自己免疫不全と免疫抑制(1/3)|はじめての免疫抑制剤
今回からは、ステロイド剤の次の段階で用いられる、免疫抑制剤について書いていこうと思います。
はじめに - ステロイド剤から免疫抑制剤へ
我が家の愛犬ピーチーの病気を経験して実感したことがあります。
それは、自己免疫不全の犬は思った以上に沢山おり、恐らくその子たちには、ピーチーと同じようなシチュエーションが、容易に起こりうるということです。
今回からの3回の記事では、多くの方の参考になるように、ピーチーの治療経緯と実例を少し細かく書いておこうと思います。
尚、本記事からお読みになる方もいらっしゃるかもしれませんので、前シリーズの記事と一部重複する内容があります。ご容赦ください。
【目次】
- はじめに - ステロイド剤から免疫抑制剤へ
- 全体的な流れと、初期の課題
- まずは自己免疫不全について(意外に多くの犬が罹患している?)
- ステロイド剤と免疫抑制剤
- ステロイド剤を免疫抑制剤に切り替える手順
- 1回目の血液検査――、シクロスポリンの濃度は?
- ステロイド剤(減薬)の体験談です(全3話)
- 自己免疫不全 - 闘病記
全体的な流れと、初期の課題
ピーチーは劇症肝炎をステロイド剤の大量投与によって克服したのですが、ずっとその大量のステロイド剤を使い続けるわけにはいきません。
次に行なうのは、免疫抑制剤への切替です。
しかし、AからBのように、単純に切り替える事ができない難しさがあります。
本記事で書くのは、その手順の難しさについてです。
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初期の課題は2つあります。
1つ目の課題は、まずはシクロスポリン(後で詳しく書きます)の血中濃度を上げる必要があること。もう1つは、副作用が顕著なステロイド剤を減薬(最終的には断薬)することです。
2つのことをバランスよく、同時に進めなければならないために、一筋縄ではいかなくなってきます。
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尚、これは飽くまで、ステロイド剤から免疫抑制剤に切り替える際に必要なことで、最初から免疫抑制剤の場合は、このプロセスはありません。
まずは自己免疫不全について(意外に多くの犬が罹患している?)
自己免疫不全はそれが即ち病名ではなく、免疫機構のエラーにより、免疫が自分の体を攻撃しはじめる現象を指しています。
ピーチーが罹患した劇症肝炎や、多発性関節炎は、この自己免疫不全が引き起こしたものでした。また確定診断のしようがないために断定はできないのですが、劇症肝炎の半年ほど前に発症した癲癇も、状況から見て自己免疫不全が原因と思われました。
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ピーチーが齢をとるにつれて、段々とひどくなってきていた外耳炎も、恐らくは内耳炎で、全く聞こえなくなっていた耳も、劇症肝炎の治療で免疫系を抑制しているうちに、治ってしまったことから考えて、これらも自己免疫不全に起因していたものだと思われまました。
もっと遡れば、子犬の頃からピーチーがずっと悩まされてきたアレルギー性皮膚炎も、免疫系の異常です。
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このような経験から、冒頭に書いたように、意外に多くの犬が自己免疫不全を抱えているのではないかと推測したわけです。
ブログを通して知り合ったブロ友さんの中には、愛犬が溶血性貧血やリュウマチに罹った飼い主さんが見受けられました。これらは自己免疫不全によるものですし、割と多く見かける多発性関節炎も、自己免疫不全の可能性があります。
医師によれば、「自己免疫不全は何でもあり」 なのだそうです。
ステロイド剤と免疫抑制剤
医師ではないので断定的なことは言えませんが、自己免疫不全との闘病で、恐らく一番最初の選択肢はステロイド剤だと思います。
もしも軽い疾患であれば、許容範囲内のステロイド剤を、一生飲み続けるという選択肢が最も現実的なように思われます。
実際ピーチーは、生後6か月から14歳の今まで、増減はあるものの、ずっとステロイド剤のお世話になってきました。
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しかし重い疾患の場合は、処方量が増えるのでそうはいきません。
ステロイド剤は効果の高い薬ですが、一定量を超えると副作用が無視できなくなるからです。
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ピーチーの場合はステロイド剤による治療効果は絶大で、この薬がピーチーを劇症肝炎の死の淵から救ってくれたようなものです。
その反面でピーチーは、ステロイド剤(薬名としては『プレドニゾロン』)を1日に12錠も飲んでいましたから、副作用も大変なものでした。
体重の激減や筋力の低下がそれで、一時はそのまま歩けなくなるのではと思うほどでした。
この副作用を回避するために、ステロイド剤に代替するものとして、免疫抑制剤が処方されることになったのです。
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免疫抑制剤はステロイド剤ほどの即効性は無いものの、ステロイド剤よりも副作用が少ないというメリットがあります。
劇症肝炎が快方に向かう過程で、すでに担当医師からは、「いつまでもステロイドを飲むわけにはいきません。落ち着いた段階で免疫抑制剤に切り替えます」と聞かされていたことでした。
