狂犬病予防注射の実施率って、本当はどれくらい?
なぜこの記事を書いたか
先日筆者は、ある記事を書くために、犬の飼育頭数を調べていたのですが、情報を集めているうちに、妙な事に気が付きました。飼い犬に対する狂犬病予防注射は、法律で義務化されているにもかかわらず、それを実行していない飼い主さんが意外に多いのです。
28%が予防注射を受けていない?
筆者はこれまで、狂犬病予防注射は必要だと思い、毎年愛犬に行ってきたものですから、びっくりしました。
そこでもっと調べて行くと、驚くべきことが分かってきました。
そして、ある記事を読んだときには、もう絶句。
えっ、実施率って本当は30%台なの?
ほとんどの飼い主さんは、予防注射を受けていないってこと?
「何故こんなことに?」と疑問に思いました。そこでもっと調べました。
やがて、その実行しない理由の根底には、狂犬病予防注射の是非論や、反対論まであることが、分かってきました。
正直な感想を言えば、是非論まではいいのですが、反対論を読むと???
「これって、もしかして議論が噛み合っていないのでは……」
因みに、筆者が計算した数字を元に言うと、
実施率は、50%を少し切ったあたりかなあ?
さてこの数字、あなたならどう思います?
どう捉えたらいいの? 何かおかしくない?
今日はそんなお話です。
犬の飼育頭数、2つの調査
まずは2つの数字をお知らせします。
どちらもが犬の飼育頭数を調査したものです。
方や一般社団法人ペットフード協会の調査による約9,878千頭という数字。
もう1方は東京都福祉保健局の調査で、6,526,897頭いう数字です。。
(表記方法が違うのは、原文をそのまま記載したため)
両者には大きな開きがありますね。約1.5倍もの差です。
実はこの差が、狂犬病予防注射にまつわる幾つもの問題を示唆しているのです。
それでは順を追ってみて行きましょう。
一般社団法人ペットフード協会の調査
同協会では、毎年の全国犬猫飼育実態調査を行ない、その結果を公表しています。そこに書かれているのが、前述の約9,878千頭という数字です。
全国犬猫飼育実態調査
2016年10月現在、20~60代全国の犬の飼育頭数は約9,878千頭、猫の飼育頭数は
約9,847千頭と推計される。犬の飼育頭数は2012年より減少傾向にある。
出典:一般社団法人ペットフード協会
厚生労働省の調査
厚生労働省も同様に、毎年全国の犬の登録頭数を発表しています。
それが上記の6,526,897頭です。
都道府県別の犬の登録頭数
出典:厚生労働省(リンクは2項下に)
この差は何?
さてこの数値の差は、一体何なのでしょう?
どちらかが間違っている?
いいえ、どちらも正解。この差は、調査手法によって生じたものです。
一般社団法人ペットフード協会は、サンプリングによる限定数へのアンケート調査の結果から、52,184人の標本へのモニター調査を行い、ウェイトバックという統計手法で、全体数を類推する手法です。
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一方、厚生労働省は、飼い主から市町村への犬の届け出件数を合計したものを、飼育頭数としています。つまり両者とも間違っていないということです。
さて、ここで分かるのは、厚生労働省のデータには鑑札を持たない未登録の犬たちは、カウントされていません。雑種等で個人間で譲渡される犬や、保護犬の中には未登録の犬たちが沢山いる模様です。
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実数は厚生労働省の数字よりも大きいのは明らかですが、とはいえ登録済の犬と1.5倍もの犬がいるというのも現実離れをしているように思えます。なぜならば、もしもそうであるとすると、犬の中の3頭に1頭は未登録だということになるからです。
恐らく犬の飼育数は、6,526,897頭~約9,878千頭の間にあるのだと、幅をもって理解し、この数字を用いた結果は、概算として捉えるのが適当に思えます。
狂犬病予防注射頭数
さて、狂犬病予防注射の割合を調べるには、大事な数字がもう一つ。それは予防注射を行った頭数です。これについては厚生労働省のデータの中にあり、平成27年度の予防注射頭数は、4,688,240頭と記載されています。
都道府県別の予防注射頭数
平成27年度 予防注射頭数(全国)
4,688,240頭
出典:厚生労働省(リンクは下記に)
狂犬病予防注射の実施率を計算してみた
さて、それでは、狂犬病予防注射の実施率を計算してみしょう。2つある犬の飼育数の両方でそれを行ないます。
厚生労働省の数字で計算すると
4,688,240頭 ÷ 6,526,897頭 = 72%
一般社団法人ペットフード協会の数字で計算すると
4,688,240頭 ÷ 9,878千頭 = 47%
よって、狂犬病予防注射の実施率は
47%~72%という、大きな開きの中にあることになります。
この数字から見えて来るものは?
さて皆さんは、上記の数字をどうご覧になるでしょうか?
少なく見ても、28%もの愛犬家が、犬に狂犬病予防注射を受けさせていないのは、大変に大きな割合に思えます。
一方、多く見た場合には53%という、過半数の愛犬家が予防注射を受けさせていことになります。驚くべき数字です。
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どちらにしても多い割合。
では、なぜそうなのか?――
その理由を探ると、そこに不可思議な実態が見えてきます。
そして気になるのは、冒頭に書いたように、狂犬病予防注射について反対をされている方たちが一定数存在していること。
飼い主だけでなく、獣医師の中にも反対の方がいらっしゃるようです。
ただ闇雲に反対するのではなく、そこにはそれなりの理由をもった上で。
次回以降では、その内容について踏み込んでみたいと思っています。
――しかし、その前に、まずは冒頭に書いて今回触れなかった事。
狂犬病予防注射の実施率が30%台という話が、どこから出てきたものかを検証します。
――狂犬病予防注射の実施率って、本当はどれくらい?・つづく――
文:高栖匡躬
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――次話――
今回の記事では、狂犬病予防注射の実施率が低いことを書きました。
その中でも30%台の数字はあったことには、特に驚きました。
その数字が、どこから来たのか?
疑問に感じて、追いかけてみたのが今日の記事です。
実施率って、ちょっとした数字の選び方で変わります。
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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マスコミが騒がなくなったからといって、問題はなくなったのではない。
我々、犬猫の飼い主にとって、去年と今年で何も変わっていないのだ。
マスコミが追及しないならば、自分で調べて見ようか――
そんな連載がこれ。徹底的に、飼い主目線。