もう一度やってくる君のために
3匹のチビは外飼いでした
子供の頃、3匹、犬を飼いました。
どの子ももらってきた子で、最初の子はスピッツで、名前はチビと言いました。2匹目の子はダルメシアンで、名前はやはりチビと言いました。3匹目の子は雑種で、この子もチビと言いました。
子供の頃の田舎では、どの家も犬は外飼いで、余りご飯を食べていて、平均寿命は3年かそこらでした。近所には動物病院はなくて、車で1時間くらいのところに1軒あったのですが、「犬を病院に連れて行った」というと、驚かれたものです。
田舎では犬を病院で診てもらうのは、とんでもない贅沢だったのです。
時は過ぎて
それから随分と時が過ぎました。
ピーチーを迎えたのは、3番目の子から20年以上たってからのことです。
当然ながらもう犬は室内飼いが常識になっていて、トイレも室内でした。だから4匹目となるピーチーには、子供の頃に飼った3匹の経験など、まったく役に立ちません。
飼育本を買ってきて読み始める、全くの新米飼い主から始まったのです。
ピーチーは肌が弱かったので、生後6カ月から動物病院のお世話になりはじめ、それはお別れの14歳7か月まで続きました。毎月最低1回の病院通い。子供の頃は、お金持ちの家しか行かなかった動物病院なのに。
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ピーチーの晩年には、相当なベテラン飼い主になった気持ちでした。
ピーチーのことならほとんどのことが、手に取るように分かりましたし、ピーチーもこちらが「こうして欲しい」と思うことをやってくれるようになりました。
ピーチーを天国に送るときには、本当に心と心が通ったように思いました。
しかし我が家では今、5匹目となるピィ子を迎えようとしています。
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ピィ子を迎えるに当たり、しみじみと実感しているのは、自分はベテラン飼い主などではなく、新米飼い主なのだということです。18年前にピーチーを迎えた時のように、何も知らないのです。
どうやってトイレを教えたっけ?
家に帰ったら、テーブルの脚が1本無くなってたことがあったなあ。
あの破壊活動はどうやって躾けたっけ?
ピーチーで積んだはずの経験は、今や忘却の彼方です。
いつだって新米飼い主
18年前、ピーチーは警察犬訓練学校に入ってもらいました。
ブルテリアは闘犬種だから、万が一の事故を恐れてのことでした。当時は遺伝的に凶暴性を持った個体が、まだ時々まぎれていたのです。
しかしブリーダーさんよると、今のブルテリアには問題犬はいないとのことでした。
よってピィ子は、家で躾けようと思っています。
さて、上手くいくでしょうか?
ブルテリアという犬種は、頑固で意地っ張りですから。
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確実にやろうと決めていることが、2つあります。
1つ目は、粗食で育てることです。
今も思い出すのが、ピーチー晩年の頃の食事です。
ピーチーの時は、警察犬訓練学校での教えにしたがって、粗食を徹底しました。
普通にホームセンターで手に入るカリカリのフードが中心で、時々白米に水をかけるだけの食事です。茹でた鶏のささみ肉がときどきそこに乗っかります。
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粗食は本当に良かったです。
ピーチーが闘病するようになり、終末期を迎え、食欲が徹底的に落ちた時にも、食べたことのない美味しい食べ物が、選択肢としてまだ沢山残っていました。
あれはピーチーにとっても、飼い主にとっても幸せなことだったと思います。
最後の最後まで、食べる楽しみを残してあげたいから、ピィ子には可哀そうだけれど、美味しいものへの階段は、一生かけてゆっくりと上がってもらうことにします。
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確実にやることの2つ目は、絶対に咬まない犬にすることです。
ブルテリア犬種の特性で、顎の強さは犬の中で最強です。
万が一にでも人を噛んだら大事故で、下手をすると殺処分が待っています。
(これ、本当なんです。重大な事故を起こした犬に対しては、県知事命令で殺処分が許されているのです)
咬まない犬にする訓練だけは、ピーチーで徹底してやってきたので、今もやり方は覚えています。新米飼い主ながら、そこにだけはまだ自信があります。
だから、覚悟しておけよ、ピィ子。
ベテラン飼い主っているのか?
