警察犬の学校に行くということ
2度目の面会 - 飼い主のトレーニング
ピーチーの2度目の面会に行ったのは、1度目の面会の更に一か月後のことでした。
そこでは印象深かった出来事があります。
この面会では、ピーチーが学校を卒業して帰宅する準備として、散歩の練習が待っていました。チッチ先生の指導の下で、飼い主がピーチーを散歩させるのです。
そこで教えてもらったことは沢山ありました。
リードの持ち方、伸ばす長さ、飼い主の視線など、幾つも決まりごとがあり、どれも犬の飼育の本になど書いてありません。
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驚いたのは、その散歩の練習の際のピーチーの行動でした。筆者の左足に体を寄せてくるのです。それも歩く邪魔になるほどにピッタリと。
「これは脚側歩行と言います。飼い主と犬との主従関係を明確にするものなので、このしつけが取れないようにしてください」
そうチッチ先生は言いました。
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飼い主は前を向いて(犬を気にしないで)自分のペースで歩き、もしも犬の足を踏んでしまっても、何食わぬ顔で歩き続けるのだそうです。犬にとってみれば、飼い主に気遣いながら歩くのが自分の役割であり、もしも足を踏まれたら、それは自分の歩き方が未熟だという事なのだそうです。
踏んでも気にしないのは、主従関係をしっかりと示す手段ということ。なんだか盲導犬の訓練のようですね。
はじめてのカエル足
散歩の途中で立ち止まった時のことでした。
突然ピーチーは『伏せ』のような恰好をしたのですが、何と後ろ足がカエルの足のように横に広がっているではありませんか。
「こ、これは一体なんですか? 先生!」
思わず訊ねた筆者。
「そんな恰好をさせてはいけません。それは飼い主を舐めている証拠です」
チッチ先生はそう言うなり、筆者が今手に握っている革製のリードを取り上げて、持ち手のところをムチのように使って、ピシリとピーチーを叩きました。
本当に『ピシリ!』と音が響くほどの強さです。ピーチーは慌てて立ち上がりました。
その姿勢はブルテリアの飼い主さんならば皆さんがご存知の、カエル足です。
(カエル足と命名したのは筆者です。正式名称は知りません)
ブルテリアだけでなく、ブル系の子は良くやりますね。
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これがそのカエル足
カエルみたいでしょ?
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筆者はピーチーのカエル足を、その時初めて見ました。幼犬の時には、恐らく関節の発達具合でしない姿勢なのでしょう。生後3か月までのピーチーは、我が家で一度もその姿勢を見たことはありません。察するところ、生後5~6か月辺りから始めるものなのではないでしょうか?
守れなかった約束もありました
実を言うと『絶対に、脚側歩行を守らせる』ということと、『カエル足はさせない』ということの2つは、ピーチーが学校を卒業して我が家に戻ってから、真っ先に取れてしまったしつけです。
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『脚側歩行』のしつけは、ピーチーが求める運動量があまりに多いので、じきに散歩が自転車に頼るようになり、しかも最初から最後まで(毎回5㎞ほど)ずっと走りっぱなしであったことから、すぐに取れてしまいました。
『カエル足はさせない』のしつけは、あのとぼけたポーズが何とも面白いので、筆者が放任していたら、自然に取れました。
チッチ先生には申し訳なかったのですが、まあ、この2つは良いかなと思いました。
別にピーチーを、ショードッグにするわけではありませんからね。
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そして、更に1か月が経ち、いよいよピーチーの卒業の日が来ます。
ピーチーを迎えに行った日、チッチ先生は僕たちに、ピーチーと長く付き合っていくための、色々な注意をしてくれました。
そしてそれが、家族とピーチーが付き合っていく行動の基準になりました。
ピーチーが14歳になっても元気いっぱいだったのは、チッチ先生の指導のお蔭だったと思っています。特に食事に関する考え方などは、目から鱗でした。
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この食事も含めたチッチ先生の教えは、別の記事(次々回)でまとめようと思います。
とても良い話なのですが、それを活用するかどうかは、皆さんの判断で決めてください。
