れんの闘病記:中耳・内耳炎による前提症状を伴う顔面神経麻痺
治療・闘病編(2/2)
前話では、れんが大学病院での精密検査を予約するところまでを書きました。
れんの病気は、『中耳・内耳炎による前庭症状を伴った”顔面神経麻痺”』というもので、病名なのか、症状なのかよくわからないものです。
発症したのは、4歳になる少し前のことで、それから4年の通院を経ての精密検査でした。
前話では先住犬ちぃの病気にも触れましたが、ちぃは本話の中で、更に大きな病気を得ることになります。
れんの精密検査
このとき初めて、私たちは大学病院の腫瘍科に行きました。
麻酔のリスクを心配をしていたのですが、れんは検査用の麻酔から覚めて、元気に戻ってきました。
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検査の結果は、すぐに知らされました。
れんの耳の奥に腫瘍は見つからず、結局、繰り返す炎症の原因は特定できませんでしたが、ガンではなかったことがただ嬉しくて、かかりつけの病院に戻りました。
2016年の初夏のことです。
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この年の末、れん甲状腺の検査もしましたが、異常は見つかりませんでした。
翌年の夏には、れんの相棒であるちぃに別の病気が見つかり、闘病が始まるのですが、その最中もれんの病院通いは続いてくことになります。
ちぃを見守るれん
2017年の夏、ちぃが大学病院で末期ガンの宣告を受け、ちぃの闘いが始まりました。
あとで思い返すと、ちぃの心臓のガンを見つけてくださった先生には、れんの検査の時にお会いしていました。
ちぃの病気は『心臓腫瘍』。闘病の様子は、こちらの闘病記(全5話)にあります。
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れんはいつも、ちぃをそばで見守っていました。
ちぃは、週に一度大学病院でガンの写真を撮り、ピンポイントで放射線をあててもらいました。先生は末期なので積極的な治療はできない、と言いましたが、私の希望を聞いてくださり、最後まで放射線治療を続けてくださいました。
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お腹と胸の中、そして心臓を包む袋(心嚢)の中にも水がたまり続け、心臓や肺を圧迫します。これを抜いて呼吸を楽にしてもらうとちぃは、手からならば少しだけご飯を食べるようになり、三日後にはまた、水のせいで呼吸が困難になりました。
酸素ハウスを借りて、苦しい時には自分で中に入って寝ていましたが、大学病院の合間にかかりつけの病院でも水をできるだけ抜いてもらい、息ができるようにしてもらいました。
かかりつけの先生は、手の施しようがなくなったちぃに、「高濃度ビタミンC点滴」という方法も勧めてくれました。海外では一般的なガン治療法であり、日本の大学病院では推奨していないそうですが、一番良いケースでは犬のガンが消失したとのことでした。
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こんなふうにちぃが過ごしているのを、れんはずっとおとなしく見守っていました。
ちぃだけが家族の手からおいしそうなご飯をもらい、れんはうらやましそうに見ていました。
ときどきちぃの残り物をもらい、ちょっとれんの体重が増えてしまいました。
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ちぃが三日おきに病院へ連れて行かれ、帰ってくるまでの長い時間をれんは家でおとなしく待ちました。
もともと活発に動き回るのが大好きなれんが、ちぃに迷惑をかけないように気を使いながら静かにボールで遊ぶ姿は、ちょっと可愛そうでした。
ちぃは散歩にも行けなくなり、れんだけの散歩も、ほんの短い時間になりました。
ちぃからの贈り物
ちぃはその秋のある日、真夜中に家族とのお別れをしました。
あまりに静かな最期だったため、そばでぐっすり眠っていたれんは、ちぃの旅立ちに気付かず、そのまま朝を迎えました。
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居間の日当たりのよい場所で静かに眠っているちぃが、朝なのにちっとも起きようとしないことに気付いたれんは、
「ちぃちゃん、ちぃちゃん起きて、起きて!」
と、ちぃに向かって吠えました。
私はれんに、ちぃはもう起きないんだよ、と言い聞かせ、れんは吠えるのをやめて静かにちぃを見つめていました。
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不思議なことに、ちぃがガンの宣告を受けたころから、れんの耳は快方に向かいだしました。
