事例(体験)偏食・食べムラ ガイドブック ②
前回は偏食に関する基礎的な用語の区別と、偏食が起きる原因について書きました。
今回は実際に、偏食を予防する方法と、偏食が起きてしまった後の対応まとめています。
こんな方に:
偏食(食べムラ)をなくす本当の理由とは?|既に偏食の状態にあるときはどうする?|経験した飼い主の体験談を聞きたい
【目次】
- 事例(体験)偏食・食べムラ ガイドブック ②
偏食を予防する意味は
1.若くて元気な頃は、対応がし易い
愛犬が若く元気な頃は持病も無ければ、食べないときは器を下げたり、食べるまで待つといった、一般的な偏食への改善方法が試せます。
若いうちに偏食のない仔に育てれば、将来の選択肢を多く残しておけるというメリットがあります。
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我儘による食べムラを解決しようと、あれこれ食事を変えて贅沢させてしまったり、おやつで誤魔化したりすると、偏食が悪化しがちです。そうならないようにするためには、日常は主食(フード)を食べる事が大事です。
日頃からそのようにしておけば、いつか突然食べない日がきても、その理由もだんだんと見極められるようになってくるはずです。体調不良で食べないのか、わがままなのかも判断しやすくなると思うのです。
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【食べムラ】【食欲不振】
まず食べムラ(我儘による)のない子に育てよう
犬にとって”食べる”の意味は、ステージ(年齢や状態)ごとに微妙に違います。食べればよいという訳ではないのです。その時々に最適な食べ物を選ぶためにも、まずは基礎的に、我儘による”食べムラ/偏食”のない子に育てておく必要があります。
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2.偏食の予防は将来にも繋がっている
偏食のない仔にしつけをすると、老犬や病気になって食が細くなってきた時も、ひどい拒食や偏食に陥るリスクを減らせます。
特に老犬になると、若い頃は出来たことも簡単には出来ないことがあります。この時になって、ご飯を毎日当たり前に美味しく食べられるということが、いかに素晴らしいか実感することとなります。犬生の中で、食事は大きな楽しみの1つですから、それを奪ってしまわないように、予防することは大事ですね。
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【食べムラ】【躾/しつけ】
我儘からくる食べムラ/偏食を躾ける意義
美味しいご飯を食べさせてあげたいのは、飼い主の思いです。しかしそこに、”いつまでも”という視点が意外に欠けているように思います。
老犬になり、闘病をし、介護になって、食欲は極端に落ちていきます。最後まで食べる喜びを与えるには、より美味しいものを食べさせるしかありません。
将来、今よりも何段階も美味しいもの与えようと思ったらどうします?
今が出発点なのです。
突然、食事の変更を迫られることもあります
若くて健康であった犬も、歳を取って老犬になると、どこかしら身体の不調が現れてきます。そして、治療のために療法食への変更を指示されることもあります。
療法食は好まない犬が多いと聞きます。
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食事の変更を迫られた際の問題
我が家では急性膵炎から胆管閉塞を併発し、以後はフードの変更を余儀なくされました。徹底的な低脂肪食です。我が家の場合は、食事を切り替えても、それほど大問題にはなりませんでした。それは次回の記事でご紹介する、”粗食”を心掛けてきたからです。
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しかしネット上でよく目にする事例では、そこに至る前から既に嗜好性の高い食事が与えられていることが多く、時には療法食を断念せざるを得ないケースも見受けられます。そうならないように、飼い主は愛犬の一生を念頭に食事を設計しなければならないのですが、そうでなかった場合も、それで諦めるわけにはいきません。
要するに、何とかしないといけないのです。
愛犬の命を繋ぐためにです。
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飼い主の悩みは深いもの
偏食の改善が若い頃からうまくいかないと、必要な際の食事を食べさせられなくなり、相当悩むことになります。
病気によっては、細かな成分調整が必要な場合もあります。食事管理が難しいということは、本犬の寿命を早めてしまう可能性もあります。
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いつか必ずくる闘病生活や介護では、これまでに経験しなかったほどの厳しい偏食が待っています。やはり若い頃から、おやつや好物だけ続けて与えるといった行為は、将来的なリスクになると考えた方が良いと思います。
犬にとって、食事は最大の楽しみの1つです。
最後までその楽しみは残してあげたいものです。
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【粗食】【食べムラ】【偏食】【食欲不振】
食べればよいのではない。粗食のススメとネット情報の誤解
犬は本来、粗食に耐えられるものです。
というよりも、粗食でも健康に何らの害もなく、喜んで食べてくれる生き物のはずです。贅沢にしているのは、飼い主側にも問題がある場合が多いのです。
犬の食事は飼い主が、犬の一生を俯瞰して決めてあげるべきものです。そのためには、犬という生き物をある程度知る必要もあります。
偏食になってしまったら、どう対応していくのか
1.起きてしまったら、試行錯誤の連続
偏食に陥ると、食べてくれる方法を飼い主もなんとかして見つけなければなりません。しかし、愛犬が老犬であったり、食事に制限のある場合は、体調面を第一に対処しなければいけないので、安易にしつけをしたり、よくある改善方法を試すことができません。限られた条件の選択肢の中で試行錯誤することになります
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究極の偏食は終末期
どのような犬でも、いつか必ず迎えるのが闘病で、その後の介護生活です。
終末期になると体が食べ物を受け付けません。究極の偏食状態です。
そんな時に飼い主は、自然な死を迎えるのか、それとも少しでも良いので食べさせて、バイタルを維持しようかという選択になります。
下記の記事は、終末期での食事の試行錯誤です。
筆者の実例で、愛犬は肺がんの終末期でした。
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2.強制給餌は可哀そう?
