犬を飼うということ

いつまでも君と……

ねえ、犬を飼おうよ、お父さん! ~我が家が犬を飼わない理由(後編)~

f:id:masami_takasu:20181017124525j:plain文:高栖匡躬 

タクシードライバー山川さんへのインタビュー、後編です。

「犬ってね、いつか死んじゃうじゃないですか。そうなったら娘が余計に可哀そうだし、僕だってさびしくなっちゃうだろうし」
かつてはそう考えて、犬を飼うことを拒否してきた山川さん。

しかし今、山川さんは犬を飼っています。
どうして山川さんは、犬を飼うことになったのでしょうか?

いよいよインタビューは佳境です。

 

 念願の一戸建て、そして娘との約束

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「山川さん、犬との別かれを随分と怖がっていらっしゃったようですが、よく犬を飼うという決断をなさいましたね。一体どうしたんですか?」
筆者は山川さんに、次なる質問を投げかけて見ました。
「色々とありましてね」
山川さんは、しみじみと当時を振り返るような表情です。

「色々って何ですか?」
「それがね、もう随分と前ですが家を買ったんですよ。一戸建てをね」
「それじゃ、娘さんとの約束を守ってあげたんですね。素晴らしいな」
「いやいや、そうじゃないんですよ」
まずは否定をしてから、山川さんは言葉を続けます。「家を買ってからまた娘は、『犬を飼おうよ』と言い始めたんですがね、僕は曖昧に返事をしていたんです。きっと前みたいにそのうち諦めるだろうと思ってね……」
山川さんは、しばし無言になりました。

 

 ある日、そこにいたのは……

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「じゃあ何故、犬を飼うことに?」
思わず訊ねる筆者。
「それがね……、ある日、いつもみたいにタクシーの勤務を終えて家に帰ったら、そこにいたんですよ」
「いたって、何がですか?」
「可愛いマルチーズですよ」
「どういう事ですか?」
「うちの娘とカミさんが、ホームセンターで買ってきちゃったんですよ。僕に相談せずに」
山川さんは少々困り顔。きっと脳裏に、当時の風景が蘇ったのでしょう。

「ええっ、それで山田さん、どうなさったんですか?」
「どうするもこうするも、もう仕方ないじゃないですか。そこにいるんだからね」
「で、結局、山田家の家族が増えたと?」
「まあ、そういう事。でも、あれはあれで良かったかな。踏ん切りがついて。僕も元々は嫌いじゃないしね、犬」
そう言うと、山川さんの顔はまんざらではないという笑顔に変わりました。

『頭で考えると、犬を飼う事に二の足を踏むにも関わらず、自分の意に反して犬が家に来てしまったら、それはそれで嬉しい』
山川さんと同じような考えの人たちは、結構多いのではないでしょうか?

命を預かる決心は、慎重な人ほどつきにくいものです。
命の大事さを知る人つまり、もしも犬を飼ったら可愛がる人ほど二の足を踏むように思えます。

 

 人は悲しみが多いほど……

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少し話題を変えましょう。
犬を飼う前に山川さんの心に、ずっとブレーキを掛けていた事。
『愛犬との死別が、子供を悲しませる』という心配事は、多くの”潜在的愛犬家”の心を縛っていると思われます。

しかしそれは、それはそんなに忌むべきことなのでしょうか?

経験的に私たちは、悲しみが人の懐を深くし、その人をより愛情豊かな人物に育てることを知っています。世相を映す鏡とも言える、ヒット曲の歌詞からもそれは明らか。

悲しみが人生の糧となることについて、実は多くの人たちが、共感を覚えているのです。

”人は悲しみを知り 心からの愛を知る”

LUNA SEA  "END OF SORROW" より
ノンタイアップシングルでありながら、オリコン週間シングルチャートでは3作目となる首位獲得、40万枚以上のセールスを記録

出典:END OF SORROW - Wikipedia

”人は悲しみが多いほど 人には優しくできるのだから” 

海援隊  "贈る言葉" より
レコード売上が100万枚を超えるヒット。
1980年の第22回日本手レコード大賞で、作詞賞を受賞。

出典:贈る言葉 - Wikipedia

”涙の数だけ強くなれるよ アスファルトに咲く花のように”

岡本真夜 "TOMORROW" より
オリコン集計の累計売上は、177.3万枚。
出荷枚数は200万枚を突破する売上を記録。

出典:TOMORROW (岡本真夜の曲) - Wikipedia

 

 犬を飼おうよ お父さん

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もしも娘さん(あるいは息子さん)から、「犬を飼おうよ お父さん」と言われた時、お父さん、ぜひ真剣に考えあげてください。

『愛犬との悲しい別れ』にだけ心を奪われるのではなく、『愛犬との悲しい別れの後に我が子の豊かな人間形成が訪れる』ことを想像しながら。

そしてどうか忘れないでください。

『愛犬との悲しい別れ』の前には、必ず『愛犬との素晴らしい生活が、家族の景色を、瑞々しく彩ってくれる』ということを。

 

 今や山川さんは

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山川さんの運転するタクシーは、遠回りをしながらも、段々と目的の動物病院に近づいていきました。筆者は山川さんに、最後の質問を投げかけてみました。

「山川さん、犬を飼って良かったですか?」
「当たり前ですよ。犬のいない生活なんて、もう考えられません」
「お嬢さんも喜んでいらっしゃいますか?」
「うーん、どうかな?」

「どうかなさったんですか?」
「いやー、前にも言っことだけれど、娘もカミさんも犬を可愛がったのは最初だけ。その後の面倒は全部僕が見ているんですから全く、嫌んなっちゃう」
「そうなんですか。でも、それでも良かったって思っていらっしゃるんですよね」
「そりゃ、良かったですよ。今では娘よりも可愛いかもしれない」
山川さんは満面の笑顔です。

「お嬢さんは今、何歳ですか」
「もう18歳です。うちの犬がうちに来てもう5年。娘ももう大人です」
「お嬢さんは、学生さんですか?」
「そう。あいつ、動物の医療関係の学校に進んだんですよ」

山川さんは、先ほどよりも一回り大きな笑顔で答えてくれました。

 

――我が家が犬を飼わない理由(後編)おわり――

文:高栖匡躬
 

――前話――

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

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