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【免疫抑制剤・体験談】一筋縄ではいかない薬の切替 ~離脱症状との闘い~【闘病記】

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免疫抑制剤

撮影&文|高栖匡躬 
自己免疫不全と免疫抑制(2/3)|ステロイドの離脱症状

前回の記事では、1回目の血液検査で、愛犬ピーチのシクロスポリン濃度が、100ng/mlの段階(基準値100~600に対して)だったところまでを書きました。

今回は、ステロイド剤から免疫抑制剤に切り替わる過程を、ピーチーを具体的な例としてご紹介したいと思います。

 

こんな方に
愛犬が免疫系疾患または自己免疫不全|ステロイド剤の副作用が気になる|ステロイド剤を減薬(断薬)したい|免疫抑制剤と聞くと、きつい薬のイメージがある|メリットは?|副作用は?|経験者の話を聞きたい

 

【目次】

ステロイド剤減薬を前に、ひと波乱

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先に書いたように、血液検査でシクロスポリンの濃度は許容範囲に入ってはいましたが、実を言うと、それからすぐに減薬を開始した訳ではありません。

いつから減薬を始めるか、医師と相談しようとした矢先に、ピーチーの体調が悪化したからです。前の日までしっかりと歩いていたのに、夜が明けると急に足元がおぼつかなくなり、僅か5cmほどの段差も上り下りが出来ないほどでした。

幸いにも血液検査では肝臓や膵臓には異常がなかったので、原因は内臓系によるものではなく、恐らくは多発性関節炎によるものと思われました。

このまま症状が進行し、もう一度劇症肝炎に発展するのか、それとも関節炎までで止まってくれるのか、筆者や家族はもちろん、主治医にも予想がつかない状態です。

こんな訳のわからない中でも、なにがしかの判断をしなければなりません。
我が家は主治医と相談の上、『アトピカ』の増量を行いました。
50mgから100mgへの倍増です。

そこで様子を見て、症状が改善すればその段階から減薬をスタート。悪化するようであれば、二次診療の専門医と相談しながら、別の方策を探ることになったのです。

別の方策と言っても、選択肢は多くはありません。
副作用を覚悟でステロイドを増量するか、或いは別の免疫抑制剤を試すかです。

そして薬を変えても効果が出ない場合は、残るは人間の臓器移植で使う、人間用の最も強力な免疫抑制剤しかないという状態。

祈るような気持ちでピーチーを見守り、そして数日たって、ピーチーの症状は治まってきました。

ここでようやくピーチーには、ステロイドを減薬が始められる条件が揃いました。

シクロスポリンの濃度が基準値の下限ぎりぎりで、しかも体調が悪化した直後に減薬を行う事に、躊躇がなかったわけではありません。
しかし、ピーチーの体には既にステロイドの副作用が強く出ており、危険な綱渡りをしてでも、一刻も早く減薬を進めるべきと、筆者と家族は考えました。
主治医もそれに同意をしてくれました。

 

 2度目の波乱は離脱症状

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ようやく始まったステロイドの減薬ですが、ここでもう一波乱ありました。
医師の指示通りに減薬を行ったのですが、ピーチーにはその減薬のペース(3日おきに2錠ずつ減らす)が早すぎたため、深刻な離脱症状がでてしまったのです。

それは1日12錠だった投与が、1日4錠を切ったあたりから兆候が出始め、1日2錠になったところで決定的になりました。
極度の食欲不振と歩行艱難がその症状でです。

1日1錠の段階で「これは危険」と判断し、医師と相談の上で、急教1日4錠まで戻しました。そこでなんとか、小康状態を得ます。

このあたりの経緯は過去の記事をご覧ください。

 

 2回目の血液検査――

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ステロイド剤を1日4錠に戻して小康状態を得たピーチーですが、その後も体調悪化と回復を繰り返しました。

ピーチーの体の中で何が起きているのは、外からは知る術がありません。
体調悪化がステロイドの離脱症状によるものなのか、それとも自己免疫不全によって引き起こされた内臓の病気なのか、医師にも区別がつかないのです。

