犬を飼うということ

Withdog 犬と飼い主の絆について

【獣医師が犬を飼うということ】動物病院にやってきた看板犬 ~ハナがうちにくるまで~

うちの子がうちにくるまで|No.40
うちの子がうちにくるまで

撮影&文|ハナちゃんママ
 
今日のお話は

連載中の『ハナちゃんの動物病院』のハナちゃんが、やってくるお話。
ハナちゃんママが、獣医師さんを目指したのはどうしてでしょう?
また獣医師さんが犬を飼うこということは、そう単純なことではないようです。
ハナちゃんママは、色々な葛藤をのりこえてハナちゃんを迎えました。
そしてハナちゃんはそんなママの思いをこめて、今も病院の看板犬を務めています。
偉いねえ、ハナちゃん

こんな方に:
獣医師が犬を飼うってどういうこと?|ブルテリアってどんな犬?|今まで犬を飼ったことがない|どこから迎えるの?|初めて飼うのが不安|皆さんどうやって飼うのを決めるの?|経験者の話が聞きたい

 

私は日光で動物病院を開いて、もう19年になります。

私と一緒にその動物病院を守っているのが、看板犬のハナです。この1月で15歳になりました。最近は寝ている時間が長くなって、もう立派な老犬です。

今日はこのハナが、15年前にうちに来たときのお話をしようと思います。

 

まずは、私が獣医師になろうと思った理由から書きましょう。

私が子供の頃、うちには両親が飼っていた犬や猫が何頭もいました。私は動物に囲まれて育ち、自然に動物が好きになりました。
獣医師を目指した切欠は、私が高校生の頃に起きたある出来事でした。

それは愛猫の安楽死です。その当時の私には、猫の病気に対する知識などありません。その病気の原因が何であったのか理解もできないまま、医師が勧めるままに、私は安楽死を受け入れてしまったのです。

それから私の心の中に、小さな疑問の種が残りました。
「本当に、あれで良かったの?」
その疑問の種は、次第に大きくなりました。そして卒業後の進路を決める時になって、私は獣医学部を志望したのです。自分が獣医師になって、動物を助けたいと思いました。

 

獣医大学で学んだのは6年です。卒業した私は、勤務医になりました。
ペットのような小動物を診る獣医師は、自分で病院を持つ開業医と、そこに勤務して給料をもらう勤務医に分かれます。これは人間の医師と同じ構図ですね。

勤務医になったのは、まずは臨床での経験を積むためです。現場に立つとなると、大学の授業で得た知識だけでは、全く足りないのです。
病気を診断すること、治療をすること、その両方を行うための知識と技術を身につけなくてはなりません。更に飼い主さんとの接し方、説明の仕方も学ぶ必要があります。

一方、もしも自分で開業するのならば――

現実的な話として病院の建物を用意して、レントゲンとかエコーとか、手術台とか、あらゆるものを自分で買いそろえないといけません。大変なお金がかかります。

だから、家が余程のお金持ちか、獣医さんの跡取りでない限り、ほとんどの人たちはまず勤務医になるのです。

 

獣医師になって実際に動物を診るようになると、大学の頃とは比べ物にならないくらいの、犬や猫に接するようになりました。そして現場にいると、動物の病気をただ診ているだけでは、済まされなくもなっていきました。獣医師は飼い主さんが抱える色々な悩みにも、直面しなければならないのです。

ペットの治らない病気を前に、泣き叫ぶ方。お金が無くて、満足な治療を受けさせてあげられない方。とにかくペットと飼い主の数だけそれぞれの事情があり、その数だけ違う悩みがあります。

飼い主さんたちはその悩みを、獣医師にぶつけてきます。他にぶつける先がないからです。

更に現場に立って経験したのは、野良猫の仔猫の安楽死がやたら多いということです。私は獣医師になったのに、安楽死ばかりやっている自分が情けなくなりました。
そして、無責任な飼い主さんが多いことにも驚きました。
若い獣医師の私は、そんな無責任な人たちに、いつも腹を立てていました。