「耳の奥の赤みもありませんね。ちぃちゃんが大変なときですから、このままれんちゃんの耳が維持できるといいですね」
と、かかりつけの先生は言いました。
そしてれんの耳は、ちぃが亡くなってからも、落ち着いていました。
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「れんの耳の悪いところを、ちぃが全部持って行ってくれたのかな?」
そんな風に考えたくなるほどでした。
ちょうどその頃のことです。
かかりつけの病院に鍼治療のできる先生が、ときどきいらっしゃるようになりました。
私はその先生に、れんの耳も診てもらいました。そして、ちぃの闘病が始まってかられんの耳が落ち着いてきたこともお話しました。
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先生はこうおしゃいました。
「興奮しやすい性格の子の場合、気持ちを落ち着かせることで体や耳の炎症がおさまることもあります」
そして、鍼治療とお灸を何度かしたあと、副作用も少なく、効き目のありそうな漢方薬を勧めてくれました。
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今は、その先生も他の仕事が忙しくなり、かかりつけの病院には来なくなってしまいましたが、漢方薬(抑肝散加陳皮半夏)だけは今も処方してもらい、れんの耳の様子を見ながらほんの少しだけ飲ませ続けています。
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今日も窓のそばで、日向ぼっこをしているれん。
私は、ちぃが空の上から、
「耳が治って良かったね。れん」
と、やさしく話しかけているような気がします。
文:かっぱ太郎、撮影:F.zin
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――前話――
れんの耳(中耳・内耳炎)の疾患は、改善しないまま5年。
やがて相棒のちぃの闘病が始まり、我が家は2匹が平行して闘病することに。
お互いが、お互いを見守る闘病でした。
本記事はそれから4年目のお話
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――このシリーズ記事の1話目です――
突然元気をなくした”れん”。
心配で病院に行くと「顔が片方、下がっていますね」と。
診断は、内耳・中耳炎による顔面神経麻痺、それも前庭症状を伴う――
食いしん坊だったのに、痩せていくれん。
それは、6年に以上に渡る通院生活の始まりでした。
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本記事の関連記事です
他の犬の前提疾患闘病記
前庭疾患は、様々な原因で平衡感覚をつかさどる前庭(三半規管の根っ子の部分)が侵されたことにより、平衡感覚を失ってしまう病気です。
軽度な場合は自然に治る、または体が慣れて不都合を感じなくなりますが、重度な場合は歩行困難にまで発展してしまいます。
ステロイド剤と、その減薬のお話です
ステロイド剤は一般的な薬であるにも関わらず、必要以上に嫌われているように感じます。その原因として、適切な使用方法が行われておらず、そのために無用の副作用を被る場合が多いのだと想像できます。
実際に飼い主さんたちが書いた体験談(闘病記)を読むと、動物医療の専門家である獣医師でさえ、ステロイド剤の功罪を良く知らないで使っている場合が多いように思えるのです。
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同じ作者が書いた、れんの記事です
二匹目の犬として、れんを飼うことにしたときのお話。
先住犬の”ちぃ”は、どうもよその子に受けが悪い。
このまま犬の友達はできないの?
そんなとき、小さな白い犬を見かけたのです。
「ねえ、友達になってくれる?」
れんはクレートが大嫌い。注射よりも嫌いなのです。
動物病院では飼い主を『~ちゃんのお母さん』と呼びますね。
犬を飼い始めた頃は、それが不思議でした。
私が産んだわけではないのに-――と
さて2匹目、”れん”の予防注射。
クレート嫌いで「ひゅるひゅる」と泣くれん。
れんにはれんの事情があって――
れんがうちに来て、先住犬であるちぃとの関係を築くまでのお話です。
先住犬『ちぃ』に続いてやってきた子犬。
名前は『れん』になりました。
『ちぃ』がやきもちを焼かないように、出会いを慎重に進めた家族。
その甲斐あって、『ちぃ』は『れん』に優しく接するようになります。
家族が願った通り、『ちぃ』には ”友達” ができたのでした。
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出典
※本記事は著作者の許可を得て、下記のエッセイを元に再構成されたものです。