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【免疫抑制剤・体験談】やっと見えてきた光明 ~注目はシクロスポリン濃度~【闘病記】

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免疫抑制剤n

撮影&文|高栖匡躬 
自己免疫不全と免疫抑制(3/3)|なかなか上がらないシクロスポリン濃度

前回記事では、1日1錠まで減っていたステロイド剤『プレドニゾロン』を、1日4錠に戻したことと、免疫抑制剤『アトピカ』を、1日100mgから200mgに増量したところまでを書きました。

今回はその続きと、ピーチーの経過について書きます。

 

こんな方に
愛犬が免疫系疾患または自己免疫不全|ステロイド剤の副作用が気になる|ステロイド剤を減薬(断薬)したい|免疫抑制剤と聞くと、きつい薬のイメージがある|メリットは?|副作用は?|経験者の話を聞きたい

 

【目次】

 見切りでステロイド剤の減薬を再開

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『アトピカ』の増量によって、ピ-チーの体調は回復してきました。

更に投薬を1週間継続したところ、ピーチーの体調はそれまでで最も良い状態になりました。”それまでで”というのは、劇症肝炎の危機を乗り越えて、二次診療のDVMs(動物医療センター横浜)を退院して以来という意味です。

結果として分かったことは、それまでのピーチーの体調悪化は、自己免疫不全が引き起こした”何か”であろうということです。
しかしながら、”何か”の正体に関しては、知る術がありません。

 

ここで筆者と家族は、1つ賭けに出ることにしました。
もう一度ステロイド剤の減薬を試みるのです。

本来ならば3度目の血液検査を待つべきかもしれませんが、ピーチーの体重減少は続いており、やはりステロイドの副作用は見過ごせない状態でした。

ただし、前回のようなペースで減薬はしません。
3週間かけて1錠/日を減らすような緩やかなものでした。

具体的には1日4錠飲ませていたの『プレドニゾロン』を、1日おきに3錠にするのです。4錠→3錠→4錠→3錠……というやり方です。

この時点から減薬をすることには、もう一つメリットがありました。
次の血液検査で、シクロスポリン濃度の上昇を確認するのと同時に、ステロイドの減薬が肝臓の回復につながったかどうかが、確認できるのです。

まずは1週間、減薬を行いましたが、今度は離脱症状は現れませんでした。
やはりステロイドの減薬は、ある程度の期間が必要だという事なのでしょう。

上手くは行ったのですが、前回のこともあるので、ここで更なる減薬は行いませんでした。

 

 シクロスポリンの濃度が上昇

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『アトピカ』増量から3週間経ち、ピーチーの3度目の血液検査を行いました。

シクロスポリン 187ng/ml
※基準値100~600

これまで下限値ぎりぎりで推移していた値が、ようやくそれを超えました。

ほっとする反面で、不思議な感覚も覚えました。
何故ならば、シクロスポリンの血中濃度が上がったということは、薬の効能でピーチーの免疫力が下がっているという事です。

本来は体を守ってくれるはずの免疫力が下がって、筆者はほっとしているのです。
風邪をひきやすい弱い体になって喜ぶのですから、つくづく自己免疫不全とは因果な相手だと思いました。

同時に検査を行った肝臓の数値は、GPTが215から154に改善していました。TGも測定不能な高値(500より上)から、327に改善。どちらもまだまだ高いのですが、それでも喜ばしいことです。

逆に悪化していたものもありました。TCho(総コレステロール)は331から440に。
ピーチーは、脂質を抑えていかなくてはなりません。


 新しい病気の発症か?

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3回目の検査には、実はもう一つ目的がありました。
甲状腺のホルモン量を測定したのです。

ここに至る2か月ほど、ピーチーは体の震えが止まらず、一日中震えていました。
はじめは、ステロイドの副作用或いは離脱症状を始めに疑いましたが、どうやらそうではなさそうです。

次に中枢神経の異常を疑いましたが、脳神経科の専門医も判断がつきかねるとの事。

結局ありうる可能性を一つずつ検証していくしかなく、この時点では、症状から見て一番可能性の高い甲状腺の機能低下をターゲットに、まずは検査をしてみたという状況でした。

結果として、甲状腺ホルモンの値であるTT4が、基準値0.8~5.0に対して、測定不能の0.5μg/dlで、明らかに低いことが判明。

この時点では、これが理由で震えているのかどうかは判断がつかないため、試しに薬での治療を試みることになりました。

これがその薬です。
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投与中にメーカー側で欠品になって、
代替薬を探すなどの波乱もありました。
 

 その後のピーチーは……

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体調は良い日もあれば悪い日もあり、食欲にもムラがあり、体の震えは相変わらず続きましたが、飼い主の感触としては、闘病が始まって以来、最も安定してきているように見えました。

