うちの子がうちにくるまで|No.41

うちには猫のペルがいました。とても美しい猫でした。
しかしそのペルが10歳で去ってしまい、我が家の悲しみは大変なものでした。
5年が過ぎた頃――
「いつかワンちゃんと暮らせるといいね」
が夫婦の会話になっていました。
そして私は夫に、
「ちょっとペットショップに行ってみようよ!」
と、声を掛けたのでした。
チワックスってどんな犬?|今まで犬を飼ったことがない|初めて飼うのが不安|皆さんどうやって飼うのを決めるの?|経験者の話が聞きたい
今日は我が家が、愛犬のHANAを迎えた時のことを書きたいと思います。
まずは私の子供の頃のお話から。
私が物心ついた時には、家には茶色の雑種犬がいました。そしてその子がいなくなって何年かして、今度は白い長毛犬がやってきました。私はまだ小さかったので、そのときの経緯は良く分かりません。ただ、両親が動物が好きだったのだと思います。
家には犬だけでなく文鳥がいましたし、父は名前もわからない茶色の鳥を、ヒナから育てたりしてました。
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その当時は犬を飼う環境も飼い方も、今とは随分と違っていました。外飼いでしたし、近所には獣医さんも無く、病気になったら保健所に引き取ってもらうようなことが、普通に行われていた頃です。
母は白い長毛犬に、毎日手作りご飯を作ってあげるほど可愛がっていました。しかしやがてその犬とも別れの日が来ました。母は保健所の車に引き取られていくその子の姿が余りにかわいそうで、それ以降「二度と犬は飼わない!」と、心に決めたそうです。
それ以降、私は犬とは少し縁遠くなりました。
結婚してからの私は、すぐに動物との暮らしが始まりました。
しかし、犬ではありません。猫でした。
ある日我が家は、友人から頼まれて猫を預かる事になったのです。チンチラシルバーのとても美しい猫で、気品があってツンとしたコ(笑)
友人によると、その猫は元の飼い主が飼えなくなり、友人が保護したのだそうです。
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主人は幼い頃、野良猫を可愛がっていた経験があったようですが、我が家にやって来た猫には緊張したそうです。やがて友人からは、「もしも良ければ、このまま飼って欲しい」と持ち掛けられました。
美形猫に一目惚れしていた主人は2つ返事……、だったように思うのですが、もうその時の細かな経緯は思い出せません。
でも――、数日でも一緒に暮らすと、手放せなくなってしまったのです。
猫の名前は、ペルでした。我が家に来た時からそう呼ばれていました。
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それからの猫がいる暮らしは、楽しいものでした。私たちの中心には、いつもペルがいました。しかしその幸せも、永遠ではありませんでした。ペルが10歳で亡くなってしまったのです。
あの時の夫の悲しみようは大変なものでした。もちろん私も。
押し寄せる喪失感は半端なものではなく、私たち夫婦はそこからずっと立ち直れぬまま、虚しく歳月が過ぎていくことになったのでした。
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ペルが去ってから5年を過ぎた頃です。
私たちの身の回りには、変化が起こり始めました。
この頃になると私たちは、「いつかワンちゃんと暮らせるといいね」と、折に触れて話をするようになっていました。
なぜ猫ではなく、犬だったのか?
はっきりした理由は自分にもわかりません。もしかしたら、猫を飼うと、亡くなったコを思い出してしまうからという気持ちがあったのかもしれません。
でもまだ、一足飛びに「犬を飼おう」ではありません。
相変わらず傷は癒え切っておらず、ペットと暮らす事にはとても慎重だったのです。
そんな頃、実家にも変化がーー
2002年になって、なんと実家でコーギーを飼い始めたのです。
実家に行ったある日のこと。
「もう大変なのよ。言う事なんて聞かないし、どう躾て良いのか、わからないわ」
小さなコーギーに手を焼いている、母はそう言いました。
白い長毛犬の一件以来、「もう二度と犬は飼わない」と誓ったはずの母。
それから20年以上たっての、心境の変化でした。
どうしたのかな、と思いましたが、楽しそうに話す母、散歩を楽しんでいる父を見たら、もう理由なんてどうでもよくなりました。
両親の暮らしが、以前にも増して楽しそうで。
「犬って良いよね」
そんな気持ちになりました。
丁度この頃に購入したマンションが、ペット飼育OKであったのも、私たちにとっては大きな出来事でした。こんな風に、色々な条件が揃い、自然と気持ちが犬と暮らしたいと思うようになっていったのです。
そして、忘れもしない2003年4月26日。
ゴールデンウィーク前のことーー
「ちょっとペットショップに行ってみようよ!」
私は主人に声を掛けました。「見るだけだから」と。
「いいよ!」と主人は即答でした(笑)
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当時は保護犬のことなど知る事も無かったので、「犬を探してみよう」と思うと、まっすぐペットショップに向かうしかありませんでした。
犬種には、こだわりはありません。しかし、一つだけ考えなければならないことがありました。私たちのマンションにはペット規約があり、共用部・エレベーター内を歩かせるのは禁止だったので、迎える子は自ずと、抱っこ出来る大きさに絞られたのです。
幾つかペットショップを見て回りましたが、私も主人も可愛い仔犬達を眺めるだけ。
抱っこする事はありませんでした。初めてだと、抱っこさせてもらうだけでも、結構勇気がいるものなのです。
帰り道、小さなペットショップを見つけて入店。
いくつか並ぶガラスケースの隅っこに丸くなり、愛想のない、生後47日目のワンちゃんを見つけました。見たことが無い犬種で、説明書きには『ハーフ犬』とありました。
