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【犬の十戒・考察】知られているのは、犬と私の10の約束 ~意外に知られていない原典~

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文|高栖匡躬
意外に知られていない原典 広く知られるのは「犬と私の10の約束」

皆さんは『犬の十戒』をご存知でしょうか?
元々は英文で書かれた詩で、犬と飼い主の関係について、犬の方から語りかけるものです。10年ほど前に日本で紹介され、多くの愛犬家の心をつかみました。

今日はこの、『犬の十戒』について考えてみたいと思います。
あらかじめ言っておくと本記事は、ただ原典をご紹介するものではありません。またその解釈を云々しようとするものでもありません。この作品が多くの人の支持を得て、拡散していく背景を、改めて考えてみたいというのが趣旨です。

原典を探っていて気が付いたのですが、『犬の十戒』は良く知られている、”犬と飼い主の間の約束” という印象よりも、ずっと奥深いものであるように思います。

恐らく、この記事を読まれる事で、既に『犬の十戒』が好きであった方も、本記事から新たな気付きや、感動を得られるのではないかと期待しています。

【目次】

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『犬の十戒』が広く知られるようになったのには、それをモチーフとして作られた映画『犬と私の10の約束』の功績が大きいでしょう。

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出典:映画『犬と私の10の約束』 配給:松竹

原作とされる同名の書籍は2つあり、1つは、川口晴氏による小説版。もう1つは、児童向けに易しく書かれた、サイトウアカリ著となっているものです。

サイトウアカリは映画の主人公である女の子の名前で、その主人公が書いたという体裁ですが、実際に執筆をしたのは澤本嘉光氏。
川口晴氏と澤本嘉光氏は、共に映画『犬と私の10の約束』の原作者として、クレジットされています。

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出典:『犬と私の10の約束』(左)川口晴 版 (右)サイトウアカリ 版

 映画のあらすじ(抜粋)
 ある日、12歳になったばかりのあかりが学校から帰ってみると、庭の植え込みからヨチヨチ歩きの子犬が出てきました。
 (……)
 (あかりが)さっそく(母が入院している)病院に見せに行くと、
 「犬を飼う時は10の約束をしないといけないの」
 と、母は言います。
 (……)
 ※括弧の文章は筆者が挿入

出典:文藝春秋|「犬と私の10の約束」

 

 川口晴氏版の10の約束

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以下に、川口晴氏版の『犬と私の10の約束』から、”10の約束”をご紹介します。

『犬と私の10の約束』川口晴氏版

1.
私と気長につきあってください。
Give me time to understand what you want of me.
2.
私を信じてください。それだけで私は幸せです。
Place your trust in me. It's crucial to my well-being.
3.
私にも心があることを忘れないでください。
Be aware that however you treat me I'll never forget it.
4.
言うことをきかないときは理由があります。
Before you scold me for being lazy, ask yourself if something might be bothering me.
5.
私にたくさん話しかけてください。人のことばは話せないけど、わかっています。
Talk to me sometimes. Even if I don't understand your words, I do understand your voice when it's speaking to me.
6.
私をたたかないで。本気になったら私のほうが強いことを忘れないで。
Remember before you hit me, I have teeth that could hurt you, but that I choose not to bite you.
7.
私が年を取っても、仲良くしてください。
Take care of me when I get old.
8.
私は十年くらいしか生きられません。だからできるだけ私と一緒にいてください。
My life is likely to last 10 to 15 years. Any separation from you will be painful for me.
9.
あなたには学校もあるし友だちもいます。でも私にはあなたしかいません。
You have your work, your entertainment, and your friends. I have only you.
10.
私が死ぬとき、お願いです、そばにいてください。どうか覚えていてください、私がずっとあなたを愛していたことを。
Go with me on difficult journeys. Everything is easier for me if you are there. Remember I love you . . .

出典:川口晴 著「犬と私の10の約束」(文藝春秋)

 

 サイトウアカリ版の10の約束

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次はサイトウアカリ版の、”10の約束”をご紹介します。

『犬と私の10の約束』サイトウアカリ版

1.
たくさん、私と話をしてください。

2.
理解しあえるのに、時間をいっぱいください。

3.
いうことをきかないときは、理由があります。しかる前に考えてください。

4.
私が年をとってもどうか見捨てないでください。

5.
ケンカはやめよう。あなたは私をぶたないで。私はあなたをかまないから。

6.
あなたは学校もあるし友達もいるけれど、私にはあなたしかいません。

7.
私を信じてください。私はいつまでもあなたの味方です。

8.
あなたと一緒にいる時間は10年くらいしかありません。

9.
あなたと私がすごした出来事を、私は決して忘れません。

10.
10番目は、ぜひ書籍をご覧ください。

10番目は本の中に
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10番目を敢えて伏せたのには、理由があります。
それはサイトウアカリ版の告知サイト(下記)が、そのようにしてあるからです。
著者と出版社の意向を汲みたいと考えました。