考えてみると、世の中には犬という動物に対してのベテランというのは、ほとんどいないように思います。
今風の飼い方をすると考えると、犬の平均寿命15年。15年も一つのことを続ければ、それなりのベテランになりそうなものですが、犬を飼うというのはそういうことではなさそうです。15年間1つの単純作業を繰り返し行っているのではなく、15年かかる複雑で長い作業を1回やっているだけなのです。
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犬を飼う環境も、ピーチーの頃とは随分と変わっているはずです。
例えば、ピーチーが大病をしたときに強肝剤として処方された薬は、当時新薬の治験中だったウルソでした。精密な血液検査をしながら飲ませた薬も、今では当たり前のように処方されていますね。
抗アレルギー剤もピーチーはステロイドしか選択肢がありませんでしたが、今では副作用の少ないものが登場しています。
かつて治らなかった病気も、今は治るものも多いのではないかと思います。動物医療の進歩は目覚ましいものがあります。
もういちど、勉強のし直しですね。
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さて、これから始まるピィ子との暮らしは、2度目の15年の始まりです。
ピーチーとの14年7ヶ月の経験は、もう過ぎたこととして、忘れることにしましょう。
これからは、自分が経験の乏しい新米飼い主であることをことを胸に刻んで、謙虚に先輩飼い主さんのアドバイスをもらいながら、新しい15年を歩んでいこうと思います。
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そうそう、たった一つだけですが、ピーチーの経験が活かせることもありますね。
それは、愛犬との暮らしを、きっとピーチーの時以上に味わえるということです。
愛犬を看取った経験がある飼い主は、目の前にいる幼犬と、いつか別れが来ることを肌感覚で知っています。そしていつかやってくる闘病も、介護も、看取りも悪いものではないと知っています。
だからこそ、これからの1日1日を、大切に過ごしていけるように思います。
どうか楽しい日々がやってきますように。
(追記)
先日、4年ぶりにペットショップに買い出しに行きました。
懐かしい場所に帰ってきた気持ちでした。
これから、子犬を育てる苦労を楽しもうと思います。
きっと最初の高い壁は、トイレだなあ。
実はピーチーの時は、苦労をしたのです。
とにかく、頑固者で意地っ張りでしたからねえ。
二匹目を迎える時の葛藤は、一匹目とは違う
もう一度、犬を飼うということ
愛犬ピーチーが去って、3年が経ちました。
少しだけ寂しいのですが、その寂しさを楽しむ毎日。
次の子は?
考えないでもないのですが、是非にという気持ちでもなくて――
そんな中で、1枚の写真が送られてきました。
少しだけ、心が動きました。
――もう一度、犬を飼うということ――
文:高栖匡躬
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我が家がピーチーを迎えたときのこと
偶然に手に入れたマンション。
引っ越してからわかったのですが、なんとそのマンションは、当時にしては珍しい、ペット可の物件でした。
マンションがペット可とだ気が付いたのですが、すぐに犬を飼おうとはなりません。命を預かるのですから覚悟が大事です。最後まで面倒が見られるかな?
――まだまだ迷いがありました。
ペットショップからの電話で、予約していたアイパンチのブルテリアがお店に来たことを知った筆者。あまりにも突然で、心の準備がまるでありませんでした。
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犬を飼うということ
『犬を飼うということ』は当サイトのサイト名。
沢山の意味を込めた名です。同名のTV番組が有名なのですが、それはそれ。
出会いから別れ、喜びも悲しみも、全部詰まっている言葉ですね。
その昔、谷口ジロー氏の『犬を飼う』のように、犬を愛そうと思っていました。
そしてピーチーがきました。