うちの子がうちにくるまで|No.54
犬との出会いの中で、《いきなりペットショップで一目ぼれ》というパターンはとても多いように思います。しかし、沢山ある事例の中でも、それぞれのシチュエーションは千差万別です。
2年前に迎えたチワワがいる作者。作者は友人に誘われて出かけたペットショップ&カフェで、1匹の売れ残った貧相な姿のチワワに出会います。心魅かれた作者は「もう1匹飼いたい」とすぐに家族にメールを送りました。『絶対にダメ』それが返って来た返事でした。
さて、作者は新しいチワワを迎えることができるのでしょうか?
こんな方へ:動物は好きなんだけど、犬や猫を飼うのは心配|はじめてなので、もう一歩が踏み出せない|同じような経験をした方はいますか?
偶然の出会い、我が家の2匹目
今日は我が家の2匹目のワンコ、きなこのお話をしようと思います。
きなことの出会いは突然でした。
あれは最初の子、ちんねんが2歳になった頃のことです。
8月のある日、私は友人に誘われて、町外れにあるペットショップ兼ドッグカフェにランチに行きました。私はちんねんを連れて行き、友人もチワワ2匹を連れて来ていて、2人と3匹のランチです。
●
そのお店は、ウッドスタイルで外に大きな犬の写真があって、ペットショップとカフェがくっついた形になっていました。
まずはペットショップの方に入ってみると、中も外装と同じようにウッドスタイルになっていて、屋内ドックランもあって、フードもグッズもお洒落な物がズラっと並んでいました。1面にはショーケースが並んでいて、10頭程の展示ペットがいます。
まず驚いたのは、お値段何と120万のチワワ様でした。何しろ当時はチワワブームの全盛期です。友人はチワワのベテランなのですが、その友人から見てもその子は、お顔も体つきも毛並みも素晴らしかったようで、絶賛でした。
「どんな人がこのチワワ様をお迎えになるのかしら?」
圧倒される私たちでしたが、ふと見ると店内の一角に『触れ合えます』と書かれたサークルがあり、中には貧相なチワワがいました。お値段は――、と見ると破格です。
誕生日は前の年の12月なので、月齢で言うともう8カ月になっています。
「なるほど、売れ残りかあ」
と納得する私たち。
●
そのチワワはずっとサークル内に居たらしく、サークルを掻くからでしょう、前足が発達しているのに後ろ足は貧弱です。顎も未発達で、どう考えても誰が見てもみすぼらしい姿でした。
その子は私たちの姿を見ると、耳を折り曲げて擦り寄ってきました。そしてちっちゃな尻尾を一生懸命振って、私の手から体に登ってきます。その仕草がなんと健気で可愛いいことか。
私はすっかり心を奪われてしまいました――
さて、私たちは場所を変えて隣のカフェに移動。
お洒落な店だけにメニューもしっかりしていて、イタリアンや焼きたてのワッフルなどながあり、ワンコメニューも用意してあります。ワンコ連れでゆっくり寛げるスタイルになっていました。
私はちんねんを抱っこしながら、デミグラスソースのオムライスとコーヒーを注文しました。友人は1匹を抱いて、もう1匹は足元に。
●
席で落ち着くと、早速ワンコの話になりました。
もちろんあの120万円チワワ様のお話をして、それからサークルにいた貧相なチワワについて――
「あの子はちょっと無いよね」
と友人は言いました。体の発達のバランスが悪くて、歯並びも悪い――
確かに友人のチワワは、誰が見ても綺麗で可愛いバランスの取れた子たちです。でも友人がそこまで欠点を強調したのは、私がその子のことを気に入ってしまったことに気付いたからなのだと思います。
《やめておいた方がいいよ》と助言してくれていたのです。
しかし、傾いてしまった気持ちはもう止められません。なぜなら私は、昔から猪突猛進タイプなのです。私が「どうしてもあの子が気になるし、欲しい」と言って、これから夫とこれから相談するこをと伝えると、友人は「えーっ」と驚いて苦笑いをしました。
●
そこからは戦いでした。
ランチをしながら夫にメールを送ります。
「もう1頭飼いたい」
すぐに夫から返事が来ました。
『ちんねんがいじめられるから絶対ダメ』
負けじと私、「可愛い女の子だよ!残ってるんだよ!」
夫『駄目だ!』
それからはずっと、そんなメールのやり取りです。
最後には夫の方が根負けをしたようで、『勝手にしろ』とメールが来て、私の勝ちが決まりました。
カフェの会計を済ませると、私はすぐに隣のペットショップのコーナーに行って、店員さんに「オーナー呼んで下さい」って言いました。オーナーを呼んだのには理由がありました。――価格交渉です。もともと破格のお値段になっていた子ですが、更に値切り交渉をしようと思いました。初めてのお店だったのですが、ここでも猪突猛進です。
「この子売れ残ってるけど私引き取りますよ!でももう少し安くしてください」
って、相手の弱味に付け込む私……
オーナーは苦笑いしながら、即OKでした。
やってみるもんですね(笑)
予防接種も終わってるので、そのまま家にお持ち帰りができます。
●
最後はちんねんとの相性チェック。
その場で抱っこしていたちんねんを下ろしご対面させてみると――