こんな日々を送るうち、私は動物好きだったはずなのに、いつしか自分がペットを飼う自信を失くしていきました。そして犬や猫と接するのは、仕事だけにしようと思うようになりました。

そうやって私の勤務医時代は過ぎていきました。

 

さて、この勤務医という仕事ですが、実を言うととても薄給です。命を預かる責任ある職業で、場合によっては何日も家に帰れないことがあるほど重労働なのに、同じ年齢の同級生と比較すると、大手企業に勤めている人達の方が給料が上なのです。

私は幸いにも、何日も帰れないことはなかったけれど、最終のバスの23時に乗り遅れることはしょっちゅうでしたし、休みも丸1ケ月近く、ないこともありました。
もちろんボーナスもありません。勉強をさせていただいているという建前がありましたからね。

こんな状況なので、勤務医として何年か経験を積んだ獣医師は、やがて独立して開業を目指すようになります。ずっと勤務医のままでは、家族を養うことが難しいからです。
(もちろん、待遇の良い病院もあるんですよ)
普通、2~3年勤務医をやって、開業する人が多いかな。

私は一生勤務医でも良かったのですが、13年目にしてやっと開業をする決心をしました。

 

さて、自分の病院を持った私。

相変わらず、ペットを飼う自信を失くしていたのですが、開業すると、それまでとは違う状況が生まれてきます。 現実的な話として、病院には輸血犬が必要なのです。
もちろん、ボランティアで供血をしてくださる方もいます。しかし供血犬は、若くて健康な中型犬以上でなくてなりませんし、飼い主さんには、麻酔をかけることにも了解してもらわなくてはなりません。夜間の緊急手術などでは間に合わないのです。

「犬を飼おう」
そう思い立った私の、愛犬探しが始まりました。

最初に頭に浮かんだ犬種が、ミニチュアブルテリアでした。
両親が飼っていた犬たちの中で、特に印象深い犬がミニチュアブルテリアだったのです。いつか大人になったら、自分でも飼いたいと思っていた犬でした。

面白いものですね。「飼えない」と思っている時には、犬種のことなんて思いもしなかったのです。でも「飼おう」となったら、封印していた動物好きの血が騒ぐわけです。

ブルテリアはスタンダードでもミニチュアでも、今と同様に当時も希少犬種。ペットショップでは出会いが無かったので、ネットで探して見付けました。顔写真や誕生日を調べ、自分が迎えに行ける場所かどうかで選びました。

飼うと決めたら、どんどんと話を進めていきました。
やはり私は、動物が好きで好きでたまらないのです。
もしかしたら「飼えない」と思っていた何年もの間も、私は「飼おう」と自分を納得させるための理由を、探していたのかもしれません。

 

そしてやっと見つけた子犬――
でもその子は、私が引き取る直前で、お母さん犬に噛まれて怪我をしてしまいました。
悲しいことですが、こういうケースは良くあります。育児期間でナーバスになっているお母さん犬は、自分の子を奪われないように、自分でかみ殺してしまう事だってあるくらいなのです。

結局私は、別の母犬から生まれた子犬を引き取ることになりました。
それも運命です。そしてその子がハナです。
ハナは、私が自分の意思で飼った、初めての犬になりました。

私はハナの将来を考えて、ブリーダーさんに生後2ケ月までお母さんと一緒に生活させて欲しいとお願いしました。しかしブリーダーさんは、首を縦には振りませんでした。一緒にさせておくと、何かの拍子に、前の子犬の時のように咬む恐れがあるからです。

「早く引き取って欲しい」
その言葉に応じて、ちょっと早めに引き取ったハナは、手のひらに乗るくらいに小さな体でした。

ハナは迎えに行った車の中でも静かで、自宅でも何もトラブルも起こしませんでした。健康でおおらかな犬でした。

名前はもう何度も書いていますが、『ハナ』と命名しました。
私は、昔から花いじりが大好きなのです。
ハナな色々なことが想像できるようにカタカナです。でも頭の中には、優しいかわいい素朴な花のイメージを抱いています。

 