サイトウアカリ版の告知サイトを紹介します。
出典:角川つばさ文庫/犬と私の10の約束

※ ”10の約束”の内容は、川口晴氏版よりも平易になっています。

 

 沢山のバリエーションがある『我が家の10の約束』

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実は『犬と私の10の約束』は、原作(川口晴版とサイトウアカリ版)に書かれた2バージョンだけでなく、数多くのバリエーションが存在します。

『犬と私の10の約束』がネット上を拡散していく過程で、それぞれに手が加えられていったことが容易に想像できます。

それだけでなく『老犬の十戒』や、『シロ(犬の名)と私の10の約束』というように、それぞれの家庭で、愛犬の名前を入れて、自分にピッタリなように作られた ”我が家の10の約束” が、無数にあるわけです。

中には、原作を上回るのではないかと思うほど、感動的なものまであります。

『犬と私の10の約束』は、原典の名である『犬の十戒』としても拡散されています。
従って『犬の十戒』が好きだと言う方がいたとしても、本当の『犬の十戒』の存在を知らない方もいて、好きなのが原典の『犬の十戒』を指しているのか、川口晴版或いはサイトウアカリ版の『犬と私の10の約束』を指しているのかは分かりません。

 

 原典の『犬の十戒』と『10の約束』は微妙に違っている

ネット上の書き込みを眺めてみると、『犬と私の10の約束』はご存知であっても、原典の『犬の十戒』を知らない方は、大勢いらっしゃるようです。
どちらも内容は同じものだろうと言われると、イエスでもありノーでもあります。

何故かと言うと、『犬と私の10の約束』は『犬の十戒』の日本語訳のように思われがちですが、単純に翻訳したものではなく、日本人の気質に合うように、または作品がより感動を生むように、カスタマイズされているからです。

”犬と飼い主の適切な関係”という本質は、どちらも同じなのですが、『犬と私の10の約束』の方には、原典の『犬の十戒』に書かれている、幾つもの要素が失われています。

訳者や作家が、何を選択して何を捨てたのかを知る事で、作品の理解はより深まるように思います。

次回は、その原典について触れます。

 

ペットと人間の関係 3部作
この記事は、犬と人間の関係について語られる、3つの事柄(虹の橋、犬の十戒、ペットは天国に行けるか)を扱った3部作のうちの1つです。3部作で扱う事柄は、どれもが犬の命に触れるもの。特に虹の橋と犬の十戒は、好きな方が多い反面で、違和感を持つ方も見かけます。
虹の橋|原文から意味を考察する(本記事)
犬の十戒・考察|犬と私の10の約束との違い
犬の十戒・原文と解釈|実はブリーダーの心情
ペット(犬や猫)は天国に行けるのか?
意外な事実も見つかるかもしれません。読んでみてくださいね。

 

――犬の十戒・考察|次話につづく――

文:高栖匡躬
 ▶プロフィール
 ▶ 作者の一言
 ▶ 高栖 匡躬:犬の記事 ご紹介
 ▶ 高栖 匡躬:猫の記事 ご紹介

次話|犬の十戒って、誰が作ったの?――

『犬の十戒』は好きな方がいる一方で、違和感を覚える方もいます。
実を言うと筆者も、違和感を感じていた一人。何故?
説明調だから? 回りくどいから?
本当に犬って、こんな風に考えるのかなあ?
しかし、この詩が生まれた経緯を知ると、なるほどと思えてきます。

まとめ読み|『虹の橋』と『犬の十戒』そして『天国』
この記事は、下記のまとめ読みでも読むことが出来ます。

『虹の橋』についてはこちらを――

ペットについて語り、『犬の十戒』と同じくらい、或いはそれ以上に有名な詩が『虹の橋』ですね。しかし『虹の橋』は誤解した解釈が多いのです。

ペットが亡くなったときに、『虹の橋を渡った』と表現することなどは、その最も多い間違いの例です。
では『虹の橋』って何なの? どうやって言葉として使えばいいの?
そんな風に思われた方は、こちらを読んでみてください。

 ペットとの別れについて

悲しみと悩みは別々のもの

”悩み”という言葉の中には、色々な意味が含まれていますね。
”悩んでいる”って言えば、色んなことが説明できて便利。
でも時にそれは、その言葉を使う人も惑わせて。
解決できるものを、解決できなくしてしまうような。
だから、考えてみた。”悩み”って何?

 

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