思い出のチェーンとリード
チッチ先生はピーチーの事を、「こんなに性格の良い子はめずらしいよ」と褒めてくださいました。
チッチ先生の元には、飼い主のしつけが行き届かなくて、問題犬として育ってしまった成犬がたくさん連れて来られるのだそうです。だから仔犬の真っ白な状態で託されたピーチーは、とりわけ印象に残ったのだと思います。
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最後の最後、チッチ先生と分かれる時に、ピーチーはチッチ先生に抱かれて尻尾を振りました。チッチ先生は少し寂しそうでした。少し目が潤んでいて、この方は本当に犬が好きなんだなあと思いました。
ともあれこれでピーチーは学校を卒業です。筆者と奥さんとピーチーの、長い長い付き合いは、ここから再スタートしたのでした。
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これは学校で使っていて、それからもずった使いつづけた、
訓練用のチョークチェーンと皮のリードです
チェーンは14年間付けっぱなしでしたが、今も錆一つありません
皮のリードも最初の一本目が健在でした
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因みに、チョークチェーンは犬の身に付けさせただけで虐待だと、声高に言われている方を時々目にします。しかしそれは、あまりにも偏った考え方のように思います。
チョークチェーンは犬との対話のためにあるもので、首を絞めるためにあるのではありません。誤った使い方をする人たちによって、偏見を持たれてしまうのは、とても残念なことです。
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自信と確信を持って言いますが、筆者はこのチョークチェーンで、ピーチーと14年間対話をしてきたのです。それはずっと使い続けてきたからこそ、分かる話です。
本当に、気持ちが通い合うのですよ。
使っていない人には、きっと分からないだろうなあ。
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筆者はこのチェーンとリードのように、ピーチーにもいつまでも丈夫でいて欲しいなと思っていましたが、その願いの通りに、ピーチーはずっと丈夫なままで寿命を終えました。
今もまだ、そのチェーンとリードは大切にとってあります。
もしも次の子が来たら、その子もこれを使うのです。
――警察犬の学校に行くということ(3/4)――
文:高栖匡躬
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――次話――
いよいよピーチーは卒業。
「しばらく、優しくしてやってください」とチッチ先生は言いました。
家に帰ってきてもピーチーは、自信を失ったままでした。
しかし、それも1か月ほどで、元のはつらつとしたピーチーに戻りました。
チッチ先生の言葉の意味をそこで知るのですが、この1か月でピーチーと家族の信頼は決定的になったように思います。
――前話――
警察犬の学校では面会が月1回しか許されません。
待ちに待ったその1ヶ月目。
いそいそと会いに行くと、そこには見慣れぬ犬が――
それは成長して、大きくなったピーチーでした。
ピーチーはどういうわけか、すっかり自信を失っていました。
「大丈夫か、ピーチー?」
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この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。
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――連載の1話目です――
もう18年も前のこと。
うちのピーチーは、警察犬の学校に入りました。
別に、警察犬にさせたかった訳ではありません。
何故そのようなことをしたのか?
その当時は、やむにやまれぬ事情がありました。
子犬の時期に、3ヶ月家を離れることになります。
しかし、良いことが沢山ありました。
そんなお話です。
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愛すべきブルテリアたち
ミニチュア・ブルテリア|ピーチー|全3話
偶然に手に入れたマンション。
引っ越してからわかったのですが、なんとそのマンションは、当時にしては珍しい、ペット可の物件でした。
えっ、犬を飼っていいの?
ミニチュア・ブルテリア|鼻
ある日、私はソファーでいびきをかいている豚を目撃しました。
――豚??
イエイエ、それは豚ではなく犬。
作者ががブルテリアに心を奪われた瞬間でした。