくなり、専門の皮膚科のある麻布獣医大学に二次診療をお願いしたのが、ピーチーが5歳と11か月の時です。

ここから処方量が記録してあります。

記録によると、当時飲んでいたのは『セレスタミン』という、抗ヒスタミン剤とステロイド剤を混合した薬です。
1/4錠を基本にしながら、痒みの強い時には1/2錠を服用し。状態の良い時には0錠の日もありました。

それ以降は薬の量、飲ませ方のサイクル、他の薬との組み合わせを色々と試しながら、半年後には『セレスタミン』から『プレドニゾロン』(プレドニン)に切り替わっています。

2年間掛けて、ようやく痒みのコントロールができた時には、『プレドニゾロン』1/4錠に落ち着いていました。
因みにこのとき、皮膚炎の治療で同時に服用していたのは『グリチロン』2錠/日と、『エファベット』1カプセル/日です。

その後は段々と処方量が増え、8歳の頃には1/2錠が基本に、9歳と6か月の頃は1錠を連続して与える日が増え、10歳になると1錠/日が基本で、ときどき2錠になっています。

12歳の時に急性膵炎から胆管閉塞を併発して以降は、肝臓を保護するために、肝臓に負担を掛けるステロイドの服用は中止。

この頃から飲み始めたのが、当時は新薬だった強肝剤のウルソです。
ウルソも痒みの緩和作用があったことが幸いし、ここから2年はステロイド剤は、痒みの酷い時だけ1錠の頓服となっています。

経口剤以外には、スプレー式の外用薬ステロイド剤『コルタバンズ』を併用。これはまだ治験薬だった頃からお世話になっています。

そして問題が、14歳を目前に発症した劇症肝炎。
そこでステロイドの大量投与が始まり、やがて副作用を避けるために減薬を開始。
離脱症状と闘うことになります。

その後は、ステロイド剤が免疫抑制剤に切り替わっていきますが、その過程は、それはそれで専門性があるので、別の記事にまとめようと思います。

 

 ステロイドの大量投与について (どれほど大量なのか?)

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ピーチーが劇症肝炎を抑えるために選択したのが、ステロイドの大量投与でした。

医師からは明確な説明は受けていませんが、それは恐らくパルス療法というもので、3日間1クールで、点滴を使ってステロイドを直接血管内に入れるものであったはずです。

緊急的な状況では、飲み薬では効果が出るまでに時間がかかるためです。

担当医との相談の上で方針を決め、その直後から始まったのがステロイドの大量投与によって、ピーチーは劇的に回復しました。そして4日後にはもう退院を迎えます。

退院後に処方されたステロイド剤は、1日12錠(朝6錠、夜6錠)。
14kgの体重のピーチーで12錠ということは、日本人の平均体重65kgで換算すれば、何と1日で56錠も飲む計算です。

いかに大量であるかが分かると思います。

 

 減薬を始めるまでの経過

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退院後のピーチーの体調は非常に良く、飼い主としては、ひとまずホッと一息つけました。しかし1週間弱で、急に状況が変わりました。

ピーチーはぐったりとして、ヨタヨタとしか歩けなくなってしまったのです。

そこで主治医と、二次診療の担当医の両方に相談し、免疫抑制剤『アトピカ』の処方が始まりました。

ステロイド剤をこれ以上増やしたくはなかったし、もともとステロイド剤は免疫抑制剤に切り替えていくことにはなっていたからです。
『アトピカ』もまたピーチーには良く効いて、3日ほどでピーチーはまた元気な状態に。

『アトピカ』の効果が確認できた段階から、ステロイド剤は減薬を始めることになっていました。

しかし、この薬の主成分であるシクロスポリンは、血中濃度が安定するまでに3週間掛かるとの事です。よってしばらくは両剤を併用することになりました。

その後は薬の効果に波があり、ピーチーは元気な状態と、歩行困難なほどふらつくことの繰り返しでした。

この時点では歩行困難が自己免疫不全によるものなのか、ステロイド剤の副作用による、筋力の減退によるものなのかの区別はつきません。

しかし激やせ状態が目立ち始めたことは、明らかにステロイド剤の影響と思われましたので、減薬は速やかに行うべきという判断で、主治医と意見は一致していました。

こんな状態で、減薬までの3週間を待ったのです。

 

 いよいよ減薬開始

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『アトピカ』の処方が始まってから3週間が過ぎ、血液検査でシクロスポリンの濃度を確認したところ、ぎりぎりで必要濃度をクリア。
しかしその直後に、またピーチーの状態また悪化したため、『アトピカ』の処方量を倍に増やし、状態が安定してから減薬を開始することになりました。

記録を見ると、1日12錠は、丁度1か月続けたことになります。

前にも書きましたが、減薬は3日に2錠ずつ減らスペースで始まりました。

12錠→10錠→8錠→6錠
という感じです。

時折、ピーチーが震えたり、肩で息をする症状が見え始めたため、6錠を切ったところで、飼い主側の判断で減らすスピードを調整しました。
4日で1錠ずつ減らすペースです。

6錠→5錠→4錠
ここまでは割と順調だったと思います。

3錠に減ったあたりで、食欲に少し陰りがでてきました。
離脱症状の1つである食欲不振が現れたのです。
これは副腎の働きに由来するのか、ステロイド剤の副作用である、食欲亢進のリバウンドによるものなのかは分かりません。

