犬を飼うということ

Withdog 犬と飼い主の絆について

【介護中の飼い主さんへ】悩みながら絞り出す言葉 ~励まし慰めの言葉は何?~

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看護や介護を経験して分かる気持ち

撮影&文|樫村 慧

 

犬の飼い主さんの中には、愛犬が病気と闘っている方も少なくない。老衰で寝たきりの愛犬と暮らしている飼い主さんもいる。

もし、そんな飼い主さんに、慰めとか労いの言葉をかけるとしたらどんな風に言えばいいのだろう? いつも私はそれに迷っている。それぞれの事情もあるし、考え方もあるし、なかなか難しい。

今私は犬の情報サイト、Withdog『犬を飼うということ』に携わっており、老犬さんの魅力を伝える【老犬アルバム】を担当している。その為に、ツイッターで老犬さんと暮らす飼い主さんのツイートを見る機会が多い。もともと老犬マニアではあったのだが、最近はよりそれが高じてきているように思う。

いつも私は、悩みながら、迷いながら言葉を紡いでいる。
皆さんもそうなのではないだろうか?

 
この記事はこんな方に
知人のペットが闘病中|掛ける言葉がみつからない|”頑張れ”と言ってもいいのか?|自分だったら、どんな言葉をかけて欲しい?|経験者の意見を聞きたい

 

看護/介護を経験して、初めてわかる気持ち

ラフの闘病

思えば、自分が愛犬の看護や介護をしながら暮らした時、周りの知人や友人から言葉を掛けられるということはあまりなかったような気がする。自宅で毎日愛犬に点滴をしながら生活していたことを知っている人は多かったが、その事に敢えて触れない空気のようなものがあったのかもしれない。

それは私の置かれた立場や、境遇も関係していたのだろうと、感じている。

私が、周りからかけられる言葉について、意識したのは、二男が産まれて知的障害があるとわかった時だった――

「頑張ってやってね」
「お母さんが頑張るしかないよ」

そんな言葉を次々にかけられた記憶がある。その時の私は、そんな言葉を割とすんなり受け入れていたのかもしれない。『そうだ、自分が頑張るしかないんだ』そう言い聞かせて、受け入れようとしていたのだろう。

[ハンデのある子供を持った頑張らなくてはいけない自分]というレッテルのようなものが、私にはそれ以降ずっと付きまとっていたように思う。

私は二男を育てる上で、同じような立場の母親たちと過ごすことが多かった。
就学前に通園していたところでも、就学してから何年間も。

同じ立場の母親たちと言っても、タイプは様々いるものだ。「子供のため」とがむしゃらに療育に励む人、子供のハンデをうまく受け入れられず葛藤している人。ハンデのある子供を育てながらも、さらりと自然体に生きている人。

[ハンデのある子供を持った頑張らなくてはいけない自分]という殻に閉じこもっていた私も、だんだんと自分だけのスタイルでいいのでは?と思い始めた。ハンデのない、いわゆる普通である長男の母親たちとの時間も、頑なな私の気持ちに柔軟性をくれたのかもしれない。そして何より、家族である主人や長男の存在が、私にも私なりの楽しみ方を見つける時間をくれた。

そのことが、[ハンデのある子供を育てているけれど、肩の力は抜きながら頑張り過ぎずにやり過ごす自分]を確立させてくれた。

 

「頑張って」という言葉は重い

ラフの闘病

長男関係の友人、二男関係の友人とは、別々のコミュニティがあった。仕事の同僚、そして学生時代の友人たちも然り。それらとの時間を、バランスを取りながら過ごせるようになった頃、主人が病気で他界した。

ハンデのある子供がいて、配偶者と死別ーー
はたから見たら、それはあまりにも不憫に見えたのだろう。

「辛いだろうけど、頑張ってね」

どれくらいの人にこう声をかけられただろうか?
もちろんその言葉は、私だけにではなく、長男にもかけられた。

「頑張って」という言葉――
私はそれに耐性がついていた。長年付き合ってきた言葉だからだ。
しかし、当時まだ学生だった長男には、かなり重く響いたに違いない。

 

