うちの子がうちにくるまで|No.8 - 2
前回の続きです。
保健所で隻眼(片目だけ)の犬と出会った夫婦。
一度その場を立ち去るのですが、その子のことが気になって仕方がありません。
このまま家に帰ってしまって、いいのだろうか?
「いろいろと考えてから、また来ます」
そうは言ったものの、また来ることはできるのか?
そんな時、夫が口を開きました……
保護犬を迎える決心がつかない|ハンデ(障害)のある犬と暮らしていけるか?|経験者の話を聞きたい
幸せにしてあげたいんだ
やっとの思いで車に乗ったら、今度はたけしがこう言った。
「え? あの子連れて帰らんと?ここになんの為にきたと?」
驚くあたし。
「俺、今日たまたま平日休みやったけん来れたけど、土日ここ休みだから、もう来れんよ。これからも滅多に来れんよ。どうする?どうせ1匹増えてもなんも変わらんたい」
たけしのその言葉で、あたしは心に決めた。
「連れて帰ろう、うん、あの子を連れて帰る、そうしよう」って。
そこですぐ保健所に電話して、気持ちを伝えた。
「今日、あの子を連れて帰ります」
すでに犬達と暮らしてることを伝えてあったから、「先住犬との相性は大丈夫なんですか?」と訊かれたけれど、「そんなもん、大丈夫です。あの子を連れて帰らせて下さい」ってきっぱり答えた。
前に迎えた成犬の子の時のようには、絶対させない。
あたしは覚悟を決めた。
書類やらなんやらいろいろ書いて、やっとその子をこの腕に抱きしめることが出来た。帰りの車の中で、たけしがやたらニヤニヤしていた。
「どうしたの?」
たけしはあたしの問いに、当たり前のように「可愛いけんさ」と答えた。
あたしはその言葉を聞いて、心底呆れてしまった。
片目のその子を見て、「可愛い、可愛い」って言うたけしを、あたしは自分の旦那にしてよかった、とその時思ったんだ。
たけしとなら、片目のこの子を可愛がっていけるって確信出来た。
保健所の人はこう言っていた。
「確かに可愛いとか、連れて帰りたいって言われたりはするんですよ」
連れて帰りたいと言われはしても、片目の子犬を実際に連れて帰る人はいないということなんだろう。
でも、ハンデがあることなんて、あたしたちには関係なかった。
そんなことなんて、どうでもよくて、わたしは「連れて帰ろう」って背中押してくれたたけしに惚れ直したんだ。
『連れて帰って!』
そう言って、吠えたこの子にあたしは惹かれた。
だから、間違いなくあたしはこの犬が大好きなんだ。
この日、こうやって連れて帰ったこの子は、保健所に来る前に、辛く寂しい孤独な思いをしながら旅をしてきたんだろう。そして保健所でもとても不安だったに違いない。だから、旅人(たびと)と名付けた。
もうどこを旅することなく、ずっとうちに居ていいんだよって気持ちを込めた。
あたしたちが旅人を守るからねって思いで、つけた名前だ。
旅人は他の犬と何も変わりなかった。
目が見えないから他の子とは違う、という差別的な見方をするのは人間だけ。
旅人はなんの問題もなくすごくいい子だったし、それは今も変わらない。
あたしは旅人にとても感謝してる。
Twitterで見た保健所の犬や猫たちを、可哀想と思うだけで何にも出来なかったあたしを、変えてくれたこと。そして、また保護犬を迎えたいって、思わせてくれたことに。
まだまだある。いつも我が家を賑やかにしてくれていること。ツライ思いをしたのに、あたしたちをどこまでも信じてくれてることもそうだ。
そして――
何より旅人は、旅人と暮らすあたしたちを幸せにしてくれた。
保健所には、昔の旅人のように辛く寂しい思いをしている犬や猫がたくさんいる。
保健所から引き取った子でも、ハンデのある子でも、なんら変わりなくあたしたち人間を信じて懐いて幸せな時間をくれる。
そのことは、旅人と暮らすあたしが証明出来る。たくさんの人に、それを知ってもらいたい。そして、今寂しい思いをしている犬や猫に、素晴らしいご縁があるようにと心から願っている。
旅人、うちの子になってくれてありがとう。
これからもいっぱい、楽しいこと見つけようね。
――旅人の話・おわり――
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犬種:ミックス
飼主:asuka
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――うちの子がうちにくるまで・次話です――
本話の作者は、たまたま遭遇した事故で人助けをしたために、大怪我を負います。
リハビリで始めた散歩。その散歩のお供で迎えたのが、超大型犬・グレートピレニーズのバーディーでした。
子犬だったバーディーは、最高のパートナーとなっていくのですが、やがて……
――うちの子がうちにくるまで・前話です――
片目を失った犬を、保険所から引き取ることにした夫婦。
犬との出会いはいろいろとあって、迎える時の葛藤も様々です。
犬にハンデがある場合は、特にその葛藤は大きいはず。普通ならば――
それをものともしない、優しい心を持った飼い主と犬とのお話です。
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この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――うちの子がうちにくるまで、第1話です――
昔からいつかはワンを飼いたいと、ずっと夢見ていたんです。
でも、夢と現実の差はでっかいですよね。結局はずっと、実現できずじまい。
――そんな夢を叶えた飼い主さんのお話。
犬との出会いは運命に似ています。
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保護犬たちの、うちの子がうちにくるまで
出張先で、偶然目にした人だかり。
なんとその中心には、血統書付きで捨てられた可愛いコーギーがいたのでした。
「捨て犬なんです」
と言われたその可愛い犬は――
作者が初めての犬を飼い始めてから3カ月後のこと。
散歩から帰ったご主人が言いました。
「へその緒がついた子犬が捨てられていた」
草むらには本当に「生きたい、生きたい」と鳴く2匹の子犬がいたのでした。