うちの子がうちにくるまで|No.51
これまで犬猫合わせて、最大11匹もの多頭飼いをしていた作者。しかし一匹ずつ寿命を迎えて、最近では4匹に。少々寂しい思いをしているところに、自治会長から電話がありあました。
「あんた、犬いらねーか?」
聞けば、その犬を譲ろうとしている家庭には、少々複雑な事情もある模様。
早速会いに行ってみると、意外な事実が――
極小豆柴ってどんな犬?|経験者の体験談を聞きたい
突然の電話 - あんた、犬いらねーか
今日は、新しく我が家の家族になった、極小豆柴のモグちゃんをご紹介しようと思います。
我が家は犬と猫の両方で多頭飼いをしています。
犬は現在、チワワのちーちゃんときんちゃん、そしてゴールデンレトリバーのロン君という3匹。猫はこれまで最高で7匹いたのですが、段々と少なくなって、今年長年連れ添ったボンちゃんとチョビちゃんを亡くしてしまい、とうとうメインクーンのチャーさんだけになってしまいました。
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これまでに何度も愛犬、愛猫を看取っているのですが、今回は2匹を失ったのが5月、8月と立て続けだったもので、心の痛手も大きくて、しばらくの間は次の子なんていう考えは浮かばず、ペットショップに行く気分にもなりませんでした。
それに以前、譲渡会に行った際に知らされたのですが、還暦を過ぎると保護犬、保護猫も迎えられないのだそうですね。
最近になってようやく、犬猫4匹との穏やかな生活を取り戻してきた我が家だったのですが、ある日突然に自治会長さんから連絡がありました。
「あんた、犬いらねーか?」というのです。
爺さんという生き物は、いつも唐突です。聞けばどこかの家庭で、譲った犬が不細工だからという理由で返されたのだそうです。
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続けて自治会長さんは言いました。
「芝犬らしいよ」
「要らないなら保健所連れてくって言うんだよ」
――そんな話を聞かされたら、会いに行くに決まってます。
で、その日のうちに、自治会長の爺さんさんと待ち合わせて、その柴犬の顔を見に行くことに。
あああ〜可愛い
案内されたお家で見たのは、茶色くてモグラみたいにとても小さい犬でした。
先方からは細かい経緯は語られず、ただたくさん子犬を産んで、一旦はもらわれたけどれど、不細工だからと返されたとだけ――
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自治会長から聞いていたとおりの理由でしたが、”不細工だから”と言うところは、どうにも腑に落ちませんでした。
その子犬はとても可愛いかったからです。私はそのすっとぼけた愛らしい瞳に、すっかり惹きつけられてしましました。
「あああ〜可愛い」
「保健所なんて、信じられない!」
というのは、私の心の声です。
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子犬の誕生日を訊ねると、なんと8月の息子と同じでした。そして子犬に会ったこの日は、私達夫婦の結婚記念日でした。何だか、縁を感じる話です。私の気持ちは、この時点でもう決まっていました。
それから少々驚いたことがありました。後日引き取りに来るものかと思いきや、先方からは「今日」と言われたのです。
気持ちは既に決まっていたので、とりあえず私は夫に連絡して、即日連れ帰ることにしました。何か急かされたような感じがして気にはなりましたが、それは胸にしまって、今までの飼育代、ワクチン代として1万円を先方にお渡ししました。
次の日すぐに、動物病院に連れて行きました。まずは健康診断です。
「可愛い! 極小豆柴ですね?」
子犬を見るなり、獣医さんはそう言いました。
そして子犬を持ち上げると、そっと体重計に――
「860gしかないですよ」
数字を読み上げた声には、少し驚きの色が。そして「さっき、9月生まれの柴ちゃんがワクチン打ちに来たけど、3キロでしたよ」と。
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次に獣医さんは子犬の口の中を覗き込みました。
「歯の状態から見て、3カ月は間違い無いですね」
とのこと。
健康状態には問題はなく、私は最後に持参していたウンチを渡して、検便をお願いして帰ってきました。
再び突然の電話 - 犬を返してください
「これで一安心!」
と思っていた私ですが、その日の夕方に、見知らぬ若い女性から電話がありました。
その電話の主は私に、『犬を返してください』と言いました。
この時期に”犬を”と言われれば、あの子犬のことに決まっています。
前日に子犬を譲って頂いた方は、年配の女性だったのですが、どうやらこの若い女性の方が、本当の飼い主のようです。
年配の女性とは連絡先を交換していたので、そこから私の電話番号を知ったようです。多分母娘なのでしょう。
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電話からは、続けざまに声が響きました。
『あれは私がペットショップで50万円近くで買ったんです』
『家ではかえないし、引き取ってもらえないからネットかなんかで売ります』
私は何を言っているのか、理解できませんでした。
「何故?」と訊いても返事がありません。
「とにかく顔を見て話しましょう」と伝え、また昨日のお宅に伺いました。
そこには前日の女性と、お嬢様らしき女性がいました。
二人とも険しい表情で、私は何やら怖い気持ちになりました。
「犬は? なんで連れて来ないのよ!」
とお嬢様の方から口を開きました。
「お返しするつもりはないので連れてきませんでした」
と私は答えました。
たとえ1万円でも、子犬は私が人を介して譲渡されたのです。
そして、我が家は子犬に一目惚れ。ケージもその為に買いました。
まだ1日とはいえ、家族で可愛がっているのに簡単には返せません。
ましてや、このギスギスした雰囲気の中には――
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お嬢様から聞き取った話を整理すると、こういうことです。
――犬は可愛いかったから、衝動的に買った。
――高かったからローンを組んでいる。
――ペットショップには返せない
――だから、ネットで売る。
あんた、バカ?
