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【ヘルニア】ある夜、突然の悲鳴でした ~ちぃの闘病記:ヘルニア編(前編)~

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文:かっぱ太郎、撮影:F.zin

 突然の悲鳴

ある夜、突然の出来事でした。
台所のテーブルの下で寝ていたちぃ(当時5歳)が、突然「ぎゃん」という、これまでに聞いたことのない声を出して、私にすがりついてきたのです。
どうしたのだろうと思って抱き上げると、また変な声を出して、今度は夫にすがりつきました。

ちぃは抱いたり触ったりすると痛がってあばれ、後ろ脚を両方とも引きずるようにして、逃げ回ります。
「怪我?」
しかし、脚にもどこにも外傷は見当たりません。

「ちぃ、一緒に寝よう」
夫はちぃを落ち着かせようと、寝室へ連れて行ったのですが、間もなく夫が「ちぃに噛まれた」と言って出てきました。
ちぃは、あまりの痛さで混乱し、隣にいた夫の手にがぶりと噛み付いてしまったのです。

犬は痛みに強い動物であり、外敵に襲われないよう、痛みや体の不調を隠す習性があるそうです。なのに、ちぃがこれほどまでに痛みを訴え、助けを求めているのはただ事ではありません。

私は初めて、夜間動物病院というところに電話をしました。

 

ヘルニアの疑い

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電話に出たのは受付の女性。私のその女性に、ちぃの状態を伝えました。
外傷はないこと。後ろの両足をひきずって歩こうとし、すぐにぺたんとしりもちをついてしまうこと。抱っこを嫌がってあばれること――

女性はすぐに、「ヘルニアの疑いがあります」と言い、続けて「時間が経つと、マヒが進んで歩けなくなるかもしれませんので、連れてきたほうが良いです」と言いました。

私は、以前テレビで見た、下半身を車いすにくくりつけて散歩をする犬の姿を思い出し、大変なことが起きているのだと知りました。

ちぃは痛みに耐えかねて呼吸が荒く、速くなっていました。
そのせいか体温も上がっています。 

短頭種の犬はこういう呼吸が長く続くと、熱中症のような状態になりやすいので、早くなんとかしなければなりません。

「ちぃ、ドライブに行くよ」
私が声をかけると、ちぃは4本の脚でしっかりと立ち上がり、車まで自分で歩き、夫に抱っこされて後ろの席に乗りました。

私は夫がまた、手を噛まれると気の毒なので、厚めのバスタオルを夫に渡し、手にまいてもらいました。

夫は「(私が)ビール飲んでいなくて良かったね。タクシー代がかかるもんね。…じゃあ、夜中のドライブに行きますか」と言って、これから運転する私を落ち着かせようとしました。

ここで焦って事故など起こしたら、どうにもなりません。

 

 夜間動物病院  

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夜間動物病院に着くと、狭い待合室は急患の家族でいっぱいでした。
そこへ、毛布にくるんだ赤茶色の猫を抱いた男の人が入ってきて、奥の処置室へ運び込みました。
毛布の端から出ていた猫のしっぽと脚は伸びきって、まったく動いていませんでした。待合室にいた5人家族の犬も状態が悪いようで、奥さんが何度も処置室に呼ばれていました。

時刻は夜の11時すぎでした。
待っている間もちぃは、痛みのせいでかなり息が荒くなっていましたので、受付の女性に相談しました。

「9時半ころからもう2時間も速い呼吸が続いて、体温が上がってきて心配なのですが…」
私がそう告げると、女性は「それでは、順番が来るまでICU(集中治療室)で待ちましょうか」と言ってくれました。「ここより涼しいケースの中です。もし、嫌がって暴れたりするようでしたら、お呼びします」
女性はそう言って、ちぃを抱いて奥へ連れていきました。 

先程男の人が毛布にくるんで運んできた猫は、手当の甲斐もなく、息をひきとったようでした。運んできた人は、飼い主ではなく、ケガをして動けない猫を発見した、通りすがりの人で、駆け付けた警官に状況を話していました。

その後、病院の職員がその男の人に労いとお礼の言葉をかけ、「あとはお任せください」と、彼を見送りました。まるで、動物救命医療のドキュメンタリー番組のようでした。

猫はかわいそうでしたが、猫を救おうとした通りすがりの人に、高額な医療費が請求されたりはしないのだと知り、少しほっとしました。

 

 診断

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やがて、ようやくちぃの順番が来て、私と夫が奥に呼ばれました。
ちぃは、「ICU」と呼ばれる涼しいプラスチックのケースの中で、静かにしていました。若い獣医さんが、診察台の上にちぃを立たせ、頭のほうから順に全身をチェックし、最後に後ろ足の甲を片方ずつ、診察台のへりにこするようにして、足先の反射を確認しました。

軽度の椎間板ヘルニアの疑いがあるので、ステロイドの注射をして、明日、かかりつけの病院でもう一度診てもらうように、とのことでした。

注射には、痛みどめも入っているということだったので、翌朝の受診まで、ちぃがなんとか眠れますように、と祈りながら過ごしました。ぜんそく持ちだった息子が幼いころ、夜中に発作をおこして苦しそうに眠っていた姿を思い出しました。

当時の私は、そのたびに仕事を休むこともできず、帯広に住む姑や、小樽の母、ときには父にまで息子の看病を頼んで仕事に出ました。
息子は、いろんな人の愛情をたっぷり受けて、ちょっと(かなり?)頼りないけれども心だけは優しい子に育ちました。

そして行きどころを失った私の愛情は今、ちぃやれんが仕方なく受け取ってくれています。

私は『ちぃとれんは、保育園がなくてもちゃんと大人になってくれて、楽だなあ』と思っていました。しかしどやうらそうではないようです。
犬は病気になると、時には人間以上にあっという間に具合が悪くなるようです。
様子を見ている暇もなく、すぐに手当をしなければ手遅れになりかねないのです。

夜間動物病院から帰った翌朝は、かかりつけの病院が休診日だったため、別の病院で飲み薬をもらい、家に帰りました。

そこでは、ちぃをなるべくケージに入れて過ごすように、とのアドバイスがありましたが、私は、具合が悪いのに閉じ込めておくのはかかわいそうだなと思いました。

 

――ちぃの闘病記:ヘルニア編(前編)・つづく――

作:かっぱ太郎、F.zin
 ▶ 作者の一言
 ▶かっぱ太郎、F zin:犬の記事のご紹介

――次話――

麻痺が進んでおり、かかりつけの病院に入院したちぃ。
心配で家で待っていると、思いも掛けぬ電話がありました。
感染症で危険な状態とのこと。
幸い危機は脱するのですが――
ちぃは、歩けるようになるのでしょうか?

まとめ読み|ちぃ と れん の闘病記
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 出典

※本記事は著作者の許可を得て、下記のエッセイを元に再構成されたものです。

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