犬を飼うということ

いつまでも君と……

りんちゃん、またね! ~お盆に起きた奇跡:リンちゃんとの再会(3/3)~

f:id:masami_takasu:20180913235901j:plain文:樫村 慧

リンちゃんもラフも成長して、お互いに顔を合わせることがなくなっても、そのリンちゃんを迎えることになった経緯の話は、ずっと胸の奥に残っていた。

他の思い出よりもかなり色濃く私の記憶に刻まれていた。

そして話は、リンちゃんが亡くなった時のことへーー

ラフが亡くなった年の11月に、リンちゃんは旅立ったそうだ。 
リンちゃんの年齢は、はっきりとはわからないが、ほぼラフと同じ11歳か12歳だったのだろう。50キロあった大型犬としては長生きしたんだな。そう思うと嬉しかった。

リンちゃんは、まだお母さんがお散歩していた頃から、うちの近所にあったおじいちゃん先生のいる動物病院に通っていた。

今では、もう無くなってしまったその病院が、リンちゃんは大好きで、お散歩の途中でも立ち寄ろうとして、お父さんをグイグイ引っ張って行き、病院内をグルリと回って帰ってきていたそうだ。

そこのおじいちゃん先生のことも大好きで、病院は楽しいところ、というイメージだったのだろう。

 

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そんなリンちゃんの頭に、亡くなる1年ほど前から血の塊(おそらく血腫と思われる)が出来てしまった。

おじいちゃん先生の病院では手におえなかったのだろう、検査のために他の動物病院を紹介されたそうだ。

その紹介先の病院でのことーー 

リンちゃんが土佐犬(だろう)とわかるなり、「他の動物になにかあっては大変なので、全ての診察が終わってから来てください」と言われたそうだ。それだけではない。

診察室に入ると、先生が「この診察台に上げてください。上げられなければ診察は出来ません」と言って隣の部屋に行ってしまったそうだーー

その話を聞いて驚き、呆然とする私に、リンちゃんのお父さんは「頭にきて、検査結果の用紙もらいに行ったきり、二度とそこには行ってない」と言った。そして「リンをね、土佐犬とは、私は思ってないんだよ」と続けた。

街の小動物を診てくれるのが、動物病院なのではないのか?
50キロあったら、土佐犬かもしれなかったら、こんな仕打ちに合うというのだろうか?

「だからね、おじいちゃん先生の病院で診てもらってて。おじいちゃん先生はね、犬の治癒能力を信じてやればいい、って言っててね」
その言葉からは、おじいちゃん先生が、詳しい病名や、細かい治療ではない、リンちゃんと飼い主さんが、穏やかな気持ちで過ごしていける道を選んだのだな、ということが伝わってきた。

おじいちゃん先生を非難するつもりはない。しかしリンちゃんは結果的に、スタンダードな医療を受ける機会が閉ざされてしまった。
私はその背景に、闘犬犬種に対する偏見や差別、誤解が根強くあることと、それによって翻弄され、苦悩する飼い主が存在することを知ることになった。

 

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頭に出来た血の塊から流れ出る血液は、目からも流れることがあったそうだ。リンちゃんの目から流れ出る血を見なくてはならなかった飼い主さんご夫婦の気持ちはどんなものだったろう…

亡くなるまで1年もの間、家の中には、流れ出る血液で汚れないために、ペットシートを敷き詰めていたそうだ。血の塊からの出血はあるものの、リンちゃんは比較的元気で食欲もあり、亡くなる数日前まで歩いていたそうである。

そして、その朝ーー

仕事に向かうお母さんが、「仕事に行ってくるからね。大丈夫、すぐ帰ってくるから」と言うと、リンちゃんな寂しそうに、何かを言いたそうな顔をしていたらしい。家にいたお父さんさんによると、リンちゃんは眠るように息を引き取ったそうだ。

川に捨てられていたという過去がありながら、愛情深く育ててもらったリンちゃんは、最期まであたたかい光に包まれて幸せだったんだな、と思える旅立ちだった。

今、リンちゃんの飼い主さんご夫妻にはお孫さんもいて、穏やかに過ごされているそうだ。このサイトも覗いて下さっているそうで、嬉しくて、それでいて、とても不思議な気持ちになった。

リンちゃんのお母さんは「リンちゃんの犬友達は、ラフちゃんともう1匹コーギーちゃんだけだもんな」と思い出を噛みしめるように話した。

ラフもあまり他の犬と仲良くするタイプの子ではなかった。幼馴染と言える存在は、リンちゃんだけだったと思う。

 

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ある日突然、主人が連れて帰ってきた売れ残りのゴールデンレトリバーと暮らした私。

川に捨てられていた土佐犬のような子とひょんなことから暮らすようになったリンちゃんの飼い主さんご夫妻。

同じ時期に、同じように飼い主となって出会い、それぞれの愛犬が亡くなって2年が経ったお盆に、再会出来た奇跡は、お空にいるリンちゃんとラフの、粋な計らいなのだろうかーー

ラ〜フ、そっちではリンちゃんと仲良くやってますか?

こっちは何も変わらないよ。あの川沿いの道も、陸橋の下も、相変わらず、いろんなワンコがお散歩してる。今年の夏はね、とても暑かった。でもね、そんな暑い夏の日に、素敵なことが起きたよ。

とびきりご機嫌なサプライズがあったこの夏を、母さん、きっとーー

ずっと忘れないと思うーー

最後に一つ、お詫びしなくてはならないことが……

拙作「白いソックスを履いたリンちゃん」で、私はリンちゃんを称して、前脚の右か左がソックスを履いたように白い、と書いていたが、実際には、4本の脚が全て白いソックスを履いたように白かったそうだ。

そこは、おっちょこちょいな私のあやふやな記憶のせい、ということでお許しいただきたい。

 

――了――

文:樫村 慧

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