やがて震えも収まってきたことから、恐らくは甲状腺の異常が、その震えの原因であったことも分かってきました。

しかしその甲状腺の異常は、自己免疫不全によるものか? 老化などの別の原因によるものか? それとも治療の副作用だったのか?
主治医にも判断がつきませんでした。

それまでは調子が良いと思っていたら、翌日に急変ということが何度もあったのですが、その後は激しい浮き沈みは起きませんでした。

はじめに発症したてんかんの発作も、その後、ずっと起きていません。
(実はここから4か月後に1回だけ、大発作が起きているのですが、それは別の闘病記に書いています。それはピーチーの最後の闘病記になりました)

低い水準ではありましたが、安定を得て、ステロイドの断薬と筋力の回復を目指すリハビリはずっと続いていました。

しかし、ここから4か月後にピーチーは肺癌になってしまいます。
この時点の半年前、別の目的で撮ったMRIには、その兆候は全く無く、その後も何度か撮ったレントゲンにも影がありませんでした。

突然に癌を発症し、その後急速に進行していったのは、免疫をギリギリまで落としていたからに他なりません。
しかしながら、自己免疫不全による内臓系の炎症や、てんかんの発作を抑え込むには、それをせざるを得なかったのです。

今も、当時採った選択肢に間違いは無かったと思います。
しかし、免疫抑制剤の処方量のさじ加減は、もしかするとまだ考える余地があったのかもしれません。

つくづく、自己免疫不全の難しさを実感します。


 最後に ― 同じ状況に陥った飼い主さんへ

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自己免疫不全に端を発する病気は数々あり、それらは複合しがちなために、それに突き当たった飼い主は、出口のない迷路に迷い込んだような気持ちになります。

筆者自身も、呆然と天を仰いだことが一度や二度ではありません。
しかしその都度、病気と闘う愛犬を見て「ここで踏ん張らなければ」と、気持ちを立て直していました。

自己免疫不全は何でもあり。
はっきりしていることは、一筋縄ではいかないという事。

しかし、そういうもんだと思えば、結構やっていけるものです。
治そうと思わず、付き合おうという気持ちで、じっくりとやればです。

筆者も家族もこんなことは初めてでした。
右往左往しながらのドタバタで、先が見えなくて不安になって――

今となって振り返ると、誰か同じ病気の経験者が、少しアドバイスをくれるだけで、我が家の闘病は、随分と気持ちが楽だっただろうなと思います。

『そいつはやっかいな病気だから、簡単に解決しないよ。長期戦になるから、肩の力を抜いてじっくりやろうよ』
たった一言、経験者にそう言われるだけで、視界は開けたと思うのです。

実はこの記事を書いたのは、いつか同じ経験をするかもしれない飼い主さんに、そのことを伝えたかったからです。

どうか気楽に。
そしてじっくりとね。

 

――自己免疫不全と免疫の抑制(3/3)・了――

文:高栖匡躬
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――前話――

愛犬ピーチーの免疫抑制剤への移行は、簡単ではありません。
まずは状態が安定せず、体調が悪化したこと。
次に、ステロイド剤減薬による離脱症状です。
免疫機構は複雑なので、対応は容易でありません。
行ったり来たりの試行錯誤。
体験がお役にたてば――

まとめ読み|免疫抑制剤について思うこと
この記事は、下記のまとめ読みでもご覧になれます。

――本連載の1回目の記事です――

愛犬ピーチーの体験談、今回は免疫抑制剤です。
ステロイド剤から免疫抑制剤への切替は簡単ではありませんでした。
今回はその難しさの実例を。
犬の原因不明の病気の影には、自己免疫不全があるように思います。
実は多くの犬が、無縁でないのでは?

 ステロイド剤(減薬)の体験談です(全3話)

ステロイド剤は一般的な薬であるにも関わらず、必要以上に嫌われているように感じます。その原因として、適切な使用方法が行われておらず、そのために無用の副作用を被る場合が多いのだと想像できます。

実際に飼い主さんたちが書いた体験談(闘病記)を読むと、動物医療の専門家である獣医師でさえ、ステロイド剤の功罪を良く知らないで使っている場合が多いように思えるのです。

 自己免疫不全 - 闘病記

2015年のある日、我が家の愛犬ピーチーを病魔が襲いました。
最初は夏バテかなと思い、次に熱中症を疑いました。
かかりつけの獣医師も、熱中症との診たてでその治療を。

しかしピーチーの状態は悪化の一途。
ただならぬ状態に、未明の救命救急に飛び込み、そこで発覚したのが重度の肝炎でした。
結局後になって、それが自己免疫不全が引き起こしたと分かるのですが、まさか免疫の暴走が劇症肝炎を引き起こすなど、想像もしていませんでした。

 

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