限られた時間を刻むこと - 無限の看病なんてない
多くの方々の愛犬・闘病記を読んでみると、犬の命を賭けた闘病は、突然やってくることが多いようです。我が家の愛犬、ピーチーの場合もそうでした。
心の準備が何もないうちに、突然始まる闘病生活。
だから、飼い主の心は大きく揺れるのだと思います。
こんな時、ちょっと見方を変えてみたらどうでしょうか?
もしかしたら、闘病に違う側面が見えてくるかもしれません。
今回から4話に分けて、犬の闘病の話の中でも、飼い主の視点の変化について触れていきます。
【目次】
突然の告知。その時……
最近、どうも体調が悪そうだな――
いつもなら元気一杯でじゃれついてくる愛犬の、ちょっとした変調。
いつものように、2~3日様子を見たらきっと良くなるだろう。
――あれ、今回はどうも違うようだな。
何となく嫌な予感がして、動物病院に連れて行く。そんなときに、突然に獣医師から、予期せぬ病名を告げられるのです。
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重病――
回復は望めない――
余命は……
飼い主の思考はその時、一瞬止まってしまいます。
悲しんだり、取り乱したりするのは、しばらく経ってからの話。
最初は―― 「何も考えられない……」
そこから、闘病は始まります。
絶望の中身は?
医師から告知の言葉を聞いたとき、飼い主たたちはきっと深い絶望の底に落ちるでしょう。そして、その絶望の中身は1つだけではありません。
この子がいない生活など考えられない……
医療費は一体いくらかかるの?
投薬の時間は守れるのか?
自分に点滴の針をさせるの?
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さまざまな思いが、一気に飼い主の心中に去来します。
その中でも、飼い主が最も恐れを抱くのは、”時間”に対する恐怖です。
はじめのうちは、「あとどれくらいこの子と一緒にいられるのだろう」という恐れです。やがて看病が始まり、それが日常のものになってくると、恐れの内容が変わってきます。
「この看病はいつまでつづくのだろうか?」と……
時はドッグイヤーで進んで行く
無限に思われるその時間の重さに、飼い主の心は不安にさいなまれます。
しかし、良く考えてみてください。本作でも一般的な犬の闘病期間(下記)について触れていますが、その期間は慢性疾患の場合で1年。長くて2年。
重篤な疾患や、急性疾患は数か月です。
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――ラクーンアニマルクリニック 木佐貫敬 院長――
犬の(最期の)闘病というのは、どれくらいの期間を要するものなのでしょうか?
「いわゆる終末医療という観点からいうと、犬の最期の闘病は、大体2週間から1か月の間だと思います。まずは1週間取り組んでみて、快方に向かうかどうかを見極めながら、更に1週間と伸ばしていきます」
その1か月には、何か根拠があるのでしょうか?
「1か月と言うのは犬の体力からも、飼い主さんの疲労度合からしても、限界の時間です。終末期の看護は大変ですからね」
時間は優しく飼い主をつつむもの ~数字が語る犬の闘病(2/3) - 犬を飼うということ
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寿命というものがある異常、別れの時は、確実にやってきます。
恐らくそれは、とてもあっけない形で訪れることでしょう。
わが家の愛犬ピーチーの場合は、後足の化膿の治療で、たまたま訪れた主治医の病院で、肺ガンの恐れが指摘されました。天国に旅立ったのは、それからわずか10日後です。
この闘病の詳細は、下記の闘病記で触れています。
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犬に流れている時間は、人間とは異なります。ドッグイヤーと称されるように、犬は歳を重ねるのが早く、高齢になってその速度が落ちてたとしても、人間に換算して1年で5歳も歳をとります。
病気の進行も、それと同じくドッグイヤーで進むのです。
限られた時間
もう、お分かりになるでしょうか?
もしも我々の愛犬が重病で、且つ治る見込みがない慢性疾患だと認められた時、幸か不幸か、我々は無限の看病を恐れる必要はないのです。
「この子とは、あと1年ほどしか一緒にいられないんだ」
もしも無限の闘病を恐れる日が来たときは、そう考え方を変えると良いと思います。
残された時間を慈しむ事で、愛犬との付き合い方は変わってくるでしょう。
――わが家がそうであったように。
残された時は……
時間が限られてくると、次のように考えることもできるようになります。
「長い人生の中の、たった1年をこの子のために使ってやろう」
どうでしょう? 絶望の中で無限の先を想うよりも、ずっとたやすいことではないでしょうか? そして幸運にも1年を乗り越えられたならば、その時点でもう一度、思いを新たにすれば良いのですと。
「この子とは、もうあと1年ほどしか一緒にいられないんだ」
――と。
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愛犬の闘病は、残された時を刻むことなのだと思います。
その ”時間” は、見えない何かを恐れるのではなく、どうかまっすぐに、愛犬のために費やしてあげてください。
それは恐らく、愛犬のためだけではありません。
後に残される飼い主、つまりあなた自身のためにでもあるのです。
そう、――それもまた、我が家がそうであったようにです。
―― 視点の変化で闘病は変わる(1/5)――
文:高栖匡躬
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――次話――
犬猫の闘病は長くなりがち。
今回は「頑張って」という、励ましについて考えました。
「頑張って」はありがたい言葉ですが、当事者には重圧でもあります。
好意だけをいただいて、今は積極的に『頑張らない』という選択も必要です。
全力で立ち向かうときのために……
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
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関連の記事 - 闘病における飼い主の選択
愛犬が重い病気を患った時、飼い主は孤独感と絶望感に満たされるものです。
獣医師から病気に告げられた瞬間に、床の底が抜けて、暗闇に落ちていくような感覚です。
さて、どうやって気持ちを立て直すのか?
踏みとどまらなければ――
愛犬のために。
そして――
あなたのために。
犬を飼い始めた時、別れの時は遥か未来の話でした。
しかし、あっという間に楽しい時間は過ぎて、その時が――
子犬でうちに来たのは、つい昨日のことのよう。
愛犬を看取ってみて思うのは、看取りは良い思い出だったということ。
視点を変えれば、つらい思いって、無いんじゃないかな?
そんなことを考えた記事です。