犬を飼うということ

いつまでも君と……

あの頃は驚きの連続だったよ ~ちぃがうちにきてすぐ~

f:id:masami_takasu:20180901172129j:plain文:かっぱ太郎、撮影:F.zin

~うちの子がうちに来てすぐ No.4~

”うちの子がうちに来てすぐ”とは
新米飼い主が犬を迎えてすぐの頃の、悩みや葛藤、未経験だからおきたドタバタを振り返り、自身の言葉で綴ったエッセイのシリーズです。

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大きな顔をした、小さな子犬を迎えた我が家。
その愛犬の名前は「ちぃ」と、家族会議で決まりました。

『フレンチブルドッグ』という犬種なので、「フゥ」か「レン」か「チィ」のどれかにしようという話になり、3択の多数決で「ちぃ」になったというわけです。

 

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その名前ですが――
私に深い思い入れがあったわけではなく、家族の多数決でつけたにのも関わらず、後になって、ちぃと名付けて本当に良かったと思いました。

例えば動物病院を想像してみてください。
ご存知のように動物病院では、ペットの名前に飼い主の苗字をつけて、「○○ちぃちゃ~ん、診察室へどうぞ!」と呼ばれてしまいますよね。

ここでもしも「○○ドリスちゃ~ん」などと、とても素敵な、ハーフのような名前で呼ばれてしまうと、周囲の視線をあびることになって仕舞いかねません。

「ドリスちゃん」という名前ですと、どうしてもふさふさの長い毛にピンクのリボンをつけた、思わず駆け寄って抱き上げたくなるような、可愛らしい小型犬を想像しますよね。しかし呼ばれた犬を見ると、薄茶で短毛の、びっくりするくらい大きな顔の犬だったらどうでしょう?
きっと周囲の方々を、失望させてしまうと思うのです。

「ちぃ」という、なんの変哲もなく、何の期待感も抱かせない名前はとてもよかった。だってちいは飾り気が無くて、それが似合う子なのですから。

ちなみに、半年後にブリーダーから送られてきたちぃの血統書には、「Doris」というとても素敵な名前(本名?)が小さく書かれていました。

犬好きの友人の話では、犬のブリーダーがつける名前の頭文字は、その母犬の何度目の出産で生まれた子いぬかを判別できるように決められているそうです。「A」は1回目の出産、「B」は2回目、「C」は3回目、「Doris」の「D」は4回目だとのこと。このルールから、ちぃのお母さんは、少なくとも4回、全部で20匹近い数の子どもを産んでいるのだなあ、とわかります。

 

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子いぬと暮らすのが初めての私たちにとって、ちぃのすることの全てが驚きの連続でした。

生後2か月で、始めはよろよろと歩いていたのに、数日後にはかなりしっかりした足取りで駆け回り、人間の赤ん坊と同じように、見るものを何でも口に入れてみるのですが、そのスピードの速いこと!

床には物を置かないように気をつけていても、椅子伝いに食卓へぴょんぴょんと駆け上がり、止める間もなく夕食の皿の上にあった骨付きのチキンをくわえてしまったことがありました。あわてて口を開けさせ、骨を取り上げようとしたのですが、ちぃもせっかくの獲物を取られまいと必死。

私が指をざっくりとかまれたときには、すでに骨付きチキンはちぃのお腹の中におさまってしまい、夜間の動物病院を探してちぃを抱え、夫婦で車に乗り込みました。

 

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獣医の先生によると鶏の骨は、お腹の中で解けていくときに鋭くとがり、万が一腸を傷つけてしまうと、命にかかわるのだそうです。絶対に食べさせてはいけない食べ物なのですが、私の不注意で食べさせてしまったのです。

また、こういうときには無理に口から取り出すと、喉の内側を傷つける恐れがあり、それもしてはいけないということでした。私が口から骨を取り出せなかったのは、不幸中の幸いだったのです。

ちぃは、3日間病院に通い、胃の中で鶏の骨が溶けていく様子を毎日レントゲンで撮られました。その間私は、当時勤めていた会社を休むこともできず、家に帰ったら、ちぃがひとりで死んでいるのではないかと思うと、仕事が手につきませんでした。

「胃の壁は、針を飲んでもささらないほど丈夫だけれど、腸に流れてしまうと危険なので、絶対にお腹を押したりしないようにね」 
先生はそのように言いました。

幸いちぃは、骨を肉ごとまるのみしていたので、そのままでは腸に流れてはいかず、消化剤のおかげで、みるみるうちに骨が溶けていく様子がレントゲンで確認でき、3日目にはすっかり骨の影が見えなくなりました。

 

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その後もちぃは家族が油断している隙に、置いてあった洋服から、やや大きめのボタンを引きちぎり、飲み込んだりしていたようです。

ある日、夫の携帯電話のストラップに塗装のはがれかけた金属ボタンがお守りのように大事にぶら下げられていたので、「それ、いったいなぁに?」と聞くと、「ちぃのお腹から、出てきたんだよ。なにか吐いているなと思ったら、これが…」とのことでした。

ちぃは甘噛みのくせもひどく、特に私の手ばかりをいつも噛むので、顔を拭いてやることも、なでてやることも容易ではありませんでした。
小さくてもさすがにブルドッグで、あごの力が強く、歯磨きのときに指をかまれることもあり、けっこう痛いのでした。

 

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ある日、家に来ていた母に、ちぃの甘噛みの悩みを相談すると、
「犬はね、手がないから何でも口でくわえるんだよ。ちぃは、手をつなぐかわりに、口であんたの手をひっぱって、『遊ぼう、遊ぼう!』って誘っているんだよ、きっと」
と言いました。

実は母は犬が苦手です。
ちぃが喜んで飛びつこうものなら、「きゃあ~!」と本気で怖がり、逃げるほど。

何があってもいつも冷静で気丈な母が、小さな犬を怖がる様子がなんとも母らしくなくアンバランスで、「かわいい人だなあ…」とほほえましく思っていたのですが、犬嫌いでありながら、犬の気持ちをそんなふうに想像し理解を示したことに驚きました。

私は母の言葉を聞いてこう思いました。
「これまで私は、『遊ぼう!』と誘うちぃの手(口ですが)を、そのたびに振り払っていたのか……」
そして、ちょっと胸が痛くなりました。

それからは、噛んでもいいように小さいボールや、牛の骨を買ってきて、ちぃと少しずつ楽しく遊べるようになりました。

やがてちぃはやがて大人になって、私の手を甘噛みすることは、ほとんどなくなりました。 

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~うちの子がうちにきてすぐ No.4~
犬の名前:ちぃ
犬種:フレンチ・ブルドッグ
飼主:かっぱ太郎、F.zin

――うちの子がうちにきてすぐ・次話――

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――出典――

※本記事は著作者の許可を得て、下記のエッセイを元に再構成されたものです。