ちんねんは威嚇のポーズはとりますが、噛み付いたりはしません。むしろ犬に慣れていないちんねんの方が、尻尾を下げて巻いていました。
主人がメールで『ちんねんがいじめられるから絶対ダメ』と書いてきたように、多頭飼いになる不安は多少ありましたが、ちんねんはきちんと犬の社会化が出来ていなかったのとお留守番も多かったので、ほぼ成犬になっているきなこの社会性と朗らかさが、ちんねんには合うと思いました。
さて、その夫なのですが――
家に帰ってその子に会うと、嬉しそうにすぐに話しかけました。
「うちで飼って欲しいから呼んだのかい?」
――ちょっと通訳をすると、夫は『私達夫婦に飼って欲しいから、私のことを呼んだのかい?』と訊きたかったのです。ちんねんを飼う前に、私は犬を散歩させている夢をみました。そして目が覚めて「あ、犬を飼いたい…」と思いました。
「ちんねんが呼んだんだよ!」
私はあの時の夢を思い出す度に、夫にそう言っていたのです。
話を元に戻しましょう。その子はもう家に来て、うちの子になったのですから、名前を付けてあげなければなりません。夫が自分が名前を付けたがっていたのですが、ちんねんの時に名付け親にさせてあげたのですから、今回は断固拒否。
そして、私が付けた名前が『きなこ』です。
なぜかというと、色素がまだ薄くて、きな粉みたいな色だったから。
●
きなこはいきなり知らない家に連れてこられたものですから、挙動不審です。
でも、吠えもせずに、じっとちんねんだけを目で追いかけていました。
そしてそれからの2匹は、ちんねんが警戒しまくりなのに、きなこは耳をぺたっとさせて「遊ぼう!遊ぼう」って、しつこく誘っていました。
サークルから出すと、きなこは常にちんねんを追いかけます。最初の頃、ちんねんは迷惑そうにしていたのですが。きなこがいつも近くで寝ていて、時にはくっ付いて寝たりするものですから、段々とそのしつこさに慣れていったようです。
●
2ヶ月くらいしてからでしょうか――
私が、きなこがイタズラしているのを見つけて叱っていたら、後ろからちんねんが、すごい剣幕で「ヴゥー」と威嚇してきました。
「ちんねん、きなこを守っているの?」
私はとても嬉しくなりました。
2匹の生活は、それから13年続きました。
そして2000年の5月17日、きなこに楽しい思い出を残して、ちんねんは先に旅立っていきました。
きなこはその日、ちんねんの遺体に全く近寄ろうとしませんでした。
●
それからは、いつもと変わらない大人しいきなこに――
と思ったのですが、食欲が落ちていたので心配になり、ちんねんがお世話になった動物病院の先生に相談をしてみました。
「先生、きなこはちんねんが死んじゃったの、わかってるんですかね?」
私の問いに、先生はこう断言されました。
「分かっています!だから3ヶ月は飼い主さんがしっかり様子を見てください」
きなこの様子は明らかに変でした。1人で不安定なのです。
私たち夫婦は、きなこのために新しい子を迎えるようと考え始めました。ちんねんの代わりは居るわけがありません。だから新しい子を迎えて、新たな家族を作れたらいいなと思いました。
――ちんねんがいなくなってまだ日が浅いのに良いのかな?
そう思わないでもなかったのですが、「幸せに出来るのならば関係ないよ!」と思いなおしました。
●
新しくうちに来てくれたのは、保護犬のチョンキーです。
チョンキーのお陰で、きなこはご飯もしっかり食べくれるようになって、いつも通りに戻りました。チョンキーのお話は、また改めまして――
きなこ、チョンキー、これから家族で、幸せにならなきゃね。
あの日――、私たちはきなこを迎えて良かったです。
きなこは、ちんねんと飼い主に寄り添ってくれる良い子です。特に夫には懐いていてくれて、夫はメロメロなんですよ。
――きなこへ――
貴方は沢山の愛情で美しく変わりました。
もう誰も、あの頃の貧相な貴方だとは思いません。
こんな飼い主だけどもっと一緒にいようね。
貴方と出逢えて幸せです。
――ママより――
――きなこがうちに来るまで|おしまい――
●
●
――うちの子がうちにくるまで・次話――
チョンキーがうちにくるまで
初代犬のちんねんが旅立つと、残された きなこの元気がなくなりました。
――このまま弱くなってしまうの?
不安な私は「もう1匹迎えたらどうだろう?」と考えるようになりました。
次は保護犬を――
オンライン譲渡会を見つけたのは、そんな時でした。
――うちの子がうちにくるまで・前話――
ちんねんがうちにくるまで
子供の頃は、犬を飼っていました。
しかしその子が去ると、もう犬と暮らすことはありませんでした。
時が過ぎ結婚をした私は、ある日夢を見ました。
草原で犬を散歩していました。
目が覚めた私はすぐに「あ、犬を飼いたい…」と思いました。
●
――うちの子がうちにくるまで、第1話です――
昔からいつかはワンを飼いたいと、ずっと夢見ていたんです。
でも、夢と現実の差はでっかいですよね。結局はずっと、実現できずじまい。
――そんな夢を叶えた飼い主さんのお話。
犬との出会いは運命に似ています。
●