これは大きな声では言えない事なので、ここから少しヒソヒソ声です。

最初にハナを迎えて飼っていたマンションは、犬を飼ってはいけないところでした。
そこでやむなく、キャリーケースではなく普通の大きな布製のバックに入れて玄関の防犯カメラを誤魔化していました。

やがてハナは、バックに入りきらなくなりました。
そして私は、引越しをしました。

ハナには悪いけれど、私が飼う犬は、完全なペットではなく、病院のスタッフ犬としての役割も担ってもらうしかありませんでした。

朝は一緒に病院に出勤し、院内をうろうろして、看板犬のお仕事をします。
「ハナちゃんこんにちは」
病院に通ってくださる患者さん(正確に言うと飼い主さん)がハナに声をかけて下さると、尻尾を振ってご挨拶に行きます。一緒に来たワンちゃんのお相手をして、少しじゃれ合ったりします。病状の重い子が来るとハナにも分かるのか、心配で様子を見に来たりします。

そうやって私とハナは、二人で病院を切り盛りしていたのです。

 

さて、今のハナですが――

出勤はするもののさすが高齢になってきたので、輸血犬からは退き、のんびりとご隠居様となっています。ちょっぴり頼りないけれど、後任犬のコポーもきましたしね。

普通のペットと違って、私のお手伝いのためにやってきたハナ。
ハナが、幸せだったのかどうか、私には分かりません。

これからハナは、どれくらい一緒にいてくれるのかな?
私はこれからハナと、飼い主として付き合っていくのかな?
それとも獣医師として、結構冷静に観察するのかしら?

どちらにしても私は、ハナがいてくれて幸せです。

 

――ハナがうちにくるまで|おしまい――

うちの子がうちにくるまで|No.40
犬の名前:ハナ
犬種:ミニチュア・ブルテリア
飼主:ハナちゃんママ
   ▶ブルテリアのハナコポ動物病院日記
 
うちの子がうちにくるまで、とは
愛犬を家に迎えるまでの葛藤を、飼い主自身が、自分の言葉で綴ったエッセイです。
こんな効果もあります:愛犬、愛猫を今すぐ100倍可愛くできる、最も簡単な方法
 
犬や猫と暮らすあなたへ

『うちで飼えるかな?』
『きちんと面倒を見られるかな?』

犬や猫を、”はじめて”飼う時、ほとんどの方はこう思ったことでしょう。
平均年齢でいえば、15年も生きる小さな命を預かるのだから当然ですね。
我々はそこで大きな決心をし、葛藤を乗り越えたからこそ、今、犬や猫と暮らしています。

どうかその思いを、忘れないでください。
その時の思いがあれば、我々はどんな時でも犬や猫と暮らしていけます。

【飼えるかなより

――次話――

夫婦共に柴犬が好きでした。先住犬もとても可愛いかったのですが、もしも2匹目を飼うことがあれば、柴犬にしたいと思っていました。未来の夢として――
ある日のこと、2人は偶然に、柴犬専門店をみつけました。
中に入ってみると――

――前話(3話構成です)――

学校から帰ると、金色の綿毛みたいな子犬がいました。
親戚のおっちゃんが「はい、あげる」と置いていったのがエリー。
作者にとって、全ての「初めて」がエリーでした。

週刊Withdog&Withcat
この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。

――うちの子がうちにくるまで、第1話です――

昔からいつかはワンを飼いたいと、ずっと夢見ていたんです。
でも、夢と現実の差はでっかいですよね。結局はずっと、実現できずじまい。
――そんな夢を叶えた飼い主さんのお話。
犬との出会いは運命に似ています。

うちの子がうちに来るまで

作者が初めての犬を飼い始めてから3カ月後のこと。
散歩から帰ったご主人が言いました。
「へその緒がついた子犬が捨てられていた」
草むらには本当に「生きたい、生きたい」と鳴く2匹の子犬がいたのでした。

本当は犬が苦手だった作者。
その作者が偶然、びっくりするほど大きな顔の犬を目撃しました。
哲学者のような振る舞いの犬――
月日がたたち、作者はその不思議な犬の置物に遭遇します。

 

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