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【怖かった副作用】今思えば、やってあげても良かったか【抗がん剤には固定観念が】

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振り返って思うことがある、抗がん剤治療、化学療法
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文:高栖匡躬
動物の抗がん剤治療 飼い主からの視点

我が家の愛犬ピーチーが天国にいって、2年半が過ぎました。
命を奪ったのは、急激に進行した肺がんでした。
主治医からその疑いが強いと言われてから、わずか2週間後のことでした。

ピーチーのことは闘病も介護も看取りも、後悔は全くありません。主治医にも何の不満もなく、感謝しています。
でも1つだけ――
「あれは、どうだったのかなあ?」
と、今も時々思う事があるのです。

それが何かと言うと、ピーチーに抗がん剤治療をしなかったことです。

【目次】

 抗がん剤治療は、当時は全く考えていなかった

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抗がん剤治療をしないのは、我が家の方針でした。
病気になって考えたのではなく、病気になる何年も前、ピーチーが健康な時から決めていた事です。

治る可能性のある病気とは、徹底的に闘う。
しかし、治る見込みのない病気とは無理には闘わないで、良い余生を送らせる。
そう考えていたのです。

今頃になって「どうだったのかなあ」と思うのには理由があります。
ピーチーが去ってからも、筆者は仲間の犬たちの闘病記をよく読んでいたのですが、そこから受けた印象は、抗がん剤治療を行った子たちの副作用が、それほど強くないということです。
もしかすると、動物の場合は薬の処方の仕方が違うのかもしれないなあとも思いました。

 

 実は、選択肢としてあり得たのではないか?

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例えば人間で90歳でガンになった場合と、50歳にガンになった場合とでは、捉え方が違いますね。

90歳の場合は無理に治そうとせず、体に負担を掛けないように、残った人生を楽しく生きようと言う考え方の人が多いと思います。
緩やかな治療にしたり、緩和療法だけにしてホスピスに入ったり。

しかし、50歳の場合は残りの人生を楽しくと考える方は少ないように思います。
自分のためだけでなく、家族の為にも何とか治そう。せめて平均寿命のあと30年くらいは生きたいと思って、無理な治療をしがちです。

では、ピーチーは?
14歳と7か月は、平均寿命は僅かに越えたところでしょうか?
若く見えたけども、もうお婆ちゃん。
無理のない抗がん剤治療という選択肢もあった?

動物の抗がん剤治療って、本当のところはどうなんだろう。
それで、遅ればせながら調べてみたのです。

 

 どうやら、動物の副作用は人間ほどでない

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丁度思った通りの解説をしてくれている記事が見つかりましたので、ご紹介します。
北海道大学の動物医療センターが、ペットのがん治療について分かりやすくまとめたものです。

以下に、該当部分だけ抜きだします。

『抗がん剤治療を受けられる飼い主様へ』

Q.抗がん剤って、副作用がきついイメージがあります。動物でも大丈夫?

人で行われる抗がん剤治療と、犬猫で行われる抗がん剤治療では、薬の量などが全く違います。副作用も、人の治療で見られるひどい吐き気や脱毛といったものは、動物ではあまりみられません。
人医療の場合、腫瘍の完治を目指して、強い副作用も治療のために必要なものと割り切って治療することがあります。これに対して、動物の場合には延命効果よりも普段のQOLの維持を重要視します。家族の一員として飼っている以上、ご家族と一緒に普段どおり過ごせてこそ、治療の意味があると考えられるからです。
犬猫で見られる抗がん剤の副作用は、一般的な抗がん剤の副作用のイメージよりは、ずっと軽度なもの(にとどめられている)のことがほとんどです。もちろん、治る可能性が残されている腫瘍の場合や、長期生存が見込める場合では人と同様に積極的な抗がん剤治療を行うこともあります。
QOLよりも延命効果を優先させるというわけではありません。長期間腫瘍の進行を抑えられれば、それだけ元気でいられる期間、QOLが高い期間が長くなるからです。その場合でも、治療中のQOLも大切にして、できる限り副作用が軽度ですむように多方面からサポートしながら治療を行います。(一部抜粋)

