テツへの手紙(3/4)

苦渋の決断
その夜、パパと私とテツの3人は、リビングに一緒に寝ました。
テツは呼吸が苦しそうでした。しかし私はそんなテツをどうすることも出来ず、ただただテツの頭や身体を撫でてあげることしかできませんでした。
テツはたまに頭を上げては、ソファで寝ているパパがそこにいることを、確認するかのように見上げていました。
テツは私がウトウトすると、「ク~ン、ク~ン」と鳴きました。
それはまるで「ママ、寂しくなるから寝ないでお願い」と言っているようでした。
私は「大丈夫、大丈夫」と言いながら、テツの頭や体を撫でました。そうしてあげるとテツは安心した顔になりました。
この夜のことを、私は一生忘れないでしょう。
●
パパと私は考え考えて、悩んで悩んで、苦渋の決断をしました。
それは――、私があんなに嫌だと思っていた「安楽死」です。
――翌日の9月30日(土)、病院へ行く事になった朝――
テツの顔はとっても寂しそうな顔をしてました。
「これからどこへ行くの?」
「どこへ僕を連れていくの?」
テツがそう考えているように思えました。
私はとっても切なかった――
とっても苦しかった――
病院へは、車で10分ほどの道のりです。
私には、その時間がものすごく長く感じられました。
頭の中では、テツとの幸せな日々が走馬灯のようにぐるぐると巡ります。
「ごめんねテツ、ごめんねテツ、助けてあげられなくてごめんね 」
涙が止まりませんでした。
●
――しかし、病院に着いてみると――
なんとその日は病院はお休みでした。土曜日はいつもやっているのに……
私はちょっとだけ、ホッとした気分でした。
また数日、テツと一緒にいられると――
●
けれどそれは、私の自分勝手な気持ちです。
何故ならば、テツにしてみれば、月曜日まで苦しい日が続くのですから。
「ごめんねテツ」
私は心の中で、テツに詫びました。
一旦家に戻った私たちですが、パパにはどうしても実家に行かなければならない用事があり、仕方なくテツと私を置いて出かけて行きました。
私はその後すぐに胸騒ぎがしました。
『もしかしたらテツは、一番愛していたパパと最期に会えない かも……』
すぐ電話して、パパに言いました。
「もしかしたら最期会えなくなるかも知れない。なるべく早く帰ってきて」
と――
●
パパは用事を済ませると、すぐに家路につきました。
私は祈るような思いで、パパを待ちました。
テツも一生懸命、最愛のパパの帰りを待っていました。
パパが家に着く20分位前から、テツはパパを呼ぶようにクンクンと泣き始め、私は
テツを撫でながら、「大丈夫、もう帰ってくるよ」と、繰り返しテツに話しかけ続けました。
私とテツの祈りが通じたのでしょうか?
テツの最後の望みは叶えられました。
パパはテツの最期に間に合ったのです。
それから30分後に、テツの心臓は ”コトッ” 最後の鼓動を打ちました。
眠るように穏やかに、テツはお空に旅立っていきました。
●
テツは最後まで、必死になって立とうとしていました。
テツは生きようとしていたのです。
~頑張ったね、テツ~
~勇敢だったよ、テツ~
~パパとママは、テツを誇りに思っているよ~
テツは親孝行な、最高の息子でした。
寝たきりにもならず、最期を迎える前日まで歩けていました。
パパの仕事がお休みの日を選んだのも、テツの思いやりでしょう。
テツはきっと自分で決めたんだと思います。
安楽死ではなく、自宅で、私達に看取られたいと。
テツがパパと共に最期を迎えられて、本当に良かった。
そう私は思いました。
――テツへの手紙(3/4)つづく――
文:テツのママ
――次話――
本話の最終話です。
テツがいなくなってから、不思議な事が起き始めます。
それは、テツからのメッセージ?
ママには少しだけ後悔のようなものがあって、そのことを思いながら、
テツに語りかけます。
「パパとママの子になって幸せでしたか?」
――前話――
幸せな日々。
優しくて、誰からも愛されるテツ。
しかし10歳を迎え、テツは衰えが目だってきます。
11歳、衰えは更に――
「テツが苦しんで最期を迎えるのは可哀想……」
――家族の葛藤の始まりでした。
生きるってどういいこと?
愛するってどういうこと?
●
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
●
――この連載の第1話です――
オーストラリア犬のテツは、11年前にうちにやってきた。
子犬のくせに大きな手。
ママはそんなテツを、しっかり守ってあげなきゃと思ったの。
家族の愛情の中で、テツはスクスクと育っていきます。
大きな体のやさしい子。
テツと家族の物語。
●
終末期にのぞむ
虹の橋の詩を、をより深く味わうために
『虹の橋』は広く知られています。
しかしながら、『虹の橋』の言葉は、間違えて使われるケースがよくあります。
「虹の橋を渡った」という使い方が、もっとも多く見受けられる誤用です。
『虹の橋』は真意を理解した方が、より深い感動があります。
一度この記事をご覧になってみてください。
犬の寿命は人間よりずっと短いですね。それを、はかないと感じますか?
犬は何をやるのも一生懸命。
きっとその一生を、全力で駆け抜けていくのだと思います。
だから、別れの言葉も、それにふさわしいものを送りたい。