うちの子がうちにくるまで|No.30
”りく”を迎えたのは、もう18年も前のこと。
パピヨンのメスは、初心者向きで飼いやすいというからそうなった。
当時は犬の飼い方なんて全く知らなくて――
やがて犬との暮しに慣れ、私は大人にり、そして”りく”が家にいるのが当たり前になった。
そして、犬に寿命があるってことを、すっかり忘れていた。
パピヨンってどんな犬?|これまで犬を飼ったことがない|パピヨンのメスは初心者向きって本当?|経験者の体験談を聞きたい
それは、もう18年も前
私が犬を飼ったのは、もう18年も前のこと。当時私は中学生だった。
小学生の頃、学校の帰り道で近所の犬と遊び始めて、それからぼんやりと犬を飼いたいなあと思っていた私。
そんな私に両親が、「犬を飼ってみる?」と聞いて来た。
実はその頃、私は引きこもりがちだった。だから犬を飼えば、少しは私が元気になるかもしれないと両親は思ったのだろう。
●
「本当に犬が飼えるの?」
しかしその時、我が家の誰にも、犬に関する知識が無かった。
今となっては笑い話だが、犬がどこで手に入れられるかも知らず、どんな犬を飼ったらいいかも知らなかったのだ。
早速父が色々と調べてくれた。私はその横に座っていたのだが、本当に犬が飼えるなんて、まだ信じられない気持ちだった。
結局、初心者向きで飼いやすいというのが理由で、パピヨンのメスにしようと家族で話しあった。
犬種は決まったのだが――
そう簡単に、犬はうちに来てはくれなかった。
パピヨンのメスは、何故か方々探しても見つからなかったからだ。
――探し疲れて行った、地元のペットショップ――
「オスですけど抱いてみますか?」
お店の方から、そう声を掛けられた。
そこには、来たばかりのパピヨンがいた。
2000年11月3日生まれのパピヨン♂。
今思えば、あまりにも早く親から離された生後1か月半の子だった。
●
その子は大人しくて、抱っこしてみると私の白いセーターの裾をハムハムと噛んだ。
その光景は、今でもよく覚えている。
「こんな小さなもの、どうやって育てていいのかわからないな」
そう思った――
私はすぐにはその子に決められなくて、少し考えさせてもらうことにした。
たまたまなのだけれど、私の父は1月3日生まれで、兄は8月3日生まれ。
3日という日には妙な縁があった。更にその子の誕生日の1日前、11月2日は大好きだった祖父の命日でもあった。
一晩悩んだ私は、11月3日生まれの、そのオスのパピヨンを迎える事にした。
運命かなって思った。
●
冒頭にも触れたが、当時の私は家に引き籠もりがち。
その子は、『娘が少しでも外に出るように』と願いを込めた、両親から私へのクリスマスプレゼントになった。
名前はクリスマスの頭文字2つを逆さまにして、“りく”にした。
色んな人にカッコイイ名前ね、と感心してもらってたけど、案外軽いノリでつけた名前だったのはここだけの話だ。
翌日りくは、小さな箱に入ってうちに来た。
私にも家族にも初めての犬――
そして――
私たちは、何の知識もない飼い主になった。
●
ペットショップで大人しかったりくが、ただ大人しいフリをしていただけだったと分かるのは、それからすぐのこと。
家についたりくは、すぐに本領を発揮し始めた。
抱っこは嫌い、散歩中は人にも犬にも吠えてしまう。
叱っても叱っても治らない。
ボールでガシガシ遊び、たくさん吠えて、たくさん噛んだ。
流血騒ぎなんて、日常茶飯事だった。
りくには、どんなしつけ本も参考にならなかった。
無駄吠え防止の首輪も、拾い食い防止の口輪も、色んなものを試した。
訓練士さんからは「この子はこれ以上難しいかもしれないです」と言われる始末。
それで私たち家族は覚悟を決めた。
りくはもうこのまま、噛みついたり吠えたりする姿で育てていこうと。
●
私はその頃夢を見た。
亡くなった祖父が、りくに何かを話している夢を――
りくは綺麗にお座りして、真っ直ぐに祖父を見ていた。
その夢で私も遅ればせながら覚悟ができたんだ。りくは家の子なんだって。
今思えばりくの振る舞いは、当たり前の元気さだったように思う。
私たちは犬に対してあまりに無知で、犬のしつけ方がわかっていなかっんだ。
りくはとても元気な子で、公園にいけば沢山の遊び友達がいた。
ロングリードでボール遊びをすれば、いつまでも走りっぱなしだったし、ジョギングに付き合わせれば1時間ずっと並走したものだった。
しかし私が成長すると、そんな風に一緒に遊ぶ事もなくなっていったのだけれど――
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りくにとっては、ご飯とボールと散歩がすべてだったと思う。
冷蔵庫の開く音を聞けばとんできて、人が何か食べている時は落ちてくる物を逃すまいと横に待機した。
ボールは常に7個をキープ。寝るときはベッドの周りに全てコレクションしておやすみなさい。
「散歩」の一言で飛び起きて、ジャージを着た私を見て尻尾を振った。
一方でりくは、愛玩犬としてのお仕事は怠惰だった。
撫でられるのは好きじゃない。
寝たいときは勝手に寝室に行って寝る。
