犬を飼うということ

いつまでも君と……

哲学者との出会い、そして再会 ~ちぃがうちの子になったのは(前編)~

f:id:masami_takasu:20180830225856j:plain文:かっぱ太郎、撮影:F.zin

~うちの子がうちにくるまで No.27 - 1~

”うちの子がうちにくるまで”とは
愛犬を家に迎えるまでの葛藤を、飼い主自身が、自分の言葉で綴ったエッセイのシリーズです。

実は私、犬が苦手でした。
それは幼少時、祖母の家の近所のスピッツに追いかけられ、泣きながら田んぼのあぜ道を走って以来のこと。

大人になってもそれは変わらずで、よその犬とすれ違うときには、相手にそれと気づかれない程度に遠回りをしていたものでした。

さらに、わが家には『ハムスターよりも大きいペット禁止令』(by 夫)が出ており、幼い息子が犬を飼いたいと言ったときにも内心、「子どもの世話で手一杯なのに犬だなんて…」と思っていました。

 

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そんな私が、ある経験をしました。
仕事帰りに、ハムスターの餌を求めて立ち寄ったペットショップで、びっくりするくらい大きな顔のベージュ色の犬を見たのです。

その犬は、狭い通路に置かれた小さなオリの床に姿勢よく座り、大きな耳と、人のような静かな目をこちらに向け、私を観察していました。

犬にも「白目」があるのだと、そのとき初めて知りました。

犬という生き物は、常にせわしなく動き、人に向ってじゃれついたり、吠えたりするものと思っていたのですが、その顔の大きな子はそうではありませんでした。
ペットショップにいるくせに、可愛らしさも愛想も持ち合わせず、いかにも売れ残っているくせに、哀愁の欠片さえも感じないのです。

そんな達観した哲学者のような目でじっと見られた私は、なんだか落ち着かない気持ちになり、このことを誰かに話さずにはいられませんでした。

「人みたいに大きい顔の、猫みたいに静かな、見たこともない風貌の犬が私をじっと見ていたんだよ」
家に帰った私は、興奮気味に夫に報告しました。
それに対して夫は、「犬なんかぜったい、だめだからね!」と一蹴。

 

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――そして月日は過ぎて行きました。

あの不思議な風貌の犬に出会ってから、2年が経ったある日のことです。
駅前の雑貨屋に立ち寄った私は、思いも掛けないものを目にして、思わず立ち止まってしまいました。私を待っていたのは、あの犬にそっくりな置物です。

その犬は、狭い陳列台の上に他の犬たちと並んで姿勢よく座り、大きな耳を立て、人のような静かな目でこちらを観察していました。
置物とは思えないほどリアルな作りで、そっと持ち上げてみるとずっしり重く、どうやら石の塊を彫って作った輸入物のようでした。

値札は?――
私は自分が衝動買いしてよい値段を超えているのを確認すると、その犬をそっと陳列台に戻しました。
そのまま店内をウロウロする私。何か他に目を引くものがあればそれを買って、あの犬の置物を諦めようと思っていました。

でも、頭の中はもうあの犬で一杯――
「あれを買って帰ったら、夫は何て言うだろうか?」
「嫌味だと思うだろうか?」
などと、とりとめもなく考えてしまい、他の品物なんてまったく目に入りません。
結局、さんざん迷った挙句に、私はあの犬の置物をレジに運んでしまいました。

 

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ずっしりと重い箱をぶら下げ、私は札幌駅から電車に乗りました。
しかし、その重みとは逆に弾む私の心。

家の最寄り駅に着き、駐車場にとめた車に乗り込むと、もう我慢できません。
箱をあけて置物の犬を取り出すと、助手席に座らせ、転がり落ちないようにシートベルトを締めました。

フロントガラス越しに太陽の光が当たると、犬の顔にはめられた2つの茶色いガラスの目。何か言いたげにこちらを見つめています。
傍目で見ると妙な光景に違いないのですが、そのときの私は嬉しくて、仕方がありませんでした。

「さあ、うちに帰るよ!」
私は犬に話しかけ、がさがさした冷たい頭を撫でました。

それから数日経った日曜日のことです。
「犬を見に行こうか?」
と夫に誘われ、私は耳を疑いました。それは夫の口からは、聞けるはずのない言葉だったからです。

リアルな置物の犬に名前まで付けて可愛がっている私を見て、「とうとう頭がおかしくなった…」と気の毒に思ったのでしょうか?
今でもそれは定かではないのですが、わが家の『ハムスターよりも大きいペット禁止令』はついに解かれ、なんと夫と私は、子犬を見に行くことになったのでした。

2007年の秋のことです。

 

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ペットショップに行ってみると、そこにはいろいろな子犬がいました。
私は入り口から一匹ずつゆっくりと、その子たちを吟味していきました。

「かわいいのがいるよ」
しばらくして、夫がそう言いました。夫は店のいちばん奥のケージにいる目の大きな、白っぽい子いぬを指差します。

それはまさに、私が気になって仕方の無かった、あの風貌を持った子犬でした。

そのペットショップでは、女性店員さんが子犬を数匹ずつ、床の狭いスペースで運動させているようでした。

その白っぽい子犬の順番はまだ来ないらしく、待ち遠しそうにケージの中から大きな目で、じっと店員さん見つめ、彼女の動きにあわせてケージの中をいったりきたりしています。

大きな頭をささえるには小さすぎる足で、よろよろと懸命に歩く姿は、まるで忙しいお母さんに振り向いてもらいたくて後追いする子どものように見えました。

そのときの私は、子犬という生き物が、どんな餌をどのくらい食べ、どうやってオシッコのしかたを覚えるのかさえも知りませんでした。
ようやく夫の許可が出て、うちに来てくれるかもしれない、あの哲学者のような子犬にやっと会えたというのに、その時私の心の中では喜びではなく、不安の方がもくもくと頭をもたげていたのでした。

 

――ちぃがうちの子になったのは(前編)つづく――

~うちの子がうちにくるまで No.27-1~
犬の名前:ちぃ
犬種:フレンチ・ブルドッグ
飼主:かっぱ太郎、F.zin

――うちの子がうちにくるまで・次話――

――うちの子がうちにくるまで・前話――

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――出典――

※本記事は著作者の許可を得て、下記のエッセイを元に再構成されたものです。

 

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