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【お盆に起きた奇跡】りんちゃん、またね! ~土佐犬リンちゃんとの再会(3/3)~【体験談】

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リンちゃんが起こした奇跡
土佐犬リンちゃんが起こした奇跡

文|樫村 慧
 
こんな方へ
犬には不思議な力があると思う|犬が繋いでくれる縁がある|土佐犬は飼いにくいの?|大型犬を飼う苦労は?|普通の家庭で飼えるの?|実際に経験した人の体験談を読んでみたい

 会えなくなってからのこと

リンちゃんもラフも成長して、お互いに顔を合わせることがなくなっても、そのリンちゃんを迎えることになった経緯の話は、ずっと胸の奥に残っていた。

他の思い出よりもかなり色濃く私の記憶に刻まれていた。

そして話は、リンちゃんが亡くなった時のことへーー

ラフが亡くなった年の11月に、リンちゃんは旅立ったそうだ。 
リンちゃんの年齢は、はっきりとはわからないが、ほぼラフと同じ11歳か12歳だったのだろう。50キロあった大型犬としては長生きしたんだな。そう思うと嬉しかった。

リンちゃんは、まだお母さんがお散歩していた頃から、うちの近所にあったおじいちゃん先生のいる動物病院に通っていた。

今では、もう無くなってしまったその病院が、リンちゃんは大好きで、お散歩の途中でも立ち寄ろうとして、お父さんをグイグイ引っ張って行き、病院内をグルリと回って帰ってきていたそうだ。

そこのおじいちゃん先生のことも大好きで、病院は楽しいところ、というイメージだったのだろう。

 

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そんなリンちゃんの頭に、亡くなる1年ほど前から血の塊(おそらく血腫と思われる)が出来てしまった。

おじいちゃん先生の病院では手におえなかったのだろう、検査のために他の動物病院を紹介されたそうだ。

その紹介先の病院でのことーー 

リンちゃんが土佐犬(だろう)とわかるなり、「他の動物になにかあっては大変なので、全ての診察が終わってから来てください」と言われたそうだ。それだけではない。

診察室に入ると、先生が「この診察台に上げてください。上げられなければ診察は出来ません」と言って隣の部屋に行ってしまったそうだーー

その話を聞いて驚き、呆然とする私に、リンちゃんのお父さんは「頭にきて、検査結果の用紙もらいに行ったきり、二度とそこには行ってない」と言った。そして「リンをね、土佐犬とは、私は思ってないんだよ」と続けた。

街の小動物を診てくれるのが、動物病院なのではないのか?
50キロあったら、土佐犬かもしれなかったら、こんな仕打ちに合うというのだろうか?

「だからね、おじいちゃん先生の病院で診てもらってて。おじいちゃん先生はね、犬の治癒能力を信じてやればいい、って言っててね」
その言葉からは、おじいちゃん先生が、詳しい病名や、細かい治療ではない、リンちゃんと飼い主さんが、穏やかな気持ちで過ごしていける道を選んだのだな、ということが伝わってきた。

おじいちゃん先生を非難するつもりはない。しかしリンちゃんは結果的に、スタンダードな医療を受ける機会が閉ざされてしまった。
私はその背景に、闘犬犬種に対する偏見や差別、誤解が根強くあることと、それによって翻弄され、苦悩する飼い主が存在することを知ることになった。

 

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頭に出来た血の塊から流れ出る血液は、目からも流れることがあったそうだ。リンちゃんの目から流れ出る血を見なくてはならなかった飼い主さんご夫婦の気持ちはどんなものだったろう…

亡くなるまで1年もの間、家の中には、流れ出る血液で汚れないために、ペットシートを敷き詰めていたそうだ。血の塊からの出血はあるものの、リンちゃんは比較的元気で食欲もあり、亡くなる数日前まで歩いていたそうである。

そして、その朝ーー

仕事に向かうお母さんが、「仕事に行ってくるからね。大丈夫、すぐ帰ってくるから」と言うと、リンちゃんな寂しそうに、何かを言いたそうな顔をしていたらしい。家にいたお父さんさんによると、リンちゃんは眠るように息を引き取ったそうだ。

川に捨てられていたという過去がありながら、愛情深く育ててもらったリンちゃんは、最期まであたたかい光に包まれて幸せだったんだな、と思える旅立ちだった。

今、リンちゃんの飼い主さんご夫妻にはお孫さんもいて、穏やかに過ごされているそうだ。このサイトも覗いて下さっているそうで、嬉しくて、それでいて、とても不思議な気持ちになった。

リンちゃんのお母さんは「リンちゃんの犬友達は、ラフちゃんともう1匹コーギーちゃんだけだもんな」と思い出を噛みしめるように話した。

ラフもあまり他の犬と仲良くするタイプの子ではなかった。幼馴染と言える存在は、リンちゃんだけだったと思う。

 

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ある日突然、主人が連れて帰ってきた売れ残りのゴールデンレトリバーと暮らした私。

川に捨てられていた土佐犬のような子とひょんなことから暮らすようになったリンちゃんの飼い主さんご夫妻。

同じ時期に、同じように飼い主となって出会い、それぞれの愛犬が亡くなって2年が経ったお盆に、再会出来た奇跡は、お空にいるリンちゃんとラフの、粋な計らいなのだろうかーー

ラ〜フ、そっちではリンちゃんと仲良くやってますか?

こっちは何も変わらないよ。あの川沿いの道も、陸橋の下も、相変わらず、いろんなワンコがお散歩してる。今年の夏はね、とても暑かった。でもね、そんな暑い夏の日に、素敵なことが起きたよ。

とびきりご機嫌なサプライズがあったこの夏を、母さん、きっとーー

ずっと忘れないと思うーー

最後に一つ、お詫びしなくてはならないことが……

拙作「白いソックスを履いたリンちゃん」で、私はリンちゃんを称して、前脚の右か左がソックスを履いたように白い、と書いていたが、実際には、4本の脚が全て白いソックスを履いたように白かったそうだ。

そこは、おっちょこちょいな私のあやふやな記憶のせい、ということでお許しいただきたい。

リンちゃんのお父さんが
当時の携帯電話で撮影していた
リンちゃんとラフ

これもリンちゃんの奇跡?

 

――了――

文:樫村 慧
 ▶ 作者の一言
 ▶ 樫村 慧:犬の記事 ご紹介
 ▶ 樫村 慧:猫の記事 ご紹介

――前話――

リンちゃんのお父さん、お母さんの突然の訪問。
当時の思い出が語られます。
50キロの土佐犬を散歩させる苦労。
急にリンちゃんが、他の犬を避けるようになったこと。
そうそれは――
いつの頃からかリンちゃんが、そばに来てくれなくなった理由でした。

まとめ読み|リンちゃんの起こした奇跡
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。

樫村慧コメンタリー版です

 

――この連載の第1話です――

散歩道で知り合った、土佐犬のリンちゃん。
樫村慧さんがその思い出を、エッセイに綴ったのは1年前でした。
今は亡き愛犬ラフの、幼馴染――
ずっと前に、会えなくなって――
何となく気がかりで――
しかし、
エッセイが奇跡を引き寄せました。
今年の夏――

 リンちゃんの思い出

白いソックスを履いたリンちゃん

いつも散歩道で会っていた、土佐犬リンんちゃん。
いつしかそのリンちゃんは、散歩道に現れなくなりました。飼い主さんが人と会うのを避けるようになったのです。大型犬で闘犬の血が流れたリンちゃんには、いわれのない偏見の目が合ったのです。

 樫村慧|他の作品

ラフのいない日々

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それは時に、弱いものを守るためであったりします。

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