抱っこなんて、もってのほか。
●
りくにはりくの中で決まりがあった。
トイレは綺麗に使う。夜中の暗闇でも1匹でトイレに行って定位置で。
外では足をあげるけど、家ではあげない。
汚れたトイレシーツは嫌だから、終わった後は飼い主がトイレシーツを変え始めるまで黙ってトイレ横で待機。
食べ物が欲しいときは黙って人の横にいて、時折顎か肉球を人の腕に乗せる。
要求吠えはせず、待ては上手に忠実に。そしたら食べ物かボールが降ってくる。
ピンポンに吠えるのは飼い主がいる時だけ。飼い主がいない時は吠える必要なし。
そのうち近所の人に、在宅状況がバレるようになった。
それでも時折は、愛玩犬っぽさも出してきたっけ。
撫でられるのは嫌だけど、たまに黙って人の方に背中を差し出してきて、『撫でさせてやっても良いよ』って言ってきた。こっちがなかなか撫でないと、鼻で催促してきた。
1人で寝床に行っちゃうくせに、その前に一応皆にお伺いをたててた。
『一緒に寝ませんか?寝ません?じゃあ先に行きますね』
いたずらは見えないところでした。
外出中テーブルの食べ物は消えて足跡もたくさんあるのに、りくがテーブルに乗ってるのを見た事は1回しかない。帰宅時に凄く良い顔をしてたら、りくがいたずらした証拠だった。
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たくさんの運動と、たくさんのご飯で、りくは5キロに成長した。
どすこいパピヨン。しかも耳の毛はチロチロしかないから、出来損ないパピヨンって言ってからかったものだった。
段々と大人になっていった私――
それとともに私の関心は、りく以外のものに沢山向いて行った。
私が飼いたいといった犬なのに、りくを置いて海外に留学したり、家をでて一人暮らしをしたり。
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私は家に帰ったら、いつでもりくに会えると思っていた。
それが当たり前だと思っていた。
犬に寿命があるってことを、すっかり忘れてた。
いや、頭ではわかってはいたんだ。
でも、心ではわかっていなかった。
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やがてりくは、大人しく撫でられるようになっていった。
そして――、私は実家に帰った――
りくの最期の面倒を見たかった。
りくはそれからも生きてくれた。
17歳になる年には、長寿表彰をもらった。
私はりくの18歳までの日々を記録しようと、Twitterをはじめた。
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りくが亡くなったという連絡を受けたのは、通勤電車の中だった。
すぐに母親へ電話した私は、泣きながら開口一番こう言った。
「ねぇ、私はちゃんとりくにお別れできてたかな?」
その日の朝「おはよう」は言ったけれど、「行ってきます」は言わなかったような気がしたんだ。りくが老犬になってから、私は毎日りくに、声を掛けてから出掛けていたのにね。
りくの18歳のお誕生日は、一緒に迎えられなかった。
あと10日だったのだけれど。
後悔はいっぱいあるよ。
でも、りくはきっと幸せだったよね。
りくの話をすると、家族皆に笑顔があふれるんだよ。
りくが皆に笑ったみたいにね。
ありがとう、りく。
たまには遊びにきなね。
――りくがうちにくるまで|おしまい――
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――うちの子がうちにくるまで・次話――
シングルマザーの私が犬を迎えたのは、息子に兄妹を持たせてあげたかったから。
悩みに悩んで迎えたのは、先代犬と同じシーズー。
さて、兄妹になれたかな?
――うちの子がうちにくるまで・前話――
フレンチブルの太郎くんは、しろとり動物園生まれ。
最初はそのつもりはなかったのに、会いに行ったら一目ぼれでした。
今では白髪交じりになってしまったけれど、何事にも始まりはありますね。
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――うちの子がうちにくるまで、第1話です――
昔からいつかはワンを飼いたいと、ずっと夢見ていたんです。
でも、夢と現実の差はでっかいですよね。結局はずっと、実現できずじまい。
――そんな夢を叶えた飼い主さんのお話。
犬との出会いは運命に似ています。
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りくはうちに来て、幸せだったかな?
子どもの頃、犬のことなんか何も知らなかった。
”りく”は、はじめて飼った犬。
だから分かり合うまで随分かかった。
大人になると、りくは家にいるのが当たり前になった。
でも――
りくはいつのまにか、おじいちゃんになっていたんだ。
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