※上の写真は、プレドニゾロン(左)とプレドニン(右)
※プレドニゾロンは成分名でもあり、薬名でもあるので紛らわしいです。
※当時はプレドニソロンの方が後発薬で、値段も安めでした。
ステロイド剤を免疫抑制剤に切り替える手順
ステロイド剤を免疫抑制剤に切り替える場合、急にバッサリとはやりません。
理由は2つです。
1つ目は、免疫抑制剤の血中濃度(正確に言うと、主成分のシクロスポリン)が安定するまでに2~3週間かかるので、それまでの間はステロイド剤の助けが必要です。
2つ目の理由は、ステロイドの方も薬の副作用で委縮した副腎の機能が、元にもどるまでに時間を要するので、急に止めると離脱症状という一種の禁断症状がでるのです。
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この2つの問題を回避するために、始めは両薬を並行して飲み、に2~3週間後に血液検査を行って、免疫抑制剤の血中濃度が十分であることを確認してから、ステロイド剤を”ゆっくり”と減薬していきますす。
しかし、この”ゆっくりと”が曲者で、医師によりさじ加減が違います。
なぜならばそこには、決まりきった方程式が無いからです。
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原因が自己免疫不全といっても、発症する病気や症状は犬によって様々で、治療内容(投与量、投与期間)が異なっています。
また犬の個体差もあるので、ある犬で良い成果が出た方法でも、別の犬にはそれがあてはまらない場合が多いのです。
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ステロイド剤の減薬に関することは、以前の記事をご覧ください。
※上の写真はアトピカ(シクロスポリン)
1回目の血液検査――、シクロスポリンの濃度は?
先にも書きましたが、ピーチーは自己免疫介在性の劇症肝炎を治療するために、ステロイド剤『プレドニゾロン』の大量投与を行っており、毎日12錠を飲んでいました。
その副作用は明らかでしたが止める訳にはいきません。投与はそのまま続け、並行して免疫抑制剤、『アトピカ』(50mg)を飲み始めました。
それはステロイドの大量投与から11日目です。
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この時期は丁度ピーチーの体調が急に悪化したときでした。
悪化の理由は、ステロイド剤に体が慣れて効き目が落ちてきたためか、ステロイドの副作用が強く出たのか分かりません。
ピーチーの体調は『アトピカ』の投与以降、一旦は急速に改善しましたが、1週間ほど経ってひと山越えるとまた悪化しはじめました。
体調が悪い理由は、可能性が色々と有り過ぎて的が絞れません。目に見える体調変化を見極めながら、手探りで判断をしていかなければならない苦しい時期です。
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血液検査は、『アトピカ』の投与から2週間ちょっとの時点で行いました。
シクロスポリンの濃度は下記。
※基準値100~600
基準値の100~600の最下限の数値です。
一応の基準値は満たしているため、そこからステロイドの減薬が始まりました。
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実はここからまた、ステロイド剤『プレドニゾロン』と、免疫抑制剤『アトピカ』の難しいバランスとりが始まっていくのですが、それはまた次の記事にて。
――自己免疫不全と免疫の抑制(1/3)・つづく――
文:高栖匡躬
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――次話――
愛犬ピーチーの免疫抑制剤への移行は、簡単ではありません。
まずは状態が安定せず、体調が悪化したこと。
次に、ステロイド剤減薬による離脱症状です。
免疫機構は複雑なので、対応は容易でありません。
行ったり来たりの試行錯誤。
体験がお役にたてば――
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この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。
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ステロイド剤(減薬)の体験談です(全3話)
ステロイド剤は一般的な薬であるにも関わらず、必要以上に嫌われているように感じます。その原因として、適切な使用方法が行われておらず、そのために無用の副作用を被る場合が多いのだと想像できます。
実際に飼い主さんたちが書いた体験談(闘病記)を読むと、動物医療の専門家である獣医師でさえ、ステロイド剤の功罪を良く知らないで使っている場合が多いように思えるのです。
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自己免疫不全 - 闘病記
2015年のある日、我が家の愛犬ピーチーを病魔が襲いました。
最初は夏バテかなと思い、次に熱中症を疑いました。
かかりつけの獣医師も、熱中症との診たてでその治療を。
しかしピーチーの状態は悪化の一途。
ただならぬ状態に、未明の救命救急に飛び込み、そこで発覚したのが重度の肝炎でした。
結局後になって、それが自己免疫不全が引き起こしたと分かるのですが、まさか免疫の暴走が劇症肝炎を引き起こすなど、想像もしていませんでした。