最近動物の病気のことで、よくお話を伺うオタ福さんにも、同じことを聞いてみました。以下はオタ福さんのご意見です。 

オタ福さんの意見

人の抗がん剤治療は腫瘍を倒しに行く“攻め”の抗がん剤治療であるのに対し、 動物の抗がん剤治療は腫瘍の進行を抑える“守り”の抗がん剤治療です。
抗がん剤治療中に予想される副作用についてはしっかりモニタリングし、予防的な投薬を行います。 それでも起こってしまう副作用はありますが、その時はその時で適切な対処を行います。

あくまでQOLを優先するという姿勢は、動物と人間で大きく異なる点と言えるでしょう。

これらの情報を踏まえて振り返ると、あの時、”ピーチーに抗がん剤治療を行う”という選択肢はあったのだと思いました。

そうすべきだったかどうかは、分かりません。抗がん剤が効かない場合も、副作用が強い場合もあります。結局試してみて、その結果で良し悪しを判断するしかないからです。

 

 後悔はないが、当時の判断には少し疑問も

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実は冒頭に書いた、「あれは、どうだったのかなあ?」という疑問は、当時の自分の判断に対しても思っていたことでした。

過去のピーチーの病気(胆管閉塞、劇症肝炎)では、なんとか治してやろうと思って、僅かな可能性に賭けて駆けずり回ったのに、最後の時だけはあまりにもあっさりと白旗を上げた自分の判断に、今更ながら「何故そう思ったのだろう?」と思っていたのです。

ピーチーはあの時、ものすごく急激に原発ガン大きくなって、呼吸が苦しくなったのですが、だからこそそれとは逆に、他の臓器にはまだ何の障害も無いように見えました。本当に苦しくなる数日前までは食欲もあったし、別れの直前まで自分でトイレに行ったし。

だから、治そうとするのではなく、一時だけでも腫瘍を小さくしてやっていたらどうだったのだろうと思うのです。1週間だけでも元気になって、走り回って、ボール遊びをして、大好物を沢山たべさせて、それからお別れをしてやってもよかったかなあと。

更に、急激にガンが大きくなったということは、抗がん剤への反応も良かった可能性があるとも思いました。

 

 治療でもなく延命でもない選択肢

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治療のためでもなく、延命のためでもない抗がん剤治療。
元気(健康と言う意味ではない)な時間を最後に少しだけ用意してあげるような抗がん剤治療。

それは選択することはできたのでしょうか?

上記の北海道大学の情報に、その回答の一部はあるように思うのですが、飼い主側の要望として、そんな選択はできるのか? それは現実的だなのか?

この疑問に関しても、オタ福さんに訊ねてみました。
回答は下記です。

緩和のための抗がん剤治療
緩和療法を目的とする抗がん剤治療は可能です。
癌患者であり抗がん剤を投与しているので、さすがに元気に走り回るとまではいきませんが、呼吸や排泄、摂食をしやすくすることはできます。
肺転移による呼吸困難。
膀胱腫瘍、腸リンパの腫脹による排泄困難。
口腔内腫瘍による摂食困難。
このような障害を解除してあげることはQOLを維持するのにとても大切なことです。
鎮痛剤を用いて、痛みを取り除くこともできます。
なんだか人のターミナルケア(終末医療)と似てますね。
そして、動物の場合はもう1つ考えるべきことがあります。
それは『安楽死』のことです。
センシティブな話になりますが、緩和療法の先に、人生のエンドポイント(安楽死)を設けてあげるのも1つの選択肢でしょう。

 

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ここまで調べてみると、どうやら筆者は必要以上に抗がん剤治療を避けていたのかもしれません。

それは自分の家族がかつて、抗がん剤治療で苦しんだ様子を側で見ていたことや、仕事がらお付き合いのあった複数の医療関係者(癌治療に関わっている)が、『自分にも家族にも抗がん剤は使わない』と断言されたことなどから、頭に染みついていた考えでした。

さて今はどう思うか。
ピーチーの去り方には、相変わらず納得も満足もしています。抗がん剤治療について知識を得た今もそれは変わりません。しかし『あの時、もっと柔軟に考えてあげればよかったかもしれない』という、新しい考えは心にくすぶるようになりました。それは、悔いというほど大きなものではないのですが。

筆者と同じように、抗がん剤を良く調べることもなく避けている飼い主さんは、獣医さんに相談なさることをお勧めします。

”治す”、”延命する”という目的の中間に、”元気な時間を延ばす”という選択肢もあるのだと意識しながら。

 

――【動物の抗がん剤治療】犬や猫は少し違うのです(2/2)――

高栖匡躬
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