自力では全く食べてくれなくなった愛犬には、強制給餌という方法もあります。
強制と聞くと、精神的に抵抗があったり、正しく与えられるだろうかと不安に思う方も多いと思います。
飼い主さんたの中には、“強制給餌は可哀想” という意見もあります。
しかし、食事を与える手段がなくなると、愛犬は衰弱していくのです。
自然死を選ぶか、強制給餌で一緒にいられる時間を少しだけでものばそうとするのかは、飼い主さんの考え方次第です。
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長い期間、食事を摂らずにいると消化酵素が失われて、更に拒食が進みます。腸内細菌の栄養源は消化管を通る食物です。腸内細菌にもご飯を与えないといけませんから、この観点からも食事が摂れないことは良くないのです。
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ここで違う角度から、強制給餌を考えてみればどうでしょう?
人間の赤ちゃんは離乳食を与えますが、ふやかしたり、ペースト状にして与えたりしますね。お母さん達が、食べてくれないことに苦労された体験談も、多く耳にします。
試しに ”食べムラ” で検索をしてみてください。単独ワードで情報を得ようとすると、食べてくれない赤ちゃんの情報ばかりです。
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強制給餌も赤ちゃんの食事と同じことだと思うと、案外すんなり受け入れられることかもしれません。
こちらは、悩みながら強制給餌を行った事例です。
飼い主は、最後まで悩み続けるのです。
強制給餌を行った印象は?
強制給餌には、流動食をシリンジで与える方法や固形のフードを飼い主が入れてあげる方法などいくつかあります。どちらにしてもそれが介護の時点の強制給餌か、まだそこまでには至らない時点の強制給餌かで状況は異なりますし、飼い主さんの受ける印象が異なります。
下記の例は、恐らくその深刻さの度合いが一番高いと思われる、最終末期の強制給餌です。
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どう感じられたでしょうか?
可哀そうでしょうか? 悲惨に感じられましたか?
この強制給餌を行ったのは筆者です。流し込んだのは、愛犬の大好物の”ウニ”でした。
愛犬は美味しそうにベロリと舌を出し、嬉しそうでした。ここでの強制給餌は飼い主から愛犬への一方的な行動ではありません。飼い主と愛犬の心は通じ合っているのです。
嫌がる愛犬に無理やり食べさせることばかりが、強制給餌ではないということです。
再度申し上げますが、本例は最終末期です。もっと前の段階で強制給餌を試みれば、愛犬も飼い主も、もっと負担の軽い方法があったはずです。
どうでしたか?
どうしても食べてくれない場合の解決方法は、強制給餌以外にも様々あると思います。偏食でどうにもならない時の最終的な(最低限の)目標は、“きちんと栄養が摂れること” です。
誤解を恐れずに申し上げると、いつかは誰もが必ず強制給餌に直面します。
何故ならば、終末期がどの犬にも必ず訪れるからです。
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強制給餌をする/しないの選択も含め、飼い主はいつか決断を迫られるのです。
もしもその時、”する”という決断をするだろうと思われる飼い主さんには、もっと軽い段階で、強制給餌を経験してご覧なることをおすすめします。
いつかの未来のために。
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次回は本シリーズ記事の最終回。
病院でできるかもしれない、動物医療としての偏食の対応の最後の手段。
栄養療法について、触れていこうと思います。
――偏食・食べムラ ガイドブック ② 予防・対応編・つづく――
作:高栖匡躬
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――次話――
~治療・まとめ編~
食欲不振の理由は様々ですが、過度な偏食に発展すると健康に影響があり、時に命を左右します。
飼い主さんの努力で改善できない場合は、医療としての対応が必要です。
投薬治療と、栄養療法を
――それと、食べないことの意義についても考えます。
――前話――
~基礎・原因編~
愛犬の食事に関するトラブルの中は様々
用語の定義と、食べムラ・偏食に陥る原因をわかりやすくまとめました。
色々な原因で食べムラ・偏食は発生します。
まさかのときの準備のためにどうぞ。
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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ペットの食事、関連の記事です
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