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【犬の映画/涙】運命の犬、運命の飼い主 ~ゴールデンレトリバーの飼い主が観た『僕のワンダフルライフ』~

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僕のワンダフルライフ に想う
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© 2016 Universal Studios and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
文|樫村 慧
 

真っ赤な夕陽に照らされて黄金色に輝く小麦畑に、どっしりと座る大型犬の後ろ姿。その風景を見た瞬間、私は、胸の奥をギュッと掴まれたような気持ちになった。

無意識に溢れて出る、涙――

その映画の予告CMが流れるときには、決まって私はそんな具合だった。
それは、昨年7月に愛犬のゴールデンレトリバー、ラフを亡くしたせいだというのだけはハッキリしていた。

私は、この映画を観ることはないなと思っていた。
泣いてしまう。間違いなく泣いてしまうだろう。
泣きたくない、これ以上泣きたくはない。しかも映画館で、大勢の人達がいる中で泣くなんてまっぴらだ。

――そう頑なに思っていた。

 

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そんな私に、26歳の長男がさらりとこんなことを言った。
「この映画の犬は、何度も生まれ変わって犬種は変わるけど、主役はゴルだよ。観ておかないわけにはいかないでしょ。犬好き、いやゴル好きが観なくちゃ始まらない。観なかったら後悔するよ」
正論である。いつも正論で私を追い込もうとするのだ、うちの長男は。
母が泣くとわかっていて、自分が泣くとわかっていて、そんなもっともらしいことを言ってくる。
因みに、ゴルと言うのは、ゴールデンレトリバーの略称。同じ犬種の飼い主同士に通じる、符牒のようなものだ。

まさに長男の言う通り、ゴルと暮らしたことのある自分が、ゴルを看取ったことのある自分がこの映画を観ないでどうする?
そんなことは、私だってわかっているのだ。
しかし、その勇気が無かった。泣くことがわかっていながら、わざわざ映画館に向かう一歩が、どうしても踏み出せなかった。

――その日までは。

結局、半ば強引に、長男に連れられて私は映画館に行った。
物語がスタートした途端、子犬と言うには少し成長し過ぎている5カ月ほどのゴールデンレトリバーの子が走り回る。冒頭から5分もしないうちに、私の目からは大粒の涙が流れた。

『可愛い、なんと可愛いのか。ああ、こうだった、ラフが我が家にやってきたのはこれくらいの時だ』
あらかじめ用意したハンドタオルで拭っても拭っても、涙が溢れる。

 

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ここからはネタバレだ。映画好きの人はもうここで読むのはやめた方が良い。
この文章は、映画のことを書く評論ではない。私のラフへの思いを、映画の話に寄り添わせて書くものだ。

その子犬は、ある少年と出会い、家族となって共に暮らす。
少年と一緒に成長していく間に、いろんなことを巻き起こる。人と犬の成長過程のスピードには、悲しいかな、大きな差がある。

少年が大学生になる頃には、ゴルはもう老犬となり、その命の火が消えていく。冒頭の子犬時代のゴルの姿にも泣けた。しかし、顔の白くなったシニアゴルの姿には、嗚咽するほど泣けてきた。
『ああっ、ラフに似ている。白い顔がなんとも愛おしい』
もうここまでくると、涙は止められない。

物語はここで一つの山場を迎え、周りの人達のすすり泣く声も聞こえたし、嗚咽も、鼻をすする音も聞こえてきた。
しめた! これで、もう我慢しなくてもいい。

主役のゴールデンレトリバーが亡くなり、今度は違う犬種へと生まれ変わっていく。その子が生きる時代背景をも含めて、なるほどと感じながら、物語はどんどん進んでいく。

 

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生まれ変わった犬は、飼い主が違う。性別も職業も違うし、特徴も違う。
当然ながら、その犬の生き方も亡くなり方も、全部違う。

しかし、どんな犬種に生まれ変わっても、どんな生き方をしてきたとしても、天国に旅立つ時のなんとも言えない切なさは、変わらない。
その場面々々で、私の目からまた大粒の涙が流れるのも同じだ。

そして――
いよいよ、ゴル時代の飼い主と再会する犬に生まれ変わる時が来る。

幸せな犬生を送れていなかったその犬が、様々な偶然を経て、最初の飼い主を――、運命の飼い主を見つけ出す。

あの小さかったゴルの子犬を飼うと決めた少年は、郊外で農場を経営する、中年を少し過ぎた渋いおじさんになっていた。その男性は、ネルシャツにLLビーンのフィールドコートを羽織り、ビーンブーツがよく似合う。

『ん?あれ?この着こなし…』
そう思った途端、また私の目から涙が溢れ出した。

 

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赤と黒のブロックチェックのネルシャツにLLビーンのフィールドコートを羽織る装いはまさに、うちの主人が大好きなものだった。
『田舎の広い土地にログハウスを建てて、可愛い大型犬とのんびり暮らしたい』
そう言っていた主人のお気に入りの着こなしなのだ。

6年ほど前に他界した主人は、この映画の飼い主のような生き方に憧れていた。
その憧れとは程遠い極小住宅で、大好きなゴールデンレトリバーを飼い、さほど犬好きでもなかった私を犬バカへと変化させ、その大らかな発想と自由な振る舞いを息子達に受け継がせた張本人。
55歳になる直前に、病で天国へと旅立った主人が、この飼い主の男性に重なって見えた。

『まさにこんな生活がしたかったのだろうに。生きていたら、きっとこの映画も、喜んで観たに違いない』
そんなことが思い巡らされ、相変わらず私の目からは涙が流れていた。
主人公の犬を、その農場で暮らす男性が、昔飼っていたあの子であると気付く場面を観ながら、『どうして主人はこんな風に生きていくことが出来なかったのだろう。』と、悔しくて泣けてきた。

そして、私がこの映画を観ることには、たくさんの意味があったのかもしれないと思い始めた。

 

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犬が生まれ変わるだけの映画ではない。
犬という生き物が人間に対してもたらす、困難や不便さ。
しかし、それらを上回るほどの幸せな時間。
彼らが人間にとって、かけがえのないパートナーであることの証明。

ただ、共に生きたい。ずっとそばにいたい。
犬が人間に願うのは、それだけのこと。
そのために、何度も何度も違う犬種で生まれ変わる。
その真っ直ぐで単純な犬のひたむきさに、人間はどうやって答えていけるのだろう?
そう思える映画だ。

あなたは犬が好きですか?
犬と暮らしてみたことがありますか?

いやいや、そんなことはどうでもいいのかもしれない。
私はこの映画で、今でも愛おしい愛犬と、私をこんな犬バカへと変化させる元となった伴侶を思い出した。

あなたは、この映画で何を感じるのでしょう?
あなたの受け止め方で。あなたの楽しみ方で、この映画を観て欲しいなと、切に願います。

――映画の予告編です――

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――了――

文:樫村 慧
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週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

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