 愛犬ラフの闘病と介護が始まったとき

ラフの闘病

さて、そんな風に、意識して肩の力を抜いて日々を過ごしてきた私なのだが、愛犬ラフが腎不全とわかり、闘病することになった時の動揺はかなりのものだった。

ラフは私と息子たちにとって、かけがえのない存在だったし、いつまでもそばに寄り添ってくれるものと勝手に信じていたからだ。

私は大切なラフの闘病を、自分から周りに話すことは極力しなかった。

「愛犬が病気なので」
「自宅で点滴をしているんですよ」

そんな風にやんわりと、あまり大袈裟にせずに、ほんの少し話すくらいにとどめた。

「えっ、ワンちゃん病気なの?大変ね、頑張って」

こんな言葉をかけられたら、きっと私は『結構、私、頑張ってますよけど、これ以上頑張らないといけませんか?』と考えてしまうことだろう。
それが嫌だった。

 

 結局、飼い主さんに掛ける言葉は

飼い主さんに掛ける言葉

話を元に戻しましょう。
老犬さんの看護介護をしている飼い主さんに、かける言葉で悩んでしまうのは、自分がかつてそうだったからに他ならない。

応援したい、飼い主さんの心に寄り添っていきたい。
いつも思う。強く思う。
でも――
どんな言葉でその気持ちを伝えればいいのだろう?

もう十分過ぎるほど頑張っているに違いない飼い主さんたち。
睡眠時間もきっと少ないことだろう。
常に愛犬の様子を見ながら、その変化に希望を持ったり絶望したり――
そんな日々が続いているに違いないのだ。

そんな飼い主さんに掛ける言葉が、私にはいつもみつからない。
何かを伝えようとするたびに、そこで足踏みをしてしまう自分がそこにいる。

私は闘う飼い主さんに、ただひたすら祈ることしか出来ないのかもしれない。
「穏やかな時間がずっと続いていきますように」と――
でも何かを伝えたくて、言葉を絞りだす。

私の言葉は、あなたを傷つけていませんか?
あなたの闘う気持ちの妨げになっていませんか?
そんな風に思いながら。

今の時間をどうか大切にしてください。
頑張り過ぎずに、肩の力を抜いてやっていきましょう。
心から応援しています。

 

――了――

文:樫村 慧
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 闘病中の飼い主さんにかける言葉を考える

頑張れという言葉

『頑張れ!』という言葉について考えます。
闘病や介護に臨まれている飼い主さんには、よく『頑張れ!』という言葉が、励ましで使われますね。
しかし既に頑張っている方にとっては、『頑張れ!』は時に、酷な言葉であったりします。
言葉というのは難しいものです。

 本話に登場するラフのお話(作者の体験エッセイ)です

ラフの闘病の頃のお話です

ホームセンターで売れ残っていた、雄のゴールデン・レトリーバー。
このお話は、ラフと名付けられたその子と、それを飼う事になった一家の、絆を描いた実話です。
愛犬との思い出は、愛犬だけとのつながりでは無くて、家族や友人の思い出ともつながっている。愛犬との良い思い出は、家族との良い思い出でもある。
そんなことを感じるお話です。

ラフを看取るときのお話です

愛犬を看取る、家族のお話。
ペットと暮らす者なら誰もが通る道だけれど、少しずつ違う道。
色々な選択肢があって、正解は一つではない。
わが家なりの送り方って何?
『ラフと歩く日々』の続編です。

ラフを看取ってからのお話です。

愛犬ラフの去り方を決めたのは自分でした。それはとても自然に――
その存在が消えた空間で、無意識にラフを探す日々。
やがてラフとの別れに、意味が生まれ始めます。

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