体調が悪いながらも、ある程度の安定を得て、2度目の血液検査をしたのは、1度目の検査から1か月半過ぎてのことでした。

その間、ステロイド剤『プレドニゾロン』は1日4錠を維持しています。飼い主としては一刻も早く減らしたいのですが、前回の症状の悪化と、そのリカバーが容易でなかったことを考えると、そう簡単に4錠を切ることができません。

2度目の血液検査の結果次第で、減薬を続行するつもりでいました。
シクロスポリンの濃度は、主治医の動物病院では計ることができないので、専門のラボへの外注となります。つまり、結果が出るには時間が掛かるのです。

まずは主治医の分析器で解析可能な、肝臓の基礎的な値が報告されました。

幸い肝臓も膵臓も悪化してはいません。
ただ、TG(中性脂肪)の値が高くなっており、3年前に急性膵炎を発症したピ-チーには要注意です。

 

 シクロスポリン濃度の推移は?

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3日ほどしてシクロスポリンの濃度がとどきました。

シクロスポリン 102ng/ml
※基準値100~600

薬を倍増したにも関わらず、値は横ばいの基準値の下限一杯というところ。
これではとても減薬はできません。

主治医と相談の上、『アトピカ』を更に倍増し、100mgから200mg(正確には100mg×1日2回投与)に。

これで血中濃度が上がらなければと思うと、ぞっとしました。

先にも書きましたが、最後に行きつくのは、人間の臓器移植で使う強力な免疫抑制剤です。

想像するのは、無菌室での家族との面会シーン。
しかし動物用に、人間と同じような無菌室があるとはとても思えません。

「免疫を極端に落としても、きっと得るものは何もないだろう」
そう筆者は思っていました。なぜならば、そこまでいくと確実に何らかの感染症を引き起こすからです。

極論すれば、最後にカルテに書かれる死因が、自己免疫不全に由来する内臓系の疾患になるのか、それとも感染症の重篤化(例えば肺炎)なのかという違いに過ぎないわけです。

劇症肝炎の発症以降、ずっと先の見えない闘病生活が続きましたが、多分ここがまた山場になるだろうと思いました。
ここまで随分多くの危機を乗り越えてきましたが、また来たかという思いです。

増薬に効果がある事を祈りながら、結果を待つのみでした。

 

――自己免疫不全と免疫の抑制(2/3)・つづく――

文:高栖匡躬
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――次話――

免疫抑制剤の血中濃度がようやく安定し、ステロイドの減薬も進みました。
その間は試行錯誤の繰り返しで、失敗もしました。
無力感や、絶望感を覚えることもありました。
不安な毎日でした。
しかし、闘病ってそんなもの。
気長に行こうね、皆さん!

――前話――

愛犬ピーチーの体験談、今回は免疫抑制剤です。
ステロイド剤から免疫抑制剤への切替は簡単ではありませんでした。
今回はその難しさの実例を。
犬の原因不明の病気の影には、自己免疫不全があるように思います。
実は多くの犬が、無縁でないのでは?

まとめ読み|免疫抑制剤について思うこと
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。

 ステロイド剤(減薬)の体験談です(全3話)

ステロイド剤は一般的な薬であるにも関わらず、必要以上に嫌われているように感じます。その原因として、適切な使用方法が行われておらず、そのために無用の副作用を被る場合が多いのだと想像できます。

実際に飼い主さんたちが書いた体験談(闘病記)を読むと、動物医療の専門家である獣医師でさえ、ステロイド剤の功罪を良く知らないで使っている場合が多いように思えるのです。

 自己免疫不全 - 闘病記

2015年のある日、我が家の愛犬ピーチーを病魔が襲いました。
最初は夏バテかなと思い、次に熱中症を疑いました。
かかりつけの獣医師も、熱中症との診たてでその治療を。

しかしピーチーの状態は悪化の一途。
ただならぬ状態に、未明の救命救急に飛び込み、そこで発覚したのが重度の肝炎でした。
結局後になって、それが自己免疫不全が引き起こしたと分かるのですが、まさか免疫の暴走が劇症肝炎を引き起こすなど、想像もしていませんでした。

 

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