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にらみ合いの中で、「ウチで飼います」とお嬢様が言い出しました。
これまでと話が違います。
私がそれを問いただそうとしたその時です。「ウチでは飼えません」という声がしました。横で聞いていたお母様と思しき方が口を開いたのです。
「毛が抜ける犬にアレルギーがあるんです。どうか今迄通りよろしくお願いします」と言って、嘘をついて申し訳なかったと私に詫びました。
お母様の方は、娘さんのいない間に子犬を処分したかったようです。
アレルギーがよほど辛かったのでしょうね。
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お嬢様はそんなお母様の言葉はまるで耳に入らぬ様子で、レシートを引っ張り出してきて、私に叩きつけ「返せ」と迫りました。
「お金欲しいの? 要るならあげるわよ!」
私は怒り、つい声を荒げてしまいました。それから思いついた言葉を次、々にお嬢様にぶつけました。
「犬を育てるのにどれだけの手間と愛とお金がかかるかわからないのね?」
「衝動買い?」
「あり得ない!」
「ローン払いながら飼うの?」
「むりでしょ?」
「その毎月のローンと同じか、それ以上のお金がかかるんですよ」
そして最後に「失礼を承知で言います」と前置きをしてから、
「あなた頭悪いわね!」
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お母様は「ローンは払わせます」と言いました。
前にもトイプードル買ってきたことがあったそうで、可愛がるだけで面倒みず、保健所に連れて行ったことがあるのだそうです。
そして「これはいい薬になりますから、どうかよろしくお願いします」と――
私は開いた口が塞がらなくなっていたのですが、その間にお嬢様は、泣いて何処かに行ってしまいました。
因みにお嬢様は33歳だそうです。
命名:モグちゃん
頭がこんがらがったまま帰宅したのですが、極小豆柴ちゃんを見ていたらもうそんなことはどうでも良くなりました。
そしてモグラのような顔をしているので、モグちゃんと名付けました。
もうウチの子です。
モグちゃんは物怖じしない、可愛くて勇ましい日本犬です。
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私はモグちゃんを見ると、初代犬のレイちゃんのことを思い出します。
レイちゃんが亡くなった時、暫くして夢に出てきて、「お母さん、私そのうちいつかきっとお母さんのところに帰るから、待っていてね」って言って、じっと私を見つめたのです。
レイちゃんの不思議な夢
一番最後に、レイちゃんの出てきた夢についても触れておきます。
レイちゃんを送った後で、私は不思議な夢をみました。
「ママ、どんな形かわからないけど、またママのところに行くよ」
夢に出てきたレイちゃんは、そう言いったのです。
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そして、その言葉通り、次の日引き出しを整理していたら、一番綺麗な頃のレイちゃんの写真がでてきました。
レイちゃんが言ってくれたことは、写真のことだったのかな?
それとも、生まれ変わってまたうちに来てくれるってことだったのかな?
もしかしたら、モグちゃんはレイちゃんの生まれ変わりなのかもしれません。
私は、レイちゃんに守られている気持ちがしています。
家族になったよ
――モグちゃんがうちにくるまで|おしまい――
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――うちの子がうちにくるまで・次話――
ラインがうちにくるまで
子供の頃から、動物が大好きでした。
でも、犬や猫を飼うまでには至らずで……
ある日、家族でスーパーにいった時でした。
人だかりの先で、仔犬がチョロチョロと歩き回っていました。
そして何と脇の段ボール箱には『犬あげます!』の文字が――
――うちの子がうちにくるまで・前話――
愛犬の名は、菅原文太さんに因んだもの。
体調を崩した私を励まそうと、家族に迎えた犬でした。
ちんくしゃだった小さなトイプードルは、やがて名前通りの犬に育っていきました。
頑固で短気で喧嘩ぱやいのですが、女房のさくらには優しい犬に。
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――うちの子がうちにくるまで、第1話です――
昔からいつかはワンを飼いたいと、ずっと夢見ていたんです。
でも、夢と現実の差はでっかいですよね。結局はずっと、実現できずじまい。
――そんな夢を叶えた飼い主さんのお話。
犬との出会いは運命に似ています。
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レイちゃんがうちにくるまで
猫の多頭飼いしていた我が家。
そこにはじめて迎え入れた犬が、レイちゃんでした。
レイちゃんは素人繁殖で生まれた子。保健所に持ち込まれる寸前でのことでした。
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ゆきねー|他の作品
思わず笑ってしまうほど個性的な猫、ボンちゃん。
そのボンちゃんが、ゆきねーさんのお宅に来た理由もまた個性的。
まずは出会いの話から。
どうやってうちに来たの? ボンちゃんの名前の由来は?
――とても笑えるお話です。
犬猫で最大時11匹。
今や多頭飼いが当たり前のお宅に、最初の1匹としてやってきた子猫、みみ子さんのお話です。
犬猫の飼い方を全く知らない作者。
まずは動物病院に、そして次に本屋に――
何も知らないという割に、何だかやることがてきぱきしていて、妙に安心感。
実は作者は当時、現役の看護師さん。