「ハーフ犬? 何それ? 雑種犬ってこと?」
それはチワワとミニチュアダックスの親から生まれた子で、今では『チワックス』と称されますが、当時はただ、ハーフ犬とかミックス犬と呼ばれていました。
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じっとその子を見つめる私に、お店の店員さんが近づいてきました。聞けばその子は、私達が訪れた当日に、母親から引き離されてお店に来たのだそうです。
「抱っこしてみますか?」
「はい」
その子はその日、私が初めて抱っこした仔犬。
手触りは柔らかく、フワフワしていて――、今も鮮明に覚えています。
その子は尻尾を振ることもなく、自分に何が起きてるのか、わからないような顔をして、私を見つめていました。
それを見た主人は、「小猿みたいだなぁ~」と言いいました。
「抱っこしないの?」と私。
「うん、しない!」と主人。
それから主人は店員さんに、こう言いました。
「今から家族会議をしてきます。1時間後に戻ってきたら、その時はもう一度抱っこさせて下さい。うちの子になりますから」
その言葉を、私は黙って横で聞いていたのですが――
「家族会議って…なんじゃそりゃ!?」というのが、私の心の中の声。
その時私の頭の中には、『絶対に戻ってきて、主人はこの子を抱っこするだろう』という、確信めいた予感がありました。
一旦外に出て、私たちはすぐそばの古びた喫茶店へ。
「ねえ、あの子どう思った?」
と、家族会議がスタート。
しかし二人でその子に決めるのには、そう時間はかかりませんでした。
決め手は何だったのかって?
さあ、何でしょうね? 見た目がとても個性的だったというのはあります。しかしそれだけではありません。もしかしたら、寂しそうな佇まいに、放っておけない気がしたのかもしれないです。
今振り返るとあの子がうちに来ることは、家族会議をするまでもなく、私があの子を抱いた瞬間に決まっていたのかもしれません。
ペットショップに戻った私たち。
主人は私が思っていた通り、その子を抱っこしました。
そして 「ウチに来るか!?」と――
その言葉が全てでした。
私たちが「この子を家族に迎えたい」と伝えると、店員さんは「よかったね」とワンコに話しかけて、すぐに引き渡しの準備を始めました。前から決まっていたかのように。
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犬を迎える知識がまるで無かった私たちは、店員さんに言われるがまま、慌てて必要な物をペットショップで購入しました。檻のようなピンクのケージ、食器、水飲み、フードなどなど。
私たちが買い物を済ませると、その子は可愛い箱に入り、赤いリボンをつけて、私に手渡されました。そして私は、大事に大事にその箱を抱えて、夫が運転する車に乗り込んだのでした。
今日の今日の出来事――、その日は見るだけだったはずなのに……
しかし、こうして我が家には、新しい家族が増えたのです。
車の中では二人とも、犬と暮らせる期待に舞い上がっていました。
そして20分ほどで、我が家に到着。
可愛い箱を開けると、なんと――
その子は車酔いの為、食べたものを戻していました。
それがHANAの我が家での、最初の思い出になりました(笑)
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そのHANAの名前の由来ですが――
仔犬が我が家にやってきてすぐに「名前をつけなきゃ!」と思いました。
毎日呼ぶ名前だから、耳に優しい響きにしよう。
誰にでも覚えて貰えるように、二文字にしよう。
ア段の、あ・か・さ・た・な…その中から選ぼう。
そんな風に考えているうちに、『はな』という名前が浮かびました。
それから、少しだけ個性をもたせてあげたくて、文字にする時にローマ字表記で、大文字にしようということになり、あっさりそれで決まりました。
HANAと出会って16年余り…
大好きな散歩やボール投げも、よく笑う(=吠える)ことも減っていって、気付けばHANAは老犬さんになってました。
HANAへ――
これという持病もなく、毎日を一生懸命に生きているHANA。
あなたはとても健気で愛しくて、私達にたくさんの幸せと笑顔をプレゼントしてくれましたね。
これからは少しづつ、お返しをしていくから
たくさん受け取ってね(笑)
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最後にHANAちゃーん♡
だーい好き!
――HANAがうちにくるまで|おしまい――
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――うちの子がうちにくるまで・次話――
まっくすは、夫が独身時代から飼っていたケアンテリア。
元気MAXでやんちゃな犬。
私達は結婚して、まっくすと私は家族になりました。
私の子供の頃からの夢は、大好きな犬との生活。
リードを持っての散歩の時、私はいつもワクワクしていました。
――うちの子がうちにくるまで・前話――
ブルテリアは怖い犬だと思っていました。
しかし友人の愛犬ボブを見て、すっかりに虜に
そのボブに子供が生まれ、すぐに会いに行きました。
思い思いに歩き回る仔犬たち
気付くと、足元にずっとついて来る子がいました。
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この記事は、下記の週刊Withdog&Withcatに掲載されています。
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――うちの子がうちにくるまで、第1話です――
昔からいつかはワンを飼いたいと、ずっと夢見ていたんです。
でも、夢と現実の差はでっかいですよね。結局はずっと、実現できずじまい。
――そんな夢を叶えた飼い主さんのお話。
犬との出会いは運命に似ています。
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うちの子がうちに来るまで
我が家が犬を迎えるまでの話