減薬が始まって30日後、1日1錠まで減った段階で、ピーチーの食欲は最も低いレベルまで落ち、最早ドライフードは受け付けず、鶏肉と白米しか食べない状態に。

更に2日たつと体の震えが大きく、寝転ぶと立てない状態。
一時は夜間に、救急救命に連れて行くことを考えるほど。

主治医と相談の上で、減薬がまだうまく行っていた頃の分量、1日4錠の状態にもどしたところ、ピーチーは小康状態に。

この時点で、1週間前に行った血液検査では、『アトピカ』を増量しているにも関わらず、シクロスポリンの血中濃度はまだ必要濃度の最低レベルを保っているだけ。

そこで更に『アトピカ』を2倍(100mg×2錠で、最初の頃の50mg×1錠の4倍)に増やしました。

このように、減薬は試行錯誤の中でやっていきます。
獣医師側にも明確な答えが無い以上、飼い主がしっかりと観察をし、適切な対応をしていくしかありません。

飼い主から獣医師にフィードバックする情報の量と精度で、治療のの成果は上がりやすくなるとも言えるわけです。

 

 許される範囲の工夫(飼い側で出来る工夫)

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筆者の経験では、全体的な傾向として、ステロイド剤は朝与えた方が良い(お得)という印象でした。

ピーチーの場合は、ステロイドを処方される場合に、朝と夜に等量服用するように指示を受けましたが、実際に与えると等量ではなく、朝の方を多くした方が経過が良かったのです。

獣医師に確認したところ、朝の濃度を高くするという調整は問題ないし、妥当とのことでした。

それは、下記の考えによるものです。

①常に一定の血中濃度で果たして良いのか?
 (体が薬に慣れてしまう可能性)
 (常に肝臓に負担を掛けるのではなく、休ませる時間を作る)
②症状の緩和(例えば痒みを抑えるため)で処方する場合、
 寝ている間にそれが起きないのなら、起きている時間に集中した方が良い。

投与する薬の総用量を同じにして、与え方を変えると言う工夫は、1日の中だけでなく、複数の日に渡って行うこともできます。

例えば一日おきに倍量を与えるなどです。
ただし、あまりドラスティックに行うことはおすすめしません。
獣医師と相談しながら、少しずつ変化を試すと良いと思います。

過去の例では、1日に2錠(朝1錠、夜1錠)を処方された犬で、期待する効果が出なかったという例がありました。
薬の与え方を変えてみてはどうかとのアドバイスをしたところ、朝1.5錠、夜0.5錠で状況が改善し、主治医からの指示もその後、そのようになりました。

 

 この記事のまとめ

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ここまでがステロイド剤のケーススタディです。
当時の時点で、ステロイド剤増量のためか、減退していた食欲が回復。
体の震えはほぼ毎日。足腰は良い日と悪い日を繰り返していました。

その後は、万が一状態が悪化するか、或いはシクロスポリンの血中濃度が上がらない場合は、『アトピカ』を別の薬に切り替えることになっていました。

しかし幸いにも状態が改善したために、減薬を再開していきました。
ここから先は、免疫抑制剤『アトピカ』がメインで、そこに至る過程でステロイド剤を補助的に使うと言う位置づけになっていきます。

これ以降の経過は、免疫抑制剤として記事をまとめる予定です。

当時は減薬の難しさと共に、自己免疫不全との付き合い方の難しさを実感する日々でした。しかし、死が目前にあった状態に比べれば、贅沢は言えません。
飼い主は手探りで、色々と試し経験を積みながら、自分なりの解決法を探っていくしかありません。

つくづく、この時に得た情報が、減薬を開始する時(この時点の2か月前)にあれば、闘病はずっと楽だったのにと感じます。

ピーチーの体験が、いつか誰かの役に立てば良いのですが。

 

 付録|ステロイド剤の使用例

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以下はステロイド剤によって、死の一歩手前の劇症肝炎からわずか3日で回復した実例です。

以下は、自己免疫不全の事例です。闘病記としても読むことができます。

 

――ステロイド/知っていれば怖がらなくて良い(3/3)・つづく――

 ――免疫抑制剤の記事に続きます――

文:高栖匡躬
 ▶プロフィール
 ▶ 作者の一言
 ▶ 高栖 匡躬:犬の記事 ご紹介
 ▶ 高栖 匡躬:猫の記事 ご紹介

――次話|次のシリーズ記事です――

愛犬ピーチーの体験談、次回は免疫抑制剤のシリーズ記事です。

ステロイド剤から免疫抑制剤への切替は簡単ではありませんでした。
今回はその難しさの実例を。
犬の原因不明の病気の影には、自己免疫不全があるように思います。
実は多くの犬が、無縁でないのでは?

――前話――

作者の愛犬が行った治療法は、ステロイドの大量投与。
即効性がある反面で、副作用が顕著に出てきます。
薬を減らすときの『離脱症状』も、より大きなものです。
失敗もありました。
そこで分かったのは、医師も良く知らないんだということでした。

まとめ読み|ステロイド剤と減薬について
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。

――このシリーズ記事の1話目です――

ステロイド剤は一般的な薬であるにも関わらず、必要以上に嫌われているように感じます。その原因として、適切な使用方法が行われておらず、そのために無用の副作用を被る場合が多いのだと想像できます。

実際に飼い主さんたちが書いた体験談(闘病記)を読むと、動物医療の専門家である獣医師でさえ、ステロイド剤の功罪を良く知らないで使っている場合が多いように思えるのです。

 賢い獣医師選び、動物病院びの記事です

続:獣医師選びの方法教えます

”良い”獣医師選びは、飼い主の責任でもあります。
目的は常に動物の病気を治すこと。
そのために獣医師は何をすべきか?
そう考えると、自然に”良い獣医師”とは何かが分かってきます。
現場を知るからこそ出来るアドバイス。

獣医師選び|名医とヤブ医者

記事の編集で、多くの体験談に触れていると、名医がいる一方で、信じられないヤブ医者もいる事がわかります。
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